失踪してはないです!
「なるほど、とんだ災難だったな....」
「あぁ、最悪だよ、采音」
横須賀鎮守府のとある部屋で鷹谷や春日、兼田が話していた。あの一件から二時間ほど経過していた。もちろんのことだが、中華街で保護した深海棲艦の少女も一緒だった。
「おい、今は下で呼ぶな」
「へいへい、相変わらず硬いなお前は」
そんなことを話してるさなか、春日が口を開く。
「中佐、奴らはやっぱり陸自だったんですか?」
「そうだ、お前の言う通り奴らは陸自の連中だった。奴らが動いてた理由は.....こいつだ」
そう言うと兼田は隣に座っている例の深海棲艦の少女の頭を撫でた。
「どうやら沿岸部でうろついてたのを拿捕したらしい。横須賀市内の研究施設に入れてたが脱走、奪還するべく送られたのが奴らって訳さ」
だが海軍関係者に発砲しようとしたのは事実。兼田はそれを理由にゆすりをかけ、情報を聞き出した。彼女が得意げに話しているさなか、鷹谷は頭を抱えていた。
「あと、知ってはいると思うがこいつはこれから我々海軍の監視下に置くことになった。研究の際の情報も手に入れたが、こいつはすごいぞ」
「すごい、というのは...?」
「こいつは変わった力があるようでな、なんでも___」
その時、海側から大きな爆発音が響いた。
ガタガタと窓ガラスが振動し、天井の照明がチカチカと点滅し始める。
「おい、今度はなんだよ!」
「イマノ、アイツダ!」
「お、おい待て!」
慌てて少女の後を全員で追いかける。
建物を出て港方向に向かうと、水平線の彼方で黒い人影が一つあった。
「おいおい、まさか....」
「おい提督、今の砲撃はどっからだ!」
遅れて木曾たちが追いついた。春日たちの見ている方向を向くと、彼女たちも青ざめた。
...水平線の向こうに、撃沈したはずの戦艦棲姫がいたのだ。
「嘘だろ......」
それを見ると、深海棲艦の少女は急いでこんごう改へと走っていった。
「コノチカラツカウノ、ヒサシブリダケド....」
そう言って彼女は艦首に立つと、目を閉じて両腕を広げた。直後、艦に暗い紫色の紋様が浮かび上がる。
「なに、あれ......」
彼女以外誰も乗っていないはずのこんごう改が動き始めたのだ。さらに船体には青紫色の紋様が光って浮かび上がり始めた。
異様な事態に鎮守府にいたこんごう改の乗組員も外に飛び出してきた。
「な、なんなんだありゃ......」
「....あれがアイツの力....アイツは船を自身の手足の様に操れる能力があるんだ。それだけじゃない、大抵の大型機械は動かせる」
既に理解が追いつかない鷹谷達に兼田が説明を始めた。あれこそが彼女が陸自に秘密裏に拿捕されていた理由だったのだ。
《フフ、ヤッパリアナタナノネェ?マダシズンデナカッタナンテ、シブトイワネェ》
無線に戦艦棲姫が介入してきた。どうやら彼女のことを知ってるようだった。
「ソッチコソ、マダシズンデナカッタノネ」
《ワタシノシメイハウラギリモノハシズメル....ソレダケヨ!》
直後無線が切断、ノイズ以外聞こえなくなった。
「これが、あの深海棲艦の力.....」
日が沈んでいく海原へ、彼女がゆっくりと進んでいく。
船体は相変わらず紫色の発光を続け、不気味な雰囲気を出していた。
「アナタタチモノッテ!」
そう言うと彼女は手を挙げ、艦娘展開用のハッチを開けた。
「春日、鷹谷!お前らの艦娘の艤装はあの中だ!一緒に連れて行け!」
「中佐は!」
「私は万が一に備えて周辺に避難勧告を出してくる!やつ一隻でもこの周辺を火の海にすることは可能だ!なんとしても食い止めろ!!」
「采音の言う通りだ春日、このまま横須賀港に奴が入ったら危険だ。ここで食い止めるぞ!」
「わかってますとも!!」
そのまま鷹谷はガングートに向き直り、ロシア語で話しかけた。
『ガングート!お前も戦うか?』
『もちろんさ同志!』
彼女も戦う意志満々のようだ。
「木曾!弥生!叢雲!ガングートに続いてくれ!」
「わかったわ司令官!弥生、木曾!私達だけでも食い止めるわよ!」
叢雲の発言に、二人は無言で頷いた。覚悟は既に済んでるようだった
「よし行くぞ、作戦開始だ!」
こんごう改のレーダーには徐々に近づく戦艦棲姫が映し出されていた。