やよちゃんの正体に迫る回でございます。
「こちら第一艦隊通信担当、弥生。作戦司令部大淀さん、応答願います。」
"こちら作戦司令部大淀。弥生さん、報告を。,,
「はい。敵本隊との戦闘後、別部隊より奇襲を受け退避。退避時に海図を喪失。現在地不明です。」
"了解しました。こちらで位置情報を探知します。周辺で警戒しつつ待機しててください。,,
「了解....」
翌朝、摩耶旗艦の第一艦隊は、制圧海域にて出現した深海棲艦の部隊と交戦。主力を殲滅した直後、増援部隊に追われたとこだった。
「くそ、海図失くしたんじゃ動けねぇな…」
「ま、まぁまぁ。とりあえず被害は最小限ですし、そこだけでもツイてるって思えば…」
悪態をつく木曾を吹雪が宥めていた。
「とりあえず周りを確認しましょう。」
全員が加賀の意見に賛同し、電探を確認し始める。
「.....摩耶さん、通信機預かっててもらえますか...?」
「おう、どうかしたか?」
「いえ、自分なりに確かめてみようと思って...」
「わかった。あまり離れるなよ?」
「はい。」
そう言うと、摩耶たちから少し離れ、周辺の島を見渡し始めた。
すぐに弥生の表情と顔色が変わり始める。
「っ!?....ここは...」
「んっ?弥生?どうした?」
「摩耶さん。意見具申。現時刻を持って海域を離脱しましょう。」
「おいおい、どうしたんだ急に...ここ知ってんのか?」
「えぇ、よく知ってます.....ここはサブ島沖です。」
「サブ島....わかった。全艦、輪形陣で海域を離脱。護衛の艦は周辺警戒。」
「おいおい摩耶。いいのか?まだどこかもわかんねぇんだぞ?」
「...離脱は離脱だ。早くしろ。」
摩耶の指示に従い、その海域から離れていった。しばらくして、通信機から慌ただしい大淀の声が聞こえた。
"こちら作戦司令部大淀。第一艦隊は直ちにその海域を離脱してください!現在地はサブ島沖、そこは現在未制圧、敵艦隊には姫級の報告も出ています!,,
「あぁ、大丈夫だ。もう離脱してる。弥生が教えてくれた。」
"え?あ、はい。了解しました。気をつけてください…,,
「提督。どういうことでしょうか...」
「弥生が?何故だ....資料には南方海域への出撃記録はないのだが...」
もう一度目を通す、しかしそれらしき情報はなかった。
「.....だとすると、やはりそうか。」
「提督?」
「大淀。艦隊帰投後、フタヒトマルマルにここに来るよう弥生に伝えておいてくれないか?」
「了解しました。」
その後、無事第一艦隊は帰投。補給を受けた。
「司令官、失礼します...」
春日と弥生だけの執務室内は恐ろしい程に静かだった。
「何か御用でしょうか...?」
「いや、ちょっと礼を言いたくてね。君の意見具申がなければ、今頃計り知れない被害が出ていただろうからね。ありがとう。」
あの時、彼女の意見具申を受け退避した後周辺から大規模な敵艦隊が見つかったらしい。そして大淀の言っていた通り、姫級の大型深海棲艦も確認された。
「いえ、お礼に値する程では...」
「そうかな?まぁ、君のおかげなのは確かだ。」
「あ、ありがとうございます....」
「続いてもう1個質問だ。...何故君はサブ島のことを知っていたんだい?」
「っ!!」
それを聞き、弥生の表情が強ばった。
「資料を見させてもらったが、南方海域への記録は一切なかった。それなのに何故?」
「それは、他から話を聞いてて....」
「そうか。ではもう一つ、昨日の朝の君の射撃についてだ。」
「あれは、艦娘になる前に偶然触ったことがあって....」
表情こそ普段通りだが、口調が明らかに焦っている言い方だった。
「....まぁ、それが本当なら信じよう。」
普段の柔らかい笑顔で彼女に歩み寄りながら、春日はそう告げ背を向けた。
それを見て弥生もホッとした...その時だった。
「それが本当ならね。」
「っ!?」
春日が弥生の方に向き直ると同時に、上着の中に入れていた護身用拳銃を彼女の額に突きつけていた。