S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler   作:DAY

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Interval 01 到着

「悪いがここまでだ。後は徒歩で行ってくれ」

 

 そう言って無愛想なタクシーの運転手は荒野の真ん中でタクシーを止めた。

 

「…まだチェルノブイリどころかZONEの端まで20キロはあると思うんだが」

 

 少なくともGPSを信じるならZONEを包囲する軍の検問所まで正確にはあと21キロはあるはずだ。

 タクシー代は前払いだったが、その程度の距離すら惜しむ程の金額を払った覚えはない。

 運転手はミラー越しに後部座席に座る軍曹に一瞥を向け、鼻を鳴らした。

 

「最近は軍の締め付けがきつくてな。もう少し先まで巡回が見回ってる時があるんだ。お前さんがZONEに入るパスポートを持っているかどうかは知らんし、それが本物かどうかにも興味はない。だがパスポートを持ってない場合や偽物だった場合、お前を運んできた俺も蜂の巣にされちまう。先払いしてもらった代金に生命保険を付けてくれるなら考えてやるがね」

 

「そんなに軍の検問所の連中は荒っぽいのか?」

 

「荒っぽいだと?面白い冗談だな。奴らは荒っぽいんじゃなくて、動くものを見るとそれが何なのか確認するより先にぶっ放してくるのさ。確認するのは相手を死体にしてからだ。…実際そのやり方は正しいと思うぜ、ZONEではな」

 

 その口調に何か感じるものがあったのか軍曹は目を細めた。

 

「あんたもZONEに居たことが?」

 

「元々俺はZONEだった地域の住人だったのさ。端っこだがな。あそこじゃ油断してるとネズミにすら喉笛を食い千切られるような所だ。お前さんその格好からすると傭兵かなにかか? アメリカから来たのか?」

 

「…まあ、そんな所だ」

 

 隠す必要もないので正直に答える。

 彼の現在の姿はヘルメットとマスクこそ装着していないが、都市迷彩の戦闘服とボディーアーマーを着こんだ重装備の兵士以外何者でもない。更に彼の隣には軍用のバックパック。

 流石に銃火器は身に着けてはいないが、見る者が見ればバックパックから突き出した棒状の包みの中身は小銃の銃身だとすぐに判る。

 運転手もそれは理解していたようでバックパックをトランクに入れるように言ってきたのだが、彼はそれを受け入れなかった。

 

 運転手としては武器を所持した乗客が無人の荒野で突然強盗に変わるのを警戒しているのであろうが、それは軍曹の方も同じだ。最悪、ZONEの入り口ではなく盗賊の拠点で強制的に降ろされる可能性もあるのだ。二人の話し合いは平行線となり、最終的に運賃を3割増しにすることで決着がなされた。

 

「ロシア語が中々上手いようだがアメリカ風の訛りがあるからな。それに雰囲気で分かる。お前みたいな奴は何人も乗せてるんだ。ここまであからさまな格好をした奴は初めて見たが。まさかその格好で空港のゲートを通ってきたわけじゃないだろうな?」

 

「実はそうなんだ」

 

 それは事実だった。但し彼が乗ってきたのは民間の旅客機ではなく軍用の輸送機だったのだが。

 最早組織として機能を失くしつつあるF.E.A.R.が、ウクライナ行きの軍用機をこんなにも早く調達できたのは彼自身も驚いていた。

 どうやらベターズのコネを侮っていたらしい。

 そんな訳で入国においてのあらゆる検問をフリーパスして、予めベターズが用意してくれたこの非合法のタクシーに乗ってきたわけだが、用意されたレールはどうやらここまでのようだ。

 

 「アメリカ人らしい言い方だ! だとしたら一体いくら空港の連中に払ったんだ? それと同じ金を俺に払ってくれれば軍の検問所を突破して、ZONEの中心部まで連れて行ってやるよ!」

 

 もっともこの運転手はそこまでは知らないらしい。或いは知らないフリをしているのか。

 まあ彼にはどちらでもいいことだ。

 

「残念だが空港で有り金を全て叩いて一文無しだ。……ここから先は歩きで行くよ」

 

 そう言って彼はまずバックパックを荒れ果てた道路の上に放り出し、そして自分も車から降りる。

 そして運転席の窓ガラスに近寄ると、最後の確認をする。

 

「この道路を進めばZONEなんだな?」

 

 運転手の口を滑らかにするために、その言葉と同時に差し出した紙幣はそれなりに効果があったらしい。口の端を吊り上げながら紙幣を受け取ると運転手は素直に答えた。

 

「そうだ。真っ直ぐ進むと検問所がある。あんたがZONE遊園地への入場券を持ってるなら、検問所の連中にまず無線か大声で呼びかけるようにしろ。いきなり近づくと問答無用で撃ってくるからな。無くてもまあ、それなりに金があるならそれが入場券の代わりにもなる。

 ……ここにいた連中が精鋭だったのは昔の話さ。今やここに居る軍人共はZONEの過酷な環境とそんな所に自分達がいる現実を呪ってばかりいる。本業よりもアルバイトに余念がないんだよ」

 

 同じ軍人としては嘆かわしい限りだが、大抵のトラブルが金で解決可能ならそれに越した事はない。だが逆に言えば用意した『パスポート』を見せても更に吹っかけられる恐れもある。

 彼らとしてはその場で撃ち殺して、異常無しと上に報告すればいいだけだ。

 客人が検問所にたどり着く前に不慮の事故に合う等、此処ではありふれた事だろう。死体はZONEの過酷な環境が片付けてくれる。

 

 ……まあそもそも『パスポート』自体偽造されたものだから、彼らが余りにも職務に忠実で優秀であってもそれはそれで不味い事になる。いくらベターズと言えどやれることには限度があったということだ。

 最悪の場合、強行突破も視野に入れなければなるまい。

 

「……検問所の人数はどれぐらいだ?」

 

 そう尋ねる軍曹の言葉に不穏な物を感じたのか運転手が咎める様に返す。

 

「多くて20人かそこらってとこだろうが…。変なことは考えるなよアメリカ人。機銃銃座に加えて装甲車までいる。ハリウッドみたいにはいかねえぞ。踏み倒す積もりなら夜に行け。どうしても無理だと思ったらこの道路を引き返してきな。俺は暇な時は大抵、この道の先の酒場で飲んでいる。結構な金額を貰ったからアフターサービスぐらいはしてやるぞ」

 

「ありがとう。だが無理はしないさ。それに……」

 

 その程度の人数ならばどうにでもなる。

 

 その言葉は流石に口には出さなかった。しかし、運転手は察したらしい。呆れた様に小さく笑ってハンドルを握ると車をUターンさせ、やってきた道へと車体を向ける。そしてアクセルを踏み込む際に最後の言葉を投げかけてきた。

 

「ま、無理をしない奴ならそもそもここには来ねえか。……Good Hunting Stalker!」

 

 米国人であるこちらに合わせてきたのか、最後の言葉は英語だった。

 即興で言ったには言い慣れている様にも思える。

 いや、実際彼は何度も言っているのだろう。そしてその言葉を聞いた者の大半はこの荒野に散った筈だ。

 

 砂煙と共にタクシーの姿が消える。彼は近くの窪地に一旦降りると、装備の確認を始めた。バックパックからホルスターに収まった愛用の自動拳銃を取り出し腰に付ける。

 H&K社のUSP自動拳銃。それをFEARでカスタマイズし、AT-14のコードネームを与えられたそれは、先日の戦いでも役に立った。

 あの戦いで持ちだした拳銃は40口径弾を使用するタイプで拳銃としては強力だったが、今回は弾薬の調達のしやすさを考え、9mm口径の物を用意した。

 多少威力は落ちるが、これならば弾薬の調達もしやすいだろう。落ちた威力は徹甲弾やホローポイント弾等で補えばいい。

 

 更にホルスターには、取り外し可能な消音機が取り付けてあるので隠密行動にも適している。

 次は小銃だ。小銃の梱包を解いて銃を組み立てると、実弾を装填済みのマガジンを取り出し小銃に装填する。更に5つ程取り出しタティクカルベストのポケットに押し込み、ウエストバッグにはメディカルキットといくつか手榴弾を押し込んだ。

 

 左の肩口にはサバイバルナイフを鞘ごと装着する。軍曹は徒手空拳でも容易く人を殺害できる戦闘技術と身体能力を持つが、ZONEに現れるミュータントにも通用するとは限らない。ナイフでの戦闘も視野に入れておくべきだろう。

 彼はオーバーンに於いては亡霊を素手で殴り殺していたのだが、ミュータントは実体を持つ分、亡霊より打たれ強い可能性も十分にある。 

 

 そしてガイガーカウンター。放射能汚染が酷いZONEでは必須の道具だ。出来ればアノーマリー探知機と呼ばれるZONE特有の空間異常を感知する機械も欲しかったのだが、生憎と入手は不可能だった。現地ではそれなりに出回っているようなので現地調達するしかあるまい。

 

 僅か数分で全ての準備を終え、広げた荷物を片付けると彼はバックパックを背負い直し、軽量化されたヘルメットと簡易ガスマスクとしての機能を持つフェイスガードを装着し、無線や装備した銃の弾数管理、自身の状態等をモニタリングする機能を有するサイバーシューテンググラスを装備する。

 シューティンググラスのHMDとしての機能が作動。システムチェック、オールグリーン。バッテリー残量も問題なし。予めセッティングしておいた自身のヘルスとアーマー、銃火器のモニタリングも問題ないことを確認すると、彼は銃を構えながら窪地から出てヒビ割れたアスファルトの先を見据えた。

 行き先はZONE。

 狩りの獲物は闇夜に蠢く芋虫共。

 

 あの運転手の言葉通り、この狩りが良き狩りにならんことを彼は祈った。

 その祈った相手がなんだったのかは彼自身にも分からなかったが。




 ようやくZONE入り。
 この作品はSTALKERのF.E.A.R.MODみたいな感覚で楽しんで頂ければ幸いです。


 ZONE観光案内。
 ZONE名物のアノーマリー。
 ZONEのみで発生する異常現象。
 踏み込んだら空気が圧縮されて押しつぶされたり、重力変動で引き寄せられて爆殺されたり、炎の柱が発生して燃やされたり、高圧電流が流れたり、毒の沼地になってたり、ワープゲートになって別の場所に飛ばされたり、すごい放射線を放ってたり、頭がおかしくなって死んだりする。

 危険だが内部でアーティファクトと呼ばれる特殊なアイテムを生成しているので、危険を承知でストーカー達はアノーマリーを探索する。

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