独自設定や独自解釈が多数存在するので、どうか目を瞑っていただければなと思います。
それでは、プロローグをどうぞ!
冥界。そこは悪魔や堕天使など、人ならざるもの達が住む異世界。太陽はなく、空は昼夜問わず紫色の何かが覆い尽くし、どんよりとした雰囲気を醸し出す。
そんな冥界のとある森の中、二つの影が対峙していた。
一つは異形。その姿を端的に言い表すのならば『二足歩行をする牛』と言えばいいだろうか。だがその体躯は3メートルを超える巨体で、頭部に生える二本の角は禍々しく捻れている。
そして極め付けはその両腕。普通の牛ならば蹄になっているであろうその手は、まるで人の手のように五本の指があり、しかしながら人ではあり得ない鋭く尖った爪が生えている。
「AA級はぐれ悪魔のミラノス、やっと見つけた」
そんな異形相手に淡々とした口調で言うのは、黒いローブに身を包んだ男。いや、身長が160そこそこしかないところを見るに、少年といったほうが正確かもしれない。
「依頼により、ここでお前を始末する」
そう言い、彼がローブの内側から取り出したのは一振りの剣。刀身の中央に三つの円状の穴があることと、少しメカニカルな外観を除けばいたって普通の剣だ。
ミラノスは相手が武器を取り出したことにさしたる興味も抱かず、むしろその発言に眉根を
「俺がAA級だと知っていてその言葉を言っているのか?」
返ってくる言葉はない。
「……まぁいい。知っていて尚且つ単身で挑むその愚かさに免じ、一思いに殺してやろう」
「無理。お前じゃ僕は殺せない」
「──ほざくな、ガキがッ!」
咆哮の如き声で叫ぶミラノス。そして両者はそれを合図にほぼ同時に駆け出し、各々の獲物を振りかざす。
《トリプル・スキャニングチャージ》
戦闘が始まっておよそ数分、戦場に機械じみた音声が響き渡る。そしてズズン、と何か重いものが地面にぶつかる音が次いで響く。
「だから言った。お前じゃ僕、倒せないって」
少年は手にした剣を地面に突き立て、眼前に倒れ伏す異形の肢体へ視線を落とす。その巨体のいたる所に斬撃の痕が残り、右手の肘から先にいたっては存在していない。自慢であろう禍々しい角も切り落とされ、根元数センチほどしか残されていなかった。
しかしそれらはただの手傷だ。ならば彼の命を奪った最たる原因はと聞かれれば、それはその巨体が右肩から左腰にかけて斜め一文字に切り離されていることだろう。
ミラノスの分厚い筋肉も物ともせず、まるで豆腐か何かを切ったかのような綺麗な斬痕。素人目でもこれが勝敗を決した一撃であると理解できるだろう。
その存在が異形のものであるとしても、一つの命を奪ったという事実は変わらない。だが少年は大して気にした様子もなく、まるでそれが当然であるかのように、遺体から視線を外す。そして懐から携帯電話のような機械を取り出し、軽く操作し耳に当てる。
『おぅ俺だ』
「僕。依頼終わった」
『のようだな。了解だ、後で報酬は送っておく』
短いやり取りが終わると、プツン、という音とともに通話が途切れる。
少年は機械を懐に戻すと、剣を地面から抜きその場を後にした。
********
場所は変わり、日本の駒王町。時間帯にして日付が変わって少し経った頃、人気のなくなった路地を一人の少女が歩いていた。
「あーしんどいっす。ったく、だからグレモリー家の縄張りでやんちゃなんてしたくなかったんすよぉ……」
なんでレイナーレ様達ってあそこまで自信ありげだったんすかねぇ。若手とはいえ上級悪魔の縄張りで問題起こしたらあーなるって、普通だったらわかるはずなんすけど……。
「結局、レイナーレ様もドーナシークもカラワーナも死んじゃったすねぇ……」
にしても、リアス・グレモリー本人が出向いてくるのは意外だったっす。なんすかあの無茶苦茶な力、ドーナシークとカラワーナなんて瞬殺だったすよ?
まぁ? 将来堕天使を統べる予定のこのミッテルト様は無事に逃げられたすけど。いやまぁ、無事ではないっすね……うん、命からがらの逃走だったす。おかげで身体中はキズだらけで服もボロボロ、飛ぶ力も残ってないって始末っす。
「にしても、これからどうするかって話っすよ」
今回の一件はうちら、っていうかレイナーレ様の独断行動で行ったことだし、『
でもそれ以外に行くあてなんてないし、もうじきリアス・グレモリーが逃げたうちを追ってくるだろからすぐにここを離れたいんすけど、今のボロボロの状態じゃ満足に歩けもしないっす。
…………あれ、うちって結構詰んでね? このままじゃ間違いなくバッドエンドじゃね? マジヤバくね?
「ぬぁああああ! 頑張るっすうちの身体ぁ! 限界なんて越えてみせるっす!」
痛む身体に鞭をビシバシと叩き込み、歩く速度を無理やりにでも上げる。だが身体は正直なもので、数メートルもしない内に足がもつれて倒れこむ。
……あー、なんかもうどうでもよくなってきたっす。この先どうせ碌なことしかないってわかってるんすから、いっそのこと潔く殺られる方が楽かもしれないっすねぇ。
決して命を軽んじているわけではないが、一度諦めてしまうと立ち上がるのは難しい。うちは倒れこんだまま瞼を下ろし、いずれ来るであろうリアス・グレモリーの眷属を待った。
そして時間にして約1分……やけに早い様に感じるが、遠くから誰かの近づいてくる足音が聞こえてきた。徐々に、だが確実に靴音は大きくなり、目の前ほどまで来たであろう時その音は止んだ。
奇妙な静寂に包まれるが、うちは目を開けることなく倒れこんだままの状態をキープする。もしかしたらこのまま見逃してくれるかも、そんな淡い期待というか生への執着というか、醜い何かが無意識にそうさせた。
そして死んだふり?を続けること約30秒。不意に背中と膝裏に何かが触れた感触がしたかと思うと、次の瞬間うちの身体を浮遊感が襲う。そして再び靴音が鳴り始め、それに合わせてうちの身体も上下に揺れる。
あれ、これってあれっすか、運ばれてるってやつっすか? お姫様抱っことかされちゃってるやつっすか?
わけが分からずうちが目を開くと、視界に映ったのはリアス・グレモリーでもその眷属でもなく、闇の様に黒いローブに身を包んだ一人の人物だった。するとローブはうちが目を開けたことに気づいたらしく、フードに隠れて見えない顔をこちらに向け
「気がついた……大丈夫?」
男にしてはやや高いアルトボイス。その言葉を聞いて敵じゃないことがわかったうちは、疲労と安堵と緊張から解放されたからかそのまま意識を手放した。
********
「う……んん……ここは、どこっすか……?」
目を覚ますと、そこには知らない天井が。
あれ、うちって確かリアス・グレモリーに殺されかけて、それで逃げ出して、そしてその途中に道で倒れて……って!
「あのローブは──って痛っ!?」
急に身体を起こしたせいで傷が疼き、痛みで思わずしかめっ面になってしまう。だがそのおかげで冷静になることができ、観察するように周囲を見渡し状況を把握する。
知らない部屋、おそらくリビングであろうこの場所は机とタンスに冷蔵庫、そして現在自分が腰をかけているソファー以外何もないという殺風景な部屋だ。だというのに床にはゴミが散らばり、足場を見つけるのも一苦労なほど散らかっているのだから驚きである。
そして現状を把握する上で一番大事なのがうち自身が生きているということ。やはりあのローブの人間はグレモリー家と何の関係も持っていなかったわけだ。
「あ、起きてる」
すると部屋の奥の扉が開き、聞こえてきたのは昨夜聞いたローブと同じアルトボイス。次いで扉の影からその人物は姿を現し
「……は、子供?」
その意外な容姿に、うちはたまらずそう呟いてしまった。だが仕方ないだろう、身長は大きく見積もっても160前半だし、無表情を貼り付けたようなその顔は童顔だ。
え、子供ってことはあのローブとは別人? いやでも声は確かに同じだから。でもそしたらなんで子供があんな時間に外をほっつき歩いてたんすか? しかも黒いローブなんて怪しい格好をして。
「怪我してた。まだ痛む?」
「は? え、あ、まだちょっと痛むっすね」
「そう」
気づけば少年は目の前まで近づいており、心配しているのかわからない淡々とした口調で尋ねてきた。
ていうか聞いておいて『そう』って、ずいぶんと淡白な子供っすね。確かにうちも見た目は子供体型っすけど、こちとらあんたの何倍も生きてるんすよ。
とはいえそういったことは口には出さない。もしもここで正体をバラそうものなら、即刻追い出されるに決まっている。それに頭のおかしいやつだとか、厨二病にかかってるとか嫌な誤解もされるだろう。ここはなるべく堕天使であることを隠して、傷が完治するまでの隠れ蓑にするのが得策だ。
うちが考えをまとめていると、キュルルル〜、と室内に可愛らしい音が響き渡る。自然、うちはその音の発生源、つまりは腹部へ視線を落とす。
そういや、昨日のあれから何も食べてなかったすねぇ。夜飯も儀式がどうだとかで出なかったし、お腹が鳴るのも無理はないか。
「……お腹空いてる?」
「まぁ、昨日から何も食べてないっすから」
そう直接的に言わないで欲しかったっす。自分で考えるうちはまだしも、他人に指摘されると無性に恥ずかしくなるじゃないっすか!
少し朱に染まっているであろう顔を背ける。すると子供は無言で部屋を去り、1分後再び部屋へ戻ってきたときには、何やら大きな風呂敷を抱えてきた。そして風呂敷の中身を見せるや否や、うちは絶句した。
「なにすか、これ……」
「? なにって、朝ごはん」
さも当然のように返してくけど、一つだけ言わせて欲しいっす。
「栄養食は食事じゃないっす!!」
なんすか、この風呂敷いっぱいに広がる黄色い箱の山は! メープルにチーズにチョコにプレーン……あ、ベジタブルやポテトもあるんすね、知らなかったっす──って違う!
「山のように積まれたカロリーフレンドなんて初めて見たっすよ!」
「今のおすすめ、メープル味」
「いや、どっちかっていえばうちはチョコレートって、そうじゃないっす! もしかして、あんたの食事って三食これっすか!?」
小さく頷く子供。そしてがっくりと項垂れるうち。まさか今の子供がこんな食生活を送っているなんて思ってもみなかったっす。ったく、親はいったいなにをして──そういえば、この子供の親ってなにしてるんすかね。
「急な話っすけど、あんた親とかいないんすか?」
「……おや?」
「いや、首傾げられても困るんすけど。まぁ、だいたいはわかったっす」
どうやらこの子供、今まで一人で暮らしてきたみたいっすね。だとすればこの部屋の散らかりようも、食事が三食栄養食なのも頷けるっす。
「ちょいと紙とペン持ってきてくれないっすか?」
「わかった」
まともな料理が出てくるとは思っていなかったが、さすがに三食栄養食じゃ身がもたないっす。かったるいっすけど、うち自ら手料理を振舞うしかないっすね。
子供から受け取った紙にペンで必要なものを書いていく。冷蔵庫の中身は……この様子だと確認するまでもないっすね。
「一応聞いとくっすけど、ジャガイモと玉ねぎとか、そこに書いてある物が何かわかるっすか?」
「うん」
「じゃあそれを今から買ってきて欲しいっす。本当はうちが行きたいんすけど、生憎と怪我がまだ治ってないっすから」
よろしく頼むっすよ、部屋を出て行く少年の背に声をかける。そして子供がいなくなった後、部屋に一人残されたうちはソファーから立ち上がりゴミが散乱した部屋を見渡し
「さて、足場だけでもつくるっすかね」
まだ疲労や痛みが残る体に鞭を打ち、部屋の片付けを開始した。
主人公のイメージは某探偵ラノベの凄腕スナイパーの容姿を黒髪黒目にした感じです。
見た目を寄せたらキャラも近くなったっていう……。
いろいろ突っ込みたい所があると思うので、感想等で指摘お願いします!