S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler   作:DAY

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Interval 20 100Rads Bar

 フィアーは次の朝、朝日が登り1時間ほど経ってからBARに隅の廃工場で目を覚ました。

 あの後ミハイル達と飲んだわけだが、彼らと違ってフィアーは前後不覚になるまで飲むわけにはいかなかったが、それでも多少酒を飲まされた。

 特にウォッカの味は酷かった。あんなものはただ前後不覚になるための酒としか思えない。

 

 ミハイル達は今回予想以上に儲けを出したので、フィアー以上に派手に酒を飲んでいた。その為いつの間にか彼らと知己にあるストーカー達も集まり、ちょっとした宴会のようになってしまった。

 さすがに最後まで付き合ってはいられないので、適当な所で席を立ち、BARから近い廃工場の一つに入って眠りに付いたのだ。

 

 周りにも同じように雑魚寝しているストーカー達が寝息をたてている。

 ストーカー達は盗難等を警戒してか、同じグループのストーカー同士で固まって寝ていたが、この廃工場のストーカー達は単独のストーカーが多いようで、一人で寝ている場合が多い。

 そのせいかストーカー達は例外なく、自らの愛銃を抱えるようにして寝ている。フィアーもそれに習い、新たな愛銃となったM249軽機関銃を抱えて眠りについたのだ。

 軽機関銃の重みでぐっすりとは眠れなかったが、ある程度眠りが浅いほうが何かあった時すぐに起きれると思えばいい。

 住民達のこういった警戒心が逆にこのBARの治安を守っているのかもしれない。

 

 フィアーは起き上がり、コンクリートの上で一夜を過ごして凝り固まった体をほぐして身支度を整えた。

 昨夜は抑えたとは言え酒も飲んだ為、喉が乾いている。

 バックパックの中から残ったミネラルウォーターを飲み干して立ち上がる。

 顔も洗いたい所だが、BARの洗面所でも借りればいいだろう。

 周りのストーカーもチラホラと起き始めていたが、泥のように眠りについている者も多い。

 深夜まで酒でも飲んでいたのか、夜間での仕事をこなしてきたのか。

 まあどちらでもフィアーにとっては関係ないことだ。

 彼らを尻目にフィアーは廃工場を後にした。

 

 

 昨夜は夜だったこともあって迷路のように感じたBARだが、こうして陽の光の元で見ると意外と広く感じることにフィアーは気がついた。

 BARの区画の真ん中には見張り塔の付いた大型の倉庫のような施設がある。あそこが犯罪者や腕自慢が実銃を使って殺しあうアリーナだという話だ。

 そしてその見張り塔にはスピーカーが取り付けられて、DUTYの勧誘スピーチがエンドレスでリピートされている。

 

『ストーカー達よ!寝床、食事、飲酒、雑談や仕事を見つける場所を探しているのなら100Rads Barはうってつけな場所だ。我々は新しい客に対して寛容である。ストーカー達よ聞け!我々は危険だが金になる任務を遂行するボランティアを募集している。興味のあるやつはBARへ来い!』

 

『ストーカーよ!ZONEから世界を守るのだ!DUTYに入隊せよ!』

 

 スピーカーの声を聞いていると、かつてZONEを来る際に通った軍の検問所を思い出す。

 しかし周りのストーカー達は、聞いた様子もなく歩いて行く。

 少なくともこの宣伝で心を動かされそうな者はいそうにない。

 そんな殊勝な心掛けが人間がストーカーになるはずもない。

 

 更にスピーカーのある建物の向こう側には、数人のDUTY隊員が小さな工場の入り口を守っていた。

 流石に彼らの装備はBARの検問所ほどの重装備ではないが、どこか緩い空気のBARにおいても張り詰めた空気を醸し出している。彼らの後ろの工場がDUTY本部なのだろう。

 いずれにせよ今のところ彼らに用はない。フィアーは酒のせいで朧気な記憶を頼りにBARへの道のりを思い出しながら歩いて行った。

 

 

 

 ◆    ◆    ◆

 

 

 

「こいつら朝まで飲んでたのか……」

 

 フィアーは迷うこともなくBARへ辿り着き、入り口手前にあったトイレの中の洗面所で顔を洗い、髭を剃り、用を足した。

 そうして身支度を整えて酒場に入った彼を出迎えたのは、椅子を抱きしめながら床でひっくり返っているユーリと酔いつぶれたミハイルの姿だった。

 テーブルの上では大量の酒の空き瓶が転がっており、酒瓶に占領されたテーブルの隅ではセルゲイがちびりちびりと酒を飲んでいる。

 フィアーが呆れて呻くと、セルゲイが気がついたようで手を振ってきた。

 

「あんたは正気を保ってるようだな」

 

 近づいたフィアーがセルゲイに言うと彼はため息をついた。

 

「周りが馬鹿ばかりだと酔うこともできない。いくら治安がいいとはいってもここはZONEだ。三人まとめて酔いつぶれて、朝になったら全員身ぐるみ剥がされたって訳にもいかんのでな」

 

 予想以上の苦労人ぶりにフィアーは彼に哀れみを感じたが、まあ言っても詮無きことだ。

 本当に嫌だったら彼の性格からして、パーティーを抜けるだろう。

 これぐらいの世話を焼くことは苦にならない程度には、彼らには信頼関係があるのだ。

 

「で、フィアーお前はどうする。これから尋ね人を探してすぐ出発だったか」

 

「ああ、darkvalleyという地域にいるらしい」

 

「そこは俺達も知らない場所じゃないから案内してやってもいいんだが、こいつらがこのザマじゃな……」

 

 そう言って酔いつぶれた同僚を指で示す。

 

「気にするな。元々単独で動くのが得意でね」

 

「そうか……。darkvalleyはアノーマリーとミュータントが多くてな。人の出入りの激しい土地でもある。ちょっと前まではfreedomの連中がいて治安も良かったが、得体の知れないバンディットや傭兵がうろついてる土地だ。充分に気をつけろ。武器と弾薬は持てるだけ持っていけ」

 

「そうしよう。じゃあミハイルとユーリにもよろしくな」

 

 そう言って彼らのテーブルから離れると、フィアーはカウンターでストーカー達に朝食を出していたBarkeepの元に向かった。

 

「おはようさん。いい朝だなフィアー。頼まれた物は用意できるものは全部揃えておいたぜ」

 

 やはり昨日と全く同じ様子のBarkeepを見て、思わずフィアーは尋ねた。

 

「トレーダーって奴は一体いつ寝てるんだ?」

 

「なんだそんなことか。ここは俺の店だから従業員ぐらいいる。休む時はそいつらに任せてるだけの話だ」

 

 意外と真っ当な答えが返ってきた。しかしそうなると明らかに一人で店を切り盛りしていたシドロビッチはいったい……と思ったが、頭を振って脇に逸れそうな思考を元に戻す。

 

「頼んでおいたものを見せてくれ」

 

「そら、確認しろ」

 

 そう言ってテーブルの上に置かれたのはM249軽機関銃の弾薬箱だった。

 200発ものライフル弾を弾帯用リンクで繋ぎ、大型箱型マガジンに収めたそれが3つ。加えてM249の予備の銃身まで用意されていた。

 現在、M249軽機関銃に取り付けられている大型箱型マガジンも、昨夜フィアーが使った分を補充をしたため、200発装填されている。

 つまり合計800発のも弾薬を持ち歩くことになる。これに加えて傭兵達から奪った5.56mm用のSTANAGマガジンが幾つかある。このマガジンは5.56mm弾を使用する自動小銃の汎用マガジンでM249軽機関銃にも装着できるため、箱型マガジン内の弾薬をを使い果たしてもある程度戦闘は可能だ。

 

 ZONEに入る前のフィアーなら過剰火力だと思っていたかもしれないが、今は違う。

 このZONEでは予測というものは常に裏切られる。万全の装備で挑めばブロウアウトで装備を失い、バンディットを返り討ちにしても、彼らから得られる武器は余りにも貧弱。挙句に大量のミュータントまでもが襲ってくる。

 それらを相手に貧相な火器で凌いでいくのは、オーバーンの戦いとは別の意味で命懸けだった。

 

 正直な話、ナイトクローラーと戦っていた時がある意味一番気が楽だと思ったほどだ。

 少なくとも彼らを倒せば上質の武器が間違いなく手に入るのだから。

 

「弾薬のほうはこれでいい。次はショットガンだ」

 

 弾薬と予備銃身を検分するとフィアーは次の商品を急かした。

 

「ショットガンについてだが、急な話だったもんでこれしか用意できなかった」

 

 そういってカウンターの上に乗ったのはオールステンレス製のウィンチェスターM1912ショットガンだった。

 携帯性を重視してか、ストックは外され、ピストルグリップに変更されており、銃身も短くなっている。

 鈍く輝く銃身は随分と使い込まれているようで、フィアーの上下二連のソードオフショットガンにも勝るとも劣らない風格が滲み出ている。

 

「……年季が入った代物だな。ちゃんと動くのか?」

 

「安心しろ。それは他のストーカーから借金のカタに取り上げたもので、手入れはしっかりとされて状態もいい。確か家に先祖代々伝わる由緒正しき銃だとか言ってたな」

 

「どこかの誰かの先祖代々に伝わる由緒ある銃だろうが暴発でもしたら、俺はお前に礼をしに来るってことを忘れるなよ」

 

 Barkeepに釘を刺しながら、フィアーはウィンチェスターを取り上げると流れるような手つきで分解し、部品を検見し、そして組み立てて動作確認を始めた。……確かに悪くない。全体的に古いのは間違いないが、錆一つない上、消耗しやすい部品は新しい物に置換えられている。

 

「装弾数は?」

 

「5発。それは初期のものだからスラムファイアだってできる」

 

「……悪くないな。試射はできるか?」

 

「BARの中じゃ無理だ。BARのゴミ捨て場方面への入り口にならマンターゲットがいくらでも転がってるからそこでやれ」

 

 初期のウィンチェスターM1912はトリガーを引いたままコッキングすることで、スラムファイアと呼ばれる連続射撃を行うことができた。

 暴発を意図的に起こしているようなものなので、新しいモデルでは安全面からその機能は省かれたが、連続で散弾を撃ちこむことができるというのはミュータント相手なら心強い機能だ。

 

「弾薬のほうは?」

 

「ああ、散弾銃用の榴弾だったな。これだ。言うまでもないが至近距離で使うんじゃないぞ」

 

 そういってBarkeepがカウンターの上に載せたのは榴弾のショットシェルの詰まった箱だ。

 フィアーが箱からショットシェルを取り出してそれを観察すると、ショットシェルの側面に擬人化された笑う爆弾の絵がプリントされていた。職人の遊び心だろうが、前の榴弾とマークが違うのは作った職人が違うのだろうか?

 ともあれこのショットガン用の榴弾には何度も助けられた。このZONEでは頼りになる弾薬だ。

 

「普通の散弾やスラッグ弾はいらないのか?」

 

「ああ、それならバンディット共を返り討ちにした時、多めに手に入れられたんでな」

 

 フィアーのバックパックにはそれらの弾薬も数十発は残っている。

 しかしフィアーの所持する散弾銃が上下二連のソードオフショットガンしかなかったせいで、弾薬はあっても使う機会がなかったのだ。

 あれは非常時の切り札として役に立ったが、メインアームとして使うような銃ではない。

 だがこれなら充分にメインアームとしても運用できるだろう。

 ウィンチェスターをバックパックの側面に左側面にパラコードで括り付けて、いつでも引き抜けるように取り付ける。重さが偏らないように、バックパック内部の重量バランスをしなければならない。

 そうしている内にもBarkeepは次々と品物をカウンターの上に並べていく。

 

「後は小型のフラッシュライト2つ、コンバットナイフ、バッテリー、焼夷手榴弾、スタングレネード、スモークグレネード、M10用のサプレッサーと20連マガジン2つ、45口径のAP(アーマーピアシング)弾を90発、9mmのAP弾30発、、ミネラルウォーター、トイレットペーパー、チョコバー……」

 

 次々と積まれていく品物をフィアーは整理しながら、バックパックの中へと入れていく。

 品物を確認しながらフィアーは呟いた。

 

「……やはり6.8mm弾はないんだな」

 

「ああ、流石によそから取り寄せになるからな。一緒に頼まれてたグレネードランチャーと、暗視装置もだ。お前さんが帰ってくる頃には到着してると思うが」

 

「俺のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に対応したガスマスクと閉鎖型循環呼吸装置は?」

 

「ないこともないがもっと時間がかかるぜ。お前さんのそのHMDはアーマカム社の最新式だろ?それに合うやつとなるとZONEの外しか取り寄せるしかない。

 ……このBARじゃあんまり大きな声じゃ言えないが、Freedomのトレーダーに頼んでみな。あいつらは西側のスポンサーがいるから、もしかしたらあんたの最新式の電子システムに対応した装備を持ってるかもしれん」

 

「そのFreedomの拠点はどこにあるんだ」

 

「Army warehouse(アーミーウェアハウス)って呼ばれている地域がある。まあ軍隊の駐屯地だったからそう呼ばれてた訳だが……。軍が撤退して空き屋になったから今はFreedomの連中が拠点にしている。

 Limanskに行くにはこのArmy warehouseを通って、更にredforest(レッドフォレスト)と呼ばれる森の中を進まないと行けないから、どちらにせよお前さんはそこに行くことになるだろう」

 

「俺が探しに行くそのストーカーがくたばってなかったらな……。こんなものか」

 

 バックパックに荷物を詰め込み終えたフィアーは、腰のソードオフショットガンとバックパックにくくり付けてあったVESアドバンスドライフル、そして余った9mmパラベラム弾をカウンターの上に置いた。

 

「悪いが預かっておいてくれ。弾切れの銃や使わない弾薬を持って行っても仕方がないのでな」

 

 9mmパラベラム弾もMP5を使用するために多めに仕入れたのだが、今となっては拳銃しかこの弾薬を使わないので余りつつあったのだ。

 空になったソードオフショットガンのホルスターの位置を、腰の後ろから左腰になるように調整しながら、フィアーはBarkeepに言った。

 

「それぐらいは構わんが……いつまでも預かればいいんだ?」

 

 M10短機関銃のマガジンを30連マガジンから20連マガジンに取り替える。

 30連マガジンの装弾数は魅力だが、身につけているとマガジンが長すぎて邪魔になるからだ。 続けて消音器を銃口に装着する。非正規品なのか本来のM10の消音器よりもこの消音器は小さく思える。もっとも余り大きすぎても邪魔になるのでちょうどいいが。

 ソードオフショットガンのホルスターに、消音器をつけたM10短機関銃をねじ込みながらフィアーは答えた。いまいちしっくり来ない。消音器が長すぎて入らないのだ。

 

「長くても一週間以内には戻ってくる。戻ってこなかったら売り飛ばして構わん」

 

 ナイフでホルスターの先端を切り裂いて、消音器ごと本体がしっかり収まるように穴を開ける。……悪くない。

 ホルスターの工作の出来栄えに満足したフィアーは、更にベルトの位置を調整して散弾銃の予備弾薬や手榴弾が素早く取り出せるように手を加えた。

 そして最後は自分の動きに支障が出ないか軽く手足を振り、その場で軽く飛んで体のバランスを崩していないかどうかを確認する。

 支障なし。

 バックパックは中の荷物で膨れており本来ならかなりの重量のはずだが、重量軽減の効果があるアーティファクト、『Gravi』を身につけているせいか、重さの割には機敏な動きもこなせそうだ。

 これなら戦闘に支障はないだろう。

 

「随分とめかしこんだみたいだが、パーティーの準備は終わったか?」

 

 フィアーが自らのコーディネートに満足してると、Barkeepが楽しげに皮肉を飛ばしてきた。

 確かにZONEにおいてもこれほどの重武装は類を見ないだろう。

 メインアームにはM249軽機関銃にウィンチェスターM1912。サイドアームにはM10短機関銃に自動拳銃AT-14。

 これだけの火力があれば、今まで出会った怪物達程度なら問題なく屠れるだろう。

 例えそれがナイトクローラーであっても。

 

「そうだな。今ならどんな相手ともダンスが踊れそうだ。それでパーティー会場はどこにあるんだ?」

 

「よし、PDAを出せ。俺がストーカーに行くように頼んだパーティー会場はdarkvalleyと呼ばれる地域の廃工場の中にある」

 

 言われた通りPDAを出して地図を展開すると、Barkeepが自分のPDAと同期させてdarkvalleyの地図を送ってきた。darkvalleyはBARの南にあるGarbage(ゴミ捨て場)の、更に東にある地域だった。その地域には大規模な工場が北と東に一つづつ建っている。

 

「ここの北側にある工場は以前はfreedomの拠点になってたが、今はもぬけの殻だ。今はバンディットの拠点になってるか、或いはミュータントの巣窟か……。いずれにせよ用事がないなら近づかないほうが身のためだ。あんたに探索してもらいたい施設はもう一つの東側にある廃工場だ」

 

「こんな廃工場になんの用事があるっていうんだ?」

 

「正確にはわからんな。俺が掴んだ情報は上の廃工場は、ダミーでこの地下にはX-18と呼ばれる何かとてつもない施設が隠されてるって話だ。そこに何があるのかを確かめるために俺はあいつ―――シェパードに調査を頼んだんだ」

 

 シェパード。それがZONEの深奥だろうと案内できるストーカーの名前か。

 

「そのシェパードってやつはどんな外見だ?人違いで殺したくはない」

 

「年の頃は30代の半ば、東欧系の顔立ちで髪の色はくすんだ金髪。体格はあんたぐらい。格好は……砂塵よけの黄色いボロボロのフードとマントをいつもつけていたな。あと右目は眼帯を付けている。獲物に関しては使い潰すタイプだから今は何持ってるかはわからん。シェパードって名前の通り、狩猟犬みたいな雰囲気の男だが……まあ話すと意外と人懐っこくて世話好きなやつさ」

 

「……随分と特徴的な人物なようだ」

 

「性格も特徴的さ。一度ブロウアウトに巻き込まれて、死にかけた状態でここに担ぎ込まれたことがあったんだ。右目はその時に潰れちまった。しかし奴は驚異的な回復力で死の淵から戻ってきた。それ以来、俺はZONEに祝福されてるとか寝言を言うようになっちまった」

 

「そんな奴に案内が務まるのか?」

 

 流石に不安になってフィアーが疑問を投げかけると、Barkeepは気にしてた様子もなく笑った。

 

「安心しろ。それ以来奴が仕事をしくじったことはない。本当にZONEから祝福を受けてるんじゃないかと思う時もあるぐらいだ。……だが今回は少々遅すぎる。だからお前さんに様子を見てもらいたいのさ」

 

「とりあえずこの地域での情報は他にないか?」

 

「そうだな……、この辺は毒沼やら溶岩みたいなアノーマリーがそこらに湧いてるから気をつけろ。間違っても池や川の水の中に脚を踏み入れるな。それと随分昔のことになるがナイトクローラーがそこで確認されたことがある」

 

「奴らが?何を探していたというんだ」

 

「半年以上前の話だ。そこまではわからない。そいつらもそのまま姿を消しちまったらしいからな。だがこれであんたがdarkvalleyに行く理由が1つできただろ?」

 

「そういうことは一番最初に言っておいて貰いたかったがな。だが大体状況は掴めた。今から出発するとしよう」

 

 そう言うとフィアーは、シューティンググラスのHMDにdarkvalleyまでの地図を表示させた。

 このBARからでは少々遠い。往復だけでも最低1日はかかりそうだ。更に探索も加わるとなると更に2日は見ておいた方がいい。食糧や水はギリギリだが、これ以上持つなら武器と弾薬を捨てないと行けなくなる。

 そして食糧と武器をどちらを取るかと言われたら、今のフィアーは後者を取る。

 空腹はある程度耐えられる訓練はしているが、素手であのミュータント共と戦う訓練は受けていないからだ。

 

 自分の装備が万全だと確認するとフィアーはカウンターを離れ、未だに酔いつぶれているミハイル達に一言別れの挨拶をすると、そのまま酒場の出口へと向かった。

 その彼の背中にお馴染みのトレーダーの言葉が投げかけられた。

 

「Good Hunting Stalker!」

 

 

 

 ◆    ◆    ◆

 

 

 

「Get out of here Stalker !」

 

 Barkeepに教えてもらったゴミ捨て場へ続くBARの検問所を目指して、道代わりの工場内を歩いていたら、突然その罵声が上から降ってきた。

 

 フィアーが目線を上げると工場内部にはキャットワークが張り巡らされており、そこには一人のDUTY隊員がいる。

 彼はガスマスク越しにもわかる侮蔑の眼差しをこちらに向けていた。

 

「貴様ら無頼のストーカーときたら、一言目には金、金、金……ふん!我々DUTYはお前達の力など借りずとも、このZONEをいつか必ず消滅させてやる」

 

 彼はこちらに向かって愚痴にも思える言葉を吐き捨ててきた。

 突然の事にフィアーは目を丸くしつつも言葉を返す。

 

「だがお外のスピーカーはそのストーカーの力を借りたがっているようだぜ?」

 

「あんな連中いてもいなくても大して変わらん。……とにかくここはDUTYの基地だ。ストーカーはさっさと立ち去ることだな!」

 

 そう言ってそのDUTY隊員は、再びキャットウォークを歩いて闇の中へと消えていった。

 一体何だったのか。

 

「言われなくてもすぐに消えるとも」

 

 DUTYの中にもあんな奴がいるのかと、逆に感心しながらフィアーは外壁をくぐり抜けた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 気難しいDUTY隊員がいた工場を出た先に、ゴミ捨て場方面の検問所があった。

 そこはwildterritory側の検問所よりも更に強固に陣地化されている。

 放置された貨物コンテナを使った防壁に土嚢、更に文字通りのコンクリート製のトーチカすらあるのだ。

 人数は先の検問所よりは少なめだが、トーチカの防御力を考えると先の検問所と大差ない戦力になるだろう。

 

 彼らはBARの方面には目をくれず、ただひたすらゴミ捨て場方面の道を睨みつけている。

 その理由はフィアーにもすぐに分かった。

 彼らの視線の先にある道はまるで爆撃でも受けたかのように掘り返され、無数のクレーターが大地に穿たれていたからだ。

 

 しかもそのクレーターの付近にはミュータントや人間の破片と思わしき肉片が転がっている。

 過去何度もミュータントやバンディットの襲撃を返り討ちにしてきたことを、この景色が示していた。

 DUTY隊員達を見ていると、一人だけマスクを外している軽装の壮年の隊員を見つけた。

 周りの隊員達に対して指示を出している所を見ると彼がこの部隊の隊長だろう。

 

「よう。随分と殺気立ってるな。襲撃でもあったのか」

 

 フィアーがその検問所のリーダーと思わしき男に話かけると、タバコを吸っていたその男は顔を顰めながらこちらに応じてみせた。

 

「あったのかだと?寝ぼけたことを抜かすな。襲撃などいつでもある。これは俺たちと奴らの戦争だからだ」

 

「奴ら?」

 

「ゾンビ。バンディット。Freedom。そしてミュータントの群れ。もしくはその全てだ」

 

 その目が血走っているのは疲れや寝不足だけというわけでもあるまい。彼はこのZONEという環境そのものに対して敵意を見出しているようにも見える。

 フィアーはこれ以上彼の事情に突っ込むのはやめにした。代わりに別のことを聞く。

 

「Barkeepからの依頼でdarkvalleyに向かうことになってな。ゴミ捨て場へ行くにはこの道を通ればいいのか?」

 

「……ああ、そうだ。ゴミ捨て場に入った後、東に進めばdarkvalleyだ。この先にはすごい数のアノーマリーの巣があるから気をつけろ。そしてバンディットにもな。今ゴミ捨て場は勇気あるストーカー達がバンディット共を追放したから治安はいい。

 もっともそれでゴミ捨て場から叩き出された連中がこっちに来て俺達に蜂の巣にされたり、darkvalleyへ逃げ込んでるらしいから充分気をつけることだ」

 

「ありがとう。最後にもう一つ。Barkeepに試射用のマンターゲットがこっちにあると聞いたんだが」

 

 DUTY隊員は無言でタバコを持った手である方向を指し示した。

 つられてフィアーが視線をその方向へ向けると、道から少し外れた所に高さ数メートルの木の天辺から、吊り下げられた首吊り死体がそこにあった。

 首吊り死体は一つだけではない。真新しいものもあれば、風化してミイラのようになっているものもあった。

 

「ここに襲撃を仕掛けてきたバンディット共だ。後はまあ、あれだ。BARの治安を乱した罪人とかも混じってる。好きに撃って構わんぞ」

 

「……なるほど。あんた達は仕事熱心なようだ」

 

 流石にあんなもの相手に試射する気にはなれず、フィアーは先に進むことにした。

 そんなフィアーの背中にDUTY隊員の声がかけられた。

 

「この先には野犬共の巣がある! お前の前にも一人ストーカーがゴミ捨て場へ向かったが音沙汰なしだ! やばくなったらここまで逃げてこい!」

 

 彼の警告に対してフィアーは手を振って答えると、フィアーは手にした軽機関銃のボルトを動かして初弾を薬室に送り込むと脚を進めた。

 

 

 

  ◆    ◆    ◆ 

 

 

 

 その犬の唸り声が聞こえたのは検問所から歩き始めて30分程経っただろうか。いつしか榴弾によって掘り返された地面も後ろに置き去りになり、むき出しだった大地を背丈の高い草が覆い尽くすようになっていた頃だ。

 最初はこの草むらの中から自分に対して向けられた声かと思ったが、違う。

 どうやらこれは別の先客に向けられたもののようだ。

 

 茂みからの奇襲も警戒しながら歩みを早める。

 すると道から外れて擱坐した大型トラックの残骸と、そのトラックの周りを唸り声を上げてうろついている十匹程の盲目犬の群れ、そしてトラックの運転席の上で頭を抱えて座り込んでいるストーカーを発見した。

 

 どういう状況になったのか概ね予想はつく。

 あの野犬の群れに襲われて、犬達が簡単に登ってこれないトラックの上に登ったのはいいが、やり過ごすことも退治することもできずに途方に暮れていた、といったところだろう。

 もっと正確に言えば、トラックの上から犬達を撃ち殺そうとしたようだが、途中で弾が尽きたようだ。

 それを物語るかのように、トラックの周りには盲目犬の射殺体が数体転がっている。

 間抜けといえば間抜けだが、彼が先行してこの辺りの盲目犬共を引き付けてくれたお陰でこうして後続の自分が楽をできると思えば笑う気にはなれない。

 

 この辺りは草に覆われている上に、道も地形も高低差が激しく見通しが悪いため、草むらの中から野犬の集団に襲われたら自分でも対処が難しいからだ。

 あのストーカーが自分の身を囮にして、身を潜めていた野犬達を誘き出してくれたことに対して、感謝の気持ちを形で示すことにしよう。

 

 そう思考すると彼は、M249軽機関銃の銃口をトラックの周りで吠えたてる盲目犬の群れに向けるとトリガーを引いた。

 連続する銃声が野犬達の唸り声をかき消して、続く銃弾が野犬を薙ぎ払う。

 スローモーも駆使した軽機関銃の斉射の前に、野犬の群れは逃げることも反撃することもできず、10秒と持たずに全滅した。

 唖然としているトラックの上のストーカーに、フィアーは手を振って敵意はないことを示すと近づいていった。

 

 

 

 

 

「マジで助かったよ!ってあんたフィアーじゃないか!二度も助けられたな!」

 

 トラックから飛び降りてこちらに駆け寄ってきたストーカーは、こちらを見るなり開口一番そういった。

 声からすると若いようだが、フィアーには彼の顔にも声にも心当たりはない。

 

「……誰だ?お前」

 

 正直にそう言うと彼は少し肩を落としたが、すぐに気を取り直して自己紹介してきた。

 

「ああ……。そういえばあんたとは前に会った時は喋らなかったな。ええっと、俺はゴミ捨て場であんたがバンディットを叩きのめした時に一緒に攻め入ったストーカーさ。アンドリーってんだ」

 

「ああ、ウルフが率いていた連中か。随分まともな格好になったじゃないか」

 

 あの時はウルフ以外には碌に喋らなかった上に、ストーカー一人一人の顔など覚えていなかったので忘れていたのは当然だった。

 しかもその時の彼らはボロボロのジャケットにジーンズという乞食よりマシ、といった身なりだったが、今現在はガスマスクのついてない緑のストーカースーツを着込んでいる。そのため彼の事を覚えていたとしても気づけたかどうかは怪しいものだ。

 

「へへへ。あいつらから分捕った戦利品をBARで売って、装備も充実させたのさ。まあ装備のほうで金が尽きて銃弾があまり買えなかったせいで、あの犬っころ相手に弾切れになっちまったんだけど」

 

「……そうか」

 

 彼の無邪気な間抜けぶりに突っ込む事もできず、フィアーはとりあえず相槌をうつ。

 

 彼の手には5.56mm弾を使用する民間向け自動小銃mini14が握られていた。

 木製の猟銃のような外見のこの銃は精度こそ低いが、安価で構造も単純で手入れもしやすく、5.56mm弾を使用するため威力もそこそこある。

 ZONEの深奥で運用するには少々性能不足だろうが、ルーキーに毛が生えたようなストーカーが外周部辺りのミュータントを相手する分には充分な性能を持っている。……まあそれも弾があればの話だが。

 

 フィアーは自分のバックパックを漁ると、そこから5.56mm弾がつまったSTANAGマガジンを2つ取り出して彼に手渡した。

 

「これでも持っておけ。折角助けたのにまた目の前で死なれても困る」

 

「ああ、何から何まですまねえな! 折角買った新品の銃を棍棒代わりする所だったから助かったよ!」

 

「代金は後で請求する」

 

「勿論だ! 一旦俺達のアジトに来ないか? あんたが叩き潰したバンディットの基地だ。あそこは今俺達のアジトになってる」

 

「いや、急ぎの用でdarkvalleyに向かわないと行けないんでな。ウルフがまだいるならよろしく伝えといてくれ」

 

 そう断るとアンドリーは悲しげな表情になったが、すぐに表情を変えるとdarkvalleyまでの道案内を申し出てきた。

 

「俺はゴミ捨て場の中には詳しいんだ。あそこからdarkvalleyへの道には結構アノーマリーが多くて危険だぜ。darkvalleyの中までは無理だが手前までならお礼として案内するよ」

 

 その申し出にフィアーは暫し考え込んだ。アンドリーは戦力としてはむしろ足手まといだが、未知の土地を歩くにはガイドはいたほうがいい。

 となると彼に道案内を頼んだほうがいいか。

 

「わかった。よろしく頼む」

 

「ああ。任せとけ!」

 

 しかしここの所、歩いているだけで道連れができることが多い気がする。

 陰鬱なZONEを一人で探索するよりはマシかと思い、フィアーは騒がしい同行者と共にゴミ捨て場へと向かっていった。




 ZONE観光案内人物紹介

 BARの入り口にいてGet out of here , Stalker !(出て行けストーカー!)って言ってくるDuty隊員。BARの名物。
 初めてBARに入ってドキドキワクワクしてると、いきなり出て行けと怒鳴りつけられるのでびっくりします。でも怒鳴るだけで特に何もしません。
 入ったら怒られるのかな?と思って思わず引き返した人も居るはず。
 そして入っても怒られないじゃんと思って、そのノリでBARのDuty本部に無断で入って蜂の巣にされた作者のような人も居るはず(願望)



 Barkeep
 BARのトレーダー。彼の酒場100Rads BarはZONEで一番繁盛してそうな店である。
 Dutyとも手を組んでいるようで彼の酒場には、屈強なDuty隊員が警備員として常に詰めているため治安もよく、酔っぱらい同士の喧嘩もなさそう。
 仕事も取り扱う商品も豊富で、活気のある所だが一作目にしか登場しないのが残念。
 人気のある場所なので大型のMODとかだとよくこの店がマップごと追加されてる。

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