かなり久しぶりの投稿になりますが、よろしければどうぞ。
悪魔・天使・堕天使のトップが集まる『三すくみの会談』当日。
『なに? 三大勢力のトップの会談? てことはあれか、堕天使からアザゼル、悪魔からサーゼクス、んで天界からはミカエルが集まるってか?』
通信機越しに聞こえるラザードの声は、驚きつつも面白いものを聞いたような喜色を帯びている。
かの大戦で火花を散らし、その後も冷戦状態をとっていた彼らがまさか同じ舞台に立とうとは。『
耳元に通信機を当てていた華霖は、ラザードの声の大きさに顔を顰め右手を耳から離す。
『だはははっ! はー、腹いてぇ……ったくあいつら、俺がいないところでなに楽しそうなことしてんだよ』
「ラザード、うるさい……」
『おぉわりーわりー。でもよ、そのメンツが顔合わせるなんて、想像したら笑いが止まらねぇよ! しかもあのミカエルだぜ? あの「The・信者」がそんな場所に顔出すってんだから、こりゃ最高の笑い話じゃねぇか!』
笑い声は小さくなったが、その代わりにバンバンと激しく机を叩く音が聞こえてくる。どうやらこの会談は、ラザードのツボにドはまりしてしまったらしい。
三大勢力の関係をそこまで知らない華霖は、なぜラザードがここまで笑うのか理解することができなかった。
一頻り楽しんだラザードは、いまだ余韻を残しつつも話を先へと進める。
『んで、お前もその会談に出席すると。おいゼ……華霖よ。そりゃどういう風の吹き回しだ?』
先ほどまでと一転、訝しむように尋ねてくるラザード。
彼が知る華霖という少年は、こういった場に出ることに後ろ向きだし、何より興味を一切持たないはずだ。だが現実、華霖は会談に出ると言った。
ラザードにとって、そこが何よりも不思議でならなかったのだ。
「……冥界で、僕の知らないコアメダル、見つかった」
『コアメダルが? お前以外に、そいつを持ってるやつがいたってか?』
コアメダルは華霖が有しているものしか存在ない。それは華霖本人が言っていたことだ。
ラザードの問いに、華霖はサーゼクスが見せたあの黒いコアメダルを思い返し
「わからない。だから、それを知るために参加する」
小さく首を振る。
謎のコアメダル擬き。それがいったい、どのようにしてこの世に現れたのか。それを解決するためには会談に参加し、サーゼクスから情報を得なければならない。
『なるほどな、そういうことか』
ようやく、華霖が会談に出席をする理由を知ったラザードは、うんうんと通信機越し頷く。
ここ百年と少しの付き合いだが、彼と彼の内に眠るコアメダルの出生について、ラザードもその詳細を把握しきれていない。してると言えば、彼が人でも人ならざる者でもない『何か』だと言うことと、彼をそうたらしめているのが『コアメダル』だと言うことだけ。
だが今回の会談で、もしかすれば彼らも知らないその出生を知ることができるかもしれない。
『だったら見つかるといいな。お前の探しもんが』
「……うん」
どこか柔らかくなったラザードの声に、華霖は短く返す。
全ては明後日に──。
『ちなみにだが、会談ってのはどこですんだ?』
「……場所は駒王学園」
『ふーん、なるほどなー』
********
時は過ぎ、会談当日。
いつものローブを身に纏った華霖は自宅のソファーに腰をかけたまま、ただ静かに迎えが来るのを待っていた。
そんな彼の前では
「……」
うろうろ、うろうろ……。
右へ左へ部屋の中を忙しなく歩き回り
「…………」
そわそわ、そわそわ……。
椅子に座ったかと思えば体を揺らしたり、両手の指を頻りに動かしたり
「………………」
かちゃかちゃ、かちゃかちゃ……。
再び立ち上がってはもう何度目か、食器棚の中を掃除しだす。
まるで落ち着きがない同居人──ミッテルトの様子を一通り眺めていた華霖は、ようやくその重い口を開いた。
「……ミッテルト、何してるの?」
「うぇっ!? いやっ、そのっ……ちょっと落ち着かなくって……」
ビクリッ、不意に声を掛けられ変な声を上げたミッテルトは、言葉を詰まらせながら視線をあちこちに向ける。
明らかに挙動不審な彼女に、華霖は小さく首を傾げ
「落ち着かないって、なんで?」
「だって三大勢力のトップが集うんすよ!? むしろ華琳がそんなに平気そうなのかこっちが聞きたいくらいっす!」
普通の感性をしていればミッテルの行動が当たり前なのだろうが、生憎と相手をしているのはあの華霖だ。
何事にも無関心を貫いている彼の心臓は、一切の乱れなくゆっくりと心音を刻んでいる。
「うちは心配なんすよ。あんたが何かやらかさないかが……」
華琳のことだ。自分が興味のない話の場合、我関せずの精神で無言を貫くだろう。いや、下手をすれば眠るまである。
これまで敵対関係であった三勢力が揃うのだ。どんな些細なことが切っ掛けで争うが起こってしまうのか……ミッテルトには想像はできないが、もしかしたら華霖の態度が火種になってしまうかもしれない。
そうなってしまえばこの世はどうなってしまうか、結果は火を見るよりも明らかだろう。
故に、ミッテルトは華霖の隣へ腰を下ろすと、ずいっ、と顔を寄せる。
「いいっすか? 興味がないからって寝たりしたら駄目っすよ。参加するからにはしっかり話を聞くこと」
「……別に、関係ない話は、聞く必要がない」
「い・い・か・ら! うちとの約束っす!」
有無を言わさぬミッテルトに、華霖は少し不満そうに視線を下に向ける。
すると横から小指を立てた右手が映り込む。
「ほら、指切りげんまん」
「…………わかった」
数秒間を置くも、華霖は小さく頷き右手の小指を彼女の指に絡める。
「ゆーびきーりげーんまーん」
ミッテルトの声だけが室内に響き、そして二人の指が静かに離れる。
それと時を同じくして、部屋の隅に魔法陣が浮かび上がり、中から銀髪のメイド服の女性──グレイフィアが姿を現した。
「お久しぶりでございます。会談の時間が近づいてまいりましたので、お迎えに上がりました」
礼儀作法に特に詳しいわけでもないミッテルトが見ても『完璧だ』と、そうわかる一礼をするグレイフィア。
流石は魔王の侍女。動作一つとっても無駄なく洗練されている。
ミッテルトが無駄な関心をしている傍らで静かに腰を上げた華霖は、未だ浮かび上がる魔法陣へ向けて足を進める。
離れていく小さな背中を、ミッテルトが心配そうに見つめていると。
不意に、顔だけをこちらに向けた華霖は
「……ミッテルト」
小さく、不安気な彼女へ声をかけ
「……行ってきます」
あの時のように、けれども今度は自分からその言葉を口にする。
不安が重なっていたミッテルトは、華霖が自分から言ってきたことに驚き目をぱちくりとさせるが
「行ってらっしゃい。約束、ちゃんと守るんすよ?」
いつものように笑顔で彼を見送ると
「……わかってる」
「それでは参ります」
グレイフィアの言葉を合図に、二人の姿が光に包まれていく。
光が霧散した後、そこにはもう華霖の姿はなく、今ではもう見慣れた部屋の壁がシンと広がっていた。
************
視界が光に包まれたかと思うと次の瞬間、眼前には見知らぬ部屋が広がり、顔も名も知らぬ人物たちの視線が華霖を捉える。
「やぁ、よく来てくれたね。ありがとう」
柔和な笑みを浮かべそう声をかけるのは、数日前に華霖の家を訪れたサーゼクス。
「あはっ、君がサーゼクスちゃんが言ってた子だね☆ 話に聞いてたけど、本当に子供なんだ☆」
その隣では黒髪ツインテールの少女が快活な笑みを向ける。
彼女はセラフォルー・レヴィアタン。サーゼクス同様、冥界を治める魔王の一人である。
「彼がコカビエルを止めた人間ですか……なるほど、確かにただの少年ではなさそうですね」
さらにその隣。頭に光る輪を浮かべた端正な顔立ちの青年──天使の長であるミカエルは、華霖を見て何か納得したような表情を浮かべている。
そんな超大物たちから注目を浴びている華霖の元へ、一人の人物が近づいてくる。
「よぉ、お前かコカビエルをやったのは。迷惑かけちまってすまねぇな」
そう謝罪の言葉をかけるのは、堕天使の総督アザゼル。
彼は華霖の目の前まで来ると、品定めをするかのように体のあちこちへ視線を向ける。
急にじろじろと見られたことに、華琳はやや不快そうに視線を鋭くさせ
「……なに?」
「いやな、コカビエルがガキにやられたって聞いたからよ。どんな奴かって気になってたんだが……なるほどな」
アザゼルは一人納得したように頷くと顔を離す。
いきなり全身を舐めるように見られた華霖は、不満げにアザゼルを睨みつける。
だが、そんな視線を気にも留めず、アザゼルはおもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべ
「お前が体の中に何か飼ってる何か、それがコカビエルを倒した力の正体か」
「……っ」
この場に来て、初めて華霖の表情が崩れる。
自身の体の中に眠るコアメダルたち。それを見ただけで感じ取ったアザゼルに、驚愕を隠せなかった。
「まぁ、それが何なのかはさっぱりだが……だからこそ、面白ぇな!」
直後、少年のように瞳を輝かせ、アザゼルは華霖の両肩を力強く掴む。
研究者としての血が騒ぐからか、興奮が抑えられていないアザゼルの手は、かなりの力が込められ
「……痛い、離せ」
「おっと悪ぃ悪ぃ、つい興奮しちまってよ!」
肩から伝わる痛みに、華琳はアザゼルを睨みつける。
力をこめすぎていたことにようやく気付いたアザゼルは、すぐに両手を離し、今度はバシバシと肩を叩く。
またも力を込められ、華琳はより一層鋭い視線を向け
「コカビエルを倒す力。確かに興味深いな」
不意に割り込んできた声に、華霖の意識はそちらへと向けられる。
そこには、銀髪の青年が壁に背を預ける格好で立っていた。
纏う雰囲気、内に秘めた力。そのどれもが、この場にいる者たちにも匹敵するもので
「本来なら、俺がコカビエルと戦うはずだったが……なるほど、キミと戦った方が面白そうだ」
こちらを見つめる透き通った青い瞳には、抑えきれていない闘争心がこれでもかと漏れ出ている。
青年から向けられる圧に、華琳はそっと、ローブの中にしまっているメダジャリバーへと手を伸ばす。
相手が敵意を見せてくるのならばやり返すだけ。そう言わんばかりの華霖に、青年は口角を上げ
「殺意を軽くぶつけてみたが、全く動じないか……うん、これは楽しめそうだ」
「やるなら、受けて立つ」
メダジャリバーへ手をかけた華霖も、青年へ殺意を返す。
一触即発、今にも始まりそうな雰囲気の中
──パンッ!
短く乾いた音が響き渡る。
音が聞こえてきた方へ、全員の視線が向けられ
「君たち、ここは会談の場だ。間違っても争いの場ではないよ」
小さな笑みを浮かべたサーゼクスが、両掌を合わせた状態で座っていた。
相変わらず穏やかな口調のサーゼクスに、毒気を抜かれた二人はぶつけあっていた殺意を抑える。
「ったく、ヴァーリ……強いやつ見かけたら殺意ぶつける癖をやめろよな」
「ははっ、すまないアザゼル。どうにも気持ちが抑えきれなくてつい、ね」
「ついって、お前……悪いなボウズ。あいつ、かなり戦闘狂でよ」
アザゼルは困ったように溜息を吐き、華霖へ詫びる。
華霖も特に気にしていないらしく、すでにメダジャリバーから手を離し、部屋の入口へと視線を向けていた。
すると
──コンコン
二度、ドアをノックする音が響き
「失礼します」
扉越しに、少女の凛とした声が聞こえてくる。
「さて、残りの主役も到着したことだし、みんな席についてくれ」
次いで扉が開き、紅の髪を靡かせた少女
「私の妹と、その眷属だ」
──リアス・グレモリーとその眷属たちが入室する。