S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler   作:DAY

18 / 32
Interval 17 mercenary

 エコロジスト達のシェルターからまっすぐ東に小一時間ほど歩くといつしか盆地を抜け、山道に差し掛かった。この小さな山の超えた先がこの辺り一番の危険地帯、Wildterritoryだ。

 そこまで何事もなく順調に、そして慎重に来た一行だが(道中はユーリですら周りを警戒して無駄口を叩かなかった)山道に入る前に初めてセルゲイが声を上げた。

 

 「悪いが、調べたい所がある。ここの近くのキメラの巣の跡だ。逃げた時に放り出した俺のドラグノフがそのままになってるかもしれない」

 

 どうやらこの近辺に例のキメラの群れの巣があったようだ。そういえばセルゲイはそこで狙撃銃を捨ててくる羽目になった、と言っていたのをフィアーは思い出した。

 ミハイルがこちらの様子を伺いながら、答える。

 

 「確かここから歩いて20分もかからん場所だったな……。すまん、フィアー付き合ってくれるか?」

 

 「構わん。だがきな臭い匂いを嗅ぎとったら俺は直ぐに逃げるぞ」

 

 そのフィアーの答えにセルゲイが頷いた。

 

 「勿論だ。俺もまたキメラの大軍に追い掛け回されるのは御免だからな」

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 山道から外れ、山の裾野を回りこむように十数分程歩く。

 土の質が悪いのかここも盆地と同じく植生はほぼ壊滅しており、地面からは赤茶けた粘土質の土が剥き出しになっている。見晴らしがいいため奇襲を受けにくいのはありがたいが。

 

「あった。あそこだ。」

 

 そういってセルゲイが示した先には山肌から転がり落ちてきたのか、巨大な岩が無数に転がっていた。岩の幾つかは割れて空洞を作っている。あれならキメラの寝床にもなりそうだ。

 しかし今は生き物の気配はしない。ミュータントとど言えど動物的な知能は持っている。あれほどの規模のキメラの群れとなれば、他のミュータントも近づこうとは思わないだろう。

 フィアーのシューティンググラスに投影されたミニマップには、更にその付近にアノーマリーの存在があることを示していた。いや……それ以外にも何かある。

 

「よし……ちょっと調べてくるからバックアップを頼む」

 

「ああ、任せておけ、AKの弾ならたっぷり調達してきたからな。敵がいたらたらふく食わせてやる」

 

「俺に当てるなよ……ん?どうしたフィアー」

 

 空間探知機と連動させたPDAを操作し始めたフィアーを見て、セルゲイが声をかけてきた。

 

「空間探知機が反応したんだが、アノーマリーと一緒にアーティファクトの反応もある。俺はそちらを確認してくる」

 

 するとミハイルがバックパックからロープを取り出して、こちらに投げてきた。

 

「あそこは重力場アノーマリーだ。あれを調べるならその命綱を付けておけ。引きずり込まれそうになったらこちらで引っ張ってやる」

 

「助かる」

 

「過信はするな。力場によってはロープも簡単に千切れちまうし、俺ごと引きずり込まれそうになったら躊躇なくロープは手放すぞ」

 

「そうなっても恨みはしないさ」

 

 手早くロープを自分のベルトに括りつけると、フィアーは改めてシューティンググラスに投影されるミニマップに注意を向けた。ミニマップには現在の自分の周囲の地形と何メートル先にアノーマリーがあるかを赤い光点で示している。赤い光点は複数あり、その間を緑色の光点が動き回っていた。この緑色の光点がアーティファクトのようだ。ここからでは視認はできない。

 アノーマリーに潜むアーティファクトは空間探知機を近づけて初めて実体化する。フィアーはそれをゴミ捨て場のアーティファクト採取で学んだ。

 

 まずはボルトをいくつか投げて、アノーマリーの規模を確認する。元々空間が陽炎のように歪んでおり、視認するのは容易だが揺らいでるせいか正確な大きさを把握するのは難しいのだ。

 ボルトを投げ込むと重力変動を起こすそのアノーマリーは、一気に炸裂音と共にボルトを内部へと引きずり込み、上空へと放りなげた。人間があの高さまで放り投げられたら、概ね死ぬか大怪我を負うだろう。

 

 アノーマリーの形状と性質を把握したフィアーは、匍匐前進でアノーマリーの巣へと向かっていく。重力変動を起こすアノーマリーなら、歩いて行くよりはこちらのほうがバランスを崩しにくいだろうと判断してだ。

 ついでにそこらで拾った細い枯れ枝で、前方に異常はないか確認しながらゆっくりと進んでいく。

 この方法はアノーマリーの巣を抜けた時のミハイル達のやり方を真似たものだ。ミニマップ越しだと大雑把な位置ならともかく、精密な距離はどうしても測りづらいのでこの方法は有効だ。

 アノーマリーの隙間と隙間を縫うようにして、アノーマリーの巣の中心部に来る。緑の光点は頭上にあるのだが何も見えない。

 

 フィアーはここで腰に付けた探知機を外して、探知機本体を頭上に向けた。すると頭上で光とともに握り拳程の大きさの金属の塊が、まるで別の空間から引っ張りだされた様に唐突に現れて落下してきた。

 咄嗟にそれを受け止めると、フィアーは奇妙な感覚を覚えた。

 金か、磨きぬかれた銅を思わせるその金属自体は、重い。恐らくは2キロはあるだろう。

 しかし同時に持っていると装備も含めた自分自身が軽く感じるのだ。これがアーティファクトの効果だろうか?

 一旦それを考えるのは棚上げにして、戦利品をアーティファクト用の容器に入れると、フィアーは再び匍匐前進で命綱を目印に来た道を逆に辿って戻リ始めた。

 

 なんとかアノーマリー地帯を無傷で抜けて、ストーカー達の所に到着すると、セルゲイは既に戻っていた。その手にはロシア製のセミオート式の狙撃銃ドラグノフライフルを握っている。どうやら探しものは無事見つけたようだ。

 彼は戻ってきたこちらに対して珍しく上機嫌で語りかけてきた。

 

「そっちの収穫はどうだった?こっちはなんとか相棒は無事だったよ。スコープがイカれてたが、これぐらいならBARに行けば直すこともできる。ついてたぜ」

 

「こっちの収穫はこれだ。身に付けると身が軽くなった」

 

 そう言って拾ってきたアーティファクトを見せると全員がそれを覗きこんだ。ミハイルが口笛を吹く。

 

「これは装備した人間の重量を軽減させることができるアーティファクト、Graviだ。こいつを身につけると荷物の重さや手にした銃の重さが消えてなくなるっていう便利な奴だ。あのFlashといい、あんたはアーティファクト運に恵まれてるな!」

 

 ユーリが物欲しげに言った。

 

「俺も似たようなのは付けてるが、あんたのはこれより一回り高級品だ。羨ましいぜ」

 

 つまりこれがあれば本人の限界重量を大きく超えた荷物を運ぶ事ができるというわけだ。確かに探索を生業とするストーカーからすれば便利なアーティファクトだ。そして自分のような傭兵にとっても、これがあれば強力な銃火器や大量の弾薬を持ち歩けることができるようになる。

 もっとも微量な放射線を出しているので使用する場合、放射線除去のアーティファクトと同時に使用しないといけないようだが。

 フィアーは服を叩いて土を叩き落とすと、呟いた。

 

「せっかく洗った服を土まみれにしたかいはあったというわけだ」

 

 

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 その後一行は再び山道に戻ると、一時間ほどかけてその小さな山を乗り越えた。

 山の半ばで景色は一変し、今まで碌になかった植生が生えるようになり下り道の辺りではちょっとした林道のようになってしまった。

 あのヤンター湖は余程植物にとって環境が悪いのだろうか。

 そして下り道からはこれから通り抜けるというwildterritoryと呼ばれる区域がよく見えた。

 小さな町ほどもあるその区域には大小様々な工場が入り乱れて建っており、まさに工場区画といった所だ。

 かつて廃墟になる前は毎日のように機械音を鳴らしていたであろうその工場群も今はただ沈黙し、荒れた姿を晒している。

 

「バンディットが潜むにはうってつけの場所だな」

 

 そうフィアーが呟くとユーリが反応した。

 

「バンディットだけじゃねえ。傭兵にミュータント、訳のわからん怪奇現象も時々起きる。あそこで亡霊を見たって奴も一人や二人じゃねえんだ。さっさと抜けちまわないと厄介事に巻き込まれるぜ」

 

「とりあえず山を降りたら小休止だ。その後一気にあの区画を通り抜ける。」

 

 そうミハイルが続けた。

 確かにあの工場群はミュータントにしろ人間にしろ隠れる場所がいくらでもある。しかも上から見ても迷路のような作りになっているので、通り抜けるだけでも苦労しそうだ。

 そういった意味では、道を知っている彼らと行動を共にできたのは幸運だっただろう。

 山の麓へ降りるとそのまま山道は廃工場区画のへと続くアスファルトの道路となっていた。更に道路の先は地下トンネルへ続いており、そこを通って区画内に入れるようだ。

 

 一行は小休止をするにあたり、道の脇にあったキャンプの跡に残された焚き火の残りの炭を使うことにした。

 乾燥した枯れ木を適当に拾って薪とし、ライターのオイルをかけて着火する。薪の量は少ないので数十分で燃え尽きるだろうが休憩程度の時間ならば十分だ。

 各々が焚き火に昼食代わりの缶詰を放り込む。

 缶詰が温まるまで待っている間、ミハイルがwildterritoryで注意点を教えてくれた。

 

「あのwildterritoryで人影を見ても、決してノコノコと近づいていくな。あそこはバンディットだけじゃなくて傭兵が小遣い稼ぎにストーカーから金を巻き上げようと待ち構えてる時がある」

 

「それはもう唯のバンディットなんじゃないか?」

 

「やってることはそうだが、手強さは段違いだ。チンピラの寄せ集めと違って奴らはプロだ。仕掛ける時は音もなく近寄りこちらを殺しに来る。特に見通しのいいところは歩かないほうがいい。上から狙撃される」

 

 確かにあの工場群は煙突や建築途中で放棄されたビルなど、狙撃にはうってつけの場所がある。

 実はフィアーは山の上から時そういった場所を確認していたのだが、建築途中のビルの屋上に人影らしきものを何度か確認した。

 それを彼らに伝えるべきかどうか考えていると、腰の無線機が鳴り出した。

 ストーカー達に一言断り、嫌な予感を胸に無線機に出ると予感は的中していた。

 シドロビッチだ。

 

『ようフィアー。ちょっと目を離した隙に変なルートを辿ったみたいだな?なんだってwildterritoryなんかにいるんだ?』

 

「なぜだろうな。俺にもよくわからん」

 

 投げやりに答えると、シドロビッチもその辺りの事情には興味ないようで本題を切り出してきた。

 

『まあいいさ。なんでお前がそこにいるかよりも、いいタイミングでお前がそこにいるという事実が重要だ。早速仕事を一つ頼みたい。そこらを根城にしてる盗賊傭兵団共を始末して欲しいんだ。規模は十人程らしいがお前ならいけるだろ?』

 

「俺はお前の専属の殺し屋じゃないんだが」

 

『この依頼も俺の依頼じゃない。この先のBARのトレーダーの依頼さ。どうも奴の運び屋があいつらに襲われたらしい。奪われた物の中には高価なアーティファクトもあったようでな。それを取り戻せたら更に金を払うって話だ。……どうだい?この仕事を済ませておけばBARのトレーダーの心証をよくしていろいろ動きやすくなるとは思わんか?』

 

 アーティファクトという単語にフィアーはしばし考えた。あのワームとの戦闘で理解したが、この地で活動するには高レベルのアーティファクトは必要だ。それをその傭兵共が持っているというなら、始末した後に使えそうなアーティファクトを懐に入れてしまうというのもありだろう。依頼人には既に奴らの手の中にはなかったと言っておけばいい。

 

 我ながらこんな考えがすぐに出てくる辺り、自分もかなりZONEに染まってきたな、と思わないでもないが中々いいアイデアのように思える。

 その場合ミハイル達とは別行動を取らねばなるまい。流石に彼らを巻き込むわけにはいくまい。

 

「……いいだろう。ただし道中で出くわせばの話だ。それと物資も確実に取り戻せるとは限らんぞ」

 

『充分さ。じゃあ連中を叩き潰したらまた連絡をくれ。……ああ、それとゴミ捨て場のストーカー達だがな。あの後バンディット共のもう一つの基地を潰すのに成功したらしい。また機会があれば顔でも出してやれ』

 

「……機会があればな」

 

 然程興味のない事ではあったが、彼なりに気を使ったらしい。まあフィアーとしても短い時間だが共に肩を並べた相手が勝利したと聞くのは悪くない気分だった。

 フィアーは一旦シドロビッチとの無線を切ると、興味津々と言った様子でこちらを伺ってるストーカー達に事情を説明することにした。

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

「傭兵団を潰すってお前気楽に言うなぁ……」

 

 シドロビッチから請け負った仕事の内容を話すとユーリは唖然とした様子になった。

 ミハイルやセルゲイも厳しい表情をしている。連れが通行のついでに傭兵の集団を潰す等と言えば、そんな表情になるのも仕方あるまい。

 

「そうだ。悪いがあんた達とはwildterritoryで一旦別れようと思う。俺が連中とドンパチしていれば奴らも他のストーカーなんかに目を向ける暇がなくなるから安全に通り抜けれるはずだ」

 

「しかし……奴らの拠点に心当たりはあるのか?」

 

「ああ、山の上から工場地帯を見てたんだが、建築中の3階建てのビルがあっただろう。あの屋上で動く人影を見た。あそこなら工場地帯に対する狙撃場所としても拠点としても使えるはずだ」

 

 セルゲイの問いにフィアーはそう答えた。流石にアテもないのにこんな仕事を引き受ける気はない。このwildterritoryは工場が乱立して身を隠せる場所はいくらでもある。

 全くの手掛り無しの状態だった場合、この仕事を断っていただろう。

 

「……勝算はあるのか?」

 

「盗賊まがいの傭兵に負けるようなら俺はナイトクローラーを追ってはいない」

 

 ミハイルの問いにそう答えると彼は暫く悩んでいたようだが、セルゲイの方に話を振った。

 

「セルゲイ。お前のドラグノフはまだ使えるんだよな?」

 

「スコープはイカれたが、裸眼でも300メートル以内なら充分狙える。残弾もマガジン2つ分はある……まさかお前」

 

「あの建築途中のビルなら西側にある車両基地の屋上から狙えるだろう。あそこなら万が一フィアーがやられても地形が複雑だから逃げ切れる」

 

「正気か?見返りはあるのか?俺達が手を貸した所であのBARのトレーダーが気前よく追加報酬を出すとは限らんぞ」

 

「見返りは傭兵共の懐から頂くというのはどうだ。10人以上の傭兵の獲物はフィアー一人で担いでいくには重すぎる。荷物持ちが必要とは思わんか?どうだフィアー」

 

 こちらにそう言ってきたミハイルにフィアーは苦笑した。

 

「皮算用は構わんが、後で文句は言うなよ。……まあアーティファクト以外は好きにするといい」

 

 その言葉を聞いたユーリが小さく笑った。

 

「やっぱりお前さんも戦利品をそのまま差し出すつもりはないようだな。俺達としても足の付きやすいアーティファクトより傭兵の武器のほうが捌きやすくてやりやすい」

 

 最後にミハイルが頷いた。

 

「よし。セルゲイは車両基地の屋上から支援を頼む。俺達はフィアーと一緒に工場に突入する」

 

「俺がポイントマンになる。あんた達は俺が切り開いた場所をクリアリングしてくれ」

 

 突入に際して立てた作戦は、作戦というには余りにも稚拙なものだった。しかしフィアーは彼らとは長い付き合いというわけでもないし、綿密なコンビネーションが組める訳でもない。

 それならば先のキメラ戦と同じくフィアーが単騎で突入して、切り開いた場所を彼らがかき回すとやり方のほうがシンプルでお互いやりやすいだろうと言う事になった。

 おおよその目標地点の地形とはぐれた時の合流場所等、最低限の事だけを打ち合わせて、後は成り行き任せで突っ込むことにした。

 

 

 ◆  ◆

 

 

 30分後、フィアーと二人のストーカーはwildterritoryに侵入し、目的の建築途中の三階建てのビルの付近に来ていた。

 あの後食事を手早く済ませた一行は地下トンネルから工場区域に入り、道中で幾つかのアノーマリーをくぐり抜けた。

 道中で数体のゾンビに遭遇しそうになったが、彼らは知覚が人間のそれよりも鈍いのが救いだった。

うまい具合に入り組んだ地形や廃材の影に潜んで、なんとかやり過ごすことに成功する。とはいえ呻き声をあげながら、徘徊する彼らの死角を移動するのには大変な神経を使った。

 ゾンビは古びた拳銃や水平二連の散弾銃程度しか持っていなかったが、もしそれらを使われていたら付近一帯に銃声が鳴り響き、傭兵達に警戒されていただろう。

 そうしてネズミのように無人の工場地帯を這いまわり、目星をつけていた建築途中のビルに到着したというわけだ。

 複雑な工場地帯は上手く自分達の接近を隠してくれた。

 

 ビルに近づいて物陰からミラーを使って様子を伺うと、時折見張りなのか武装した人影がちらついた。ここが傭兵達の拠点なのは間違い無さそうだ。

 ミハイルは無線機で狙撃の為に、ここから200メートル程離れた車両基地の屋上に移動したセルゲイと声を潜めてやり取りをしている。その背後ではユーリがAKを構えて周りの警戒をしていた。

 暫くして無線を切るとミハイルはこちらに向き直った。

 

「いつでもいける。セルゲイが確認した限りでは屋上に四人、二階に三人程確認したそうだ。あいつはこちらが発砲したらそれを合図に狙撃を開始する」

 

 近距離の狙撃と言えど乱戦の最中に撃てば場所も探知されにくい。今回の狙撃地点はビルから近すぎる為、そのまま撃てば即座に位置を特定されて反撃される。その為狙撃手の位置が相手に悟られないように工夫が必要だった。

 

「後は一階と地上の見回りってところか。俺は突入次第、視界に入ったやつを撃ち倒して上に登っていく。あんた達は俺が突入した後、取りこぼしがいるかどうか確認して掃除していってくれ」

 

「了解した」

 

「あいよ」

 

 二人の答えを聞くとフィアーはゆっくりとイングラム短機関銃を構えた。近距離でこれをフルオートで撃ちこめばボディアーマーを装備した傭兵でも倒せるはずだ。更に腰の自動拳銃には徹甲弾を装填してある。

 それでも足りないのならば相手の武器を奪い取って使うまでだ。

 フィアーはミラーを使って、ビルの様子を伺った。一階も一部が壁がなく、吹き抜けになっているお陰で相手の数がよくわかる。

 

 一階に三人……いや四人。いずれも都市迷彩のボディアーマーを着込んでいる。頭部もアーマーと揃いのヘルメットとマスクとゴーグルで完全に顔を隠している。手にはM4カービンと呼ばれる米国で広く流通している自動小銃を構えていた。奥にいる兵士だけが一人だけM249軽機関銃を側に立てかけている。真っ先に潰すべき相手だ。

 上の階と合わせると11人。シドロビッチは十人ほどという曖昧な言い方をした。正確な情報が掴めなかったのだろう。

 一応これで計算はあうが、まだ後数人いるかもしれない。

 

 更に発見される危険を承知で、手持ちのミラーでビルの内部を観察する。

 ミラーに写った景色から判断すると、どうやら四人のうち二人が見張りで、残る二人は廃材の上に腰を下ろし休憩中らしい。しかも武器も手放しており、椅子代わりの廃材に立てかけてある。

 

 チャンスだ。

 

 フィアーは手信号で後ろの二人に突入すると合図を送る。二人のストーカーは背後や周りを警戒しながらも、こちらに不敵な顔で頷いた。全員バックパックは既に外して付近の工場内に隠してあるので今は身軽だ。

 腰から旧型の破片手榴弾を取ると、フィアーはまず小さな布切れで手榴弾を包んだ。更に金属音を極力響かせないように丁寧に安全ピンを外す。

 

 そしてレバーを外し、1秒、2秒と数えた後、一階の四人の内、見張りをしている傭兵達の足元に転がす。布で包んであったせいか転がった音は低く、見張り達の動きは一瞬迷った。

 これは手榴弾なのかそうでないのか、という迷いである。だがそれも一瞬。どのみち危険物には間違いあるまいと即座に結論づけて、「グレネード!」と奥の仲間に警告を出しつつ、手近な廃材の影に退避しようとした。

 だがその手榴弾は予めピンを抜いて、投げる際に爆発するまでの時間を短く調整されたものだ。

 彼らが物陰に隠れるより先に、手榴弾が起爆、二人の兵士をなぎ倒した。

 

 爆風が収まるよりも早くフィアーはビルに突入して、奥に突き進む。

 廃材の影でなんとか爆風を逃れた傭兵二人を見つけると、彼らが態勢を立て直す前に即座に撃ち殺す。

 そのままの勢いで奥にあった階段を登り電撃的にケリをつけようとした考えた時、階段の上から手榴弾が降ってきた。

 

 反射的に近くに積み上げられた廃材の影に身を隠す。手榴弾が爆発。

 流石に建築用の材料なだけあって頑丈で手榴弾の爆風を見事に防いでくれた。 

 それにしてもこの短期間で即座に反撃してくるとは中々良い反応だ。

 下で仲間が生きているかもしれないのに手榴弾を投げつけてくる辺り、思い切りがいいというよりは考えなしなのかもしれないが。

 

 ……或いは仲間のバイタルを常に確認することができるのか。

 後でそういうシステムがZONEにあるかどうかストーカー達に聞いてみようと思考しながら、フィアーはスローモーを発動させ、爆煙を突っ切り階段を一足飛びに駆け上がる。

 爆発物を使った後は敵側も僅かに隙が生まれる。それを狙ってのことだった。

 

 階段を登り切るとそこは一階と同じく、壁すら碌に無い吹き抜けの殺風景なフロアが広がっていた。引き伸ばされた体感速度の中で、柱の影から二人の兵士がこちらにライフルの銃口を向けているのを確認した。

 しかし手榴弾が爆発した直後のためか、微妙に相手の反応が遅い。二人の兵士が引き金を引き切る前に、フィアーは人間離れした速度でイングラム短機関銃を目標にポイントし、フルオートで薙ぎ払った。

 分速1000発を超える発射速度によって、瞬く間にイングラム短機関銃は残弾全てを吐き出した。

 もっとも弾切れになる頃には二人の兵士は撃ち倒されて地面に転がっていたので問題はない。

 

 二階にはもう一人居たはずだ。どこだ?

 

 そう思いマグチェンジをしようとしながら更にフロアを見渡そうとすると、背後から強い衝撃が走る。

 撃たれたか。

 しかし頑丈なFEARの制式ボディアーマーは5.56mmのライフル弾を完全に受け止めてくれた。無論衝撃までは相殺できないが、訓練された体は着弾と同時に前方に身を投げてビルの柱に身を隠すように動いていた。

 更に立て続けに銃声が走り、先程までフィアーが居た場所を火線が貫いていく。あのまま衝撃に対して踏みとどまろうとしていたら、あの追撃でやられていただろう。だがこれで敵の位置は把握した。階段から出てきた自分の真後ろに位置していたらしい。

 脳内で放出されているアドレナリンのお陰で痛みに関しては気にする必要はない。手も脚も動く。この戦闘が終わった後はどうなるかわからないが、少なくとも今はまだ大丈夫だ。

 

 フィアーは拳銃を引き抜きながら、柱の影からイングラム短機関銃を放り捨てる。そして間髪入れずに自身は短機関銃を投擲した逆の方向から拳銃を構えて、身を投げ出す。

 案の定敵は最初に放り投げた短機関銃に反応し、ほんの一瞬だがそちらに銃口を向けていた。スローモーを発動させたフィアー相手にその一瞬は致命的だ。

 床に倒れた状態からフィアーは拳銃を相手の頭部に向けて三連射。相手は頑丈な防弾ヘルメットを装備していたが、この距離での徹甲弾には耐えられなかった。

 三発の弾丸がマスク、ゴーグル、ヘルメットをそれぞれ貫通し、傭兵を永遠に沈黙させる。

 

 フィアーは立ち上がると最初に撃ち倒した二人の兵士に近寄ると―――彼らは致命傷ではなかったようで、なんとか小銃を構えようともがいていた―――それぞれの頭部に拳銃弾を撃ちこみ止めを刺し、そこでスローモーを解除した。柱の影に隠れると大きく息を吐き、クールダウンを行う。

 数秒ほどかけて呼吸を整えると、次の行動に移る。

 傭兵たちが装備していたM4カービンライフルを手に取り、動作確認を行い残弾を確認した。まだ充分あるようだ。少なくとも屋上の敵を相手にする分は問題ない。

 そこでビルの向かいの車両基地の屋上にいるセルゲイから通信が届く。

 

『瞬殺だな。こっちが援護する暇もない』

 

 どうやら彼は吹き抜けの部分からこちらの戦闘を目視していたらしい。

 

『あんたの仕事はこれからだ。流石にこれ以上の速攻は無理だ。そっちから屋上を狙えるか?あんたが仕掛けると同時に俺が屋上に飛び込む』

 

『了解した。カウント10で攻撃する』

 

 セルゲイとのやり取りを終えるとフィアーはM4ライフルを構えて、屋上へと上る階段へと近づいていった。また手榴弾を落とされても敵わないので、即座に階段の後ろに回り込めれるようにしておく。

 相手も流石に同じ手は通用しないとわかっているのか、徹底して待ちの構えのようだ。こちらにとってもそれは都合がいい。

 なぜならそれは背面の警戒を疎かにするということでもあるからだ。

 

 そこまで考えた所で銃声が響き渡る。小口径の小銃弾ではなく、大口径の狙撃銃の銃声。セルゲイの攻撃だ。同時にフィアーもスローモーを発動させていた。

 屋上の相手が混乱する気配をフィアーは肌で感じ取った。恐らく今ので一人倒れた。

 本来なら視認もできないのだが、なぜか直感的に理解できるのだ。元々勘は鋭いほうではあったが、ここまではなかった。

 

 このZONEに入ってから感覚が異常に研ぎ澄まされている感じがする。これ程感覚が高まったのはあのオーバーンの戦い以来だ。

 これもこのZONEの恩恵なのだろうか。

 そんなことを考えながらフィアーは、階段を駆け上がる。登っている途中に二度目の銃声が響き、傭兵たちの罵声が耳に入った。視界が開けていつのも灰色の空が見える。

 

 わざわざ叫んで場所を教えてくれるとは親切な奴らだ。

 

 階段を駆け上がる前に既にフィアーは、M4ライフルの銃口を罵声が聞こえた場所に向けていた。

 予測通りの場所に敵がいる。しかも上手いことに狙撃に気を取られ、こちらから目を逸らしていた。

 発砲。

 敵がボディアーマーを着ているのはわかっているので頭部を一撃で撃ちぬく。

 そこでようやく挟み撃ちだと気づいた時にはもう彼らにとって手遅れだった。

 階段を上がったフィアーが次々と銃撃の雨を降らして制圧していく。屋上は幾つかの間取りを区切るためかコンクリート製の壁が乱立していた―――或いはビルはまだ未完成でここから更に階数を増やしていく予定だったのかもしれない。

 いずれにしてもそれらの壁とは障害物としては傭兵達にとって頼りになる壁だった。

 

 しかし真後ろからの狙撃者からすれば丸見えだ。今もまた一人の兵士が不用意に動いて狙撃位置についていたセルゲイの視界に入った。彼は笑って引き金を引いた。

 命中。

 これで残るは後一人。フィアーならあっさり片付けるだろう。そうセルゲイは判断した。

 しかし10秒経ち、更に20秒経っても連絡が来ない。後続のミハイルとユーリに警戒を促しておくべきか…?そう思った所で、フィアーから連絡があった。全員に対しての通信である。

 

『こちらフィアー、敵の無力化に成功。一人だけ投降してきた奴がいる。どうする?』

 

『おいおい。早すぎね?俺らの出番無しかよ』

 

 喚くユーリをよそにフィアーの問いかけにミハイルが答えた。

 

『どうするっていわれてもな……身ぐるみ剥がしてDuty辺りに突き出せばいい。拘束だけは怠るな。俺達も今行く。後でこいつらの物資を纏めて頂くぞ』

 

『まるでバンディットだな』

 

『バンディットから物を奪うのはバンディットじゃないのさ。』

 

 小さな笑い声。ミハイルはそのままセルゲイに指示を出した。

 

『セルゲイ、お前はそこから周りを警戒してくれ。誰か近づいたら直ぐに知らせろよ』

 

『了解した。』

 

 更にユーリが余計な事を言ってきた。

 

『お前の分までお宝は漁っといてやるからな』

 

『背中に気をつけとけ、糞ったれ』

 

 セルゲイは通信を切るとドラグノフを抱えて周りを見渡した。

 派手に戦闘を行った為、バンディットかミュータントが近づいてきても不思議ではない。それこそユーリ辺りは、戦利品を漁ってる最中の隙だらけの背中を襲われてもおかしくない。

 自分も戦利品漁りに興味がないわけではなかったが、こればかりは自分がやらなければならないことだ。

 セルゲイはため息をつくと再び警戒態勢に入った。

 

 

 

 ◆    ◆    ◆

 

 

 

 捕らえた捕虜は最初は何も言わなかった。武装解除させた後、手足をパラコードで縛り付けて座らせる。引き剥がしたマスクの下から出てきた顔は西洋系の男の顔だった。年の頃は三十代の半ばと言ったところか。

 屈辱と怒りに歪んだ顔をしているが、それを差し引いてもあまり人相の良くない顔立ちだった。

 さっそくミハイルが尋問を始める。

 

「お前達がこの辺を荒らしまわってた傭兵崩れか。他に仲間はいるのか?ストーカー達から盗んだ物は何処にある?」

 

「ここにはない。別の隠し場所だ。仲間はここにいるので全部だ。……俺を解放してくれれば教えてやる。BARの狸親父にいくら掴まされた? 俺なら奴の倍の報酬を払うぞ」

 

「お前を痛めつけて隠し場所を吐き出させた後、BARのストーカー達かDUTYに突き出すのが一番儲かりそうだな。そういえば4日前にここを通ったストーカーのチームにライフルを撃ちこんできた奴らがいたな。知ってるか?」

 

「……いや知らない」

 

 ミハイルはそこで唐突に彼の腹に蹴りを入れた。うめき声を上げて捕虜の男が体をくの字に曲げる。

 ミハイルは顔色一つ変えずもう一度同じ質問をした。

 

「知ってるか?」

 

「……ああ、俺達だ。アジトに近づいて来たから追い払うつもりで……」

 

「そのストーカー達が俺達だ。その節は鉛弾のご馳走ありがとうよ」

 

 そのやり取りを横で聞いていたフィアーは、ミハイルがこの戦闘に参加しようとした理由をようやく理解した。

 要は彼らも以前ここを通る時、この傭兵達に襲われていたのだ。その恨みを晴らしたかったのだろう。

 彼らから離れて背中の撃たれた箇所の具合を確かめていたフィアーだったが、(幸い痣が出来ただけだった)フィアーもまた捕虜に聞きたい事があるので、彼に質問することにした。

 

「お前はBARのトレーダーの運び屋を襲ったそうだな。奪ったものは何処にある?そしてそいつがトレーダーの運び屋だと分かってて襲ったのか?」 

 

 捕虜は僅かな恐怖と逡巡を顔に貼り付けたまま、答えなかった。

 ZONEでトレーダーを敵に回すのは、彼らの取引相手たるZONE中のストーカー達をも敵に回すのと同義だ。慎重に答えねば命はないと理解しているのだろう。

 中々答える様子がない捕虜に対して、フィアーは口が滑りやすくなるように腰から拳銃を引き抜き、彼の額に押し付けた。ついでにカチリと銃のハンマーを下ろしてやると彼は恐怖に顔を歪めた。

 意地を張っても無意味だと理解したのだろう。彼はしばしの逡巡の後、口を開く。

 

「いや……、俺達はここらを拠点にしてここを通るストーカー共から通行料を頂いてただけだ。ストーカーがどこのどいつの手先かなんて一々確認していない」

 

 ユーリがそれを聞いて肩を竦めた。

 

「傭兵ってやつはこれだから困る。なまじ補給を自前で行ってるからトレーダーを敵に回すことの意味がわかってねえ。お前もうZONEで仕事は出来ねえぞ」

 

 捕虜はその言葉に対して虚勢混じりの引き攣った笑みを浮かべた。

 

「願ったり叶ったりだ。こんな迂闊にションベンしたらバラバラになるような所で小銭を稼ぐなら、外の世界で人間相手に殺し合ってたほうがマシだ」

 

 「だったらここで人間様に殺されても文句はないってことだな?……お前らの奪った獲物はどこだ?大人しく出せば命だけは助けてやる」

 

 毒づく捕虜の頭をフィアーは銃口で軽く小突いた。

 暫く捕虜は悔しげに顔を歪めていたが、やがて戦利品の隠し場所を吐いた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 その隠し場所は戦場となったビルの真後ろにあった。ビルとビルの人が一人入れるかどうかという僅かな隙間。その隙間に建材を覆うための防水ビニールの山が無造作に置かれており、そのビニールを退けると複数のバックパックが姿を表した。バックパックには銃痕と思わしき穴が開いてるものもあり、殺した相手から奪ったそれをそのまま荷物入れとして使っていたらしい。

 

 当初は戦利品漁りに気分をよくしていたミハイルとユーリも、血がこびりついたバックパックを見て顔を顰め、更に中身を漁っていく度に不機嫌さが増していった。

 フィアーから見ても中身の大半がガラクタに思えたが、彼らが不機嫌なのは戦利品がガラクタしか無いからというわけではあるまい。

 

 旧式の散弾銃。年季の入ったAK小銃。錆びかけたライフル。ボロボロのマカロフ拳銃。シールが擦り切れて読めない何が入ってるのかすら不明な缶詰。アーティファクトだったものの破片。バックパック内にぶちまけられた医療キットの中身。ビニールがかかったままの電池。電源が切れたPDA。汚い文字が並ぶ手帳。色あせた家族の写真。何度も読み返された文庫本。薄汚れた変えの下着。

 

 これらの価値などBARのトレーダーの元に持ち込んだところで、まさしく一山いくらと言った程度の価値しかあるまい。傭兵達としても価値のあるものというよりは非常用の物資程度にしか思っていなかっただろう。

 だが薄汚れたそのバックパックとその中身を見たものは、その使い込まれた道具や武器からかつての持ち主を意識せずにはいられない。

 物資として価値がないからこそ、これはストーカーの遺品であり墓標になりうるものなのだ。

 ミハイル達が不機嫌になったのは顔も知らぬとはいえ、同じストーカーの墓標を小銭目当ての傭兵にいいように扱われているからだろう。

 

「駄目だなこれは。大概がガラクタだ。まだ傭兵共の装備を漁ってたほうがマシだ」

 

「貧乏人ばかり襲ってたんだな。胸糞悪いぜ」

 

 ミハイルとユーリがそう言いながら、バックパックの中身を漁るのを中止する。

 フィアーは一緒に連れてきた捕虜の頭を小突いた。

 

「奪われたものにはアーティファクトもあっただろ?それは何処にある?」

 

「わ……わからねえよ。そこになかったら多分ボスが持ってたとしか……」

 

「ボスってのは何処だ」

 

「一階でお前が真っ先に死体にしちまったよ」

 

 

 

 結局ストーカー達の遺品漁りは中止にして―――あれらは後でまたひと目の付かない所に纏めて埋めてやろうという話になった―――傭兵達の死体を漁ることになった。

 やはり哀れな同業者のそれを漁るよりは楽しいようでユーリなどは目を輝かせて、彼らの装備品を検分している。

 

「見ろよミハイル、このM4ライフルを! 光学スコープにレーザーサイト付きだぜ! こりゃ銃本体より高いんじゃねえかな?!」

 

「こいつだけじゃない、部隊の全員の小銃が高価なドットサイトやスコープ付きだ。おまけもPDAも最新型で高く売れそうだ。おっと、このナイフはドイツ製か」

 

「オイオイ、こいつスイス製の時計なんて付けてやがるぜ! ZONEをホワイトカラーの仕事場だと勘違いしてるんじゃねえのか?!」

 

「あんまり独り占めするんじゃないぞ。後でセルゲイの奴にも分前をやらないとな」

 

 フィアーはそんな彼らの様子を呆れて見ていた。

 嬉々として傭兵達の死体から高価な装備品を剥ぎ取る彼らは、何処にお出ししても恥ずかしくない立派なバンディットにしか見えない。

 ふと、そこでその光景を見ていた捕虜が口を噛み締めて、拳を握らせているのに気がついた。

 当然だ。仲間が殺されて、装備を剥ぎ取られる事に対して怒りを覚えない兵士などいない。

 だからといって同情する気にはならなかった。彼らもまた別のストーカー達に対して全く同じことをしてきたからだ。

 故にこれはその罪が巡り巡って回ってきただけにすぎない。

 

「因果応報か」

 

 フィアーはそう口の中で呟いた。その応報はZONEにいる限り、あのストーカー達にも形を変えて襲いかかるだろう。

 そして恐らくは自分にも。

 応報を受けて尚、生き延びる強さを持つものしかZONEでは生きていけないのだ。

 だがいつまでも感傷には浸ってられない。ストーカー達に一声かけてフィアーは捕虜を小突くとボスの所で案内させることにした。

 その際、他にも傭兵の仲間がいるかもしれないから気をつけろ、とセルゲイを含めて全員に警告していく。捕虜はいないと言っていたが信用できるものではないからだ。

 

「お前のボスはどこで寝てる?」

 

「……こっちだ」

 

 感情を抑えた声で一階へと捕虜が降りていく。因みにここは三階だ。外から狙撃銃でこの乱痴気騒ぎを観察しているセルゲイは、さぞウンザリしているだろう。

 二階を過ぎて一階に降りる。その『ボス』はビルの奥でフィアーは真っ先に撃ち殺した兵士の一人だった。

 うつ伏せに倒れている彼をよく観察してみると、他の隊員より一段上の戦闘服等を着込んでおり装備もいい。

 もっとも彼は頭部に銃撃を受けており、休憩中ということもあり間の悪いことにヘルメットは外していた。どんな装備も不意をつかれれば無意味ということか。

 とりあえず、装備を漁っている最中に不意をつかれてもつまらないので、捕虜の足首もパラコートで拘束して寝転ろがすと、改めてフィアーはボスとやらの装備を調べ始める。

 

 彼のバックパックは食料などのものは殆ど入っていなかった。

 代わりにあるのはストーカー達から奪ったと思わしきPDAやメモ帳、USBメモリの山だった。

 このボスはどうやら情報を集めるのが専門分野だったらしい。

 これならば嵩張らないし、BARのトレーダーにも高値で売れるかもしれない。

 そう思いながら彼の持ち物を調べていると死体の隣に奇妙なものを見つけた。

 蓋が開いた空のアーティファクト容器だ。

 

 それ自体は不思議ではないが、まるで慌てて開けて中身を取り出し容器を捨てたようになっているのがどこか不自然だった。

 

 フィアーは自分の他に誰かこいつの死体を漁ったのだろうかと思ったが、自分以外にここを通ったのはユーリとミハイルのみ。

 その二人にしてもさすがにこちらに合流する前に死体を漁るほどの余裕など無いはずだ。

 或いはどこかに隠れていた仲間でもいるのか。そう思って改めて傭兵の死体を見やる。その時―――。

 

 死体となっていたはずの傭兵が動いた。

 

 

 




 ZONE観光案内
 前回のEcologists(エコロジスト)シェルターの博士達の紹介。

 サハロフ博士。
 エコロジストのトレーダー的存在。ハローハローハローという挨拶が特徴の、のんびりしたお爺ちゃんでこのシェルターの癒やし。いろいろと面白い話も聞かせてくれる。
 科学者なせいかZONEで一番高くアーティファクトやミュータントのトロフィーを買い取ってくれる。仕事の報酬も気前が良くて高価なスーツとかを譲ってくれる。見習え他のトレーダー共。
しかし科学者なせいか品揃えや買い取りが偏ってるのが欠点。まあ科学者だしね。

 クルグロフ博士。
 エコロジストの博士でフィールドワークが主な仕事。Shadow of Chernobyl だと彼の持つ貴重なデータを狙った傭兵部隊に襲われて、主人公に助けられたりする。
 いい人なんだが実戦慣れはしてないようで、敵を見つけると拳銃一つでウラー!と叫んで特攻するので守るのが大変。
 因みに死んでしまってもストーリーに支障はない。というかこのゲームは出会ったやつ全員殺して回ってもストーリーに支障はないんですけどね。

 おまけ
 オレンジスーツの護衛の人。彼の他にも多数科学者の護衛が居るのだが、Shadow of Chernobyl でクルグロフ博士を守るために全員死にます。
 生かす余地はありません。イベントで強制的に死亡するという悲惨な人たちです。

 場所紹介。
 Wildterritory
 無人の工場地帯。バンディットから傭兵部隊、ついでにゾンビとかが常に徘徊して、時々レアなミュータントが発生する危険地帯。
 でもここに屯してる傭兵部隊は上等な装備持ってるので、小銭稼ぎにはうってつけの場所です。

 建築途中のビル。
 強盗傭兵団が拠点にしている未完成のビルで、壁と天井がなく吹きさらし。……なんでこの人達こんな見通しがよすぎる場所に陣取っているんだろう。常に風を感じたいのかもしれない。

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