(うーん…寝れない。)
皆が寝静まった夜中に、紫織は目を覚ました。
「...気分転換にちょっと外に出ようかな。」
月明かりで照らされた外に出ると、潮の香りがした。そのまま砂浜の方へ歩いていく。
外に誰かいた。
「摩耶...さん?」
「おう、紫織じゃん。こんな時間にどうした?」
「いえ、ちょっと起きてしまったので、夜風にでも当たろうかなと思って。摩耶さんは何を?」
「アタシか?アタシもそんなとこだな。」
「そうですか、隣、座ってもいいですか?」
「あぁ、いいぞ。」
摩耶の隣に座り込む。しばらくの間、二人は無言で夜の海岸を眺めていた。
「あの、摩耶さん。」
紫織が口を開く。
「ん、なんだ?」
「......艦娘として闘うって、どんな感じですか?兵器として、軍属として闘うって、どんな感じですか。」
「どんな感じ...ねぇ...」
摩耶がしばらく考え込む。
「アタシは、この海が好きなんだ。」
「え?」
「この海を守りたい。その信念で闘ってる。兵器だろうが軍人だろうが、海を守るため、アイツらを守るためなら、なんだっていいって覚悟を持ってる。ただそれだけだ。」
紫織は黙って聞いていた。
「艦娘はなりたいからなれる訳じゃない、強い意志があってこそだと思ってる。」
摩耶が立ち上がり、紫織の方を向く。
「紫織はどんな意志を持ってる。どんな覚悟がある。」
「私は....」
「まぁ、今聞く必要はねぇな!さて、そろそろ寝ようぜ。明日に差し支えたら本末転倒だしな!紫織。オマエの意志、その時が来たら聞いてやるぜ!」
わざとらしく話を遮り、部屋へと踵を返す。
「は、はい!」
紫織も摩耶の後を追っていったく。
誰もいなくなった砂浜には、二人の足跡が月明かりに照らされていた____
翌朝、紫織は目を覚ます。
「ん...あれ?」
何やら部屋の外が騒がしい。
ドアを開けると、大淀が廊下を走っていた。
「大淀さん?どうしました?こんな朝から。」
「あぁ紫織さん。実は、先程上から出撃要請が入ったんです。」
「出撃、ですか?」
「えぇ、とりあえず紫織さんもすぐに執務室に来てください。」
「あ、はい!すぐに行きます!」
紫織はすぐに身支度を整え、執務室に向かった。
部屋の中には、出撃予定の艦娘達が集まっていた。それ以上に、部屋の空気が異様にピリピリしていた。
(すごい…気迫だけでこの圧迫感…)
「今回の作戦を話す。」
そう言って春日は、写真を全員に渡した。
「前回の製油所地帯にて展開をしていた敵部隊を指揮していたと思われる艦隊を、南西諸島海域より海自の無人偵察機が発見した。今渡した写真がそれだ。」
写真を見ると、輪形陣で航行する深海棲艦の艦隊が撮されていた。
「大淀、頼む。」
「はい。今回の作戦は、写真に写っている敵指揮艦隊の捜索及び迎撃です。この艦隊を倒せば鎮守府近海の制海権はこちらが圧倒的に有利になるでしょう。尚、この写真を撮影した無人偵察機はこの後撃墜されたと報告がありました。不鮮明ですが、空母級が少なくとも二隻います。対空警戒を怠らないように注意してください。」
「ありがとう大淀。それでは、今回の編成を発表する。第一艦隊旗艦摩耶、随伴艦。加賀、飛龍、赤城、妙高、長門。以上です。健闘を祈る。」
話が終わると、摩耶たちは部屋を後にした。
「よし。残った君たちにも任務がある。万が一に備え、正面海域を巡回してくれ。編成は、叢雲、吹雪、綾波、白露、旗艦は木曾で頼む。」
少し時が進み数時間後
摩耶たち第一艦隊は、敵部隊がいると思われる海域についた。しかし、敵艦隊どころか、駆逐艦の一隻も見つからない。
「こちら旗艦摩耶。大淀、異様に静かだぜ。本当にこっちにいるのか?」
"変ですね…確かにそっちの海域のはずなのですが…,,
「わかった。燃料が持つ限り捜索してみる。」
"了解しました。,,
一方その頃、木曾率いる水雷戦隊は、鎮守府正面海域を巡回していた。
「...大丈夫かしら。」
叢雲が少し不安がっていた。
それを聞いて、木曾がすかさず答える。
「大丈夫だよ。あの編成だぜ?きっと今頃敵艦隊をギッタギタにしてらぁ 。」
そう笑っている時だった____彼女達の真正面に黒い点が幾つも見えた。
「なんだありゃ。電探の範囲外だからわかんねぇな…」
木曾が双眼鏡で確認する。
写真に写っていた深海棲艦の機動部隊だった。
「!?嘘だろおい!こちら第二艦隊。大淀!第一艦隊が捜索中の敵部隊を発見した!空母ヲ級2、重巡リ級2、軽巡へ級、駆逐二級がそれぞれ1ずつ!」
"本当ですか!?第一艦隊は先程海域に到着しました。戻ってくるのにかなり時間がかかります!,,
「近海を航行中の別泊地艦隊は?」
"一番近くても、あと一時間はかかります!,,
「クソッ!!各艦対空戦闘用意!俺たちだけでも食い止める!大淀、別泊地艦隊に緊急連絡!なるべく急ぐように伝えてくれ!」
"わかりました!連絡をすぐに送ります!とりあえずあなた達も一旦引いてください!,,
「やなこった。敵前逃亡してどうする。なぁお前ら?」
木曾の問いに全員が首を縦に振った。
「よし。全員引く気はないそうだ。このままやらせてもらうぞ!」
そう言って木曾は通信を切った。
「ちょっと、木曾さん!...ダメです、通信切断されました。」
「仕方ない。ここは彼女達に託そう。明石、本土から来た新型艤装を保護。大淀、近海の別泊地艦隊に緊急援護を要請。」
「「了解しました!」」
「兄さん!私も何か手伝います!」
「ダメだ。」
「でも!」
「ダメだと言っているだろう。紫織はすぐに避難しろ。いいな?」
「....わかりました。」
そのまま春日以外の三人は執務室を後にした。
(また、何もできないで怯えなくちゃならないの…?)
紫織の昔の記憶がフラッシュバックしていく。
(もうやだ。もうやだよ…)
顔から涙が溢れてきた。
"紫織はどんな意志を持ってる。,,
その時ふと、摩耶の言葉が紫織の頭をよぎる。
(摩耶...さん。____摩耶さん...私は、私はっ!)
そう思った頃には、身体は明石がいる工廠へと走っていた。
工廠の前に着くと、明石がちょうどいた。
「紫織ちゃん?どうしたのそんな急いで。」
「...明石さん、あなたに....頼みたいことがあります____」
「提督。緊急援護要請は受理されましたが、到着までまだ時間がかかるため、それまでなんとか粘ってほしいとの事です。」
「わかった。だが、機動部隊相手にいつまで持つかわからん。おまけに数が少ない。あと一隻駆逐艦がいるだけでもだいぶ変わるのだが…」
その時、出撃を知らせるサイレンが鎮守府中に鳴り響いた。
「なんだ!出撃できる艦娘はもういないはずだぞ!明石、状況報告!」
出撃用ドックに通信をかけた。しかし、応えたのは明石ではなかった。
"兄さん,,
「紫織!?なんのマネだ!」
"私は、艦娘として木曾さん達の援護に行きます。,,
「何を言っているんだ!早く戻ってこい!」
珍しく春日が声を荒らげた。
"兄さん。私はもう嫌なんです。誰かが目の前で命を懸けてるのに、自分だけ何もできないのは…,,
顔は見えないが、声は真剣そのものだった。
「何言ってるんだ紫織!早く____」
その瞬間、紫織に通信を切られてしまった。
「紫織!紫織!」
「...いいの?紫織ちゃん。」
ドックで、明石が声をかけた。
「いいんです。これが私の"決意,,です。」
「私は止めもしない。けど、この先はどうなるか保証もできない。それでもいいのね?」
「はい。お願いします。」
明石は無言で頷き、新型艤装を下げていく。
その真下へと紫織は歩いて行った。
彼女の身体へ、次々と艤装が固定される。
最後のパーツを固定し終えた時、紫織の頭の中に、記憶が滝のように流れ込んできた。
(これが...."私,,の記憶...艦としての...艦娘としての記憶....)
一段落着くと、紫織は深呼吸をし、大声で叫んだ。
「...朝潮型一番艦「朝潮」、出ます!!」
To be continue