艦これSS〜一筋の航跡〜   作:鉄製提督

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良いオチが思いつきませんでした。少々変かも。


第十話「謎多き駆逐艦⑷」

夜も更けた鎮守府。その執務室の中で、春日は呼び出した弥生に銃を突きつけていた。

 

「司令官....なんのつもりですか…」

 

弥生は、慌てる様子もなくただ春日を睨んだ。

 

「なんもないさ。君が本当のことを話す。それだけ。何故君はサブ島を知っていた。」

 

「......」

 

「黙ってしまったか...じゃあもう一個質問。なぜ君は集団を嫌う。何か理由があるんだろう?」

 

「.....貴方にお答えする義務はありません。」

 

質問に対し弥生は、そう答えただけだった。

 

「ふむ、残念だ。」

 

迷いなく撃鉄を起こし、安全装置を外して引き金に指をかける。

 

「っ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然、弥生が春日の腕を捻り、銃の射線から出た。そのまま体に絡みつき、全体重をかけて春日をねじ伏せた。

そのまま彼の銃を奪い取った。

 

「本当に、残念です...」

 

拳銃のスライドを引き、"薬室内の未発砲の弾丸を,,排莢し、すぐさま引き金を引いた。......だが、執務室に響いたのはカチンッと音を立てて下がりきって止まったスライドと、排莢した未発砲の弾丸が虚しく転がる音だけだった。

 

「な、なんで...」

 

目の前の現実がわからず、弥生がひたすら引き金を引く。しかし聞こえるのはカチャカチャという金属音だけだった。

 

「....墓穴を掘ったな。」

彼の拳銃には一発しか弾を込めてなかったのだ。そう、彼は、弥生が銃を奪った場合必ずスライドを引いて強制排莢をすると賭けたのだ。服の埃を払って立ち上がると、弥生が奪った拳銃を取り上げ、上着の中にあるホルスターにしまった。

そのままぺたんと座り込んだ弥生に近づく。

 

「ひっ....」

悲鳴のような声を一瞬あげると、そのまま後ずさりし始める。

 

「そう。今の動作、薬室内の弾丸を強制排莢して、確実に撃てるようにする動き。見事だけど、ツメが甘かったね。そしてこれは銃を触っただけじゃ身につけない、今の接近戦の動きも、人を殺すための技術。一体どこで覚えた?」

 

「っ.....」

 

その質問も黙ってしまった。

 

「君は...何者なんだ。何故君は集団を嫌う。」

 

「....る...ずがない」

 

「なんだ?」

 

「貴方に、わかるはずがない!」

 

普段物静かな弥生が珍しく声を荒らげた。

 

「私は、集団を嫌ってるんじゃない。私自身がいてはならないだけ!艦娘になる前は地獄そのものだった...人を殺すための技術を磨き、世界中から雇われ、戦場の泥の中を這い、この手で、たくさんの人を殺めた...大義も、名誉もない!人の命が消える瞬間を何度も何度も見てきた!そして、"あの作戦,,で私は何もかもを失った!.....私は、貴方達とは違う。汚れきった人....貴方達と一緒にいるべきではない...貴方達みたいに大義もなければ、守る人もいない......いるべきじゃないんですよ...」

 

「そうか....確かに、君の過去の事は許されることではないかもしれない。でも、君はそこから抜けた。違うか?」

 

「確かに抜けました。でも、私の過去は変わらない....」

 

「それはそうだ。過去は変わらない。でも、今の君は昔の君じゃない。」

 

「えっ....?」

 

「君は、艦娘。睦月型三番艦「弥生」だ。国を、海を、仲間を守る存在になれてるじゃないか。」

 

その言葉を聞き、彼女の頬からは涙がつたっていた。

 

「昔の君がそうでも、今は違う。大義も名誉もある。守るべき「姉妹」も....だから、そんなに抱え込むんじゃない...」

 

春日の目は、柔らかい笑顔の時の目だった。

 

「し、れい....かん....」

彼女は春日に抱きつくと、今まで溜めてたものを吐き出すかのように泣き出してしまった____

 

 

しばらくして落ち着いたのか、弥生は執務室のソファに横になっていた。

 

「司令官 ...」

 

「なんだい?」

 

「司令官はどうしてサブ島を知ってたんですか?」

 

「私も陸自時代に、行ったんだ、作戦で。結果は大失敗、僕は多くの仲間を失くした...」

 

「そうでしたか.....」

 

「私は、そこで失った。二度も....」

 

(二度?)

 

そう言っていた春日の背中は、どこか寂しそうだった。

 

 

「失礼するぜ。話、終わったかな?」

 

その直後、木曾が執務室に入ってきた。

 

「木曾....さん?」

 

「よお弥生。話は一通り聞かせてもらったぜ。」

 

「.....聞いてたんですね...」

 

「あぁ、まぁな。でも、俺は提督から昨日の朝のこと聞いた時から感づいてはいたけどな。」

 

「え?どうして....」

 

「話すの面倒だから....ほれ。」

 

前髪をのけて眼帯をずらすと、瞼の上に銃創のような傷跡がくっきりとあった。

 

「その傷は....」

 

「あぁ、簡単に言えば"俺も昔同じ道を歩んでいた証拠,,ってことだな。あ、目はちゃんとあるぞ、見えねぇけどな。」

そう言って眼帯側の目を開くと、反対側と色が違っていた。

 

その傷跡を見て、春日はただ真剣に見つめるだけだった。

 

「弥生。俺も昔は同じこと考えてたさ。でもな、昔の俺とは違う。提督も言ってただろ?今は守るべき奴だっている。だから、俺達と一緒に戦おうじゃねぇか!艦娘に昔の過去なんざ関係ない。」

 

「....はい。木曾さんや、司令官の言う通りです。これからは、駆逐艦「弥生」として、精一杯頑張ります。.....ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。」

 

そう言って弥生は執務室を後にした。部屋を出る前の彼女は、作ったような笑顔じゃなく、心の底から感謝しているような表情をしていた。

 


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