ヒトキュウマルマル
空母2隻が中破し、艦隊を離脱した後
摩耶、木曾、叢雲、白露達4隻は、ル級に攻撃された海域に戻り、夜闇に紛れ航行していた。
「どうだ?電探に反応あるか?」
摩耶の問いかけに全員が首を横に振る。
(一体何処に行きやがった?製油施設を破壊する気ならまだそう遠くには…)
その時だった
「っ!電探に感ありだよ!艦数1、左舷後方より接近中!大型艦の可能性大!」
艦隊の一番後ろにいた白露の電探に反応があった。すかさず木曾が、双眼鏡で後方を確認する。
「敵艦視認したぜ!戦艦ル級1!多分昼間のだ!」
「接近ってことは、気付かれたのか?」
「いや、ル級がこっちに気付いてる様子は無いな、こっち側に航路をとってるだけみたいだ。」
「よし、全艦取り舵。ル級の側面から奇襲をかける!木曾とアタシは反対側から主砲で援護射撃、その隙に白露と叢雲で接近して片付けるぞ!」
「了解です!」
「了解したわ!」
木曾、摩耶と別れ、叢雲達はル級の側面にまわりこんだ。
(これで、片付ける!)
接近して魚雷を発射しようとしたその時だった。
ル級の砲口が一斉にこっちを向いた。
「嘘!?気付かれた!?」
巨大な火柱と爆音が、夜の静寂を切り裂く。
無数の赤い光の点が叢雲達に飛んでくる。
「敵艦砲撃!回避行動!」
動いても尚、砲弾がすぐ近くに着弾する。
「きゃっ!?」
白露に砲弾が直撃。
「白露!」
叢雲がすぐに近くに駆け寄る。
「いったぁ〜。やられちゃった…白露が1番取りたかったのにぃ〜」
艤装の損傷が酷く、主砲以外の武装がすべてダメになっていた。
お構いなしにル級が立て続けに砲弾を撃ち込んでくる。
(このままじゃ、沈む!)
砲弾の雨で何も出来なかったその時だった
突然、ル級が被弾した。
「おうおう、派手にやってんなぁ。」
反対側から、摩耶と木曾がやって来た。
「ったくよぉ、挟み撃ちのつもりが先に撃ってくるとはなぁ。クソが!」
「仲間にここまで手ぇ出すとはなぁ?生きて帰れるとは思うなよ!」
二人の砲口から爆炎が吹き荒れる。
距離が近いのもあり、ル級に次々と着弾する。
だが、大きなダメージが入らない。
「ちぃっ!主砲じゃダメか!木曾!白露に随伴、護衛!叢雲、こっち来い!」
「了解!」
木曾が素早く白露の近くに寄り、声をかける。
「もう大丈夫だ。あとは任せろ。」
その言葉を聞いて、白露は安心した顔をした。
「そうだ、叢雲、これを貸してやる。」
そう言うと、木曾は自分の艤装をガチャガチャと弄り始めた。しばらくして、魚雷発射管の一つを叢雲に差し出した。
「五連装酸素魚雷だ。お前の旧式だろ、これ使え。あと、それは俺が改二になっても使う気なんだから、壊すなよ?」
「ありがとう。」
受け取った木曾の魚雷発射管を取り付ける。
付け終わると、叢雲はすぐに摩耶の援護に向かった。
「なんだ叢雲、遅かったなぁ?」
摩耶は、どこか余裕そうな笑みを浮かべた。
「随分余裕そうね?」
「いいや実際そんな余裕じゃねぇんだ。」
そう言ってる間に、ル級から砲弾が飛んでくる。
「ほらまた来た!回避行動!」
素早く散開して、砲弾を避けていく。
「次の装填になったら一気に近づいて仕留める!それまで避け続けろ!」
「わかったわ!」
ひたすらに砲撃を避け続ける二人、しばらくして、ル級の砲撃が止む。
「今だ!行くぞ!」
全速力でル級へと接近していく。
「弾薬装填、全主砲斉射!いっけぇー!!」
摩耶の撃った砲弾が次々と命中していく、しかし全くダメージが通らない。
ル級は、怯むどころか笑っていた。
「残念。アタシはお前を沈めようなんざ思ってねぇよ。今だ叢雲!」
「了解!」
ル級が背後を振り返ると、叢雲が回り込んでいた。
「魚雷発射!」
魚雷がル級めがけ突き進む。だが、後少しの所でル級が避けてしまった。装填の終わった主砲の照準を叢雲へと定める。しかし、
砲を向けられているはずの叢雲は笑っていた。
「バカね、さっきのはブラフよ。」
突然、ル級の足元から水柱が上がった。
続いて響き渡る爆発音。
叢雲がさっき撃ったのは旧式魚雷だった。雷跡で引き付けた後に雷跡が見えにくい酸素魚雷を撃ち込んだのだ。
魚雷によって大ダメージを受けたル級だったが、まだ沈んでいなかった。生き残っている副砲を撃ちまくるが、狙いが定まらない。
「あら、まだなのね。だったら、これで沈みなさいっ!!」
残っていた酸素魚雷を全て撃ち込む。
立て続けに鳴り響く爆発音。立ち込める黒煙。
煙が晴れた後には、ル級は自身の艤装の残骸を残し水底へ沈んでいた____
しばらくして摩耶が母港へと通信をかけた。
「こちら第一艦隊旗艦摩耶。大淀、聞こえてっか〜?」
"こちら大淀。摩耶さん、報告通信ぐらいしっかりやってください。,,
「りょーかい。敵艦隊殲滅を確認。被害、中破1」
"了解しました。ドックを開けておきます。,,
「ありがとな。助かる。」
無線を切ると、みんなの方に向き直る。
「これにて戦闘終了。泊地に帰投するぞ!」
帰路に着く彼女達の上には、満点の星空が広がっていた___
To be continue