艦これSS〜一筋の航跡〜   作:鉄製提督

26 / 26
第二十一話「遭遇」

 

『艦娘の降下を確認。現在は濃霧により艦娘の目視は不可、GPS情報での確認のみです』

 

『キャブ2-1より通達あり。降下前に敵の小規模艦隊と戦闘、RPGやTOWなどの武装を確認した模様』

 

彼女達が目当ての海域に降り立った頃、ショートランド泊地では仮の司令部が置かれていた。米海軍の機材が持ち込まれ、普段以上に物々しい雰囲気が漂う。

そんな中、春日達は普段と変わらぬ物腰で艦隊の指揮に徹底している。

 

「うむ、とりあえず降下自体は成功か。あとは技研の作ったシステムがどれくらい使えるか...」

 

「こりゃすごいな....今までの艦隊指揮と全然違う」

 

「ああ、技研が作ったのは最新鋭の試作装備だしな。普及すれば今までと全く違う戦闘ができるはずだ」

 

指揮所には春日はもちろんのこと、兼田に鷹谷、そして数人の艦娘とハルもいた。

 

「提督。そろそろ無線封鎖が解除されるはずです」

 

大淀がそう言った直後、現地にいる木曾から通信が飛んできた。

 

《提督、聞こえてるか》

 

「ああ、バッチリ聞こえてるよ。そっちの海域の状況はどうだい?」

 

《相変わらず気味が悪いくらいの霧だ。この試作装備のおかげでかろうじて航行できてるくらいだ》

 

「なるほど、おそらくその悪天候じゃ電探もアテにならないと思う。注意して進んでくれ」

 

《了解だ》

 

「にしても、なんで彼女達は霧の中進めてるんだ?あの装備のお陰なのは分かるが....」

 

「3Dマッピングさ、あの技術を軍事用にさらに高精度にして、装備に機能のひとつとして入れてるみたいだ。それに加えてGPS機能だ、あれのお陰で自分たちの場所の地形図がバイザーに投影される」

 

「ふむ、随分多機能だな。これが普及できたら今までとは全く違う戦い方になるな」

 

「ああ、深海棲艦も我々の兵器を奪って転用しているんだ。向こうも進化するならこっちも進化しなきゃいけないのさ」

 

《おーい、誰か聞いてるか?》

 

「どうした木曾」

 

会話を遮るように、木曾から連絡が入った。

 

《リアルタイムで地形を読み込んでいるが敵艦隊らしき影が見える。そっちから確認できないか?》

 

「すまない。こっちも霧のせいで君たちのことが見えないんだ、GPSで追ってるだけだ」

 

《了解。警戒する》

 

 

 

 

 

 

「にしても、霧のせいで視界が悪すぎるぜ....」

 

「仕方ありませんよ。ここは何故か霧が出る時間が長いですし」

 

「この霧だと私達も艦載機は発艦出来ないわね.....気をつけましょう飛龍」

 

《警告、警告。砲撃による衝撃波と飛来中の砲弾複数を感知。弾着予想時間と予想点を表示します》

 

「みんな!散開してっ!!」

 

唐突に鳴り響いた警告音とアナウンスにより、皆は弾着予想地点から離れるように散開し始める。直後、アナウンスの時間とほぼ同じタイミングで、さっきまで彼女達がいた場所に砲弾が降り注いだ。

 

「くそ!やっぱりいるじゃねぇか!こちら木曾!提督聞こえるか!!」

 

彼女の呼びかけも虚しく、ただノイズ音が聞こえるだけだった。どうやら通信障害が起きてるようだった。

 

「落ち着きなさい!飛龍、少しでも霧が晴れたら彩雲を発艦させて!妙高さんと木曾は駆逐艦と行動し、目視で敵影が見えたら逐一私に報告して!」

 

「「了解!」」

 

突然の砲撃だったが、加賀の冷静かつ的確な指示で態勢をすぐに立て直した。

通信が使えず情報が来ない以上、彼女達自身の経験値と新装備が試される状況になった。

 

「見えた!こちら綾波、前方に敵艦隊らしき船影を視認。数6!艦種判別不可、警戒を!」

 

「距離は!」

 

「ええと....約400!」

 

「射程圏内だけど、霧で見えないわね....」

 

「一か八かよ。飛龍!彩雲と第一次攻撃隊発艦!!」

 

「了解!第一次攻撃隊及び彩雲偵察隊、発艦始めっ!!」

 

加賀と飛龍が弓を引き、艦載機を飛ばす。

飛龍は攻撃隊と彩雲、加賀は飛龍の発艦させた隊を護衛する戦闘機を発艦させた。

 

「攻撃隊より通信!敵艦視認、これより雷撃を開始!」

 

どうやら攻撃隊も深海棲艦を視認したようだった。そのまま低空で直線上に敵艦を入れ、航空魚雷を投下した。

 

「魚雷投下!弾着まで、5、4、3、2....弾着、今......えっ?」

 

飛龍が艦載機の妖精に合わせて弾着まで秒読みをしていた。だが、投下された魚雷は当たるどころか、敵艦を通り過ぎていた。

 

「嘘!?深過ぎた!?」

 

慌てて妖精達に通信でも、魚雷の深さは問題なかったようだ。妖精達曰く、魚雷が敵艦をすり抜けたように見えてるらしい。

普段はほとんど命中させていた、だがその分、目の前の不可解に飛龍は驚きを隠せなかった。さらにそこへ彩雲から連絡が来る。

 

「え....どういうこと.....?か、加賀さん、彩雲から入電です。敵艦隊....消失しました」

 

「消失?見失ったんじゃなくて...?」

 

敵艦隊消失、それも撤退した痕跡もなく、まるで〝最初からそこには何もいなかった〟ように消えたのだ。これには実戦経験豊富な木曾や弥生、加賀も驚きを隠せなかった。

 

「え、ええ....さっきまで見えてた敵艦が目の前で消えたって通信が......」

 

敵艦隊が姿を消し、追撃すらできない状況に完全に指揮が止まってしまい、ただただ周りを見回すだけに...

 

《警告、警告、魚雷感知。接触まで6秒》

 

「...!?回避!!!」

 

完全に注意を削がれていた矢先、騒がしい警告音が彼女たちを戦場という名の現実へと引き戻す。

水面の雷跡に集中しつつ互いに散開し、魚雷を躱していく。一部の者は、真横で水を掻き分ける音が聞こえる程に近かった。

 

「後期型魚雷....新手よ!全艦防御姿勢に移行!ただちに撤退準__」

 

それもつかの間、動き続けていた加賀に砲弾が直撃した。霧での視界不良、レーダーがいつの間にか完全にダウンして察知すらできなかった。その上システムの警告すら出ないような至近距離での砲撃だった。

 

「クソっ!加賀が被弾!」

 

吹き荒れる黒煙は加賀を包み込み、視界を遮る、パチパチと熱で部品が焼ける音が微かに聞こえる中、慌てて飛龍が加賀に肩を貸すと、輪形陣に組み直し二人を囲みながら戦線を離脱し始める。

敵は彼女達を追おうともしなかった。

 

 

 

 

《_ちら_こちら春日、誰か応答願う!》

 

戦場を離脱してしばらくすると電波妨害も消えたのか、春日からの通信が聞こえるようになった。被弾して対応できない加賀に代わり飛龍が通信を返した。

 

「こちら飛龍、現在は敵艦隊による奇襲で旗艦加賀大破、重要防護区画にも損傷確認。これ以上の戦闘は不可能と判断、戦線離脱中です」

 

《何........了解した、回収用のオスプレイをそっちに向かわせる。警戒を怠らず帰ることを優先してくれ》

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。