艦これSS〜一筋の航跡〜   作:鉄製提督

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お久しぶりです。最近ここにログインすら回数が減ってきてどうしようってなっちゃってます


第二十話「進軍」

「んっ.....あれ、ここって.......」

 

翌朝、叢雲は自室で目を覚ました。

寝ぼけているのか薄目で部屋をぐるりと見回す。

 

「おぉ、叢雲!やっと起きたか!」

 

「んぇ、ま、摩耶?」

 

「ん、そっかぁ、お前こっちに戻ってからずっと寝てたっけな?まっ、とりあえず飯にしようぜ!」

 

そのまま叢雲の手を引き、食堂へと走り始める。既に他の艦娘が食事中だった。

 

「あら、叢雲さん。意識が戻ったんですね」

 

「おかえりなさい、叢雲さん」

 

「叢雲ちゃんおはよう!朝ごはんは白露が一番だよ!」

 

「叢雲ちゃんおはようございます」

 

一航戦や二航戦の四人、綾波や吹雪、白露も叢雲の意識が戻ったのを嬉しそうにしていた。

 

「........」

 

ただその中で、誰も気づいてなかったが、弥生だけは黙って叢雲を見つめていた。

 

 

食事を終え、全員はそれぞれ自由に過ごしていた。幸いこの周辺はほとんど何も無い。

こうして平和な日々が多い。

 

「なぁなぁ、叢雲はガングートってやつの戦い見たのか?」

 

「え、ええ....かなり勇ましい戦いっぷりだったわよ」

 

横須賀にいた時のことを聞こうと、摩耶や吹雪達が談話室で色々質問していた。

 

「流石ロシア艦娘.....日本とはひと味違うねぇ」

 

皆はガングートの勇ましさに感嘆していた。

 

「ははっ、私の話なんか聞いても面白くないだろう?」

 

そんなことをしていると、当の本人が話を聞きつけて談話室に入ってきた。相変わらず包帯を至る所に巻いていた。

 

「ガングートさん?パラオじゃなかったのね」

 

「ああ、この怪我だしな、しばらく同志と一緒にここにいることになった。ムラクモの司令官には感謝しかないよ」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

「さて、何やら面白そうな話してたが、私も一つしてやろう。怖いやつだがな」

 

怖い話と聞いた途端、全員が強ばった表情を見せた。

 

「ふふっ、じゃあ始めるか。これは私のいるパラオで少し話題だった話だ。ある日のこと、近くの島の漁師がここからすぐ近い海域に漁にでたんだ。船を出した時は快晴だったのが、いつの間にか濃霧に囲まれてたんだそうだ」

 

ガングートの巧みな話し方に、全員がすっかり聞き入っていた。

それを見るとガングートもさらに熱が入る。

 

「そうしてるうちに今度は計器がおかしくなったらしい。魚用のレーダーも使えなくなった。調子が悪いし、視界も悪いから諦めて帰ろうとしたその時だ!濃霧の先にぼんやりと人影が映ったんだ.....」

 

次第にみんなが震え始める。普段は元気で活発な摩耶でさえ青ざめていた。

 

「こんなところに人がいるはずがない。そう思ったが気になった漁師は、その方に近づく。ある程度近づくと、ノイズのような音と一緒に女の声が聞こえたんだ。「ミエナイ....ミエナイヨ.......」とな」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

それを聞いた途端、白露が絶叫した。

逆に叫び声にガングートが驚いてしまうほどだ。

 

「おいおい、そこまで怖がらなくても」

 

「無理無理!白露はそういう話無理だって!」

 

「じゃあなんで聞いたんだ.....マヤ、どうだった。マヤ?」

 

摩耶はそのままの姿勢で失神していた。

彼女もホラー耐性は無に等しいようだ。

吹雪や綾波も少し怖かったようで、お互い抱き合って震えていた。

 

「まぁまぁかしら、私はそこまで怖くなかったけど」

 

「それが普通の反応なんだがな.....」

 

「弥生も怖くはなかったです」

 

「彼女達が怖がりなだけか」

 

「ですね」

 

その時、兼田が談話室に入ってきた。

 

「皆、執務室に来てくれ。上から作戦書が届いた」

 

兼田の指示でてきぱきとものを片付け、足速に執務室に入った。既に春日、鷹谷、そしてほかの艦娘達が部屋に到着している。

 

「提督、来たぜ。作戦か?」

 

「うん、上層部から海域の調査、偵察を頼まれた」

 

「なんだ、偵察なら楽勝じゃねぇか」

 

「いや、そうもいかないと思う。今回は敵中枢艦隊を突っ切っての強行偵察だ」

 

スクリーンを下ろすと、プロジェクターから海域の図と作戦資料が映し出される。そこに兼田が説明を入れた。

 

「いいか、今回は南方海域のここだ。以前から上層部が奪還しようと画策してる海域だが、強力な対空兵器の存在が囁かれてる。今回はそこの強行偵察、可能なら対空兵器の撃破だ」

 

「あの、それはいいんだが、どうして俺たちなんだ」

 

「他鎮守府及び泊地は別作戦で忙しい。今実行出来るのはショートランドだけだそうだ」

 

一通り説明を終え、春日が付け加えた。

 

「とりあえず、主任務は強行偵察、交戦はなるべく減らすよう頼む。編成は加賀、飛龍、妙高、綾波、木曾、叢雲だ。旗艦は加賀さんにお願いします」

 

「了解しました」

 

「作戦結構は明朝0630時。米海兵隊輸送機のオスプレイが到着する予定だ。それまでに準備を徹底するように」

 

 

 

その夜、明朝の作戦に備え、叢雲は部屋で装備の調整をしていた。

今回は出撃なしの摩耶にも手伝ってもらいながら、着々と準備を進めていく。

 

 

「にしても、最近この辺深海棲艦増えたなぁ....」

 

黙々と準備をする中、静かさに耐えれなくなったか、摩耶が話題を振る。

 

「私が着任してから結構な頻度よね、もしかして私が疫病神なのかしら?」

 

 

「んなわけねぇだろ?この辺は元から深海棲艦の拠点とかあったりで忙しかったから、それが原因だろうな」

 

「そういえば、摩耶はここに来てどれくらい経つの?」

 

普段雑談はするが改めてそういった話はした覚えがなかった。その質問に摩耶はあっさり答える。

 

「叢雲が来た時....確かまだ一年も経ってねぇかな?だから今は一年と数ヶ月って感じか。叢雲はここに来る前はどこにいたんだ」

 

「私はずっと舞鶴の嚮導隊にいたわ。訓練過程は終えてたんだけど、そのあとから来た艦娘の訓練とかやってたわね」

 

「へぇ、じゃあ実戦はここに来てからが初めてか」

 

「いや、何回か出撃はしてるし戦果もまぁまぁあったわ」

 

「叢雲、ちょっといいかな?」

 

摩耶とそんな話をしていると、鷹谷がノックしてドアを開けてきた。

叢雲に用があるようだ。

 

「鷹谷司令官、どうかしたの?」

 

「いや、これを采音から渡すように言われてね」

 

そう言って大きなケースを床に置くと、ロックを解除してケースを開いた。

 

「なにこれ、ゴーグルっぽいけど.....」

 

「横須賀の技術研究本部が試作した艦娘用の戦闘補助システムらしい。データ採取も含めて明日の作戦で使ってほしいそうだ」

 

「新装備ってことね、ありがとう。大事に使うわ」

 

「じゃあ俺はこれで失礼するよ。頑張ってくれ」

 

「ええ、任せて」

 

 

 

 

 

 

 

翌日0630時

彼女たちは準備を終えて朝焼け空の砂浜に出た。既に輸送用のオスプレイは砂浜に待機、エンジンもかかった状態だ。

 

「おはようみんな!これから強行偵察任務を始める!後ろのオスプレイに乗って南方海域の敵防衛線を強行突破、対空兵器の所在特定、可能なら破壊!」

 

オスプレイのローター音が響き渡る中、春日は海軍帽を押さえて作戦に参加する艦娘達に説明していた。

 

「そして昨日全員に渡された新型装備だが、オスプレイに乗ってからバイザー横のスイッチを押してくれ。以上だ」

 

話が終わると、彼女たちはオスプレイに乗り込む。全員が乗ったのを確認すると、後部ハッチが閉まり、オスプレイはあっという間に離陸して空の彼方へと消えた。

 

「.....同志カスガ、ひとつ聞いていいか?」

 

見送りが終わると、ガングートが春日に質問を投げかけた。

 

「なんだい?」

 

「今回は戦艦がいないようだが、大丈夫だろうか」

 

「大丈夫。彼女たちならできる」

 

彼女の疑問に春日はあっさり答えた。

それはたとえ遠まわしな言い方でも伝わるほどの信頼の高さだった。

 

「なるほど、よほど信頼されてるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、オスプレイは順調に飛行を続けていた。

 

『こちらキャブ2-1、現在敵影もなし、ETA20分。オーバー』

 

《キャブ2-1、こちら司令部。深海棲艦にはTOWやRPG等の装備も確認されてる。有視界内も警戒せよ、オーバー》

 

『キャブ2-1了解、アウト』

 

「英語はさっぱりなんだよな....何言ってんだか」

 

パイロットの通信が聞こえると、木曾が口を開いた。静かすぎた機内が少し賑やかになった。

 

「あと20分ぐらいで着くみたいです」

 

「弥生、お前英語わかるのか?」

 

「はい、多少の会話程度ならできます」

 

「やっぱすごいなお前......」

 

驚愕する木曾を横目に他の艦娘はくすくすと笑っていた。

 

「お嬢さん達!あともうちょっとで目的地だ!準備してくれ!」

 

パイロットの片言な日本語で指示が出た。

彼女たちは急いで装備の再確認を行う。

 

「そうだ。司令官が機内で付けろって言ってたわね」

 

春日の言葉を思い出すと、バイザーを下ろし、横のスイッチを押した。

 

《戦闘補助システム起動。艤装情報とのデータリンク開始》

 

「わわっ、なにこれ...」

 

《艤装タイプ読み込み完了、駆逐艦。吹雪型五番艦、叢雲。戦闘補助システムを駆逐艦用にカスタマイズ》

 

バイザー越しに数列が流れるように出ると、HUDのように色々な情報が投影されていた。

 

「これが新装備か.....」

 

みんなが新装備に見入っていた時、突如機内に警報音が鳴り響いた。

 

『アラート!RPGだ!』

 

パイロットは勢いよく操縦桿を捻り、海上の深海棲艦が放ったRPGを回避していく。

 

『こちらキャブ2-1!現在敵の激しい対空砲火にさらされている!敵数6!海域ポイントはT、A、2-1-4-7』

 

《こちら司令部、現在こちらも周辺に深海棲艦が出現した!支援が出せない!》

 

『了解!通信アウト!お嬢さん達、ちょっと荒っぽくなるぞ!ガンナー!蹴散らせ!』

 

『あいよ!任せた!』

 

機体側面のドアを開けると、乗員の1人がすぐそばのミニガンに手を伸ばす。

 

『食らいやがれ!』

 

唸り声のような重なり合った銃声、機内に空薬莢がジャラジャラと音を立てながら転がる。無数の弾丸は土砂降りのように深海棲艦に降り注いでいく。

 

『パイロットさん、ここで降ろしてください!これ以上危険に晒す必要は無いです!』

 

弥生が英語でパイロットに声をかけた。これ以上危険になったら彼らが危ないと叫ぶ、しかし彼らはそれでも彼女たちを送り届けようと近くまで飛んでいく。

 

『俺達の任務はお嬢さん達を目的地に運ぶことだ!任務もできない海兵隊じゃあ、仕事にならんさ!』

 

そうしてる間も、深海棲艦の攻撃は止む気配がない。パイロットにできることは、ただこの攻撃の嵐を抜けることだった。

 

『ガンナー!7.62じゃ歯が立たん!40mmグレネードを使え!』

 

『了解!』

 

ガンナーがミニガンから離れ、機体後部に取り付けられた自動擲弾発射器に手を伸ばした。

 

『とびっきり痛いのをぶっ食らわせてやる!』

 

さっきの唸り声のような銃声とは違い、バシュッ!という発射音が連続で鳴り響く。

発射器から放たれた40mmのグレネード弾は、深海棲艦に当たると爆炎と破片を撒き散らしながら炸裂していく。

 

『ざまぁ見やがれ!海兵隊なめんなよ!』

 

弾薬を撃ち尽くす頃には深海棲艦は既に沈んでいた。連続発射で高温を帯びた銃身が真っ赤に光っていた。

 

『司令部!こちらキャブ2-1。脅威を排除、ポイントへの輸送を再開する!ETA5分、オーバー』

 

《キャブ2-1、了解した。艦娘を展_後は__ちに離__せよ》

 

『司令部、無線状態が良くない。もう一度言ってくれ』

 

《__エナク__ナニモ、ミエナクシテヤル!》

 

突然の雑音が通信を遮った。そして聞こえてきたのは、司令部の人間ではない女の声だった。

 

『.....っ!?ミサイルアラート!』

 

突如、ロックオンを知らせる警報が鳴り響く。さっきのとは違い、間違いなく対空ミサイルだった。パイロットは慌ててミサイルを回避し、なんとか機体の姿勢を立て直した。

 

「くっそ!ミサイルのせいでホバリングできない!海面スレスレを飛ぶから飛び降りてくれ!」

 

上空にフレアを撒き散らして一気に高度を下げる。そのまま海面から僅か2、3m上を飛びながら後部ドアを開けた。

 

「全艦、全速前進!降りるわ!」

 

機内で機関を回し、順番に勢いよく海面に滑り降りていく。全員が降りると、すぐさま後部ドアを閉めてオスプレイは上空へと飛び去った。

 

《海域データを読み込み完了。HUDに投影します》

 

バイザー越しに立体的な地形図が重なり、更には天候や潮流などが投影された。

 

「通信は.....ダメだな。ノイズがひでぇ....」

 

「仕方ないわ、このまま行きましょう。艦隊、輪形陣で前進。艦船及び敵機に警戒」

 

加賀の指示で素早く陣形を組み直すと、砲を構えながらゆっくりと進み始めた。

 

 

 

その先に死神がいることも知らずに___

 

 

 

 

 


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