「さぁ、ここが中華街だ!」
「「おぉー.....」」
春日達は、先輩提督の鷹谷と合流し中華街を訪れていた。
「ほぉ、ここが中華街か。いい匂いがするな、同志」
「あぁ、俺もあんまり行ったことはないが、いいとこだぞ」
「鷹谷さん、こっちにおすすめのお店ありますよ」
そう言って案内してる時だった。
「キャッ!?」
「おっと、大丈夫かい?」
雨が降る中、黒い布を纏った少女が走ってきた。彼女は後ろを見ながら走っていたためか。前にいた春日にぶつかった。
「ア......ア.........」
(怯えてる?)
その少女は春日と艦娘を見るやいなや、カタカタと震えだして怯えだしてしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「ヒッ......」
様子を見て心配した木曾が少女に近づくが、小さな悲鳴をあげて後ずさる。
「まさか、深海棲艦?」
「なっ.....」
「ヤ、ヤメテ....ワタシハタタカワナイデス...!」
反応や言葉の喋り方で明らかに深海棲艦なのがわかった。だが春日達はなぜここに、しかも陸上に艤装すら持たない深海棲艦がいるのかが気にかかっていた。
「鷹谷さん、とりあえずこの娘は保護して横須賀鎮守府に行きましょう」
「おいおい春日!それはダメだろ!」
「でも彼女には戦う意志がないです。今なら深海棲艦についてなにか聞けるかも....」
そんな真面目な話をしてる時、きゅぅぅ....と、気の抜けるような腹のなる音が聞こえた。音のした方を向くと、深海棲艦の少女が恥ずかしそうに腹を押さえていた。
「....とりあえず飯食べよう!」
___結局春日達は深海棲艦を連れて中華街のとある店に入った。
「お、来たな。じゃあ、いただきます!」
「....うむ、中華は初めて食うが、これは良いな」
ガングートを始めた叢雲や木曾、紫織と不知火も美味しそうに料理を口に運んでいた。
「この餃子美味いな」
「木曾さん、こっちの小籠包も良いですよ!」
肝心の深海棲艦の少女も艦娘の彼女達に負けずの勢いで食べていた。
「なぁ春日。この娘どこから来たと思う?」
楽しそうな食事の様子を横目に、鷹谷は春日耳打ちをしていた。
「わかりません。ただ、あの服から推測するに何者かによって捕縛されてた可能性が」
「だとすると、追手の可能性もあるな。戦闘はゴメンだぞ、昇任の目処が立ってる中で二階級特進なんてシャレにならん」
「早めに兼田中佐に連絡を取っておきましょう」
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「オイシ、カッタ......」
話終わる頃には料理を食べ終え、食後の茶を嗜んでいた。
「どうだ不知火、ここは結構よかっただろう?」
「ええ、春日司令、とても美味しかったです」
「ここは昔両親とよく行ったんだ。今思えば、頼んでる料理は昔から同じだね」
「貴様ら、同行を願おうか」
そんな話をしてたさなか、物々しい軍用装備を纏った男達が店内に入ってきた。
店内が一瞬で静かになった。
「.....あなた達はどちら様でしょうか?」
「それは教える必要は無い。我々はそこの深海棲艦に用がある」
彼らは少女の方を睨みつけた。視線を感じたのか、小動物のように怯えながら春日の後ろに身を隠した。
彼女が彼らに対して恐怖を抱いているのは一目瞭然だった、しかも春日たちに初めて会った時の怯え方にとても似ている。
「私服で失礼、我々は日本海軍の所属です。この際なので言いますが、「深海棲艦を発見、拿捕した際は状況に関わらず海軍に身柄を引き渡す」そのはずですが?」
春日の一言に、男は苦虫を噛み潰したような顔をした。彼らもその少女を追っていることが規則に反しているのはわかっているようだ。
「見たところあなた達は陸自ですね?」
「そ、それがどうした!」
「何故陸上自衛隊が深海棲艦を必要とするんでしょうか?」
「お前には関係ない!とっととそいつを引き渡せ!さもなくば撃つぞ!」
痺れを切らしたのか、男達が一斉に春日に銃口を向けた。おびただしい数のレーザーポインターの光が彼の体に当たっていた。
だが彼も全く動じていない。
「......そうか、じゃあ撃ってみろ」
「貴様!図に乗るなよ!」
「それはこっちのセリフだ!いいかよく聞け、別にそっちが撃とうが構わない!ただし撃つ勇気があるならな!それに今ここで射殺してみろ、海軍の将校を射殺したということで大事になるぞ!」
「......っ!」
春日のその発言で彼らは無意識に、引き金にかけていた指を離した。
「どうする、今ここで僕を撃って力づくで彼女を奪うか。それともこのまま大人しく退くか」
「クソっ!全員撤収!奴の身柄は海軍に引き渡す!」
一触即発の状況の中、向こうが折れてくれた。銃を下ろし、足速に店をあとにした。
「.......はぁっ...」
緊張がほぐれたのか、春日はその場で力が抜けたように座り込んだ。
「司令、大丈夫ですか?」
慌てて弥生がそばに駆け寄る。
「ああ、流石に緊張したよ。柄じゃない事はするもんじゃないね....」
そのままゆっくりと立ち上がると、深海棲艦の少女に目を合わせた。
「さあ、これで今から君は我々の下に捕虜として扱われる。だが心配はしなくていい。捕虜と言っても、もてなし方は客人と同じだ」
その言葉を聞いて彼女は安堵の表情を浮かべた。
「.......アリガトウ」
「さあ、鎮守府に帰ろう」