艦隊これくしょん・蒼海へ刻む砲火   作:月龍波

6 / 12
5話:鎮守府近海遭遇戦

木更津駐屯地は今の日本国が大日本帝国であった頃から存在する拠点である。

 

元々は当時帝国軍海軍の航空基地として埋め立てられた場所であり、時代が流れ軍が自衛隊となった時も陸自、海自、米海軍と幅広く使用されている。

 

だが、2060年の今は深海棲艦の脅威に対抗すべく現在は日本海軍の拠点の一つとなり殆ど基地として改造されている状況であり、駐屯地という名は時代の名残から使用されているだけにすぎなかった。

 

そして龍波優翔の秘書艦である暁型2番艦【響】は【島風】と共に横須賀鎮守府からの物資輸送任務の為に訪れていた。

 

現在は物資を届け、運搬業務も終えた事を責任者に報告をしているところであった。

 

「――以上、全ての物資をお渡し致しました」

 

「あぁ、確認したよ。しかし相変わらず凄いな、艦娘というのは」

 

「……というと?」

 

責任者の男の言葉に首を少し傾げて問う。

 

男は少しばかり照れくさそうな表情で頬を掻いて周りを見渡す。

 

「なに、俺達男手でも手こずる荷物の量を軽く運搬できるものでな。ここにも艦娘は何人かいるが、その働き具合をいつ見ても驚かされるばかりだ。しかもこんな小さいのになぁ」

 

今回運んだ者はコンテナやドラム缶に積まれた鋼材や燃料が主であり、かなりの重量があるのは響にも分かっていた。

 

ドラム缶の燃料はともかく、コンテナの鋼材などは人間が運ぶには何人もの人手が必要どころか重機が必要だ。

 

それを海を滑走していたとはいえ、響と島風は人力で運び出しているのだから人間からすれば信じられないような物だろう。

 

それを可能にできる程の力を発揮できるのが艦娘なのだから。

 

とは言え、それほどの力を出すには艤装を装備している必要があり、装備を外している平時では人間よりも多少身体能力が勝っている程度なのだ。

 

「私達は艦娘ですから……それでは私たちはこれで」

 

「あぁ、またよろしく頼むよ。せっかくだ燃料の補給を済ませてから行くといいよ」

 

Спасибо(スパスィーバ)

 

男にお礼を言い、踵を返して歩き出し、島風が待っている湾岸部へと向かう。

 

帰り際に補給を受けられるの助かる事だった。

 

残りの燃料自体は帰りまで充分持つのだが、最悪を考えると補給ができるのならしておく必要があるためだ。

 

――軍人というのは、最悪な状況を常に想定し装備品、兵糧、水等これらの要素を全て万全な状況で挑まないと話にならん。例えば、極端だが準備を怠って全ての装備が半分程度の状況で補給の目途が付かなくなったら

もうその時点で負けだよ。結局は人は永久機関でも何でもないからな。

 

島風を迎えに行く時に自身の司令官である優翔が突如ぼやく様に呟いた言葉が脳裏に蘇る。

 

今の状況というのは、その最悪を考えるべきの絶好のタイミングとも言える。

 

残りの燃料は帰路には充分に残っていると言えども、もし深海棲艦との戦闘になればおそらく足りないだろう。

 

――もしかして、司令官はこういう状況になる事を理解してるから教えてくれたのかな?

 

実のところでは響は自身でも思っているぐらいに実戦経験が少なく、それは資料を読んでいる優翔も知れている事だ。

 

特に旗艦として行動する事など、駆逐艦がたった二隻だけとはいえ経験したことがない。

 

ともなれば、今回の輸送任務は良い経験になるという意味合いも兼ねての事なのかもしれない。

 

そこまで考えていたとするのであれば、優翔には頭が上がらない。

 

――あ、そうだ司令官に報告しないと。

 

思い出したように携帯端末を取り出し、履歴から優翔へと繋げる。

 

TEL音が鳴り響き、彼が通話に出るのを待つが少しばかり出るのが遅い。

 

もしかしたら、今は出られない状況なのだろうかと少しだけ不安な気持ちになってくる。

 

(私だ、どうした響?)

 

「司令官、今は大丈夫?」

 

(あぁ、大丈夫だ。それで要件は?)

 

どうやら、通話する分には問題ないようで少しばかり安堵できた。

 

だが、報告を済ませるために直ぐに気分を切り替えて口を開く。

 

「うん、輸送任務を終えたからこれから帰投するよ。ただ、受取先の責任者の好意で補給を済ませるから少しだけ遅れるかも」

 

(なるほど、了解した。補給については受けられるなら受けておけ。島風が駄々捏ねたら旗艦命令、もしくは私の名を出しておけ。備えあれば憂い無しだ)

 

「了解、それじゃ切るね」

 

(あぁ、分かった。警戒を怠らずに帰ってこい。私も直に戻る)

 

通話が切れ、端末をポケットの中へと押し込みため息を小さく付く。

 

口調からして、やはり最悪な事態を考慮している様であった。

 

彼から学ぶ事はこれからも多々ありそうであるが、優翔の性格からして教えを乞えば快く教えてもらえるだろう。

 

それよりも、旗艦としての立場とこちらの指示は優翔の名を出す許可を貰えた事で島風が文句を言っても切り返す事ができるのは大きい。

 

「響ちゃん、どうしたの?ボーッとしながら歩いて」

 

右側から声を掛けられて、ハッとしたように振り返ると、防波堤に座り込んで両足を揺らしている島風だった。

 

考えている間に島風の元にたどり着いたようだった。

 

「何でもない。運搬作業も終わったから補給をして帰ろう」

 

「えー?充分燃料残ってるし、補給していたら帰り遅くなるよ?」

 

やはりそう来るか、と予想をしていたが故にため息を我慢できず漏らしてしまう。

 

だが、こちらは既にカードを手にしているのだからさっそく使うことにした。

 

「ダメ。旗艦の立場としての判断で最悪の事態を想定して補給を受けるよ。燃料だけだし、そこまで時間掛からないから」

 

「えー……此処は鎮守府にも近いから大丈夫だと思うけど……」

 

「ダメ、さっき司令官にも報告したけど『補給を受けられるなら受けろ、備えあれば憂い無しだ』って言っていたからね」

 

「うっ……大佐の指示があるなら、分かった」

 

どうやら、優翔の名が出ると彼に叩き伏せられた事が記憶に新しいからか大人しく従うようにしたようだ。

 

――まぁ、逆らったら怖いというのは身を以て知っているからね……。

 

若干脅迫染みた事になったのは気分がよくないが、必要悪と考えるしかなかった。

 

「さて、それじゃさっさと補給を済ませて戻ろうか」

 

「りょーかい」

 

座っている島風に手を伸ばし、それを掴み立ち上がった島風を連れて補給所へと足を向ける。

 

此処からだと歩いて十分くらいかかるのだが、その代わりとして横須賀鎮守府へと一直線に帰れるのだ。

 

今の場所からでも鎮守府にたどり着く事は可能であるが、少し迂回しなければならない。

 

それを考慮すれば補給所へ向かうのは選択としては良い方なのだ。

 

 

 

 

四十分後、時刻はヒトサンサンマル。

 

補給を終えて鎮守府への帰路を辿っている二人は雑談も交えながら移動していた。

 

速度は比較的緩やかであり、消費を抑えながらの移動であった。

 

これも響の判断であり、無駄な燃料の消費を抑えるのと周囲警戒も交えての事だった。

 

「ねぇ、響ちゃん。速度上げて早く帰らない?」

 

「無駄に消費をするのは良くないよ。速度を上げると危険も伴うから安全第一だ」

 

後頭部で腕を組む島風の言葉を一刀両断し、響は周囲を警戒しながら進む。

 

後ろで島風が不満げな声が聞こえるが、一切無視する事にした。

 

「……ッ!!」

 

「どうしたの?」

 

「シッ……!」

 

突如止まった響に怪訝な表情で島風が問うも、前を塞ぐように片手を伸ばし周囲を改めて見やる。

 

――今、センサーに僅かな反応があった。

 

明らかに自分達では無い反応に、こめかみから嫌な汗が伝うのが嫌でも分かる。

 

このまま杞憂で終わればよかったが、現実はそう簡単な物では無かった。

 

響を中心として2時の方角に、僅かに見える黒い物体があった。

 

【駆逐イ級】深海棲艦の駆逐艦の一つであり、所々姿を現す先兵の様な存在だ。

 

「深海棲艦……!」

 

「……嫌な事って本当に起こりやすいものだね」

 

軽口を叩く響であったが、その思考は既に別の段階へと移っていた。

 

現状取れる選択枝は二つ、戦闘を行うか迂回して鎮守府へと帰還するかだ。

 

目視できる範囲とセンサーの反応から、相手はイ級一隻のみであり、こちらは二隻と数では勝っている。

 

戦力的に轟沈(おとす)事は十分可能であるはずだ。

 

――だけど、何か引っかかる……。

 

その選択に乗り切る事に躊躇しているのは響が感じている違和感が原因だった。

 

ただ単純な理由で、本当に一隻のみなのか分からないからだ。

 

この海域では横須賀鎮守府の近くという事もあり【駆逐イ級】が一隻のみで偵察活動染みた行動をとるのは知れているが、艦隊を組んで行動する深海棲艦も存在する。

 

仮にもし他にも深海棲艦が存在するのであれば、数の有利は直ぐに崩れ去ることになり一気にこちら側が不利となる。

 

そして迂回して鎮守府へと戻る選択だが、十分に可能だ。

 

今此方は二人とも停止している状況で、敵との距離もかなり遠く見つかっていない状況だ。

 

このまま距離を取り迂回する進路を取れば戦闘を行わずに鎮守府へと戻ることも可能だろう。

 

――……戦闘を行うにはリスクが高いかな、迂回して鎮守府に帰ろう。

 

リスクの事を考えると、戦闘を避ける事ができるのであればそれを取るに越したことはなかった。

 

臆病風に吹かれたと言われたらそれまでであるが、今は生き残る事が第一だ。

 

「……島風、敵はまだこちらに気が付いていない。迂回して鎮守府に戻ろう」

 

「何で!?相手は一隻だよ!?」

 

「冷静に考えて島風。敵は本当に一隻とは限らないんだよ。もし他にもいたら私達が不利だ。私達の任務はあくまでも輸送任務。敵と交戦するのが目的じゃ――」

 

「もうっ!臆病風に吹かれ過ぎだよ!!他が居たとしても私一人で倒せるよ!」

 

「島風ッ!!」

 

痺れを切らしたのか、響が言い終わる前に飛び出して【駆逐イ級】へと駆け出した。

 

何とか止めようと咄嗟に手を伸ばすが、僅かに届かずその手は空を切った。

 

島風の愚直過ぎる行動に思わず響は奥歯を噛み締める。

 

こうなってしまえば彼女はもう止められないし、止まる余地もない。

 

島風の独断行動だとはいえ、戦闘は始まってしまった。

 

まず取るべき行動は鎮守府へと通信を入れる事からだった。

 

「鎮守府第一通信室、聞こえるかい?こちら暁型2番艦【響】」

 

(こちら第一通信室、担当【大淀】です。どうしましたか?)

 

大淀に繋がったのは幸いだった。

 

彼女は戦闘時におけるオペレーターを勤めている為、今しがた戦闘になった現状は多いに助かる。

 

「現在、響、島風の両艦は木更津駐屯地への輸送任務からの帰路にて、深海棲艦【駆逐イ級】一隻と遭遇。島風の独断行為により現在戦闘に入った」

 

(えぇっ!?)

 

大淀から返ってきた反応は驚愕に満ちたものであった。

 

輸送任務が終わったと思えば、独断行為による戦闘開始の知らせなど誰でも驚くだろうから仕方ないと言えば仕方ない。

 

「これから私は島風の援護に向かわなければならない。指示できる者が居れば呼んでもらいたい」

 

(……分かりました。たった今、景山司令長官が戻られましたから同行している龍波大佐も戻られているはずです。大佐をお呼びしますので暫しの間耐えて下さい)

 

Спасибо(スパスィーバ)。お願いするよ」

 

予定されていた時間より若干早く優翔が戻っているのは不幸中の幸いだった。

 

既に鎮守府に戻っているのなら、通信室に向かうのもそんなに時間はかからない。

 

それならば今やるべき事は島風を援護して被害を出さない様にするべきだ。

 

「響、戦闘に入る……!」

 

誰に告げる訳でも無いが、気合いを入れるかのように宣言した響は正面を睨み付け、その場から飛び出した。

 

――大分離されている、急ごう。

 

この際、消費など考えている暇などなく、最大戦速で島風の元へと向かう。

 

現在、島風とイ級は響から見て9時の方向に向かって進んでいる。

 

島風の抱えている【連装砲ちゃん】から砲撃が放たれ、砲弾が真っ直ぐイ級へと迫る。

 

だがその砲弾は狙いが甘いのか、イ級の直ぐ真横に至近弾として着弾するだけに終わった。

 

着弾の衝撃でイ級の動きが僅かに鈍くなった所を響は見逃さなかった。

 

目付きを鋭くさせ、装備されている12.7cm連装砲の照準を調整する。

 

射程内に踏み込んだ瞬間に砲撃体制を整え、連装砲が火を吹いた。

 

イ級の僅かに前方へと打ち出された砲弾は弧を描きながら飛来し、至近弾の影響で速度が落ちたイ級の横腹に直撃し、ノイズのような悲鳴に似た音響いた。

 

「ッ……響ちゃん?!」

 

「島風、今ッ!」

 

こちらに注意を削いだ島風に対して響は声を張り上げて追撃を促した。

 

短く頷いた島風は【連装砲ちゃん】の照準を合わせ、動きを止めたイ級に対して砲撃を発した。

 

対して着弾によって動けなくなったイ級は避けられる筈もなく、後部へと直撃を受け、身体を傾け静かに海へと沈んでいった。

 

沈んで行くイ級を見やり、安堵の息を漏らす島風に響は周囲を警戒しながら近づく。

 

「響ちゃん、おっそーい」

 

悪びれる様子もなく、ニカッと笑いながら言う島風に響は片眉をピクリと動かした。

 

だが、それも直ぐに呆れの感情が大きく上回り、盛大なため息と変わった。

 

「……人の静止を聞かず飛び出したのはーー島風、避けて!

!」

 

「えーーきゃあっ!!」

 

突如見えた光に言葉を区切り、叫ぶように呼び掛けるが、間に合わなかった。

 

光は島風の【連装砲ちゃん】へと直撃し、その爆風が彼女へと襲いかかった。

 

煙が晴れて島風の姿が良く見えるようになると、彼女自身は怪我を負ったが軽症と言える程度だが、被弾した【連装砲ちゃん】は使えないだろう。

 

「島風、大丈夫か?」

 

「うっ……私は平気。【連装砲ちゃん】が一体壊れちゃったけど、他の武装は無事」

 

運が良かったとしか言いようがなかった。

 

これほど軽症で済んだのは、イ級を追いかけながら砲撃を行い残弾が少なくなった連装砲に被弾したからだろうと、響は推測した。

 

これが別の連装砲、最悪魚雷に被弾でもしていればこの程度で済まなかっただろう。

 

――でも、攻撃されたということは敵がまだいる証拠だ。

 

響の考えている事はよりによって最悪の形として実現した。

 

センサーに反応があり、島風の後方へと視線を向けると彼女を攻撃したであろう機影が見えてくる。

 

「嘘っ?!」

 

「……最悪だね、これは」

 

姿を現したのは、【軽巡ホ級】一隻、【駆逐イ級】二隻、全三隻と先ほどの三倍の数であった。

 

先の三倍の数と言う時点でもマズイ状況だが、【軽巡ホ級】の存在がだめ押しとなり最悪の状況だ。

 

一概に軽巡と言えども駆逐艦からすれば充分に驚異だ。

 

何せ装甲、火力共に此方を上回り、少しの被弾が命取りとなる。

 

唯一マシなのは、駐屯地で補給を受けて戦闘を続行する分には問題が無いことぐらいであった。

 

「……島風、此処まで来たら逃げる事はもう無理だ。何とか切り抜けるよ」

 

「分かってる。どうする?」

 

「もう直ぐ司令官が指揮に来る。それまで耐える。島風はとにかくやられない様にしながら敵を攪乱。私は援護に回る」

 

「分かった!」

 

響の言葉に島風は敵艦隊に向かって全速力で突貫した。

 

――さて、こちらも仕事をしなければ。

 

全ての武装の状況を確認し、いつでも使えるようにアクティブにしておく。

 

響自身も敵艦隊へと向かう寸前に通信が入り、回線を開く。

 

(響、聞こえるか?)

 

「司令官?……ごめん、島風を止められなかった」

 

待ち望んだ者の声が聞こえ、場違いながらも口元が緩くなり口角が僅かに上がる。

 

だが、直ぐに島風を止められなかったことを思い出して少しだけ声のトーンが低くなる。

 

(その件については後だ。今は状況を打破するぞ。島風を含めて現在の状況と艤装状況等全て教えろ)

 

救いだったのは自身の司令官である人物は前提は二の次にして、現状の事を考えている事だった。

 

だとすれば、優翔の求めている回答は艤装状況も含めた全ての状況であるため、それを伝えるのが先だ。

 

「了解。まずこっちの状況だけど、私は無傷で主砲の残弾はまだ余裕があるし魚雷も二射分残っている。島風だけど、連装砲の一部が損傷して島風自身も傷を負ってるけど魚雷は健在。そして敵部隊は【軽巡ホ級】無傷、【駆逐イ級】二隻も健在……ン、今【駆逐イ級】一隻に島風の砲撃が着弾、中破した」

 

爆音が混じったため、後半部分が良く伝わったのか分からないが、自身から見ても【駆逐イ級】一体が中破となったのはかなり良い状況だと思えた。

 

しかし、島風だけに負担を強いる訳には行かない為、自身も連装砲の照準を合わせて砲撃する。

 

放たれた砲撃は【軽巡ホ級】へと真っ直ぐ伸びていくが、砲撃を察知したホ級は回避行動を取り砲弾は海へと着弾し水柱を上げた。

 

(分かった。少し待っていろ)

 

短い一言と共にそこで一度通信が途切れた。

 

おそらく今までの戦況データを整理して作戦を考えるのであろう。

 

――なら、私がやるべきことは……。

 

すなわち、島風の援護を行いながら時間を稼ぐことだった。

 

止めていた足を再び動かし、連装砲を放ちながら移動する島風の元へと向かう。

 

島風との距離は少し離れているものの、援護を行うには十分な距離だ。

 

再び連装砲の照準をホ級へと合わせ、砲撃を開始する。

 

砲弾はホ級の真正面へ、丁度進路を妨害するような形で着弾し、僅かにホ級の動きを止めた。

 

だが、良かったと言えば此処まででついにホ級からの反撃の砲弾が自身へと放たれた。

 

「ッ……!」

 

身体中から汗が噴き出るような感覚を覚えながら、直ぐにその場から退避するように真横へと進路を取る。

 

砲弾は自身の居た位置へとそのまま着弾し、大きな水柱を上げると共に大量の海水が響へと降りかかった。

 

砲弾の熱によって多少の熱を持った海水は、響の顔へと掛かり、反射的に一番多く降り注いだ左目を瞑ってしまい、見える右目の視界の端から光るものが見えた。

 

見える右目から僅かに見えた光を捉えたのが幸いし、投げ出すようにその場からがむしゃらに動き間近まで迫った砲弾を何とか回避できた。

 

だが、無傷とは言えず右腕をかする様に抜けて行った砲弾により、服が破けたのはともかく二頭筋の部分が妙に熱を籠っており、確認すればかすめた所から血が流れ始めた。

 

「きゃああっ!!」

 

「島風……!」

 

右腕の痛みに気を取られている間に島風から悲鳴が聞こえた。

 

左目は既に回復しており、両目で捉えれば、彼女は被弾してしまったようだった。

 

――傍から見た状態だと、中破……。これ以上はマズイな……。

 

これ以上被弾を重ねれば島風は本当に轟沈(おちて)しまう。

 

それだけは絶対に避けなくてはならず、覚悟を決めた時だった。

 

(待たせた。状況は?)

 

待ち望んでいた男の声が突如聞こえ、思わず口元を緩めてしまった。

 

「ちょっとマズイかな。私も被弾したけどかすり傷程度で余裕。だけど島風が被弾して中破。魚雷は無事だけど連装砲もあと三射できて良い所かな」

 

素早く現在の状況を伝えながら島風の元へと急ぎ、自身も連装砲を放ち島風に迫ろうとする【駆逐イ級】への妨害を始める。

 

(分かった、今から指示を出す。島風は今は聞ける状況ではないだろうから少しばかり響に負担が掛かると思うがいけるか?)

 

「やるさ。司令官指示を」

 

今の島風が指示を聞けるような状況ではない事は自身でも把握している為、必然的に自分の方へと負担が掛かるのは承知の上だった。

 

だからこそ、響は短いながらもそう答えた。

 

(オーケーだ)

 

自信満々に聞こえる自身の司令官に対して、本当にどこからそのような自信が現れるのか本当に不思議でしょうがなかった。

 

だが、そんな思考は直ぐに彼の指示を出す声によって掻き消されたのだった。

 

(響、魚雷を一射分使うぞ。まず、魚雷を10時の方向に発射、そして連装砲を【軽巡ホ級】に向け4時の方向に一射、その後5秒後にやや上に向けて7時の方向に打て)

 

「えっ?司令官、それだと――」

 

(良いから打て。面白い物が見れると思うぞ)

 

「……了解」

 

優翔の指示する方角はどれも敵には当たらない方角であり、それを指摘しようとするも彼の声によって阻まれた。

 

だが、彼が自信満々に言うからには何かあるだろうと信じ、言われたとおりに魚雷を10時の方向へと放ちその後連装砲をホ級に向け4時の方向へと放った。

 

丁度その方角へと移動していたホ級の目の前へと着弾する形となり、ホ級は直ぐに左方向へと転身し移動を開始した。

 

――3……2……1……今!

 

次に指示された通りに照準調整しホ級へと向けたまま7時の方角へと連装砲を放った。

 

放たれた砲弾はやや大きく弧を描き、移動を始めたばかりのホ級の目の前へと着弾する事となり、ホ級は焦ったかのように12時の方向へと進路を変えたその時。

 

急な進路変更に対応できなかった最後尾の中破したイ級が遅れ、最初に放った魚雷が既に眼前へと迫っていた。

 

「ギュイイイイイッッ!!」

 

魚雷の爆発音と共に、鼓膜を揺さぶるような甲高い悲鳴がイ級から発せられ、魚雷の直撃を受けたイ級はそのまま海へと静かに沈んでいった。

 

「……当たった」

 

(所謂、置き撃ちというやつだ。島風がこれを機に突貫しようとしているな……西側から回り込むように移動し、ホ級の移動方向に砲撃。とにかく動きを止めろ。島風にも通信入れないといけないからな)

 

「了解、やってみる」

 

優翔が指示した方向は丁度島風の進路方向からして挟み込む様な動き方になり、最終的には合流する形だ。

 

島風が中破している今の状況では確かに自身も前に出る必要があるが、挟み込む事で狙いを一つにさせない思惑なのだと気が付いた。

 

それならばと、速度を最大にして移動を開始するのだった。

 

 

 

「響ちゃんが一隻沈めたんだ……私も……」

 

響が敵艦を一隻沈めた事に対抗心を燃やした島風の元に通信が入った。

 

送信側の相手が予想できた事で顔を引き攣らせ、思わず無視したくなる気持ちが芽生えたが、無視する訳にもいかず怒鳴られることを覚悟して通信に出る。

 

(やっと繋がったか……まったく、馬鹿やらかしやがって……)

 

「た、大佐……」

 

聞こえてきたのは予想通り優翔の声であり、顔が見えていないにも関わらず盛大に呆れている様子が声音から十分に聞こえる。

 

てっきり怒鳴り声が開幕一番に聞こえるのかと思えば、呆れた様子の声音であり拍子抜けに近い感覚を覚えるが、場違いにも程があるので気を緩めず、次の彼の声を待った。

 

(色々と言いたいことはあるがそれは後だ。中破しているようだが、タービンはまだ持つか?)

 

「……うん、大丈夫。持たせるよ」

 

此方を心配するような声が聞こえ、あまりにも予想が違う為に一瞬反応が遅れた。

 

だが、直ぐに気を取り直してはっきりと返事をした時に僅かに聞こえたのは彼の笑うような息遣いだ。

 

(良いだろう、今は目視している通り響が西側から回り込む様に敵を追っている。第四船速にて北北西に進路を取り挟み撃ちにするぞ。言っておくが最大船速じゃないからな?)

 

「分かった!」

 

念を押すような言い方に少しばかり気になったが、それは直ぐに捨てて指示された方向へと進路を取り移動を開始する。

 

敵艦隊の方を見れば徐々に響が接近しており、連装砲を放つ姿が見えた。

 

照準の合わせ方からしてその砲弾は当てる為の砲撃ではなく、敵進路上に着弾させることによる妨害だと一目で分かった。

 

だが、響なりに少し欲張ったのか着弾した場所はホ級の後部の位置となり、当たった様ではあるが入りが浅く軽傷もいい所ではあったが動きを鈍らせること自体には成功している。

 

(島風、五連装酸素魚雷を敵艦隊に向け発射しろ)

 

「了解!」

 

急な攻撃指示に身体を強張らせるが、直ぐに魚雷の安全装置を解除し身体の左側面を敵に見せつけるようにターンをして、体をくの字に曲げて魚雷を発射させた。

 

魚雷接近を感知した敵艦二隻は直ぐに回避行動を行うが、目の前に飛来した砲弾によって進路を阻まれイ級に三本、ホ級に一本の魚雷が命中する事になった。

 

結果一本の魚雷を受けたホ級は中破となり、三本もの魚雷の直撃を受けたイ級がそれに耐えられるはずもなく、爆散しながらも海に沈んでいくのを島風は見た。

 

(良い妨害行動だ、響)

 

хорошо(ハラショー)、此処までうまく行くとは思わなかった」

 

いつの間にか合流していた響は、帽子のつばを指で摘み深めに被り直している。

 

抑揚のない言葉とは裏腹に、僅かに見える口元は少しだけ微笑んでいるように見え、意外にも高揚しているのかもしれない。

 

(残り一隻だ、気を抜くな。響、前に出て右から回り込む様に動け。島風、お前は私の合図があるまで待機)

 

「了解、先に行くよ」

 

優翔の指示が終わると響は直ぐにその場から駆け出しホ級へと迫った。

 

中破した事によって速度が落ちている今のホ級に食らいつくことは容易く、射程内にたどり着くのは直ぐだった。

 

それを見ている島風は直ぐにでも飛び出したかったが、優翔の待機命令を無視する訳にもいかずただ待つだけだった。

 

(島風、響はお前の連装砲は後三射できて良い所と言っていたが、実際は後何発だ?)

 

「うっ……あと、一回が限度かも……」

 

(やはりか)

 

バツの悪そうな表情と共に発する島風の言葉に、優翔は既に予想していたかのように返す。

 

中破した時点で連装砲の一部が損傷し、今は無事な方を使っているといえどその前にも何回も砲撃を行っている様子が響との通信で分かっていた。

 

だが、そんな事は今はどうでもよく今は一発でも打てるのなら充分だった。

 

(一発撃てるのなら充分。待たせたな、島風。北北西に最大船速)

 

「了解!」

 

優翔からのGOサインが入った瞬間、爆発的な瞬発力を以てその場から飛び出した。

 

弾丸の如く鋭く、最速の名に恥じぬその速度は遅れて飛び出したにも関わらず瞬時にホ級の眼前へと迫った。

 

挟み撃ちにされる事を悟ったホ級は、転進し挟まれる前に北の方角へと逃れようと加速を掛けた。

 

(響、魚雷を北東に向けて発射、進路を塞げ。魚雷発射後、ホ級の前に移動するんだ)

 

「了解、魚雷を発射する」

 

指示された方向へと魚雷を発射し、回り込む様に大きく迂回する様に全速力で移動を開始する。

 

進行方向先にて魚雷が迫ったことにより、ホ級は急停止を掛けるしかなくなり、そこで止まったことにより前方には響が、後方には島風が連装砲を構えていた。

 

(止めを刺せ)

 

優翔の指示と共に、二人の連装砲が火を噴いた。

 

近距離にて放たれた二つの砲弾は、ホ級を挟む様に着弾し、爆炎が舞った。

 

「やった?!」

 

「分からない、現在確認中」

 

着弾によって浮かれたように笑みを見せる島風に響は窘める様に砲撃によって起きた煙を見つめる。

 

自身と島風が放った砲撃は確かに命中したが、煙の中は全く見えず警戒を解く事は出来なかった。

 

その時に煙の奥から微かに何かが動くような影が見えた気がして、目を細める。

 

突如、煙の中より死に体も同然なホ級が飛び出し、響へと迫った。

 

「響ちゃん!!」

 

「ッ……!」

 

島風が叫ぶとほぼ同時に、響は身体を投げ出すように横へと倒れこみ何とかホ級の突進を避ける事が出来た。

 

――入り方が浅かった……。

 

最後に二人が放った砲撃は直撃弾とはなっていなかった。

 

最後の最後でホ級が身を捩じるなりをして、直撃から避けた可能性が浮かび上がり自身の詰めの甘さに思わず舌打ちを鳴らした。

 

「このっ……!」

 

(待て島風。そんなボロボロな状態で追ったところで何ができる)

 

「ッ……!」

 

優翔の静止に飛び出しかけた島風は寸前で踏みとどまった。

 

彼の言うとおり自身は中破、弾丸も切れて燃料も残り僅かでこのまま追った所で轟沈させられるのが目に見えている。

 

(……仕留めきれなかったものは仕方ない、二人共帰投しろ。響、負担を掛けるが島風に手を貸してやれ)

 

「了解」

 

身を起こした響が返事すると、通信が切れた。

 

戦闘が終わった安堵感からため息をついた響はゆっくりと島風に向かってその肩を貸した。

 

「ごめん、響ちゃん」

 

「謝るのなら、司令官に謝ろう。私たちの落ち度は全て司令官に降りかかるんだから」

 

「うっ……それはもちろん謝るけど……いっぱい怒られそう……」

 

「大丈夫、私も一緒に怒られるから」

 

バツの悪そうな表情をする島風に対し、響は微かに笑ってゆっくりと鎮守府へと向けて進路を取った。

 

駆逐艦一人背負っての移動となるため、そこまで速度は出すことは敵わない為、時間がかかりそうだと思いながら。

 

 

 

 

「戦闘終了です。響、島風両名は鎮守府へ帰投中。お疲れ様です大佐」

 

「あぁ、悪いが戦況データを纏めて後で私に届けてほしい。私は此処を離れる」

 

戦闘の終了を笑顔で労う大淀に対して、優翔の目は冷たいものだった。

 

そして優翔はそういうなり、彼女に背を向けて通信室から退出しようとする。

 

「どうするのですか?」

 

「二人を迎えに行く。……ついでに”ゴミ掃除”もな」

 

言い終わるや否や、優翔はさっさと通信室から退室し姿を消した。

 

最後に彼の言った言葉の意味を大淀は理解できず、首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府の防波堤に生気を感じられない、青白い肌をした手が捕まった。

 

力が思ったよりも入らないのか、痙攣させるように震えさせながらも何とか陸へとその身を投げ出した。

 

それは満身創痍である【軽巡ホ級】であり、響と島風が交戦した個体そのものだった。

 

砲撃を受けた傷から青黒い液体を、おそらく深海棲艦の血液を身体中から流しながら荒く呼吸を繰り返している。

 

突如――パチンッと何かが閉じるような音が聞こえ、その方向へと視線を向ける。

 

ゆっくりと近づいてくるのは、白い軍服を纏い、肩まで伸ばした黒髪を首元で結った青い目をした人間の男だ。

 

男は触れるか触れないかの距離まで近づくと、ピタリと足を止めてホ級を見下ろしている。

 

一体、人間が自身に何の様であるのかは全く分からなかった。

 

分からなかったが、背筋は凍りつき、呼吸は浅く早く繰り返している自身に気が付くのは時間が掛からなかった。

 

「忌々しい深海棲艦が……此処は貴様らが身を置いて良い場所ではない」

 

低く、冷たい、異様なまでの殺気を込めた声だった。

 

ようやく全身の寒気や息苦しさは自身が死を目の前にしている事への反応だとホ級は気が付いた。

 

そして、ホ級はありえない物を見る事になった。

 

男の青い瞳がぼんやりと光を放った、人間がそんな事をできるなど聞いた覚えもなければデータにもない。

 

男が片足を上げたところまで見て、ホ級の意識は闇へと引きずり込まれた。

 

 

 

時刻はヒトナナヨンゴ。

 

すっかり夕暮れとなり、響と島風はようやく鎮守府へとたどり着いた。

 

予定していた時間とは遅すぎる帰還だった。

 

「ようやく戻ってきたか」

 

聞き覚えのある声が聞こえ、その方向へと顔を向けると優翔がタバコを片手に此方を見ていた。

 

持っているタバコを一口吸い込んだ彼は携帯灰皿に押しつぶすように持っているタバコを入れ、二人へとゆっくりと歩いて近づいた。

 

「響、良くやった。ご苦労様」

 

Спасибо(スパスィーバ)

 

「さて……」

 

まず響に労いの言葉を贈った優翔は本題である島風へと顔を向ける。

 

彼女はバツの悪い表情を見せ、つい顔を背けてしまい、逃げれる物なら逃げたかったが、響に肩を貸して貰っている今では逃げる事も出来ない。

 

彼女を見る優翔の目は濁りきっており、ゆっくりと腕を彼女へと伸ばした。

 

――あぁ……殴られる……。

 

殴られるようなことをしでかした後のため、いっそのこと島風は痛みを覚悟し目を強く瞑った。

 

「……大丈夫か?」

 

「ふぇ……?」

 

だが、自分に投げかけたのは怒号でも拳骨でもなく、自身を心配するような声と共に頭を撫でられている感触だった。

 

あまりにも予想外過ぎて、瞬きを数回繰り返して彼の顔を覗き込む。

 

「大丈夫か、と聞いているんだ」

 

「え、うん……大丈夫」

 

「なら、良い」

 

「あの、大佐。怒ってないん……ですか?」

 

島風の問いに優翔は盛大なため息をついて、懐から新しいタバコを一本取り出して吸い始めた。

 

妙に間が空いており、釈然としていないが、彼の言葉を待つ以外なかった。

 

「無論、怒っている。旗艦の指示を無視した挙句に勝手に突っ走りやがって……その結果がお前自身中破に加えて響も損傷と来た」

 

「うっ……」

 

「だが、お前事態は反省しているんだろう?」

 

「そりゃあ……大佐にも響ちゃんにも凄い迷惑かけたから……」

 

「ならこれ以上は良い、失敗は誰でも有るもんだ。次からは私の指示はもちろん旗艦の指示には従うように。二人とも速やかに入渠しろ。入居後は今日は終わりだ、好きに過ごすように。私は先に戻っている。報告書もやる事も溜まっているんでな」

 

それだけ言うと優翔は二人を置いていくかのように歩き出し、残された二人、特に島風は唖然としながら彼の背中を見つめ続けていた。

 

「じゃあ、行こうか島風」

 

「……うん」

 

 

 

時刻はフタマルヒトゴ

 

報告書の作成と提出を済ませ、業務を全て終わらせた優翔は、横須賀鎮守府内に存在する飲食店【居酒屋・鳳翔】の中に居た。

 

報告書の提出を景山に済ませた後、彼に教えてもらい執務室に帰るついでに立ち寄ったのだ。

 

正直なところは今日だけで色々な事が起きすぎた為、飲まなければやっていられなかったのだ。

 

「……鳳翔さん、熱燗もう一本頼む」

 

「はーい、少々お待ちください」

 

店主を務めている軽空母【鳳翔】に先ほど飲んでいた熱燗が空となったことで、追加の注文をする。

 

何故、彼女をさん付けなのかは、此処を利用する軍人も艦娘も皆がさん付けをしている為、郷に入っては郷に従えの精神で自身もそう呼んでいるのだ。

 

その時、戸を開ける音が聞こえて来客を知らせる。

 

「あれ、司令官?」

 

「……響か、此処は居酒屋だぞ?」

 

「知ってる。私も飲みに来たんだ」

 

響の言葉に眉間を皺を寄せざる負えなかった。

 

どう見ても子供で、未成年しか見えない彼女が飲酒など大人としては止めなくてはならない事案だ。

 

たとえそれが生と死の瀬戸際で戦っているとしてもだ。

 

「……お前は子供だろ、未成年が酒を飲むんじゃねぇ」

 

「あぁ、龍波大佐。私達艦娘は人間と身体の作りが違いますので、アルコールによる悪影響が殆ど無いので駆逐艦の子達がお酒を飲んでも大丈夫なんですよ」

 

「……そうなのか?」

 

「そうだよ、司令官は知らないだろうけど」

 

知らないも何も、初耳だった。

 

だが、確かに明らかに人間よりも優れた身体能力など艤装装着能力等見れば作りが違うのだろう。

 

「……なら、良いか。いい機会だ、今日は私が奢ってやるよ。鳳翔さん、熱燗と猪口をもう一個くれ」

 

「はぁーい」

 

「良いのかい?遠慮なくいただくよ?」

 

「こういう機会は中々ないからな。今日は頑張った褒美も兼ねてだ」

 

「ありがとう、ごちそうになるよ」

 

微笑を浮かべた響が隣に座るのと同時に注文していた熱燗と彼女の分である徳利と猪口が置かれた。

 

自身と響の猪口に熱燗の中身を注ぎ、どちらが先か互いの徳利を打ち合わせ静かに二人は飲み始めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。