S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler   作:DAY

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Interval 10 Agroprom Research Institute

 戦いが済んだ後の車両基地はまさしく死屍累々と言った有り様だった。

 そこら中に死体が転がっているが、その大半はバンディットのものだ。 

 こちらも死者や負傷者が出たが、全部で5人にも満たない。

 一方バンディットはほぼ全滅。完全な勝利と言ってもいい。

 バンディットの僅かな生き残りは捕虜になり、更に一部は工場内部の貨物コンテナの中に立て籠もっているが、時間の問題だろう。

 

「さっさと出てこいこの糞バンディットが! ミンチにしてやる!」

「生きたままアノーマリーに放り込んでやるぞ! 俺の友達にお前らがしたようにな!」

 

 ストーカー達がコンテナ列車を囲んで罵倒を叩きつけている。

 内部にいるのはバンディットのリーダーのようで、ストーカー達の憎悪もひとしお大きい。

 その罵声に答えるかのように微かにコンテナの扉が開くと、そこからAKの銃口が現れて威嚇射撃を行う。

 ストーカー達はそれを見て蜘蛛の子を散らすように一旦逃げたが、何人かが扉の死角から近づきその扉の隙間に手榴弾をねじ込んだ。

 

 コンテナから悲鳴が聞こえて、その後炸裂音が響く。

 続いてストーカー達がコンテナ内部に突入すると、数十秒には息も絶え絶えなバンディットのリーダーが引きずりだされてきた。

 内部に突入したストーカー達の罵声を聞く限り、一緒にいた部下を盾にして手榴弾の爆発から生き延びたようだ。屑揃いのバンディットのリーダーを務めるだけあって、なかなかいい根性をしている。

 もっとも遮蔽物があったため助かったといっても、密閉された空間で手榴弾が炸裂して無傷なはずもない。

 

 体格のいい体に黒のレザージャケット、長髪にサングラスという出で立ちの彼は普段はさぞ威圧感があるのだろうが、追い詰められて散々に打ちのめされた今となっては惨めな敗北者に過ぎない。

 そしてそんな彼を怒り狂ったストーカー達は文字通りの袋叩きにした。

 銃こそ使わないものの、競い合うようかのように殴り蹴り、今までの怒りと憎悪と鬱憤を叩きつけていく。

 そんな微笑ましい見世物も、ウルフが手を叩きながら止めに入ったことで終わりを告げた。

 

「よし、そこまでだ皆。こいつは最悪の糞野郎だが、まだ使い道がある。この後収容所を襲撃する時、こいつは使える。今はまだ殺すんじゃない」

 

 そう彼が言うとストーカーは渋々と言った様子で解散していく。残されたバンディットのリーダーはウルフの仲間が針金で拘束して、工場の隅に蹴り転がした。

 それを確認したウルフは、木箱に腰を下してチョコバーをかじりながら一連の出来事を見物していたフィアーに顔を向けた。

 

「本当に助かったよ。アンタ一人でカタを付けたようなもんだったな」

 

 その言葉には混じりけのない称賛の念が込められていた。

 フィアーはそれに対して素っ気無い言葉で返す。

 

「礼は言葉ではなく―――」

 

「―――情報で、だったな。流石はプロフェッショナルってわけだ」

 

 ウルフがどこか尊敬の眼差しを向けてくるが、これはただ単に愛想が無いだけである。

 そんな勘違いを一々訂正する気にはなれないので、彼は続きを促した。

 

「俺達が知っている情報は、例の傭兵部隊が次に狙っている獲物の事だ。興味ないか?」

 

 それが本当ならばその獲物とやらを先んじて確保しておけば、ナイトクローラーの方から接触してくることになるだろう。

 フィアーはその情報で手を打つことに決めた。

 それを確認したウルフは情報の詳細を話し始めた。

 

「正確に言うなら俺もその獲物そのものの詳細を知ってるわけじゃない。ただこのゴミ捨て場から西に行った所にAgroprom Research Institute(アグロプロム調査研究所)と呼ばれる地域がある。

 ここ程、ゴミと放射能汚染は酷くないが代わりにミュータントとアノーマリーが多い地域だ。」

 

 そういって彼は自身のPDAを取り出すと、それにそこまでの道のりと簡易な地図を表示させ、説明を始める。

 その土地にあるものは北に存在する大規模な廃工場群と、南にある研究所だった。その他には北西に小さな沼があるだけだが、土地全体に渡って何らかの地下通路が網目の様に広がっているらしい。

 

「ここには名前通り、そこに元々建っていた学校だかなんだかを利用したZONEの研究所があった。今は放棄されて無人だが、拠点には好都合ってことでいろんな勢力が根城にしてそこに出たり入ってたりしていたんだ。そして最近は軍の部隊がその辺りで何かを見つけたようで陣取っている。そこに何度かナイトクローラーの連中が襲撃を仕掛けたらしい」

 

「軍はナイトクローラーを退けたのか?」

 

「その時は、な。ドンパチを直接見たストーカーによればナイトクローラーは少数で少し仕掛けて、軍の戦力を引きずりだした後、あっさり退いたと言っていた。まあどう考えても威力偵察だな。次に仕掛ける時は陥落させるだろうよ」

 

「軍に公然と仕掛けるからにはナイトクローラーも結構な規模の部隊のはずだ。奴らがどれぐらいいるかわかるか?俺の知っている限りじゃ最低でも中隊以上の人員がいた」

 

 前回の戦闘で確認したナイトクローラーの実働部隊は、最低でも100人は超えていた。

 最もその大半を彼自身が皆殺しにしたので、そのままの規模ということはないだろうが。

 

「軍の戦力は精々二個小隊かそこらって所だな。後は装甲車を2台ほど持ち込んでいる。ナイトクローラーに関しては俺達もわからん。ここのところ奴らをZONEのいろんな所で見かけるが正確な人数を把握してる奴はいない。見つかったら問答無用で仕掛けてくるから、息を潜めてやり過ごすしかないんだ。だが……そうだな、確認された奴らだけでも100人以上はいるはずだ。30人もいればちょっとした集団を名乗れるこのZONEじゃ一大勢力と言ってもいい」

 

 フィアーは暫し考え込んだ。ナイトクローラーに100名以上の残存兵力が残っているなら、軍の二個小隊等、物の数ではあるまい。軍が装甲車を装備している事を差し引いてもだ。

 放置しておけば、その研究所は間違いなくナイトクローラーの手に落ちる。

 軍にもその獲物とやらにも興味は無いが、奴らが来るというのなら行く価値はある。

 

「奴らの獲物がなんなのかはわかるか?」

 

 そう聞くとウルフはそんなものは俺が知りたいと言わんばかりに首を横に振った。

 

「さあな、アーティファクトか、それとも研究資料か……。軍の連中がいなければ俺達がそれを頂きに行きたかったぐらいだ。ZONEじゃよくわからないが重要そうな獲物はそこら中に転がっている。うまく手に入れても大半は使い方がわからなかったり、二束三文でトレーダー達に買い叩かれるのがオチなんだけどな……こんなところでいいか?」

 

「ああ、十分だ」

 

 情報を聞き終え、次の目的地を定めたフィアーは座っていた木箱から腰を上げた。

 そして木箱の上に戦闘が終わった後、回収した銃器とその弾薬を広げ、残弾数の確認と銃の状態の確認と整備を始める。

 

 バンディットを殺して奪ったAKはAK-74アサルトライフルのカービンモデルであるAK-74Uだ。 AKライフルは頑丈さが取り柄の銃だが、こういった環境に置いてはその特性は特に頼りになるだろう。

 おまけに小口径高速弾を使用するため、威力だけなら元々持ってきたアサルトライフルと大差ないレベルだ。

 ただ、銃身が短いため遠距離での射撃精度には難が残るのが欠点だ。

 残弾はそこら中の死体とバンディットの備蓄庫―――結構な量の物資があったようだが、残念な事に手榴弾が飛び込んで大半が使い物にならなくなっていた―――に残っていた弾薬をかき集めて180発程のAK-74用の弾薬と、5つつばかりのAK用マガジンを確保できた。

 

 次に戦闘終了後に戦場を漁って手に入れたのは、MAC-10短機関銃だ。イングラムM10の名で知られる一昔前の短機関銃で、マシンピストルと呼ばれるほど小型で連射性能が高い。

 AKに負けず劣らずシンプルな作りで作動不良を起こしにくいが、同時に高い連射性能とそのサイズでこれもまたフルオートの制御が難しい。

 その特性によって至近距離ではちょっとしたショットガン代わりとしても使うことができる。

 但し、予備弾薬とマガジンが三つしか見つからなかったので、余りアテには出来ない。

 装備するのではなく、予備武器としてバックパックの中に入れておいた。

 

 第二次大戦以前に使用されていたボルトアクションライフル、モシンナガンも発見した。バンディットの見張りが使っていたものだ。

 自動小銃ではない文字通りの小銃で、一発撃つ度にボルトを引かねばならない旧式のライフルだが、大口径であるため威力は折り紙付きだ。

 しかし弾薬が20発弱しか見つからなかった。暫く考えた後、これはバックパックの外側に括り付ける。

 フィアーの戦闘スタイルとは合わない銃だが、遠距離への攻撃方法が現状殆ど無い状態では、このライフルの射程は魅力的である。重くなったら捨てればいいだけだ。

 

 どれも旧式の火器でナイトクローラーの連中を相手にするには少々心許ないが、武器は彼らを殺害して調達するという方法もあるので問題あるまい。

 黙々とAKを分解して、手入れをするフィアーにウルフが物欲しげに語りかける。

 

「俺達はこの後、南にあるもう一つのバンディットの拠点に攻撃を仕掛ける。そこはあの糞共に捕まって、鉱山奴隷みたいにアノーマリー探しにこき使われてるストーカー達がいるから彼らを助けるつもりだ。もしよかったら──」

 

「報酬を用意しておけば考えておこう」

 

 素っ気なく返すとウルフは肩を竦めた。

 

「やれやれ。情報屋に頼んで新しいネタでも仕入れておくか」

 

「そうしてくれ。できるだけ新鮮なやつをな」

 

「あんたみたいな殺し屋に追われるとは、ナイトクローラーの連中が初めて哀れに思えてきたよ。奴らは一体何をやらかしたんだ?」

 

「魔女の鍋の蓋を開けたのさ。挙句に鍋の蓋を持って逃げた。取り戻して蓋を閉めなければ、第二第三のZONEが生まれることになるかもしれん」

 

 淡々と言葉を返すフィアーに真実を感じ取ったのだろう。ウルフは小さく身震いすると十字を切った。

 

「あんたの狩りが成功することを祈っておくぜ。ZONEは確かに俺達の飯の種だが、二つも三つもあったんじゃ手に負えないからな」

 

「一つでも、だろ?」

 

 その返答に初めてフィアーのユーモアを感じ取ったのか、ウルフは笑った。

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 車両基地を出発して、1時間程が過ぎた頃、フィアーはAgroprom研究所に辿り着いた。

 着いたと言ってもその研究所そのものに到着したわけではなく、そう呼ばれる地域に足を踏み入れたというだけの話だ。ここから更に一時間か二時間ほど歩いて、ようやく目当ての研究所にたどり着く予定だ。

 ゴミ捨て場とは違う地域に入ったというのは、風景がゴミの山からハイキングにうってつけの自然豊かな大地へと変わり、ゴミと廃液の刺激臭が無くなった事で実感できる。

 車両基地からここまでの道中でミュータントは見なかったものの、車両基地から続く線路上にあったトンネルに、拠点を追い出されて途方に暮れているバンディットの1グループを発見した。

 丁度よかったので、彼らにボルトアクションライフルとAK74Uの試射のターゲットになってもらうことにする。

 

 そうやってシューテンググラスの射撃システムとの『調整』を済ませたモシンナガンライフルを再びバックパックに括り付け、AKカービンを携えたフィアーがAgroprom研究所地域に踏み込み、自身の位置をGPSで確認していた時、ある音がフィアーの聴覚に飛び込んできた。

 断続的に大気を叩きつけるかのような旋回音。ヘリのローターの音だった。

 

 それも戦闘ヘリの。

 

 反射的に近くの木立の影に身を潜める。

 突如現れ、フィアーの頭上を低空で飛び越えていったウクライナ軍の戦闘ヘリ、ハインドDは木の影で身を固くするフィアーの事には気付きもせず、ある方角に向かって一直線に飛び去っていく。

 その方角こそまさしくフィアーが目指していた『研究所』がある方角だった。

 ヘリが小粒ほどに小さく見える程に距離を開けた後、突然その軌道を変える。

 ここからではわかりにくいが、明らかに対地攻撃を目的とした戦闘機動へと移っていた。

 ハインドDは地面を舐めるような超低空飛行で、地上に向かって機首の重機関銃とロケット弾を撃ちこんでいたが、突如として上空へ上昇を始める。その動きは対空攻撃から退避しようとしているように見えた。

 いや、実際にそうだったのだろう。

 

 なぜなら次の瞬間、地上から凄まじい火線が上空へと向かって放たれ、ハインドDは回避行動も虚しくテイルローターを吹き飛ばされてしまったのだから。

 テイルローターを吹き飛ばされて、飛行出来るヘリは存在しない。

 メインローターの生み出す揚力を制御できなくなった戦闘ヘリは、ハエの様な蛇行した軌跡を描いた後、一直線に落下して地面に激突し爆発炎上した。

 一拍置いてヘリの墜落音がここまで響いてくる。

 フィアーは燃え上がるヘリの煙をしばらく見つめた後、手元のPDAに表示されている地図を見た。

 ヘリの墜落地点は彼の目指す研究所だった。

 

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 『研究所』は戦争でもあったかのような惨状となっていた。

 ちょっとした乗用車の突進なら防ぐ程度には頑丈だったはずのゲートは粉砕され、施設の一部は炎上し、至る所に軍の兵士達の屍が散らばっており、彼らの切り札だったはずの装甲車両も撃破されて未だに煙を吐いている。

 恐らくはあのハインドDもこの軍の兵士達の援軍として駆けつけたものの、力及ばず撃墜されたということなのだろう。

 それにしても装甲車や戦闘ヘリをこうも容易く破壊するとは、ナイトクローラーの連中は余程強力な火器を持ち込んだようだ。

 

 そしてそれは兵器だけでなく、兵士にも向けられたらしい。

 

 榴弾の直撃を受け四散した者。機銃弾の掃射を受け挽き肉にされたもの。高圧電流で丸焼きにされたもの。熱線で胴体を両断された者。

 徹底的な破壊を行われ、細切れになった兵士達の死体が、ナイトクローラーの火力を無言で物語っていた。

 

 細かく戦場を観察して気がついたのだが、ナイトクローラーの兵士の死体は一切無い。

 流石に戦闘ヘリの掃射を受けて被害無しとは考えにくい。

 それほどまでに圧倒出来るほどに戦力に差があったか、それとも戦闘終了後に彼らが自分たちの情報を残すまいと仲間の死体を処分したのか……。

 

 彼らを知るフィアーとしては後者の可能性が高いように思えた。ナイトクローラーは練度の高い戦闘部隊ではあるが、絶対無敵の存在ではないのだ。

 現場の検索を始めるとますますその可能性が強まった。

 この戦場跡にあるのは軍の兵士とその所持品のみ。

 微かな痕跡として軍が制式採用していたAK-74以外の弾薬の空薬莢が散らばっていたが、その程度だ。

 その弾薬にしても、アサルトライフルの弾薬としては少し珍しいがさほど特異性はない。

 強いて言うなら軍の兵士達の異常な殺され方が手がかりといえば手がかりだが、ZONEではそれほど特異な死に様でないというのが恐ろしい。

 戦闘の痕跡から探る事を諦めたフィアーは、ナイトクローラーの獲物の手掛りを求め建物へと足を向けた。

 

 『研究所』の中枢を担っていたと思わしきその研究棟は、まるで学校のような作りだった。

 大人数でも利用できる大きめの階段。教室を思わせるシンプルだが大きめの間取りの部屋。一直線の廊下。

 但し部屋の中には学生用の机ではなく、用途不明の作業機械、事務用の机やロッカー、研究用機材で溢れていた。

 そして外と同じくここもまた兵士達の死体が複数あった。

 流石に屋内戦でしかも奪取するべき目標があるためか、ナイトクローラーも重火器の使用は控えていたようで、彼らは外の兵士達の死体に比べると銃撃で撃ち殺されるという幾分常識的な死に方をしていた。

 もっともそんな事は死んだ兵士達にすれば何の慰めにもならないだろうが。

 

 3階建のその建物の部屋を一つ一つクリアリングしていくが、ナイトクローラー達も建物内部は徹底的に調べたようで、大半の部屋は荒らされていた。

 この調子では手掛りの一つも残ってはいないかもしれない。

 ネガティブな思考をしながら建物内を探索していくと屋上に出た。

 周りにこれ以上の高さの建築物が無いため、随分と視界が良好だ。敷地内どころか敷地の外まで見通せる。

 

 ゴミ捨て場のような汚物の山と腐臭がないこの地域は、見た目だけなら行楽に最適な自然豊かな土地に見える。だが実際にこんな所でピクニックをするような奴は唯の自殺志願者だ。

 屋上から何か発見出来ないかと敷地内を見下ろすと、フィアーはぎょっとした。

 いつの間にか血の匂いに引き寄せらたようで、無数のミュータント達がやって来て兵士の死体を貪っていたのだ。

 

 ミュータントの大半はあのメクラ犬と肉塊のような豚だったが、大型の猪もいた。

 種類が違うミュータントは互いに互いを警戒しているようだが、目の前に餌があるせいだろう。どれもそれなりに行儀よく餌を食べている。

 このまま降りて出て行けばミュータント達の総攻撃を受けることになるかもしれない。

 そう考えたフィアーはボルトアクションライフルで屋上からミュータントを狙撃することにした。

 ここならば進路も限られているので、ミュータントの反撃があった場合も階段や廊下をキルゾーンにして立て篭もることも可能だ。しかも屋上の端には地上へ降りるための小さな梯子もあった。非常用の出口まで確保されているというのは籠城戦にはもってこいの場所である。

 ライフルの調整は幸いな事にここに来る前に済ませておいた。このライフルにスコープは付いていないが、研究所の敷地内の距離なら裸眼でも問題ない。

 

 ボルトアクションライフルをバックパックから外すと、手際よくボルトを前後させ、薬室に弾薬を送り込み、目標を狙う。

 最初の獲物はゲート付近で死んだ兵士の胴体から四肢をなんとか食いちぎろうとしているメクラ犬だった。

 流石に大口径のライフル弾の威力は中々のもので、銃声と共にその野犬は一撃で即死した。

 

 突如攻撃をうけて、混乱した野犬達がその場から離れる。

 銃声を気にすること無く死体を喰らっているミュータントもいないでもなかったが、そういう図太い、或いは危機感のないミュータントはフィアーの狙撃を喰らって死んでいく。

 

 嬉しい事に豚のミュータントは知能が低いようで、銃撃を受けてパニックになると、何を勘違いしたのか興奮して野犬のミュータントへと襲いかかった。

 たちまち両者の中で乱戦が発生、その混乱を助長するかのようにフィアーが狙撃を続けたため、ライフルの弾が尽きる頃には大半のミュータントが倒れるか、この場から逃げ去った。

 

 これで状況は凌げたが、一つ気になることができた。

 屋上から敷地を見下ろしてわかったのだが、どうやらこの施設には下水道への入り口があるようだ。

 入り口と言っても開きっぱなしの大きめのマンホールに過ぎないのだが、そのマンホールの周りに妙に兵士の死体が多く散らばっていたのがフィアーの気を引いた。

 そう言えばこの土地の地下には通路が蜘蛛の巣のように張り巡らされている、とウルフが言っていた。

 どうせ次の情報のアテも無し、フィアーは地下道を探索することを決めると、弾切れになったボルトアクションライフルをその場に捨て置いて、屋上の出入口に向かっていった。

 

 

◆   ◆

 

 

 例のマンホールは近づいて見るとかなりの大きさがあることがわかった。

 唯の下水道の入り口にしては巨大な土管が、地面から50センチ程垂直に突き出している。

 丁度施設の倉庫と茂みに隠れる形になり、地上を探索しただけではわからなかったのだ。

 マンホールの付近には数人の兵士の死体と複数の空薬莢が散らばっており、かなりの激戦が繰り広げられた事が伺える。

 先の研究棟ならともかく、このような場所が激戦区になるとは考えにくい。

 軍の兵士達がここに逃げ込もうとして結果的にそうなったか、或いはナイトクローラーの目標が最初からここで軍がそれを阻止しようとしたのか。

 

 どちらにせよ、降りてみなければわかるまい。

 

 地下に降りる前にフィアーは武装を整える事にした。

 そこら中に散らばっている兵士の死体から、弾薬の詰まったAKマガジンを幾つか拝借し、その内の三つ程をベルトやポケットにねじ込む。

 フルサイズのAK-74もあったため現在持っているカービンモデルのAK-74と交換しようかと迷ったが、地下のような狭い空間ではカービンライフルのほうが扱いやすいだろう、と考えてやめておいた。

 地下で取り回しを良くするためにビニールテープを巻きつけて、小型のフラッシュライトをAKの銃身に装着する。

 ヘルメットにもフラッシュライトは装備されているが、敵が居るかもしれない状況で頭部から光を放つと言うのは狙撃してくれと言っているようなものだ。

 それならば両手で銃を構えることで、手が常にフラッシュライトのスイッチに届く事になるようにライフル自体に取り付けた方がいい。

 ついでにマガジンも二つほどビニールテープで連結し、弾倉交換を容易にできるようにした。

 

 更に腰に下げているソードオフショットガンにも一工夫をする。

 これにはシドから譲ってもらった特製の榴弾を装填し、敵に強化外骨格が居た時の切り札とする。

 予備弾薬としてスラッグ弾と榴弾を二発づつ、計4発をホルスターの外側にビニールテープを使って貼り付けた。

 テープの内側には布切れをつけて、ビニールテープがショットシェルにへばり付かない様になっているので咄嗟の時、素早くショットシェルを引き抜ける。長時間保持するには不安な仕掛けだが、地下を捜索する間だけなら十分だ。

 

 そして最後にバックパックから、ストーカー達を助けた時に譲ってもらった旧式の破片手榴弾を取り出し、これもビニールテープで胸とベルトに一つづつ貼り付ける。

 これで現状で出来る限りの武装は整った。

 随分と過剰に見えるがこの研究所に散らばる兵士達の末路を見れば、これでも足りない。

 これ以上の装備を望むなら、かつての戦いのように倒した敵から奪い取るしかないだろう。

 もしこの先にナイトクローラーが待ち受けているなら今までとは比べ物にならない激しい戦いが待っているはずだ。

 

 ―――大丈夫だ。俺なら出来る。オーバーンでの戦いを思い出せ。

 

 自身の裡から湧き出る恐怖(FEAR)を緊張感と警戒心として抑制し、フィアーは墓穴を思わせる地の底へと降りていった。

 

 




 武器は手に入れた先から使い捨てていくのがF.E.A.R.スタイル。 
 このSSのZONEはFEARMODも入れてるので、これから先いろんな武器が出てきます。
 相手を骨にする火星人の銃とか。
 今回フィアーが手に入れた銃も全て武器MODから。
 特にモシンナガンは大抵のMODに出てくる大人気の銃です。

 それにしてもこの主人公1人だとホント何も喋らないな……。
 FPSの主人公は皆そうなんですけどね。

 そしてZONE観光案内。
 Agroprom Research Institute(アグロプロム研究所)。自然豊かなマップ。
 自然が多いが、研究所と廃工場、地下道といった観光名所もたくさん。
 特産品はミュータント。たまに大物が湧く。
 色んな勢力が来るマップで軍人やバンディットがやって来て、ストーカー達とよくドンパチしていたりする。

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