艦これSS〜一筋の航跡〜   作:鉄製提督

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第十話「謎多き駆逐艦」

「んっ…んん....」

雨風艦隊との演習から一夜明け、叢雲は朝早くに目を覚ました。

 

(ちょっと早かったかしら)

二段ベッドの上を覗くと、ルームメイトの摩耶が腹を出して気持ち良さそうに寝ていた。

 

「結構目も冴えてきちゃったし…とりあえず着替えるかな。」

 

とりあえず身支度を整え始める。

 

 

「____これでよし、と。」

着替え終わると、ベッドの端に座る。

外から微かに聞こえる波の音が叢雲の心を落ち着かせる。

 

 

「...?何かしら、今の音。」

波の音の中に混じって「パシュッ」という音が聞こえてきた。

 

 

部屋を抜け外へ出ると、夜明けの薄明るい海岸に人がいた。

 

「司令官?何してるのこんな時間に。....ってそれ、銃?」

 

大きな狙撃銃を春日が抱えていた。

 

「あぁ、叢雲か。早いね。そう、陸自時代の愛銃。こっちでも銃の所持は許可されてたから、無理言ってなんとか持ってきたんだ。」

ふと足元を見ると、黄金色の空薬莢があちこちに散らばっていた。

 

「でもなんで撃ってるの?」

 

「こうしてないと腕が鈍りそうでね、これでも射撃は得意なんだ。」

 

そう言うと春日は、数十m先にある空き缶サイズの的に向かって引き金を絞る。

消音器によって爆音はせず、ガスが抜けるような音が響く。

その直後、的のど真ん中に穴が開き吹っ飛び、カラカラ音たてながら転がった。

ボルトを引いて空薬莢を出し、弾倉内の弾丸を装填すると安全装置をかけた。

 

「あら、すごいわね。」

思わず叢雲は手を叩く。

 

「そういえば、扶桑さん達は?」

 

「夜明け前に帰ったよ。距離はそんなにないから大丈夫。あと、僕がここにいたのは、新しい艦娘が来るからなんだ。確か、駆逐艦のはずだよ。多分そろそろ...」

 

「あ、もしかしてあれかしら?」

 

叢雲が指さした先に、人影が見えた。

 

「お、来たな。じゃあ、こちらショートランド泊地。応答願う。」

 

"こちら、駆逐艦「弥生」司令官.......ですか?,,

 

「あぁ、そうだ。とりあえず上陸してくれ。」

 

"了解...,,

 

しばらくして、弥生と名乗った艦娘が上陸した。

駆逐艦らしい外見の娘が表情を変えずそのまま春日に挨拶をする。

 

「睦月型駆逐艦三番艦、弥生です。本土より、戦力補充として来ました...よろしく....」

 

「春日英人だ。よろしく。」

 

「あ、はい…よろしくお願いします…ところで、司令官はなぜ銃を?」

 

「あぁ、僕は元陸自でね、その時の愛銃なんだ。」

 

「なるほど。狙撃銃...ですか?」

 

「そうだ。元狙撃手なんだ。この銃は特注でね、M24。ボルトアクション式の狙撃銃。自分のなんだ。」

 

そんな話をしてた時だった。

"緊急事態!!正面海域に敵艦出現!!駆逐イ級2!!,,

 

早朝の鎮守府に警報と大淀の声が響き建物内が一気に騒がしくなり出す。

 

「司令官!私が出る!」

 

叢雲が出撃用ドックに向かおうとしたその時だった...

 

「司令官。駆逐艦、正面に。」

弥生が春日に声をかける。

 

「ほんとだ。あんな所に....これじゃ間に合わない!」

 

二隻の駆逐イ級は砲身をこちらに向け、砲撃の準備を済ませていた。

 

「あ、弥生!」

 

その時、突然弥生が春日の持っていた狙撃銃を奪い、砂浜にしゃがみ込んだ。

そのまま正面遥か先の駆逐イ級に照準を合わせる。

 

 

 

そして彼女はボルトを引き、"薬室内にある未発砲の弾丸を排莢した,,。

 

(えっ...?)

 

「距離800...いける…」

ガスが抜けるような減音された発砲音。

弥生が放った弾丸は片方のイ級の砲身へ吸い込まれるように飛び、奥の砲弾を抉った。

その直後、撃たれたイ級が大爆発を起こす。

淀みない動作でボルトを引く。

空薬莢の澄んだ金属音、ガシャッとボルトを戻し、隣のイ級に照準を合わせる。

 

二回目の発砲。

 

さっきと同じように、弥生が放った弾丸はイ級の砲身内の砲弾を抉って爆発させた。

そのまま二隻のイ級は、黒煙を上げ水底へと沈んでいった。

 

「....敵艦殲滅。すいません、突然銃を奪ってしまって。」

礼儀正しく頭を下げる。

 

「え、あ、あぁ…大丈夫。気にしなくていいよ」

 

「弥生。あんた凄い腕ね!どこで学んだの?」

 

「昔、同じ銃に触ったことがあって、何回か射撃も。」

 

「すごいわね。艤装以外で沈めるなんて初めて見たわ。」

 

「あ、叢雲。彼女を執務室に案内しておいてくれないかい?」

 

「わかったわ。弥生、執務室はこっちよ。」

 

そのまま叢雲と弥生は春日に背を向け建物へと向かった。

 

(あの行動....まさか彼女は…)

 

春日だけは、彼女、弥生を険しい表情で見つめていた。

 

 

 


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