この前の襲撃事件から数日がたったある日、相変わらず緩やかな鎮守府だった。
「叢雲さんおはようございます。」
「おはよう紫織...いや、朝潮の方がいいかしら?」
「いえ、今まで通り紫織で結構ですよ!」
「そう、わかった。」
紫織もここに慣れてきていた。あの一件のあと春日にこっぴどく叱られたが、彼女の意思を尊重し、駆逐艦「朝潮」としてここに着任する事となったのだ。
「ところで叢雲さん、今日の予定は聞いてますか?」
「そういえば、今日は演習をやるって聞いてるわよ。なんでも、司令官と面識のある人らしいわ。」
「兄さんと面識のある人ですか…誰なんでしょう…」
その時、大きめの封筒を抱えた大淀が視界に入った。
「あ、大淀さん!」
「紫織さん、どうしましたか?」
「あの、今日の演習相手の事なんですけど、なにかご存知ですか?」
「それなら、ちょうど書類が届いたところです。見ますか?」
封筒から書類を出して二人に渡した。
叢雲が一部を読み上げる。
「えぇっと、"今回の演習相手は、ブイン基地第一艦隊、通称「雨風水上打撃部隊」との演習を行う。,,」
「む、叢雲さん!その書類を私に!」
「え?えぇ...」
珍しく大淀が冷静さを失っていた。
「嘘でしょ、まさかこの艦隊と戦うことになるとは…」
「え、どうゆうこと?何言ってるのかわからないのだけれど…」
叢雲が首を傾げる。
「''雨風水上打撃部隊,,。海軍の中でもトップクラスの練度を誇る主力艦隊です。」
「あぁ、そいつらなら聞いたことあんぜ。」
いつの間にか摩耶が背後にいた。
その時、館内放送が鳴った。
''以下の艦娘は至急執務室に来ること。赤城、長門、摩耶、木曾、吹雪、叢雲、以上。,,
「おっと、お呼ばれだな。行くぞ。」
「失礼するぜ提督」
「揃ったね。それじゃ、詳しく話すとしよう。」
「今回、ブイン基地第一艦隊、通称「雨風水上打撃部隊」との演習を実施する。」
彼の言葉で、場の空気が一瞬で張り詰めた。
「わからない娘もいるだろうから説明しよう。「雨風水上打撃部隊」は、南西諸島泊地、いや、各鎮守府第一艦隊の中でもトップクラスの戦績と練度を誇る艦隊だ。」
春日はさらに付け加える。
「扶桑型二隻「扶桑」「山城」を基幹とする編成、幾多の修羅場を経験しているプロだ。」
「ちょっと待ってよ!そんな艦隊とやり合う気なの?」
「多分だけど、この前の一件があったから上が興味を持ったんだろう。」
確かにそうだ。最後に支援が来たとはいえ、空母二隻の攻撃を掻い潜りながら砲雷撃戦を繰り広げたのだ。上が目をつけないはずがない。
「逆に考えよう。今や君達は、上から一目置かれる存在になったんだ。今回の演習の結果によってはさらにいい方向に転ぶかもしれない。だろう?」
「ま、まぁそうだけど…」
「じゃあ、そうゆうことでいいかな皆?」
全員が首を縦に振る。
「よし!現在時刻マルハチマルマル、演習は三時間後のヒトヒトマルマルに行う、英気をしっかり養っておくように!以上、解散!」
「ねぇ摩耶」
艦娘寮、自室で休んでいた時、叢雲が口を開いた。
「んー?」
「さっき"そいつらなら聞いたことある,,って言ってたわよね。どんな艦隊なの?」
「提督が言ってたことと同じさ。トップクラスの練度を誇る艦隊、修羅場を何度も経験したやつらだってだけ。」
「そう...」
「そんな不安がるなっての。修羅場経験してんのはこっちだってそうさ。お前だってわかってるだろ?」
「そりゃそうだけど、向こうは戦艦二隻、しかもそれ以上の情報がないのよ。戦略のたてようがないじゃない。」
「そんなんその場でどうにかすりゃいいんだよ。要はノリだノリ!」
不安がる叢雲に笑って見せた。相変わらずのいたずらっぽい笑顔だった。
「...ぷっ、アハハ!まぁ、それもそうね。やるだけやればいいわ。...頑張りましょ!」
「お?やる気満々だねぇ!いい意気込みだ!」
こうして二人は、演習への闘志を燃やしていた。
__ヒトマルマルマル。
ショートランドの地に、演習相手がやって来た。
「こんにちは。私はブイン基地所属、第一艦隊旗艦扶桑。以下、山城、蒼龍、衣笠、夕立、睦月です。ただ今到着致しました。よろしくお願いします。」
「どうも、ショートランド泊地所属、第一艦隊旗艦摩耶。以下、長門、赤城、木曾、吹雪、叢雲だ。よろしく。」
「おぉ、来たか、歓迎するよ。」
「ここの提督ですか?」
「あぁ、春日英人だ。よろしく頼む。」
一通り挨拶を終えると、彼女達の後ろから、男が一人現れた。
「どーも、ショートランドの皆さん。雨風と申します。」
「相変わらずだな。雨風。」
「そっちこそ元気そうで何より。」
「一つ言っていいか?なんだその格好は…」
自身を「雨風」と名乗ったその男は、ズボンは海軍の白い制服だったが、上はアロハシャツのような服を着ていた。
「いやぁ、やっぱ南西諸島は暑いからね、仕方ない仕方ない!」
「な訳あるか…まったく、そこも相変わらずだな。」
随分仲良さそうに話していた。
「あの、兄さ、司令官。この方とは知り合いですか?」
「そう。士官学校時代からの同期だ。」
「おや、君は?」
「どうもはじめまして雨風司令官!朝潮型一番艦、朝潮です!以後お見知りおきを。」
「そんなに改まらなくてもいいよ、紫識。」
「ちょ、兄さん!外部の人が来た場合はその呼び名はダメだって__」
「紫識?あぁ!君が春日の妹ね!話は聞いてるよ〜。にしても、艦娘になったんだね!うちと同じかぁ。」
雨風は陽気に話した。
「...へ?」
予想外だったのか、紫識の思考が止まった。
「うちも同じなんだよ。俺は三人兄妹の長男。姉がそこにいる扶桑で、妹が山城だ。」
そう言われ、扶桑と山城は礼儀良く会釈をした。
「...これが理由だ。」
これには紫識以外の全員も絶句ものだった。
「ま、それはさておき、よく来てくれた。演習は一時間後のヒトヒトマルマルより開始する。それまで準備をしてくれ。」
To be continue
予定では前後編の二部にする予定ですが、場合によっては中編も入れる予定です。