第11話です!
サブタイは……規約違反じゃない、よね?
一誠達と別れ、暗い街道をひた走る華霖。先にフリード達を追ったイリナ達はおそらく、すでに彼らと交戦している頃であろう。
「アンク、『声』はどう?」
『聞こえてるぜ。しかも奴さん、数もぞろぞろいやがる』
「決まり。そこ、拠点」
戦力が集約しているということは、すなわちそこが敵の本陣ということ。さらに言えば、そこにコカビエルがいるということだ。
一段階、走る速度を上げる。一刻でも早く、奴らの拠点へ。
********
駒王町の外れにある、もう誰も住んでいない廃れた廃屋。外観は珍しい洋館めいた建物で、その外壁にはいたるところに植物の
ある種、ホラー映画に出てきそうなそんな洋館には現在、剣戟が鳴り響いていた。
「はあぁっ!」
気合のこもった一声とともに、木場は己の
「邪魔だ、どけ!」
叫びながら身の丈ほどある大剣を振るうのはゼノヴィア。今はフードを取り払い、その青髪を靡かせながら次々と敵を斬り伏せる。
彼女の振るう大剣は7つに分かれたエクスカリバーの一つ『
「それっ!」
そして最後はイリナ。彼女もまたフードを脱ぎ、栗色のツインテールが宙に舞う。その手にある剣はゼノヴィアとは対極の細身の刀身、形だけで言うのならば刀に酷使したそれを振るい、一人、また一人と敵を沈めていく。
彼女が振るう剣もまたエクスカリバーの一つ。その名も『
木場たちがこの廃屋にやってきてすでに10分ほどの時間が経過した。その間、三人はそれなりの数のはぐれ祓魔師を倒したのだが、それでも数は一向に減る気配すら感じない。
「くそ! いったいどれだけいるんだ、こいつらは!」
『戦争狂』と謳われたコカビエル。かつて起きた大戦で猛威を振るったその指揮能力、そしてある種のカリスマと呼べる呼べるものは相当なものだっただろう。
次々と湧いて出てくるはぐれ祓魔師達も、コカビエルのカリスマによってその傘下に収まった者達だと考えれば、そのカリスマ性の高さも伺える。
まるで底が見えない敵の戦力。対してこちら側の体力は時間が経過するとともに徐々に削られていく。一人一人は大した戦闘力はないにせよ、それでも数の暴力というものは凄まじいものがある。
まだ余裕があるとはいえ、コカビエルと戦う前にこれ以上体力を消耗するのはまずい。
「さすがに多すぎ……っ!」
「──っ! イリナ、後ろだ!」
「え──」
まるで減る気を見せない敵の戦力。10分そこそことはいえ、それほどの時間殺気に当てられ続け、また集中し続けたイリナ。
そんな彼女はほんの一瞬、時間にすれば瞬きほどの間だが、集中力を途切らせてしまう。だがそれは多対一、ましてや囲まれての集団戦においては致命的なまでの油断で。
ゼノヴィアの一言で我に帰り、即座に視線を背後へ移すイリナ。そこには光の剣を振り上げ、今にもそれを振り下ろしてきそうな敵の姿が。
まずい──頭で理解していても、体はその攻撃に対処できない。
そしてはぐれ祓魔師がイリナへ向けて剣を振り下ろす──
《チーター!》
室内に響く、場に不似合いな異質な機械音。それとほぼ同時、イリナの目の前の、いや彼女の眼前に移るはぐれ祓魔師が全て地面に倒れこむ。
その奇怪な光景にイリナ、そしてゼノヴィアや木場までもがその目を丸くする。
「なんだこのガk──」
次に背後から、敵の驚愕した声が聞こえてくる。その声に引っ張られるようにイリナが視線を動かすと、そこには大剣を握りしめる黒ローブの少年──華霖の姿があった。
まさか今のはこの少年がやったことなのか。信じられないことだが、事実、彼以外に当てはまる人物はいない。
「キ、キミ──」
「まとめて片付ける。うまくかわして」
そう言いながら、華霖は右手に一枚の青いメダルを握りしめ、大剣の投入口へとそれを入れる。そしてレバーを一押し。
《ウナギ!》
「へ? ウ、ウナギ……?」
大剣から鳴るのは新たな音声。しかしなぜ『ウナギ』なのか。イリナが首を傾げていると、少年の持つ剣に青光りする稲妻が迸る。
それを見た三人は、先ほど華霖が言った言葉を頭の中で繰り返す。そしてそれぞれ、次に来る何かを予想し大慌てでことに備え始めた。
「くそ、正気か!?」
「ちょちょちょ、盾! たて、タテ、盾ぇぇええ!」
「サ、
ゼノヴィアは剣を地面に突き立て壁へ。イリナはその形状を身の丈ほどの盾へと変形。そして木場は新たに、黄色の塗装をされた剣を創り出す。全員が全員、必死の形相だ。
彼彼女らが準備を整えたのとほぼ同時、華霖は大剣を横薙ぎへと振るう。
「全員、散れ」
バチッ! バリバリバリ──ッ!
まるで空気が裂けたのかと思うほどの放電の音が室内を揺らす。そして数秒、青白い色が全てを染め上げ、イリナ達の耳にはぐれ祓魔師の絶叫が響き渡る。
断末魔のような彼らの叫びが止む頃、放電もその勢いをなくし室内に暗闇が戻る。シン、と先ほどまでの騒音が嘘のように静まり返り、三人がそれぞれ視線を部屋のあちこちに移すと──そこには身体中から煙を上げ地面に倒れ伏す大量のはぐれ祓魔師の姿が。
「うひゃー……」
「これはなんとも……凄まじいな」
「ははは、間に合ってよかったよ」
三者三様、目の前の光景に反応を示す。あれほどの数のはぐれ祓魔師が一瞬で戦闘不能になったのだ。驚くのも無理はないだろう。
「前座はいらない。コカビエル、出てこい」
倒れこむ敵に目もくれず、華霖は部屋の奥へと足を進める。次いで木場達もその小さな背中を追い、次の部屋へと続く扉を通り抜けた。
「──ほぅ、よもやこれほど早く辿り着くとはな」
部屋の奥。反対側から聞こえてきた男の声。わずかに関心したような一言、そう、ただの何気ない一言のはずだ。
「──っ!!!」
「あれが、コカビエルか……」
重くのしかかるプレッシャーに息を飲むイリナ。そしてゼノヴィアは奥に潜む人物を視界に捉え呟く。木場も冷や汗を流しつつ、その手に魔剣を創り臨戦態勢をとる。唯一、華霖のみが表情を変えず部屋の向こうへと視線を向けている。
彼らの視線の先には大きな肘掛椅子があり、そこには一人の男が座っていた。黒いローブに装飾を施したその人物こそ、今回の事件の原因を作った男。聖書に記された堕天使コカビエルである。
コカビエルは椅子の肘掛部分を使い頬杖をついており、四人の侵入者へとその力強い眼光を向ける。
「下級悪魔に人間か……。珍しい組み合わせもあるものだ」
その視線は木場、ゼノヴィア、イリナと順に向けられ、最後の一人──華霖に向けられた瞬間、その瞳はわずかに見開かれる。そして口元は大きく弧を描き、嬉々とした表情を浮かべ。
「かはっ──はははははっ! いい、実にいい! これは予想外の珍客が現れたものだ!」
立ち上がり四人を、いや華霖を見ながら嗤うコカビエル。なぜ彼が急に笑い出したのか、イリナ含め他二人はその表情に疑問を貼り付ける。
なぜ彼が喜び嗤うのか。それを知るのはこの場においてただ二人のみ。
一人はもちろん、今もなお狂ったように嗤うコカビエル。そしてもう一人は
「あの日の決着、付けに来た」
静かに、だが確かに気合のこもった一言をぶつける華霖だ。大剣──メダジャリバーを構え直し、華霖は臨戦態勢を整える。
そんな華霖に気を引き締め直した三人もまた、各々の武器を構えコカビエルを睨む。
しかしそんな三人の威嚇など歯牙にもかけず、コカビエルの瞳はただ一人、華霖にのみに注がれていた。
「決着か。ああ、そうだな。あの時、うやむやに終わった一戦。俺の中で燻っていたあの続き。時が流れ、もう二度と相対することがないと思っていたが」
懐かしむような表情で、静かに、そしてゆっくりと言葉を並べるコカビエル。
「よもやまた、貴様とこうして巡り会うとは。幾つか疑問があるが、今この場においては些細な問題だ」
「世間話、しに来たつもりない。構えろ」
「……ああそうだな。言葉など、幾つ並べようが意味は持たん」
右手を水平に上げ、コカビエルは手の先に光の槍を作る。一段階重くなるプレッシャーに、華霖以外の三人はわずかに体を震わせる。それは武者震いか、それともあるいは──。
「では、始めるぞ」
「……こい」
死合い、開始──。
********
──なんて戦いだ。
目に映る戦いを見て、木場はただただそう感じた。
コカビエルはさすがは堕天使の幹部といったところか。四対一であるというのにまるで数の差を感じさせない。いやむしろ、こちら側に防戦一方の展開を強いている。
振るわれる『隻腕』から放たれる光の槍は並の悪魔なら一瞬で塵に、人間ならば跡形もなく粉々にされるであろう威力を秘めている。しかもそれらはコカビエルにとってはなんら特別でないただの一撃だ。
しかし防御に回る中で唯一、コカビエルへ肉薄する影が一つ。それはこの場において見た目は一番幼い少年、華霖だ。一撃一撃が死につながるものだとわかっているはずだが、単身斬り込んでいく姿に恐怖心は一切ない。
縦横無尽なフットワーク、そして人間離れした身体能力。それらを駆使し、コカビエルの一撃を躱しながら懐へと潜り込み、または死角へと入り込み武器である大剣を振るう。しかしそれらも悉く防がれ、一撃と言える傷は与えられていない。
だがこうして木場達が防戦を行えているのも、ああして華霖がコカビエルの気を引いているおかげだろう。
「はははははっ! この高揚、久しぶりだ!」
吠えるコカビエル。華霖と一撃を交える度その攻撃の鋭さ、そして威力はどんどんと上がっていく。
「あちらにばかり気を回していいのか!?」
攻撃が止む隙をつきゼノヴィアが突撃。そして跳躍し宙に舞う堕天使目掛け、破壊に特化した一撃をお見舞いする。
「破壊に特化した聖剣か! だが、所詮は壊れ物!」
コカビエルは光の剣を作り対抗。ぶつかり合った両名の武器は拮抗し、ヂリヂリと火花を散らせる。だがそれもわずかな時間の出来事だ。人間であるゼノヴィアと堕天使の幹部、どちらに軍配があがるかと言われれば当然後者だろう。
力任せに振るわれる光の剣。それだけでゼノヴィアの体は地面へ押し返され、勢い良く叩きつけられる。
そして追撃。光の槍がまだ立ち上る砂煙りへ向けて降り注ぐ。
「ゼノヴィア!」
「──安心しろ、無事だ!」
辛うじて回避に成功したゼノヴィアが煙の中から姿を表す。ほっ、と安堵の息を吐くイリナ。
しかしこのままではまずい。確かにあの少年のおかげで辛うじて防戦できているものの、このままではジリ貧だ。いずれこのままでは押し切られてしまう。
次々と嫌なイメージが湧き上がってくるイリナの耳に、凄まじい衝撃音が聞こえてくる。慌てて視線をそちらに向けると、そこには片膝を地面につき、口元から一筋の血を流す華霖の姿があった。
「どうした、貴様の力はそんなものではないだろう! 本気を出せ!」
そんな華霖へ向け、コカビエルは怒声にも似た言葉を浴びせる。
地面に剣を突き立て、それを杖代わりにして立ち上がる華霖。袖で口元の血を拭い、フードを取り払うと黒い双眸でコカビエルを見上げる。
「だったら、少し本気、出す」
そう言い、懐へ手を伸ばす。そして取り出したのは三つの装填口が設けられた見慣れぬ何か。
華霖が取り出したその何かにイリナたちの視線が集まる。いったいあんな小さなものでどうやってコカビエルと渡り合うのか。
『……やるんだな』
「うん。アンクたちも、よろしく」
真剣な声音で問うアンク。一言、彼女にそう返し、華霖は取り出したそれ──『オーカテドラル』を腹部へ当てる。するとどうだろう。オーカテドラルの側部からベルトが伸び、腰に装着されたではないか。
「アンク、カザリ、ウヴァ……よろしく」
『ま、王サマの頼みだ、仕方ないさねぇ』
『無茶だけはしないでねー』
聞こえるのはウヴァと若い青年──カザリの声。すると華霖の右手に赤、黄、緑の計3枚のメダルが現れ、それらを握りしめる。
そして掴んだそれらを右から赤、黄、緑の順でオーカテドラルの装填口へと装填、さらに斜めに傾ける。
「いったい、何をするつもりなの……?」
その一連の行動を端から見守るイリナはゴクリと息を飲む。
そして最後に華霖は腰側部に付属した丸い物体を手に取る。するとその物体──『オースキャナー』から待機音のような音声が流れ、華霖は装填したメダルの上からスキャナーを滑らせる。
──キン! キィン!! キィィイン!!!
メダルを一枚読み込むごとに甲高い音が鳴り響く。そして最後の一枚を通過したその後、華霖は一言、呟くように漏らす。
「……変身」
《タカ! トラ! バッタ!》
「は、タカにトラ? それにバッタって……」
タカとトラはわかる。だがバッタとは、どうイメージをしても強い印象が湧いてこない。
なんてことを考えている間にも、華霖の『変身』は続く。
室内に木霊するは3種の生物の名。それぞれの名前が呼ばれるごとに華霖の頭、胴、足を中心に無数のメダルが回る。
《タ・ト・バ! タトバ ! タ・ト・バ!》
次いで、華霖の頭に流れてくる軽快なメロディー。すると回転するメダルの中から3枚、装填したメダルと同じものが眼前に現れ合体。一つのメダルと化したそれは華霖の胸に吸い込まれるように引き込まれ──全身が金色に発光する。
一瞬のことだが、唐突の発光に思わず目を閉じるイリナ。そしてすぐに目を開けると、そこには華霖ではなく一体の異形が立っていた。
「なに、あれ……?」
「姿が変わった、だと……?」
「これは……」
姿の変わった、いや『変身』した華霖の姿を目にし、イリナたちは今日何度目かの驚愕の表情をする。対しコカビエルはその笑みを深め、その10枚の翼を大きく羽ばたかせた。
「待っていたぞ、その姿を! さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか!」
窓から漏れる月明かりの下、歓喜の声が鳴り響く。
というわけで、ようやくの変身。
長かった……11話も使うとは思っていなかったです。
皆さんに後2、3話といった手前、間に合うように調整しました!
いや〜間に合ってよかったです!
では、次話も気長にお待ちください!