今回は中編です。自分的には、色々と強引な文章があるかもしれません。
では、どうぞ。
Side Out
「何なの、アレは……」
聖王のゆりかご最深部にて、クアットロは呟いた。
彼女が見詰める先のモニターに映っているのは、瓦礫で作られた巨人。
先程首都に向かって降下させた数十体のガジェットを瞬く間に全滅させたその存在は、改めて見たクアットロに恐怖心を感じさせた。
最初は拳を振り下ろす度にⅠ型とⅢ型を粉砕し、発生した巨大な土煙の柱でⅡ型を吹き飛ばしていた。
だが、今は巨人の右手には新たな武装が握られていた。
岩を固めて作られた3メートル近い柄、そこから複数の岩塊や瓦礫を褐色の魔力で繋いで伸ばしたその形状は巨大な“鞭”だった。
振るわれる度に一定範囲を地形ごと抉るような衝撃が襲い、それなりの頑丈さを持っているはずの建築物が薙ぎ倒される。
管理局の魔導師が手を焼くガジェットを寄せ付けることすらしないその強さはクアットロから見れば規格外の一言。
だが、それはあくまで地上戦での話だ。
地上で戦う戦力に勝ち目は無いだろうが、ゆりかごの現在位置は空中。脅威は無いし、もはや作戦に大した支障は無い。
「あと少し……あと少しでゆりかごが衛星軌道に到達する。そうすれば、もう敵など存在しません」
2つの月からの魔力を受ければ、ゆりかごは高い防御性能だけでなく、強力な対地・対艦攻撃に加えて次元跳躍攻撃も行えるようになる。
そうなれば管理局の戦力がいくら来ても問題無い。もはや敵無しだ。
「ふふ……せいぜい地上で暴れまわっていてくださいな。巨人さん」
指先でモニターを撫でながら、クアットロは余裕の笑みを浮かべる。
だが、余裕を浮かべるクアットロの表情は、すぐに歪むことになった。
* * * * * * * * * *
一方、クアットロの見下ろしていた地上では、瓦礫の巨人が大規模破壊を繰り広げていた。
右手に握る岩と瓦礫で作られた巨大な鞭、メケストが振り下ろされて目の前の建物が砕かれ、その付近にいた数体のⅢ型とⅠ型を押し潰す。
「……ああ、埒が明きませんね。正直かなり面倒です」
『ふむ、大量であっても敵が小さいからの。大分減ったとは思うが、周りの建物に隠れている敵は苦労しそうじゃな』
瓦礫の巨人に比べ、対するガジェットはかなり小さい。おかげでガジェットの攻撃はまったくと言って良いほど巨人に通用していない。
だが、敵が小さ過ぎる、さらに機動力で明らかに劣るせいもあって瓦礫の巨人の攻撃に先程から連続で撃ち漏らしが発生している。
さすがに少年の声にも僅かな苛立ちの気配が出てきた。
「ああ、確かにこの力が欲しいと願ったのは私ですが……戦い方が大雑把なところも含め、容姿や口調まで似せたのは今でも意外です」
『ふむ、じゃがその戦い方が似たおかげで、この場合はどうするかすぐに決まるじゃろう』
「ああ、先程の局員の皆さんには当てないようにしなくては……」
瓦礫の巨人が腰に捻りを加えて後ろを振り向き、メケストを振るう。
衝撃で大地が震え、無数の瓦礫が宙に跳ね上がる。
「セトの車輪」
『カデシュの血印配置。続いてカデシュの血脈に同調』
周囲に舞い上がった瓦礫が燃えるように輝き、メケストの先端から飛び出した魔力糸がスパークを撒き散らしながら付着する。
すると、周囲の瓦礫が弾かれたようにメケストの遠心力と共に高速で射出され、あらゆる方位にばら撒かれる。
軽く見ても2メートルはある無数の瓦礫が周辺一帯の建物や地面に転がり跳ねて激突し、高威力の爆弾を炸裂させたような大爆発。続いて周辺に褐色の魔力の暴風が吹き荒れる。
少年が注意したように攻撃の被害はギンガ達には及ばなかった。だが、それ以外の場所を襲う攻撃には照準の気配など微塵も感じられず、建物ごと周囲に隠れるガジェットを殲滅した。
瓦礫だらけの荒野を通り越し、もはや絨毯爆撃でも行ったような地形の中に残っているのは瓦礫の巨人だけだ。
「……ああ、どうやら全て片付いたようですね」
『ふむ、しかし程無く次の敵もやってくるじゃろうて』
「ああ、ではこれからどうしたものでしょうか「坊主!」……ん?」
カデシュの心室の中で聞こえた声に反応して振り向くと、そこには遠くのハイウェイの上で声を張り上げるゲンヤの姿があった。
不思議に思った少年の動きに連動して瓦礫の巨人が首を傾げる。
「お前、アレを何とか出来ねぇかぁ!!」
ゲンヤが大声を上げながら指を差した先には戦闘の光を輝かせながら空を飛んでいる巨大な船、ゆりかごが見える。つまり、アレを落とせるかと聞きたいのだろう。
少年は数秒間だけ意識を思考の海に沈めて決断。ゲンヤの場所へ映像無しで声のみの通信を開いた。
「ああ、端的に言えば出来ます。3分待ちますので、艦の左舷から戦闘中の局員を全員退避させてください。でなければ間違いなく巻き込みます」
『わ、わかった! 時間までに局員を退避させる!』
ゲンヤの返答を聞いて少年は通信を遮断。瓦礫の巨人の右手の中で再びメケストが柄となり、岩塊を繋ぎ合わせて鞭を形成する。
「……ああ、見たところ射程範囲ギリギリの高度でしょうか」
『ふむ、確かに距離的には不安なところじゃが、一度当てればこちらのもの。外した場合は微調整を行えばよかろう』
少年はもう一度ゆりかごを見上げながらベヘモットに確認を取る。
「坊主! もういいぞ! やってくれ!」
ゲンヤの言葉を聞き、瓦礫の巨人が動き出す。
メケストの先端にもう一段大きな岩塊を形成し、背中越しにまで鞭を大きく振りかぶる。その構えは何かを投擲するように見える。
「ラーの礫」
瓦礫の巨人が右腕を振り切る。
烈風を吹き荒らせながら振るわれた鞭の先端から岩塊が分離、大質量の物体が射出される。そこへ褐色の魔力が爆発するように吹き荒き出して二次加速を加え、ゆりかご目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。
ここで言うと、ゆりかごの外部装甲には単純な防御力だけでなく、強力な出力のAMFを常時展開している。
それは同時に前線で戦う八神はやてが広範囲攻撃の大火力をガジェットの撃墜に集中させている理由でもある。
だが、『ラーの礫』に働いている魔力作用は射出後の二次加速のみ。そして、いかにAMFとはいえ発生した物理作用、慣性にまで干渉することは出来ない。
つまり、瓦礫の巨人の攻撃に対し、AMFは無意味なのだった。
一切の威力減衰を受けず、射出された岩塊はゆりかごの左舷に直撃する。
すると、数十キロは離れた少年やギンガ達の目に映るゆりかごの左舷に着弾と同時に一際大きな大爆発が襲い、船体が目に見えて傾いた。
直径数キロはあるゆりかごの船体が……こう、ガクリと大きく傾いたのだ。
たった1発で古代ベルカのロストロギアに損害を与えたその破壊力にギンガ達が今度こそ言葉を失う。
「……ああ、まさか当たるとは。それも1発で……」
『ふむ、思わぬ誤算じゃが、これで次も当てられよう』
だが、攻撃を放った本人とその相棒は色んな意味で怖い発言をしていた。
少年の攻撃は破壊力こそ他者の追随を許さぬほどに絶大だが、その半面で照準性能が半分術者の感覚頼りとかなり大雑把なものになっている。
しかし、一度当たれば魔法の力を借りてその座標を元に照準補正を行える。
一時的に足が止まったゆりかごに避ける術は存在せず、少年の見立てではアレを無効化するには、一撃あれば充分だった。
「ああ、では…………終わりにしましょうか」
『ふむ、いかに古の戦船とはいえ、駆動炉を潰せば少しは静まろう」
少年の瞳が細められ、纏う雰囲気の中に明確な敵意が宿った。
その意思を行動に移し、瓦礫の巨人が握り締めた左拳を持ち上げる。空にかざした鉄槌が向く先には空に浮くゆりかご。
これから何をするのかわからないギンガ達でもその様子から大きな危機を感じ取り、言葉を出さずに瓦礫の巨人を見詰める。
だが…………
「っ!……ああ、これは……っ」
はっと何かを感じた少年の呟きに続き、瓦礫の巨人が突如身を翻した。
振り返ると共にメケストが右薙ぎに振るわれ、放たれた『ラーの礫』が二次加速を得て建築物の真上を突っ切る。
飛んだ岩塊を全員の目が追う。すると、その岩塊はすぐに紫色の魔力砲と衝突し、大爆発を起こして勢いを完全に相殺した。
生じた爆風が周囲に吹き荒れる中、背後を振り返る瓦礫の巨人が紫色の砲撃を放った主と相対する。
そこにいたのは、ある意味で瓦礫の巨人よりも異質な存在だった。
全長は瓦礫の巨人よりも一回り小さく、約15メートル程。
見るからに硬質な外骨格にそれを支える巨人な筋肉。背中から伸びる4枚の半透明な羽は昆虫を思わせるが、人型に近い体は両足で確かに二足歩行を可能にしている。
その巨体の四肢だけでも充分な猛威を振るうだろうが、その腹部に輝く水晶体から紫色の光が漂っているのを見ると、先程の砲撃を放ったのはこいつらしい。
だが、何故かその両目からは真っ赤な血の涙がとめどなく溢れている。
まるで何かに囚われたように、苦しむように、抗うように咆哮を上げる。
その存在は、ルーテシア・アルピーノの所有する究極召喚『白天王』。
「ああ、見た所人工生命体ではないようですね。魔法で洗脳処理を施した原生生物か、誰かが呼び出した召喚獣か、いずれにせよ……」
『ふむ、元より個人的な恨みへの復讐から始めた戦い。敵たる以上、我等はただ戦うのみ』
しかし、少年とベヘモットのやることは変わらない。
彼等は戦う為にやってきた。
心の中の雑念を捨て去り、瓦礫の巨人は歩を進めた。
ご覧いただきありがとうございます。
なんか前編と後編で纏められませんでした。
後編は気長にお待ち下さい。