大暴れの転生者   作:月光花

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今回でこのお話は終了です。

にしても、息抜きの方が他の小説より文字数多いって、どういうことなのかww

さて、今回も所々でオリ設定が満載です。

では、どうぞ。


特技? 広域破壊です  後編(リリカルなのは)

  Side Out

 

 「何なの……何なのよアレは!!」

 

ゆりかごの最奥部にクアットロのヒステリックな叫び声が木霊した。

 

その様子には微塵の余裕も無く、血走った瞳が捉えた先には損害を知らせる無数のアラートモニターが真っ赤な光を発している。

 

だが、その中でも一番大きなモニターには地上の戦闘が映し出されており、そこには前と同じく瓦礫で形作られた巨人が映っている。

 

いかに強力であろうと地上にいれば脅威にはならない。そう思っていたが、その考えはほんの数分で崩れ去る事になった。

 

瞬く間に地上のガジェット群を殲滅させたまでは予想出来た。だが、その後の行動はクアットロの予想を容易に上回った。

 

なんと、巨大な岩塊を超高速でぶん投げるという原始的な攻撃方法で数十キロ離れた空中のゆりかごを攻撃したのだ。

 

だが、原始的なだけあって巨人の攻撃はゆりかごに文字通りの大打撃を与えた。

 

射出された岩塊はゆりかごの左舷を直撃、一瞬で膨大な損傷を負わされた。飛んでいるだけならまだ平気だが、上昇速度は致命的に低下した。

 

しかも、着弾部から発生した大規模な火災が一向に止まらない。

 

これ以上の損害を避けるため、地上の巨人には既に手を打った。だが、こちらの打開策はそう簡単には見つけられない。

 

「まだ……まだよ! 私は、こんな所で終わらない! 終わって、堪るもんですか……!」

 

歯を噛み締めながら、クアットロは両手をキーボードに走らせる。

 

諦めるという選択肢は彼女に存在しない。

 

生みの親の因子を一番強く受け継いだが故に、すでにその親であるスカリエッティさえ見捨てたのだ。ここで止まれば、クアットロには本当に何も残らない。

 

たった一つ、されで強大なイレギュラーによって、戦いは終局へと近付く。

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

 一方その頃、地上では管理局の歴史上でも初の激戦が繰り広げられていた。

 

瓦礫の巨人と白天王の戦いは、魔導師や騎士の戦闘などとは比べ物にならない程の破壊を周囲に撒き散らしていた。

 

どちらか片方の攻撃1つで大地が揺れ、生じた衝撃波が廃棄都市の大地を砕く。

 

裏拳のように振り抜かれた白天王の右腕が巨人の胴体をぶん殴り、お返しとして放たれた巨人の左ストレートが白天王の顔面を捉えた。

 

互いに数歩後退するが、即座に自らの敵へと前進する。

 

巨大な爪を生やした白天王の右腕が突き出され、巨人は左腕を盾にして阻む。爪が突き刺さった部分から巨人の腕が崩れるが、それよりも早く巨人の右腕が動く。

 

右手に握られたメケストが右薙ぎに振り抜かれ、白天王の横っ腹を狙う。直撃の寸前に白天王が左腕を割り込ませ、硬質な骨格が直撃を防ぐ。

 

だが、膨大な質量と遠心力を持つメケストの破壊力を殺しきれず、防御した白天王は左腕の骨格に無数の亀裂が走らせ、後方へぶっ飛ばされた。

 

倒れた敵に追撃を仕掛けようと巨人はメケストを高く振り上げる。

 

だが、それを阻むように左右と後方から巨大な雷撃が飛来し、巨人の体が爆発と共に削られ、体勢が崩れる。

 

攻撃が来た方向を向くと、そこには体から放電現象を発し、二本の角を生やした四本足の巨大な昆虫、地雷王が合計4体いた。

 

巨人は標的を変更し、自分を取り囲む形で陣を組む地雷王を先に潰そうと歩を進める。

 

しかし、4体の地雷王は敵を近付けまいと即座に魔力を使用して振動波を生成、巨人を標的とした局地的な大地震を発生させた。

 

最低でもM7クラスに届く大振動が狭い範囲内で絶えず巨人を襲い、足元の地盤が瞬く間に轟音を立てて崩壊し始めた。

 

巨人の移動速度では逃れること間に合わず、巨人の両足は崩れ去った地面に膝元近くまで深く突き刺さった。

 

「ああ……これは少々……っ!」

 

『ふむ、マズイかの』

 

『カデシュの心室』内部で襲い掛かる震動に耐えながら、少年は周囲を見回して一刻も早く打開策を探す。でなければ、震動で揺さぶられている脳がどうにかなりそうだ。

 

まだ沈んでいない上半身を操り、巨人は右手に持つメケストを地面に振り下ろす。

 

「セトの車輪」

 

先程よりも少量だが、舞い上がった瓦礫にメケストの先端から飛び出した魔力糸がスパークを撒き散らしながら付着する。

 

後はメケストの遠心力と共に周囲へばら撒かれるのだが、巨人はメケストを自分の真上に目掛けて振り上げ、瓦礫を天高く射出した。

 

ほぼ垂直に打ち上げられた瓦礫は僅かな放物線を描いて落下し、巨人を中心にした約半径15メートルの範囲内に無差別爆撃となって降り注いだ。

 

その爆撃は地雷王4体にも何発か命中するが、無差別な攻撃故に巨人にも直撃した。いや、体が大きいせいで、むしろ巨人の方がダメージは大きい。

 

だが、そのおかげで地雷王が発生させていた地震は停止。巨人は即座に地面に刺さった両足を引っこ抜いて歩を進め、地雷王を『ラーの礫』の正確な射程内に捉える。

 

仕留める、と心の中で狙いを定め、メケストを振り上げる。直撃すれば、確実に地雷王の頭を潰して命を絶つことが出来るだろう。

 

だが、それを……

 

 

「ダメェェェェ!!!!!」

 

 

少女の叫び声と共に放たれた極光が拒んだ。

 

巨人は直感に従って右手に持つメケストを振り向き様に背後に振るう。

 

だが、振るったメケストは先端に数秒の手応えを感じさせた次の瞬間、消滅した。

 

「ぐっ……!」

 

メケストの先端部が消滅すると共に盛大な衝撃が襲い掛かり、巨人の右半身が削れ、『カデシュの心室』内で少年は苦痛の声を上げた。

 

バランスを崩した巨人は体勢を崩し、地面に膝を付くように倒れた。

 

「ああ、一体……何が……っ!」

 

数回頭を振って意識を整え、視線を右腕から後ろへと移していく。

 

右手に握られたメケストは持ち手近くまで消滅しており、右半身全体が強力な熱によって溶けている。信じ難いが、どうやら砲撃の熱でやられたらしい。

 

そして、背後にいたのは一匹の巨大な黒竜だった。

 

その身から発せられる威圧感は先程戦っていた白天王とほぼ同等。たった今身をもって体感した砲撃の威力はもちろん、力も劣ってはいないだろう。

 

この竜こそ、キャロ・ル・ルシエの最強召喚獣、ボルテールだ。

 

「ああ、これは驚いた。まさか『真竜』クラスの竜にお目にかかれるとは」

 

『ふむ、しかも先程の白い召喚獣と違い、術者に制御されておる』

 

目の前に立つ存在を分析しながら立ち上がった巨人は周囲から瓦礫を引き寄せ、凄まじい速度でボロボロになった体を補強、または再構築する。

 

続いて持ち手部分だけとなったメケストを作り直し、巨人はボルテールと睨み合う。

 

そのまま激突するかと思われたが、巨人の前に一匹の白い竜、フリード・リヒが降り立った。

 

ボルテールに比べれば小さいが、それでも大人が2、3人は乗れる大きさの立派な竜だ。その上には子供が3人乗っており、桃色髪の少女、キャロが巨人に両手を広げている。

 

他には赤髪の少年、エリオがフリードの手綱を握っており、少年の腕の中では紫髪の少女、白天王と地雷王の召喚主であるルーテシアが気絶している。

 

「待ってください! 私達は敵じゃありません! あの召喚獣、地雷王や白天王も本当は操られてるだけなんです! だから、あの子達を殺さないで!」

 

キャロの必死な叫びを聞き、少年は漠然ながら状況を理解した。

 

つまり、あの地雷王や白天王はただ操られているだけで、目の前の少女とその召喚獣はそれを止めたいと言っているわけだ。

 

先程の砲撃も、ただ召喚獣を殺させない為に放ったのだろう。もし殺す気があるなら、巨人の上半身を丸ごと消し飛ばせたはずだ。

 

正直言って少年にとっては召喚獣が操られていようが関係無い。何せ、戦いを仕掛けた元々の理由が私怨だ。敵の事情など、どうでも良かった。

 

だが、すでに異常な強さを誇る少年にも、流石に『真竜』クラスの竜と、それと同クラスの召喚獣を同時に相手に出来る余裕は無い。

 

どうしたものかと無言で思考を働かせるが、事態は少年に熟考の時間を与えなかった。

 

巨人の前に立つボルテールが横に突然突き飛ばされ、その後ろから先程メケストによって吹き飛ばされた白天王が飛び出してきたのだ。

 

「白天王……!」

 

キャロが泣くような声を上げるが、白天王は血の涙を流すだけで止まらない。

 

「っ……!」

 

少年の意志に従い、弾かれたように動き出した巨人は左手だけで白天王を押し留める。

 

「ああ、早く離れて……!」

 

少年の言葉に反応し、フリードはその場から急速離脱。

 

それを確認し、巨人は右肩のショルダータックルを白天王の胴体に叩き込んで大きく後退させる。だが、巨人は何かを躊躇うように動きを止め、追撃をしなかった。

 

白天王はそれに遠慮せず、両手を広げて巨人に襲い掛かる。

 

巨人は右手のメケストの構築を解除して収納、白天王の両腕を掴んで押し合い状態に持ち込み、その動きを完全に止めた。

 

「ああ、私も甘い……っ!」

 

『ふむ、私怨とて見方を変えれば自己満足の一種よ。己のしたいようにするのが、最良の決断であろう』

 

冷酷になれない己を恥じるような少年の呟きに、ベヘモットが静かな助言を与える。

 

その冷静な助言は少年の心に鎮静剤のような効果をもたらすが、このまま白天王と押し相撲を続けるつもり無い。どうにかしてこの状況を覆す必要がある。

 

力比べに集中しながらも思考を働かせる中、起き上がったボルテールが白天王を引き剥がして遠くへ投げ飛ばす。一先ず少年を味方と認識したのか、攻撃してくる気配は無い。

 

これで戦力的には優位になったと思われたが、その安堵を白天王の咆哮が打ち消した。

 

腹部に輝く水晶体に紫色の光が集束し、照準が定められる。

 

それに対し、ボルテールも自分の周囲に魔力を集束し、炎熱砲の照準を合わせる。

 

「ああ、これは……」

 

『ふむ、間違いなくマズイ。急ぎ走れ』

 

巨人は身を翻し、白天王とは正反対の方向に走る。

 

その方向にいたのは、先程から戦闘を見守っていたギンガ達がいた。このままでは、ボルテールと白天王の砲撃衝突の余波に巻き込まれる。

 

もう少し時間があれば周囲の瓦礫を集めて巨大な壁を作れたのだが、時間が無いと判断した少年は白天王とボルテールに背を向ける形でギンガ達を守る。

 

何故そんなことをするかと言われれば、先程のベヘモットの言葉を借りて、自分がしたいから、としか返せそうにない。

 

数秒後、轟音と共に放たれた2つの砲撃が激突し、廃都市全体に爆音と衝撃波が鳴り響いた。しかも最悪なことに、2つの砲撃が衝突点を中心にあらゆる方向へ拡散し始めた。

 

拡散した砲撃は無差別に廃都市の大地を破壊し、ギンガ達を庇う巨人の体を衝撃波とともに凄まじい勢いで削り取っていく。

 

それを見た他の人間達は何とか砲撃を止めようと考えるが、キャロはボルテールに砲撃をやめさせるわけにはいかず、ギンガ達もすぐに戦域から離脱出来る機動力が無いので下手に動けない。

 

そんな中、拡散した砲撃は確実に巨人の体を破壊し続け、ついには左半身を消滅させて『カデシュの心室』内部に到達した。

 

「ぐっ……!」

 

『カデシュの心室』内にまで及んだ爆発の熱に体を焼かるが、少年は歯を食いしばって痛みを堪える。下手に動けば損傷が増えて巨人の構築が崩れ、ギンガ達を崩れた瓦礫で押し潰してしまう。

 

その状態が十数秒続き、ようやくボルテールと白天王の砲撃の勢いが衰え始めた。

 

そして、ぶつかり合っていた砲撃は拡散していた衝突点で大爆発を起こして消滅。ボルテールと白天王は互いに反動で吹き飛び、地面に倒れた。

 

一方、ギンガ達を守っていた巨人は胴体の左半分が完全に消滅しており、『カデシュの心室』を構築する物質構成の魔力スフィアもボロボロだった。

 

もちろん、中にいる少年も軽くない怪我をしていた。左半身のほぼ全体に火傷を負い、背中と胴体の無数の岩の破片が突き刺さっているせいで血が流れ出している。

 

そんな誰もがボロボロの状態で倒れる中、瓦礫を押し退けてゆっくりと立ち上がる巨大な影があった。その正体は、白天王だった。

 

確かに受けたダメージは巨人より少ないだろうが、ボルテールと同等の大ダメージを受けたことは間違いない。それでも立ち上がれているのは、制御不能の暴走状態だからだろう。

 

白天王は周囲に視線を巡らせ、今動くことが出来ない巨人へと狙いを定めて歩き出した。

 

「逃げろ! 坊主!」

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ぐっ!」

 

ゲンヤの叫び声が聞こえるが、少年は体中から襲い掛かる激痛のせいで体が思うように動かなかった。マルチタスクを駆使して巨人の体を再構築するが、間に合わない。

 

そして、白天王は巨人の真後ろに立ち、右腕の巨大な爪を大きく振り上げる。

 

「逃げてぇぇぇ!!!」

 

「ダメ……ダメだよ白天王!……そんなこと、ルーちゃんは望んでない!!」

 

巨人を見上げるギンガに続いてキャロが叫ぶが、白天王は振り上げた腕を降ろさない。

 

地面に倒れるボルテールの助けは間に合わず、巨人は未だに立ち上がることも出来ない。

 

その場の全員がここで終わりと思った。

 

だがその時、今まさに命を絶たれようとしている少年の口元が動いた。

 

 

「ああ、良かった。どうにか、上手くいきました」

 

 

少年の口元には、笑みがあった。悪戯を成功させた子供のような、年相応の笑みだった。

 

巨人が残った右腕を持ち上げ、足元の地面に思いっきり突き刺す。

 

『『カデシュの血印』、展開』

 

ベヘモットの声の後、偽装を行う時に見たミットチルダ式ともベルカ式とも異なる独特の形状の魔法陣が巨人の右腕を中心に足元に展開された。

 

ただ、その大きさは偽装の時とは比べ物にならないほど巨大で、軽く見ただけでも半径10メートルに届く程の魔法陣だった。

 

すると、魔法陣の範囲内にいた白天王が石化したかのようにピタリと固まり、その動きを完全に止めた。

 

その異変に周囲が戸惑いを隠せなかったが、少年は安堵の息を深く吐き出し、全身の再構築が完了した巨人を立ち上がらせる。

 

「ああ、申し訳ありませんが、召喚獣の術者を魔法陣の中へ」

 

その言葉は空を飛んでいるエリオとキャロに向けたものだった。2人は少し迷いを見せたが、やがてゆっくりと白天王の近くに降下した。

 

この異変を可能にしたのは、足元に展開された巨大な『カデシュの血印』である。

 

『カデシュの血印』の別称は魔力統制機関。つまり、魔力の統率と制御を担当する機関だ。

 

少年は偽装を行う際、この『カデシュの血印』を支点に『カデシュ血脈』の伸ばし、繋いだ物体をコアである『カデシュの心室』に接続して巨人を制御する。

 

つまり、少年は『カデシュの血印』を刻まれた物体、基本的に無機物などを強力な統制力によって自在に制御出来るのだ。

 

ここで少し話しが逸れるが、自在法から魔導師の力へと変貌した『カデシュの血印』には、もう1つ特徴がある。

 

それは、魔法陣の範囲内であれば内部の魔力運用を思うがままに出来る、というものだ。

 

具体的に何が出来かで言えば、魔法陣内部の魔力を集束魔法を上回る速度で一点に圧縮したり、敵が使う魔法の術式に干渉して魔力をカット、魔法の発動を無効化することも可能だ。

 

つまり魔法陣の内部なら、基本的な魔力運用においてこの少年に出来ないことは無い。

 

とは言え、そんなデタラメな真似が出来るのは魔法陣の内部のみ。しかも、巨大な魔法陣を展開させるには位置変更無しでも準備に相応の時間がいる。実戦で何度も容易に使えるものではない。

 

だが、敵である白天王は現在『カデシュの血印』の中にいる。つまり、白天王を含めてその周囲の魔力も少年の思うがままに出来るのだ。

 

「では、始めましょう。ベヘモット」

 

『ふむ、本領とは離れるが、これも腕の見せ所よな』

 

『カデシュの心室』内で少年は左手で右手の手首を握り、右腕を前に突き出して目を閉じる。ベヘモットの言う通り、これから行うのは本領ではない。集中したいのだ。

 

少年はキャロに、召喚獣は操られているだけ、と言われた。

 

召喚獣を暴走させるということは、召喚した術者に何らかの処置を加えたということだ。ならば、方法は3つ。

 

まず、術者に施された処置を取り除くか、処置を施した装置か人間を無力化する。これで2つだが、最後の1つは、発動させた召喚魔法そのものをキャンセルして召喚獣を強制送還すること。

 

少年が今から行おうとしているのは、この内の1つ目と3つ目。かつて『偽装の駆り手』と呼ばれたフレイムヘイズが、“壊刃”の名で知れた紅世の王を葬るのに使った手段と似たものだ。

 

少年の力なら白天王の召喚魔法に干渉して魔法をキャンセル出来るし、恐らくルーテシアに施された処置も無効化出来る。

 

施された処置が魔法ではない催眠術だったらお手上げだが、魔導技術と共に化学文明が大きく発展しているミットチルダでその可能性は低いと少年は考えた。

 

そしてその結果……

 

(ああ、召喚魔法のキャンセルと強制送還の用意は完了ですね。しかし、術者の方は不完全ながら人造魔導師とは……)

 

(ふむ、後天的に処置を受け、その際に脳の一部を魔法で改造されたようじゃな。幻覚、あるいは記憶操作の魔法を応用して強制的に暴走状態を作っておる)

 

念話で話しながら喚魔法の術式を書き換え、白天王を強制送還。さらにルーテシアを通じて地雷王も強制送還させる。

 

続いて暴走の原因である魔法の術式を順に解析し、ルーテシアの脳に後遺症が残らないよう細心の注意を払いながら解除していく。

 

(ふむ、遠隔操作で好きな時に発動出来る仕組みじゃな。恐らく、術者が戦意を損失した場合を想定してのものじゃろうな)

 

(ああ、ですが、殆どが魔法による処置だったのは私達にとっては幸いでした。これならば問題無く解除は可能ですし、収穫もありました)

 

そして、完了と同時に白天王と地雷王の足元に魔法陣が展開され、体がゆっくりと地面に沈んでいく。

 

少年からは見えないが、エリオが抱えているルーテシアの顔色も良くなっていく。

 

これで万事解決、全員がそう思って気を緩めようとした時、巨人が動き出した。

 

ギンガ達の傍から離れ、1度目の『セトの車輪』を使った場所へと歩いていく。絨毯爆撃を受けたような地形の上に立ち、巨人は再びゆりかごを見上げた。

 

『ラーの礫』を直撃させた時と大して高度は変わらっておらず、艦の左舷からは数十キロ離れたこの場所からでも分かるほどの黒煙が昇っている。

 

「ああ、それでは……」

 

『ふむ、仕上げといこうかの……』

 

先程ルーテシアに施された魔法を解除した際に、分かったことがあった。

 

ベヘモットが言ったように、あの魔法は遠隔操作で発動するものだった。術式を調べてみると、その発信源が特定出来たのだ。その場所は、ゆりかごの下方、最深部。

 

少年には元々敵意を向ける明確な相手もいなかったが、この情報とゆりかごの存在は正直ありがたかった。

 

最深部にいる人物と、空に浮くゆりかご。この2つが、今の少年にとっての憎しみのぶつけ先に決められたようだ。

 

巨人は拳を握り締め、右腕を腰溜めに引き絞る。すると、右腕の肘部分から魔力が噴き出し始めた。

 

「アテンの拳」

 

引き絞られた巨人の右腕が真っ直ぐ突き出され、大気を貫くような突風が起こった。

 

直後、巨人の右腕が肘先から切り離され、後方からの魔力のジェット噴射によって飛んでいった。要するにロケットパンチである。

 

射出された巨人の腕はミサイルのような速度で空を突っ切り、下降の勢いを一切見せずにゆりかごへ直進する。

 

数秒後、『アテンの拳』は避けることも出来ないゆりかごの下方に直撃。命中した次の瞬間に大爆発を起こし、ゆりかごの最深部ごと下方全体を完全に破壊した。

 

『ラーの礫』を上回るその破壊力にまたしても全員が言葉を失った。

 

もし、あの時キャロが止めに入らなければ、ルーテシアの召喚獣は一匹残らず巨人に皆殺しにされていたのではないだろうか。

 

そんな不安が横切ったが、管理局員であるエリオとキャロは詳しい事情を聞こうとゆっくり巨人に近付いていく。

 

しかし、それよりも少年の決断の方が早かった。

 

「ああ、こんなものでしょうか。復讐とは、思っていたより……」

 

『ふむ、空虚、か? じゃが、憎しみという感情が消えれば、後には何も残らぬものよ。その喪失は当然の現象、受け入れるほかあるまい』

 

「ああ、では退散するとしましょうか……起動」

 

『『カデシュの血脈』形成』

 

大した前置きも無しに少年は魔法を発動させ、ベヘモットも当然のように従う。

 

最初の異変は巨人の体が急速に崩壊し始めたことだった。それに続いて廃都市の各所から『カデシュの血印』が浮かび上がる。

 

しかし、その数が異常だ。フリードに乗るエリオ達から見ても100以上はある。

 

だが、それもそのはず。少年はこの廃都市でギンガ達を助けた時からずっと、自分が破壊した瓦礫や岩の全てに『カデシュの血印』を配置していたのだから。

 

巨人の体を作る材料、というのが最もな理由だが、これだけの数を用意した理由は別にあった。

 

「同調」

 

『カデシュの血印、開放』

 

その瞬間、『カデシュの血脈』によって廃都市の各所に設置されていた無数の『カデシュの血印』が連結、同調。

 

その全てが、一斉に魔力爆発を起こした。

 

 

ドォォォォォォン!!!!!!

 

 

鼓膜を直接ぶっ叩くような爆音と爆風を響かせ、廃都市全体に及ぶほどの魔力の暴風が起こった。物理的な衝撃や力はただの風と同じだが、1つ違う点がある。

 

「っ!……キャロ! 索敵魔法であの巨人の術者を……!」

 

「だ、ダメ! この魔力乱流のせいで、サーチャーもデバイスのセンサーもマトモに動かない! これじゃあ何も分からない!」

 

そう。魔力の台風とも言えるこの風は、規模が大きいほど索敵魔法のスフィアやデバイスのセンサーに致命的なジャマー効果をもたらすのだ。

 

そして魔力の風が止むと、巨人の体は完全に崩れ去っており、積み重なった瓦礫意外には何も残ってはいなかった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 一方、少年はすでに戦闘地域を離れ、廃都市を抜けて首都の街中を歩いていた。

 

肩に担がれていたメケストは収納されており、ベヘモットの本体であるガラスの飾り紐の一部になっている。

 

服の下に隠された怪我が激痛を訴えているはずなのに、少年は苦痛の表情1つ浮かべず黙って歩いている。その姿に、ベヘモットも何も言わない。

 

「あ……」

 

やがて、少年の足が小さな呟きと共に止まった。

 

目の前には、外部からの攻撃を受けて崩れ去った複数の家があり、そのすぐ傍には毛布を掛けられた遺体が2つ置かれている。

 

少年はフードを脱ぎ、目の前に横たわった両親の遺体の傍に立つ。

 

少々褐色が混じった黒髪が風に揺れ、ニキビ1つ無い褐色の肌が外気に晒される。外見から感情の気配を感じさせない栗色の瞳は視線を逸らさず、両親の遺体を見詰めている。

 

『辛いと思うなら、泣けばよい』

 

沈黙が流れるだけかと思った空気の中、ベヘモットが普段通りの口調で語りかけた。

 

『お主はフレイムヘイズでも、カムシン・ネブハーウでもない。いかに力や外見が似通おうとも、その心や生き方まで似る必要は無い。否、決して似てはならぬのだ』

 

ベヘモットの言葉に少年は答えない。

 

だが、その言葉を聞く度に少年が無意識に封じ込めていた悲しみが溢れ出し、瞳から決壊したダムのように涙が流れ出す。

 

「父さん……母、さん……」

 

膝を付き、肩が振るえ、血塗れの両手で地面に触れる。

 

「ごめん……守れなくて……助けられなくて、ごめん……」

 

独白するような嘆きの声が漏れ、流れる涙が地面を濡らしていく。

 

少年はその場で、ただひたすらに、泣き続けた。

 

 

 

 

 それからやがて、聖王のゆりかごは管理局の尽力によって撃沈。首謀者であるジェイル・スカリエッティも逮捕され、後にJS事件と呼ばれた混乱は終息した。

 

廃都市で暴れまわり、ゆりかごに致命打を与えた瓦礫の巨人については、当然調査の指令が下った。

 

しかし、術者の顔や特徴などについてハッキリした情報が少ない上に、使用した魔法の形跡は一切その場に残されていない為、特定はかなり困難を極めている。

 

少年としては絶対に管理局に目を付けられたくないのだが、本人の気持ちとは別に、少年に感謝の気持ちを伝えたい人間が何人かいるのも、また事実だった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

ちょっと終わり方が変な気がしますが、これで終了です。

続くとしたら、これって多分vividから始まりますね。JS事件の関係者と間違いなく厄介事になりますけど。

また何か思い付きがあったら気ままに書くと思います。

では、また次回。

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