ちょっと修正加えました。
Side Out
時空管理局発祥の地、第一管理世界ミッドチルダ。
現在、その世界は混乱の真っ只中にあった。
ジェイル・スカリエッティ。
生命操作や生体改造、精密機械の技術に優れた科学者であり、ロストロギア関連以外にも数多くの事件で広域指名手配されている次元犯罪者。
その正体は管理局最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出した存在。アンリミテッドデザイア、無限の欲望である。
その無限に等しい探求欲の導きは創造主である最高評議会と地上本部中将、レジアス・ゲイズの命すらも奪い、ついには古代ベルカの王「聖王」が所持していた超大型質量兵器『聖王のゆりかご』を目覚めさせた。
そして、彼の愛する娘達であり傑作でもあるナンバーズと無数のガジェット群による一斉攻撃がミッドチルダの各所で勃発しているのだ。
時空管理局は地上本部、及び本局の総力を挙げてこの攻撃に対応。各地で大規模の戦闘が開始された。だが、AMFを常備しているガジェットを前に、管理局の戦況は次第に不利になっていった。
* * * * * * * * * * * * *
「………おう、調子はどうだ」
首都の周囲に広がる廃棄都市部。そのハイウェイの上には、数名の管理局員達がいた。
その中には担架の上で休むギンガ・ナカジマがいて、その傍には彼女の頭を撫でながら優しげな視線を送る父、ゲンヤ・ナカジマがいる。
「………ちょっと、不調かな」
少し動くだけで痛みが走る体に苦笑しながら、ギンガは答える。
彼女は先程までスカリエッティに操られ、妹であるスバルと激闘を繰り広げていた。
元に戻る事こそ出来たが、ボロボロになった体はしばらくは動きそうになかった。
「………ねえ、父さん」
「なんだ?」
「スバル達は………大丈夫だよね?」
そう言ってギンガが見上げた空には、戦闘の光を輝かせながら浮かぶ巨大な船。
そこでは彼女の妹が、たくさんの仲間が今も戦っているのだ。
「心配すんな。お前が預けた力もあんだし、きっと大丈夫さ」
「うん………」
にやりと笑うゲンヤの言葉に頷き、ギンガは再び空を見る。
そんな時、配給されるストレージデバイスを持った1人の武装局員が慌ててやって来た。
「部隊長、大変です! 急いで退避してください!」
「どうした?」
「何体かのガジェットが前線の防衛網を潜り抜けたそうです。此処から近い位置ですので、急いで退避を!」
そう言われて周りを見ると、他の局員達も慌てて撤収準備を始めている。
確かに、この場所には最低限の戦力しか用意されていない。しかも何人かの負傷者まで抱えた状況では防衛も何もあったものではない。
ゲンヤも急いでギンガを運ぼうとするが、それよりも早く撤収準備を始める陣地の中に1つの巨大な影が飛来した。
その場にいた全員の視線が集まると、そこにいたのは一体の巨大なガジェット。
中心にオレンジ色のセンサーを装備した球体状のボディー。そこから2本の黒いベルト状のアームを伸ばし、他にも補助用のアームケーブルが6本浮いている。
「こいつは………Ⅲ型か!」
ゲンヤの言葉を聞き、その場にいた全員がマズイと心の中で呟いた。
このガジェットⅢ型は大型・重装甲を重視されており、火力やAMFはもちろん、単純な装甲硬度も他のタイプに比べると優れている。
だが、ここにいる武装局員は殆どがCランク、高くてもBランク止まりだ。ハッキリ言ってⅢ型の相手をするには不十分だ。
ギンガが本調子で動ければ容易に倒せただろうが、今は動けない。
つまり、この場にガジェットⅢ型が現れたのはピンチ以外の何でもないのだ。
「ギンガ………っ!」
動けない娘を守ろうと、ゲンヤは守るようにギンガの前に立つ。
立ちはだかる存在に対し、ガジェットはベルト状のアームを高く振り上げた。そのまま振り下ろされれば、ゲンヤの命は容易く絶たれることだろう。
そのまま、前置きも無く腕は振り下ろされた。ギンガは動かない父を助けようとするが、身体がまったく動いてくれない。
動けぬ代わりに声が出る。だが、ゲンヤは動かず………ただ両手を広げた。
瞬間、視界を覆う程のガジェットの巨体が頭上より降り注いだ何かに潰された。
「………え?」
呆然と呟くギンガが見たそれの正体は、岩だったそこら辺の廃墟を探せば何処にでも転がっていそうな瓦礫である。それがガジェットを押し潰したのだ。
何故岩が? という疑問が浮かぶ中、ギンガは岩の一部に淡く揺れる褐色の光を目に捉えた。まるで炎のように見えるが、恐らく魔力だろう。
「ああ、お怪我はありませんか?」
声がした。まだ幼さが宿るが、その反対に何処か枯れた大人のような冷静さを感じる。
聞こえた方向に見えたのは、一人の少年だった。
見かけからして、年齢はまだ10歳を超えて少しだろうか。背丈もギンガの胸元に届くかどうかくらいだ。しかし何故だろう、ギンガだけでなくゲンヤでさえも一瞬自分の方が年下なのでは、という錯覚を感じた。
服装はフードが付いた赤茶色のジャケットに、無地の黒いズボン。だがフードを被った顔は変身、または幻影魔法の応用か異常に影が濃くて見えない。僅かにフードの中からはみ出た髪の色は濃い栗色だ。
だが、その姿よりも全員の目を引いたのは、その少年が右肩に担ぐ長い包みだ。包帯にグルグル巻きにされていて姿はわからないが、長さはおよそ3メートル程で、少年の背丈とどうしても釣り合わない。
明らかに異質。いや、そもそもこの場に子供がいること事態異質なのだが、この少年からはそれを上回る別種の違和感を感じる。
「坊主、今のはお前が………いや、そんなことより何でこんなとこにいる! 此処は危ねぇんだ。助けてくれたのはありがたいが、急いで親御さん達と一緒に非難を………!」
「ああ、お気持ちはありがたいのですが、両親はもういません。先程偶然攻撃に巻き込まれ、瓦礫に潰されてしまいました」
『っ!?』
口にした事実はもちろんだが、両親の死を淡々とした口調で語る様子に全員が息を呑む。
『ふむ、瓦礫の中から遺体を探し出すのはいささか苦労したがの』
新たな老人のような声は少年の左手首に付けられたガラスの飾り紐から聞えてきた。恐らく、アレが少年の持つデバイスなのだろう。
そう聞くと、ギンガは少年の足元に広がる小さな血溜まりを見つけた。
その上にあるのは、何かで切り裂いたかのような無数の傷を負い、血だらけになっている少年の両手。もしかすると、瓦礫を素手で掘り続けたのだろうか。
「ああ、出来れば遺体を安全な場所に運びたかったのですが………少し、連中に頭がきました」
そう言った少年は密かに両手を強く握り締め、ポタポタと更に多くの血を流す。
そして、影の濃いフードの中から零れた水滴と光の筋をギンガは確かに見た。
己の心の中で渦巻く激情を必死に留め、少年はこの場に復讐を果たしに来たのだ。
『ふむ、新たな命を宿す際に神より授かった力。使うつもりは無かったが、所詮は真似物、例え私怨で振るおうと咎められはすまい』
フードの中から怒りと悲しみの気配を漏らしながら、少年は歩き出す。
視線の先には、新たに後続でやって来たⅢ型を先頭にやって来た数機のガジェット。
その場にいる全員の顔に再び絶望が宿るが、その時にはもう少年は動き出していた。
ボォン! とアスファルトが爆発音を鳴らして砕け、凄まじい加速によって少年の姿が掻き消える。次の瞬間、少年は右肩の包みを手に空高く跳んでガジェットのすぐ上にいた。
その速さは近接戦闘を得意とするギンガでも一瞬見失う程であり、少年は手に持つ包みを大きく振りかぶって横薙ぎにフルスイングした。
すると、包みはⅢ型のガジェットのボディに深くめり込み、振り抜かれると共にその巨体をまるでボールのように後方へ吹き飛ばした。
吹き飛ばされたⅢ型はボーリングのように他のガジェットを巻き込み、轟音を立てて廃墟の中に突っ込んでいった。数秒遅れて大爆発が起こり、幾つかの建物が崩壊する。
続いて少年が包みを虚空に振り抜く。すると、包みの先端から褐色の糸が伸びて廃墟の一部にピタリと付着し、瓦礫が引っこ抜かれて包みを振り抜いたコースに従って高速で飛ぶ。
巨大な瓦礫が弧を描いて飛来し、固まっていた数機のⅠ型ガジェットが纏めて押し潰される。
あっという間に後続でやって来たガジェットが全滅し、静寂が訪れた。
(すごい………どういう術式を使ってるのかわからないけど、とんでもない出力の強化魔法……あれ? え? うそっ………!)
少年の動きにギンガは感心するが、戦闘機人としての目が伝える情報に目を見開いた。
強化魔法が働いていると思われた少年の体から魔力が感知されなかったのだ。つまり、脚力にしろ腕力にしろ、今の少年の動きは自分の身体能力だけで実現されたもの、ということになる。
だが、果たしてそれが人間に出来ることなのだろうか。
「………ああ、どうやらまだまだ来るようですね」
『ふむ、前方と左右に数十機、半ば包囲されかけておるな。しかし、この場所ならば………』
「ああ、材料にも困りませんし、首都にも被害は出ないでしょう。出来れば皆さんは此処から動かないでください。巻き込んで殺しかねません」
少年のデバイスが言うとおり、周囲には今やって来た規模を遥かに上回るガジェットが展開している。
だが、少年は冷静に局員達に忠告し、地面を蹴ってハイウェイから高く跳躍した。
その姿はまるで大軍に1人挑む戦士のようであり、少年の持つ力はそれに応える程に、強大だった。
「偽装」
『魔力統制機関、『カデシュの血印』起動』
少年の短い呟きにデバイスが答え、少年の体を覆うように術式の陣が形成された。その形はミッドチルダ式ともベルカ式とも異なり、独特の形をしている。
『続いて魔力接続経路、カデシュの血脈を形成』
「展開」
天に掲げるように振り上げた包みの包帯が解かれ、その姿が明らかになる。
変わった魔法陣の中で高く聳え、鈍い銀色の輝きを放つそれは、鉄棒。先程ガジェットを破砕して吹き飛ばしたそれこそ、少年の持つ非人格型アームドデバイス、メケスト。
そして少年の全身を包む魔法陣が激しく発光し、そこから褐色のエネルギー流、太い魔力の糸が弾かれるように周囲に拡散した。
拡散した魔力糸が放物線を描いて廃墟に降り注ぐ。すると、魔力糸が付着した点が燃えるように淡く輝き、もぎ取られた瓦礫が少年の元に吸い寄せられた。
『結合完了。カデシュの血脈に同調』
集まった瓦礫は少年を包む魔法陣を上書きするように重なり、やがて魔力光のラインを走らせた物質形成の魔力スフィア、『カデシュの心室』が形成される。
そのスフィアの上にさらに膨大な量の瓦礫が集められ、やがて1つの形を成していく。
大きく、大きく、強く、強く。
その願いを形作るように、瓦礫を纏った小さな少年の姿は、20メートル近くの瓦礫の巨人となった。
ただ瓦礫を繋ぎ合わせたような無骨な作りにも見えるが、その形は確実に人のそれであり、魔導師の力の形を知る局員達の顔には驚愕しかない。
轟音を立てて地面に着地した巨人が動き出し、握り締めた右拳を腰溜めに引き絞る。
勢い良く拳がアッパーのように振り抜かれ、大気をぶった斬るような風が吹き荒れる。そして、虚空を振り抜いた拳は数秒送れて巨大な衝撃波を生み出した。
その衝撃波は一直線に突き抜け、爆音を鳴らしながら広がる廃墟を破壊し、ガジェット群を直撃した。ショックウェーブが通り過ぎた廃墟はもはや瓦礫まみれの荒野だ。
続いて巨人の左腕がラリアット気味に右へと振り抜かれ、今度は巨人の左側を薙ぎ払うような広範囲の衝撃波が吹き荒れる。
「ああ、随分と久しぶりにやってみましたが、問題無さそうですね」
『ふむ、力の起源を魔導に変えたとはいえ、この技法は存在、いや魂に刻まれしもの。そう簡単に術の練度は衰えはすまいて。むしろ、前よりも磨きが掛かっておる』
隠れていたガジェットが建築物と共に根こそぎ薙ぎ払われ、瓦礫の巨人は右の手の平を握ったり閉じたりと繰り返す。
心室の中で軽く話した少年とデバイスは巨人の状況をよく確認し、動き出す。
「ああ、では始めましょうか。ベヘモット」
『ふむ、自身の願いの為の戦い。思う存分暴れるとしようか』
何処までも落ち着いた口調で話す少年とデバイスは、再び動き出した。
とりあえず前編に分けましたが、こっちは生き抜き気分なので後編の投稿はいつになるかまったく分かりません。