____鎮守府正面海域にて、木曾達第二艦隊は、巡回中に第一艦隊が捜索中の敵空母機動部隊と交戦していた。
「全艦対空射撃!とにかく狙って撃ち落とせ!一機たりとも鎮守府に行かせるな!」
彼女達の上には、艦載機の大群が鳥の群れのように空を黒く染めていた。
重なり合う機銃の銃声、海に落ちていく大量の空薬莢と撃墜された艦載機の破片。
木曾達の周囲には、幾度となく爆発が起こっている。
「ちくしょう、キリがない!叢雲!支援艦隊到着まで後どのくらいだ!」
叢雲が機銃を連射しながら答えた。
「到着まで後二十分弱!」
「わかった!いいかお前ら、敵機に警戒しつつ砲雷撃戦に移行!」
全員が一気に速度を上げ、敵に突撃する。
予想外の接近に敵も慌てて砲撃を始める。しかし、照準が追い付かず命中しない。
「よし!接近すれば艦載機もろくに攻撃はできないはずだ。後少し____」
木曾が振り返った時だった。
「叢雲!!直上に敵機三機!」
急いで機銃の照準を合わせる...しかし。
(っ!?何 、この感覚...)
突然、頭の中になにかが引っかかるような違和感が芽生えた。段々と渦を巻くように広がり、叢雲の意識を惑わす。
(何よこれ...頭が...)
視界が霞み、手が痙攣し、まともに立つことも出来ない。
「叢雲!!」
叢雲が見上げた時には、敵機が目の前に迫っていた。
(沈む...)
鳴り響く爆音、立ち込める黒煙。
「叢雲!叢雲!!」
____彼女は無傷だった。
「...え?なんで?」
さらに敵艦二隻が突如爆発した。
「なんだ今の...」
綾波が木曾に通信をとる。
「こちら綾波、駆逐二級爆沈、軽巡へ級大破。泊地方向より砲撃及び雷跡を確認!12.7cm砲と四連装酸素魚雷だと思われます!」
「はぁ!?駆逐艦はここにいんので全部だろ。誰が...」
「攻撃方向より誰か来ます!」
艦娘がやってきた、彼女の容姿に誰もが既視感を覚えていた。
「え....紫織?なんでお前が?」
「詳しいこと後で。今は敵の足止めが先です。」
「わ、わかった!全艦戦闘続行!足止めしろ!」
「「「了解!」」」
「大丈夫ですか、叢雲さん。」
「えぇ、もう大丈夫。」
「全艦砲戦始め!!」
加勢も入り、とにかく全力で敵に砲撃を浴びせ続ける。
「ちぃ!!やっぱり火力が足りねぇ!各艦残弾報告!」
「こちら綾波。残弾0!」
「こちら吹雪。残弾0!」
「こちら白露。同じく残弾0!」
「こちら叢雲。残弾80」
「紫織は!」
「残弾大量です。魚雷も十分あります!」
「よし!俺が援護する!その間に突っ込んで雷撃しろ!」
「了解!行くわよ、紫織!」
「主砲、全門斉射!」
木曾から放たれる砲弾の雨が敵へと降り注ぐ、続いて響く爆発音。
「弾着確認!軽巡へ級撃沈!悪ぃな二人共。今ので残弾0だ。あとは任せた!」
「任せてください!」
全速力で敵に接近する。
「紫織、主砲で視界を遮った瞬間に魚雷を斉射!タイミングは私が出す!」
「了解です!行きましょう!」
更に近づいて行く。
「見えた!距離100!全主砲斉射!撃ちまくって!!」
ひたすら砲弾を撃ち込み続ける。着弾時の煙や水柱で敵の視界を塞いだ。
「叢雲さん、主砲残弾0です!」
「了解!今よ、魚雷全門斉射!!」
二人から放たれた魚雷は、まっすぐと敵に進んでいった。視界を塞がれた今、これを避ける術はない。
舞い上がる巨大な水柱。間違いなく着弾した…だが。
「嘘...重巡リ級2小破...ダメージが全然通ってない!」
「叢雲さん、もう残弾ないですよ!」
「私もよ…」
数が上といえ、こっちはもう弾がない。どうすることも出来なかった。リ級二隻が叢雲と紫織に照準を合わせる。ダメだと悟ったその時だった___不意に聞こえた風切り音、目の前でリ級一隻が爆炎を上げた。
「きゃっ!!今度は何!?」
目の前の事態に思考が追いつかない。
「こちら吹雪、叢雲ちゃん!リ級1爆沈!右舷前方から長距離砲撃!...!あれは!!支援艦隊到着しました!」
"ショートランド泊地第二艦隊、応答願います。,,
木曾に通信が来た。
「こちら第二艦隊旗艦木曾だ。そっちはどこの所属だ。」
"こちらパラオ泊地第一艦隊旗艦サラトガ、大淀さんから緊急通信を受け参りました。,,
「そうか、ありがたい。こちとら弾薬がすっからかんなんだ。援護を頼む。」
"ご苦労様でした。あと任せてください。,,
彼女は通信を切ると全員に指示を出す。
「ということで、全力で行くわよ!アイオワ、陸奥、三式弾装填で待機、瑞鶴、翔鶴は私と一緒に攻撃隊発艦!!」
瑞鶴、翔鶴、サラトガから攻撃機が次々と飛び立つ 。
降り注ぐ爆弾と魚雷の雨。
突然の攻撃に敵の統率が乱れだす。
「この程度で乱れては、私達は沈められませんよ!」
追い討ちをかけるように更に攻撃を加える。
「リ級撃沈!残りヲ級2!」
「こちら翔鶴、攻撃隊より入電!敵機接近!機数30!」
「そっちは私たちに任せて。アイオワ、行くわよ!」
「OK、ムツ!」
陸奥とアイオワが砲口を上空の攻撃機へと合わせる。
「三式弾、撃ち方始め!!」
「Fire!!」
二人から放たれた砲弾が空中で弾け、無数の破片になって敵機に襲い掛かる。
「こちらアイオワ、攻撃機全機撃墜!制空権確保!」
その光景を見たヲ級二隻が更に航空機を発艦させようとしていた。
「二度目は無いわよ!全機爆装、発艦!!」
瑞鶴から爆撃を受け、片方のヲ級が大破した。
「よし、トドメは私達が、アイオワ、通常弾装填。目標、空母ヲ級二隻、主砲斉射!撃て!」
「全主砲、Fire!!」
赤く光る砲弾が弧を描いてヲ級達へと飛んでいく。
圧倒的物量の砲撃に、ヲ級達はなす術無く沈んだ。
「ふぅ、敵艦隊殲滅、戦闘終了。」
「あんなに苦戦したアイツらをものの数分で、すごい…」
傍観していた叢雲は、彼女達の練度と強さに驚きを隠せなかった。他の皆も同じだった。
サラトガが叢雲を見つけ、近寄る。
「Are you ok?怪我はないですか?」
「えぇ、私は大丈夫。」
「水雷戦隊でよくここまで粘りましたね。流石です。」
「でも、あなた達の助けがなかったら今頃ヤバかったわ。ありがとう。」
「仲間を助けるのは当然のことです。お礼なんかもらうほどではありませんよ。とりあえず、泊地まで護衛します。念には念を。ですから。」
こうして木曾達は、救援に来たサラトガ達に護衛され泊地へと戻った。
その夜、入渠も終わり、鎮守府内は静まり返っていた。
春日は、執務室で今回の出撃の資料を真剣に読んでいた。
「おーい、ちょいと失礼するぜ、提督 。」
「木曾か、どうかした?」
「それ、読んだか?」
「あぁ、一通り読ませてもらったよ。まさか紫織が艦娘になるとはな。」
「あいつは強いぞ。この目で見たんだからな。ハハハ!」
木曾は豪快に笑ってみせた。
「ま、それもそうだが、"あの反応,,についてどう思ってる。」
急に真剣な表情へ変えた。
「...まだなんとも言えない。」
「でも、反応を見る限り"アイツ,,の可能性も...」
「木曾、一つ教えてあげよう。僕はね、_____失ったものは戻ってこない、そう思ってる__」
To be continue