「クソッタレ！なんでここに！」
横須賀への移動中、木曾達は敵艦隊と戦闘後に突如姿を見せた戦艦棲姫と交戦していた。
「姫級だ！機関最大、総員戦闘準備！接近して援護する！」
木曾たちの遥か後方、イージス艦「こんごう改」艦長の岱蔵は指示を出しながら彼女達の援護をしようと接近していた。
"やめろ艦長！今近づいたら的だ！,,
木曾が声を荒らげた時には既に遅く、戦艦棲姫は艦に向け狙いを定めていた。
吹き荒れる爆炎。衝撃波で波が立つ。
「敵、砲撃を確認！弾数10、本艦へ向け飛来中！」
「取り舵いっぱい！CIWS起動！」
艦が急旋回し、CIWSから無数の弾丸が放たれる。しかし、すべて落とすことは出来ず、2、3発が飛んできてしまう。
「総員、対ショック姿勢！」
その直後、砲弾がこんごう改のレーダー部分を抉って爆発した。
凄まじい衝撃に、艦橋や艦内の乗員が左右に転がる。ガラスは割れ、内部の配線がバチバチと火花を散らしながらむき出しになってしまった。
「被害状況！」
「対空、水上レーダー損壊！捕捉能力喪失！ミサイルの誘導も不可！」
「その他武装は！」
「127mm砲、CIWS、セル内のハープーン健在！」
「クソ！あっちの方に当ててきやがった！」
その頃木曾達は、戦艦棲姫との戦闘を続けていた。遥か先で煙を上げる艦を目に、悪態をついた。
「フフ....オマエタチハ.....予定外ダガ...シズメッ！！」
(予定外？)
彼女の言葉の意味を考える暇もない至近距離での砲撃。一発でも直撃すればひとたまりもない。
「いいか！正面での戦闘を避けて、回り込んで砲撃しろ！」
指示に従い、叢雲、弥生、朝潮の三人は距離を取りながら戦艦棲姫を中心に旋回して砲撃を加えていく。
だが小口径の主砲ではろくなダメージを与えられない。
「木曾さん、ダメです。歯が立ちません。」
「クッソ！魚雷の残弾もほぼないぞ！」
その頃、こんごう改艦内ではレーダーの復旧を行っていた。
「これでは木曾くん達への援護ができない.....」
「艦長、ご無事ですか？」
CICに春日が入って来た。
「あぁ、幸い負傷者も出てないが....レーダーをやられた。」
「艦長、その件ですが、彼女達の電探と同期させてはどうでしょうか。」
春日の発案を聞き、「それだ！」というような表情を浮かべた。
「木曾、聞こえるかい？」
"あぁ、よく聞こえるぜ提督。,,
「頼みがある。電探の出力を最大にしてくれ。そうしたら奴の動きを止めてくれないか。」
"了解だ。やってみる。,,
無線を切ると木曾は指示を出し、全員が電探の出力を最大まで上げた。
「電探と同期開始！敵、位置情報出ます！」
モニターに「ENEMY」と付いた赤い点が映し出された。
「うむ、成功だ。敵位置情報を全ミサイルにインプット！発射準備！」
それと同時に、艦内にミサイルの発射準備を知らせるサイレンが鳴り響いた。
「発射準備完了、いつでもいけます！」
「今だ木曾！」
"了解！,,
同時に、全員が戦艦棲姫を囲み、残った魚雷を一斉に撃ち込む。
「シズメ.....シズ＿＿＿＿」
彼女の声は爆音によって掻き消された。
「....やったか？」
爆発で吹き上がった海水が霧のようにかかる。
「ア、ガァッ....ウウウアアアアアアアッ！！！」
突如聞こえた叫び声と共に、霧が吹き飛ばされる。戦艦棲姫は全くダメージを負っていなかった。
「ちくしょう！ダメか！」
「シズメ....暗イ、水底ニ.....ウフフフ.....」
彼女が牙を剥き出しにしながらゆっくりと木曾達の方へ近寄っていく。
「今だ！ハープーン一斉射！」
「了解。目標捕捉、ハープーン全基発射！」
直後、飛行機雲のような煙がこんごう改の周囲に立ち込め、無数のミサイルが戦艦棲姫めがけ飛翔する。
「来たぞ！お前ら、退避しろ！」
ミサイルの光を見て一斉に離れていく。
「フン！ソンナモノッ....ッガァ！！」
彼女は声を荒らげて避けようとする。しかし
「おっと、それは俺が許さねぇ。」
菰田が127mmを操作、射撃し戦艦棲姫に当てては足止めしていた。
直後、おびただしい数の対艦ミサイルが次々と着弾していく。繰り返される爆炎の中、戦艦棲姫は叫び声をあげながら力尽きた。
「....敵反応消失。速やかに艦娘を収容、横須賀への航行を開始します。」
その言葉を聞き、CIC内や艦内で歓声が上がった。
数時間後、彼女達は無事横須賀へと到着した。
大きな破損を受けたこんごう改は大型ドックへと運ばれ、妖精達による修理を受けることになった。
「ははは、随分ひどいやられ様だな、春日。」
春日達が艦を降りると、同じ白い軍服を纏い、腰にホルスターと軍刀をさげた黒い長髪の女性が待っていた。
「ええ、なんとか勝てましたよ。中佐。」
「あの、兄さん？もしかして......」
朝潮、もとい紫織が春日の顔を覗き込み質問をした。
「あぁ、彼女が横須賀鎮守府の提督。兼田(かねだ)中佐だ。」
「え、うそ......」
驚くのも無理はなかった。彼女はどう見ても少女と呼べる年の見た目をしていたからだ。
「兄さん？なるほど、貴様は春日の妹か。あぁ、私がここの提督。兼田采音(かねだことね)だ。ようこそ横須賀鎮守府へ。」
一時間程後、必要な確認を済ませ春日は兼田の執務室に叢雲達と共に休んでいた。
「ははっ、なるほど。戦艦棲姫に会ったのか。」
「ええ、おかげで大変でしたよ。」
彼女の笑いを見て春日は苦笑いを浮かべた。
「久しぶりだな中佐。」
徐ろに木曾が立ち上がると、何を思ったのか突然兼田の頭をガシガシと撫で始めた。
「お前、あいっかわらずちっこいな。」
木曾よりも背が低い彼女はただガシガシと撫でられるだけ.....ではなかった。
「フンッ！」
唐突に出した拳。寸分の狂いもなく木曾の腹に叩き込んだ。
「ごふっ！う、ぁぁ.........」
「私が小さいのは家系の遺伝だ馬鹿者。全く、その馬鹿さ加減も変わってないな。次やったら今度は意識刈るぞ。」
どれほどの力で殴ったのだろうか、木曾は腹を抑えて呻きながら執務室の床を転がり回っていた。