堕天使少女と欲望の王   作:ジャンボどら焼き

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第9話です!

サブタイは思いつきませんでした。
ああ、文才、創作力が欲しい……。




第9話

「ちょっとお話、聞かせて貰うわね?」

 

 ニコリと、フードの陰から覗く口元が弧を描く。何か嫌な予感を感じ取ったミッテルトは無意識の内に後退り、一歩足を後ろへと引く。そんなミッテルトの動きを逃げ出すと捉えたのか、もう一人の女性が背中に背負った布切れへと手を回す。

 だが彼女の手は布切れを掴む前にピタリと止まる。

 

「……それ以上動くなら、斬る」

 

 ひどく冷えた声がこの場に響き渡る。女性が首元に目をやると、そこにはいつの間にか一振りの剣が突きつけられていた。

 女性はその剣の持ち主──華霖をフード越しに睨みつける。見た目良くて中学生の子供かと思っていたがこれは驚きだ。意識が堕天使へと向き油断していたとはいえ、まさか反応すらさせずに懐へ入り込まれるとは。

 

「ただの少年かと思っていたが……何者だ?」

 

「答える義理、ない。それに、その台詞はこっちも同じ」

 

 両者の間に流れる不穏な空気。今にも互いに斬りかかりそうなその状況に対し、真っ先に動いたのはもう一人の信徒の方だった。

 

「ちょ、ゼノヴィア! 何いきなり斬りかかろうとしてるの!?」

 

「止めるなイリナ。この堕天使が奴と繋がっているかもしれない。ならば、このままみすみすと逃すわけにはいかないだろう」

 

 布切れへと手を回す女性を叱咤するイリナと呼ばれた女性。そして今も尚首元に剣を突き付けられている女性──ゼノヴィアは、危険な状況にさらされているにもかかわらず、その声は落ち着きはらっていた。

 そしてミッテルトもまた、華霖を止めるべく動きを見せる。

 

「か、華霖も落ち着くっす! ここで暴れられたらたまったもんじゃないっすよ!」

 

「……こいつが先、仕掛けてきた」

 

「そうっすけど、でも止めるっす! あの布切れに包まれた奴、たぶんただの武器じゃないっす! 家が半壊してもいいんすか!?」

 

 ミッテルトの必死の叫びに華霖は渋々、と言った感じで剣を引く。首元の脅威が去ったことでゼノヴィアも手を元の位置まで戻し、イリナはほっと一つ息を吐く。

 ひとまず険悪な雰囲気が薄まったところでイリナは話を始めるために、コホン、と咳払いを一つ。

 

「一先ず名乗らせてもらうわ。私は紫藤(しどう)イリナ、そしてこっちがゼノヴィアよ。私たちはヴァチカンからの命を受けてこの町へ来たわ」

 

「はぁ、わざわざ魔王の妹が治める町にっすか? それはまたなんで?」

 

 わざわざ自己紹介から始めてくれたイリナへ対し『礼儀正しい子なんすかねぇ』と、どうでもいいことを考えるミッテルト。そんな彼女の反応を確かめるように、ゼノヴィアはフード越しにその様子を伺う。

 彼女たちが受けた命とは、先日華霖が発見した祓魔師(エクソシスト)が受けていたものと同じである。つまるところ、コカビエルの居場所を探りエクスカリバーを奪還だ。しかし未だコカビエルの動向は探れていない。

 そんな中で出会った堕天使の少女。ゼノヴィア達からしてみれば、まさにコカビエルへと近づく最大の手がかりに見えたことだろう。

 

 イリナは遠回りに己の目的を話しミッテルトの反応を探る。ここでもしコカビエルとなんらかの関係があれば、何かしらの反応をとると思ったからだ。

 しかし、ミッテルトは依然として平静を保ったままだ。まぁ、本人は今回の件とは全くの無関係なので、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

(ねぇゼノヴィア。やっぱりこの堕天使、今回の件とは関係ないんじゃない?)

 

(……いや、これが私達を欺く演技だという可能性も捨てきれない。こうなれば単刀直入に聞くしかないだろう)

 

 二人に聞こえないよう、耳打ちで話し合うイリナとゼノヴィア。話し合った結果、イリナはゼノヴィアの意見に賛同。

 バトンタッチし、今度はゼノヴィアがミッテルトへ問いかける。

 

「では単刀直入に聞こう。堕天使コカビエル、奴の居場所を教えてもらおう」

 

「コカビエルって……あのコカビエル様っすか? たぶん『神の子を見張る者(グリゴリ)』にいると思うんすけど」

 

 ゼノヴィアの質問に首を傾げながら答えるミッテルト。ここでも表情に焦りや緊張といったものは見て取れない。

 互いに目を合わせ、アイコンタクトを取るイリナとゼノヴィア。ミッテルトが今回の件に関わってはいないと判断したようだ。

 

「てかあんた達、なんでコカビエル様の場所なんか探ってるんすか?」

 

 一方的に質問を受けたミッテルトからしてみれば、二人がなぜそのような質問をしてきたのかが気になる。ミッテルトの質問を受け、またもアイコンタクトを取る二人。

 代表して口を開いたのはゼノヴィアだ。

 

「先日、我々教会側が保管していたエクスカリバーが三本盗まれた。犯人は堕天使コカビエル。奴はエクスカリバーを盗んだ後、この駒王町へと潜伏、姿をくらました」

 

「……は? コカビエル様がエクスカリバーを……?」

 

 口をあんぐりとさせ、我が耳を疑うような表情をするミッテルト。

 そんな彼女の無意識下で吐き出された言葉に頷き、次いでイリナが口を開く。

 

「私達は盗まれたエクスカリバーを奪還するためにこの町に来たの。あなたを見かけてゼノヴィアが襲いかかろうとしたのも、あなたがコカビエルと関係があるかもしれないって思ったからなの」

 

「しかしその様子だと、どうやら何も知らないようだな。……それならそれで、なぜここにいるのかは疑問に思うが」

 

 ゼノヴィアの言葉にミッテルトは内心冷や汗をダラダラと流す。『かつて聖女だった少女を騙し、殺す計画をした組織の一員です』なんて、そんなこと口が裂けても言えないだろう。というか言った瞬間この場で即殺されかねない。

 

「だが今回の我々の目的はコカビエルとエクスカリバーだ。今は関係ない堕天使に気を回している余裕はないのでね、これ以上は深くは聞かないさ」

 

「あ、あはは……そうなんすね」

 

 それ以上の追及はなく、ほっ、と胸を撫で下ろすミッテルト。

 するとここで華霖が口を開く。

 

「……お前達、二人でやるつもり?」

 

「無論だ」

 

 即答するゼノヴィア。隣のイリナへと視線を動かしてみれば、彼女もゼノヴィアの言う通りだと首肯する。どうやら彼女達は本気でコカビエルを二人で相手取る気らしい。

 しかし、ここで二人に異議を申し立てたのは、コカビエルの実力がいかほどのものなのかを知っているミッテルトだった。

 

「二人でなんて無理っすよ。歯牙にもかけられないまま殺されちまうっす。あんたら、そんなこともわからないんすか?」

 

「確かに、コカビエルにとって我々など虫けらのようなものだろうな。おそらく殺り合えば私達は殺されるだろう」

 

「そこまでわかっていて、なんで……」

 

「全ては主のためよ。そのためなら、私達は命を惜しまないわ」

 

 本当に馬鹿げている。己のためならばいざ知らず、主という曖昧なもののために命を賭けるなどとは。

 信徒も極まればこんなにも盲目的になってしまうのかと、ミッテルトは改めて感じた彼女たちの信仰心にゾッとするような感覚に襲われる。

 

 

「話は以上だ。邪魔をしたね」

 

「お邪魔しました〜!」

 

 扉の向こうへと移動する二人。バタン、という音と共に外の景色が閉ざされ、その姿は完全に二人の視界から消え去った。

 

 

 

 

 ゼノヴィアとイリナが去った後、ミッテルトはリビングへと移動し(くつろ)いでいた。しかしその雰囲気は寛ぐ、というにはあまりにも重苦しいもので。特にミッテルトに関しては口を真一文字に閉ざし、俯く顔は心なしか青ざめていた。

 

(コカビエル様がこの町に……)

 

 ミッテルトの脳内では先ほどの教会二人組との会話が繰り返されている。

 堕天使コカビエル。『戦争狂』と、敵味方問わず囁かれるその二つ名。争いを好み、戦いの中にこそ生の実感を得られる、まさに生粋の戦人(いくさびと)。そんな性格からか『神の子を見張る者』でもその存在感は一際大きく、また近寄り難い堕天使でもあった。

 しかしその実力は本物だ。先の大戦を戦い抜いた手腕は相当なものだろう。総督であるアザゼルよりかは力は劣るだろうが、その他幹部のバラキエル、シェムハザとはなんら遜色ない力を有している。そんなコカビエルにミッテルトは憧れた。性格や言動にこそ難がある堕天使だが、それでもミッテルトにとっては羨望を抱く一人であった。

 

 しかし彼女が憧れを抱く堕天使は現在、エクスカリバーを強奪してこの町に潜伏しているという。その事実にミッテルトはただならぬ恐怖を覚える。

 コカビエルが何をしようとしているかは知らないが、彼の性格から十中八九争いごとの類で間違いはない。そして先も言った通り、コカビエルは相当な実力者だ。彼がその気で力を振るえば、こんな町などすぐに瓦礫の山と化してしまうだろう。

 教会から派遣された二人に、この町を収めるリアス・グレモリーとその眷属たちもいるが…………はっきり言ってコカビエルを止めるには遠く及ばない。もはやこの町に残された選択肢は一つ、壊滅のみだ。

 

 無論、この町にいる自分もその余波で死ぬ危険性がある。できることなら一刻も早くこの場から逃げ出したい、そう心が訴えかけてくるのだが

 

「……華霖、どこいったんすかねぇ」

 

 リビングにない華霖の姿に、ミッテルトは不安気な声を漏らす。教会の二人が出て行った後、華霖もまた、家を後にした。

 あんな話をした後だからか、なにか、とてつもなく嫌な予感がする。その『なにか』が何なのかはわからないが、ミッテルトは己の胸のざわめきが気になってしょうがなかった。

 もしかして──ミッテルトの脳裏にある予測が浮かび上がる。それは彼女にとって最悪なもので、そしてかなりの現実味を帯びたものだった。

 

「いやいや、そんなわけないっすよ。きっとただ出かけてるだけっす、うんそうに決まってるっす」

 

 不安を拭い去るように大きな声を出し自分に言い聞かせる。だがそれだけで消えるものではなく、ミッテルトは椅子から腰を上げ台所へと向かう。

 

「もう夕食の時間だし、華霖がいつ帰ってきてもいいように作っておきますか!」

 

 イリナから受け取った袋から食材を取り出し調理を始めるミッテルト。鼻歌を歌いながら手を動かすその後ろ姿は、楽しそうというよりもむしろ……。

 

 

 大丈夫、きっと何事もなく帰ってくる。いつものように何も言わずに玄関の扉を開ける筈だ。そして『ちゃんとただいまを言え』と、そう叱る自分へ面倒臭そうにしながら『ただいま』と、可愛げなく言うだろう。

 そんないつものやりとりを想像しながら、ミッテルトは小さく笑みをこぼす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──結論から言うと華霖は帰ってきた。

 しかしそれは夜というには遅すぎる、日付が変わる時間帯で。そしてその手には一人の傷だらけの少女を抱えての帰宅だった。

 

 

 

 

 

 

 





という感じです。
次話では華霖が帰宅する前の話を書こうと思っています。

わかっている方は多いと思いますが、一応説明を。
第3巻内での時間軸でいうと、今回の話は一誠がリアスからケツ叩きを受けるちょっと前の時間帯です。
ということは次回は……。

さて、話は変わりますがついに始まりましたね『仮面ライダービルド』。
デザイン的には結構好みなので、かなり期待が持てます!
一週間の楽しみである仮面ライダー。その最新作。さてさてどうなるでしょう。

あ、ちなみに私は文系ですので、彼の『文系即死キック』には目を回しました(⌒-⌒; )


では、次話も気長にお待ちください!

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