(ほんとに何なのよ、ここは…)
執務室から、強制的に連れ出された叢雲は、案内をしている摩耶の後ろをついて行っていた。
「ここが入渠用ドック、こっちが食堂...って、聞いてんのか?」
「聞いてるわよ。」
彼女に対し、叢雲は素っ気ない返事をした。
「なんだぁ?可愛くねぇな。ホレホレ♪」
そう言うと摩耶は、叢雲の頭を荒っぽくガシガシと撫でた。
「な、何すんのよ!?」
「なーんだ。可愛い反応できるじゃねぇか。無愛想なのは勿体ねぇぞ?」
「余計なお世話よ!まったく...」
そんなやり取りをしていると、二人は部屋に到着した。
「よし着いたな、今日からここがお前の部屋だ!」
そう言って摩耶は部屋のドアを勢いよく開けた。部屋の中は、鎮守府内のボロさをかき消すようなしっかりとした内装だった。
「あら、中々良いじゃない。」
「だろ?廊下とか大部屋はちょっとボロいけど、生活部屋は綺麗なんだ!」
(少しは他も整備しなさいよ…)
「って、ん?」
部屋を見回していると、叢雲はある疑問を持った。
「ん?どした?」
「いや、なんでベッドが二段なの?」
「あぁ、それね!うちの鎮守府はちょっと変わったシステムでなー。違う艦種との共同生活が基本なんだ。」
「そうなの。随分変わってるわね。それで、私と相部屋なのは誰なの?」
摩耶は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「なんだ?察しが悪いなぁ。ここ使わない奴に案内させる訳ねぇだろ?」
「え、それってまさか...」
「そのまさかだよ。お前との相部屋は、この摩耶様だ!驚いたか?」
「ちょっと待って。私入れて13隻じゃない。一人部屋は一体誰なの?」
「あぁー。それは大淀だな。あいつは色々忙しいし、一人部屋の方が融通利くんだと。」
(だとしても...よりもよって....)
「なんだぁ、なにか不満か?」
叢雲が考えている事が分かったのか、摩耶はムスッとした表情を作る。
「...別に。」
その返答に、摩耶はニヤッと笑った。
「よし!それならいいんだ!それじゃあ、さっさと他の所も案内しなきゃな!」
そう言うと摩耶は、また叢雲の手を引いた。
「ちょ、ちょっと!またなの!?」
「まだまだ案内しなきゃいけない所いっぱいなんだ。悪ぃな。」
そう言って部屋の外に出ようとした時、耳をつんざく様なサイレンの音が聞こてきた。その後、慌しい大淀の声が聞こえた。
"鎮守府近海海域、製油所地帯沿岸にて、深海棲艦の出現を確認!以下の艦娘は至急出撃用ドックヘ急行してください!加賀、飛龍、摩耶、木曽、白露、叢雲。これは訓練ではありません!繰り返します。これは訓練ではありません!,,
「...悪ぃな。案内はやっぱナシだ。」
さっきまでニヤニヤ笑っていた顔が嘘のような、険しい表情を作っていた。
「初日から忙しいわね。」
「出撃用ドックは向こうだ。行くぞ。」
そう言うと二人はドックへと走り出した。
しばらくして、二人はドックの前ヘ着いた。
二人以外の艦娘は、既に着いていた。
「叢雲、実戦経験はあるよな?」
「もちろんよ。」
「なら話が早い。」
摩耶は、またさっきの様にニヤッと笑った。
しばらくして、大淀が入ってきた。
「これで全員ですね。それでは、出撃準備をお願いします。なお、今回の旗艦は摩耶さんにお願いします。」
「おうよ。任せときな。」
そう言うと摩耶は、奥へと歩いていく。
叢雲や、他の艦娘もついて行く。
「ここが出撃用ドックだ。」
「こんな施設あったのね。」
出撃用ドックの中は、既に少し注水されていて、上には各艦の主機や武装が吊り下げられていた。
「時間がない。さっさと出るぞ。」
「了解よ。」
叢雲は降りてくる自分の艤装の下へ行き、主機を背中へ装着し、武装を主機横のアームに取り付ける。他の艦娘達も同様に自分の装備を装着していく。全員の装備を付け終えたところで明石が放送を流した。
"各艦は、缶の始動後、進水を行って下さい。,,
指示に従い、缶を始動させる。小気味よい振動が体を震わせた。それぞれが水上へと立ち準備が整う。
"全艦娘の装備着装を確認。ドックヘの注水開始!正面隔壁解放!進路クリア!,,
目の前の壁が開き、陽の光が薄暗いドックの中を照らしていく。
「よし!行くぜ!抜錨だっ!!」
To be continue...