艦これSS〜一筋の航跡〜   作:鉄製提督

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長くなりそうなので前、中、後編にします(土下座
あと今回長いです(SSとは一体)


第九話「演習⑵」

"開始五分前です。各艦隊は所定のエリアにて待機をお願いします,,

 

海上に設置されたブイ型スピーカーから大淀の声が聞こえた。

泊地正面、広大な演習用海域の上で、摩耶達はブイン基地第一艦隊、通称「雨風水上打撃部隊」との演習開始を待っていた。

 

"今回の規定を確認します。双方六隻編成の艦隊での演習。勝敗判定は、相手艦隊の全戦力を無力化、または旗艦による撤退信号の受信を確認した時点で演習終了となります。説明は以上です。双方、ご武運を。,,

 

「っしゃァ!いよいよだなぁ!」

豪快に摩耶が笑う。

 

「調子乗りすぎていきなりやられないでよ?」

 

「わかってるよ。お前こそ、やられんじゃねぇぞ?」

 

「ふん、大丈夫よ。絶対に勝つ。」

 

「いいねぇ!じゃあやってやろうぜ叢雲!」

 

"演習、開始!!,,

 

同時に動き出す。

 

まだどちらも姿は見えない。

 

「姉様、そろそろ飛ばしましょう。」

 

「そうね山城。準備を。」

 

手に持った大型の甲板から、フロートの付いた機体が飛び立って行く。

 

「まずは小手調べから始めましょう。どれほどの実力か楽しみね。」

 

 

 

 

 

 

 

「こちら長門。正面より敵機確認!高高度を飛行中!機数10!」

 

「こちら摩耶、機種は?」

 

「逆光でよく見えんが、フロートが付いてる。恐らく偵察機だ。」

 

摩耶も一度、空をちらと見上げる。

 

「なるほど、全艦、対空射撃用意。」

 

摩耶の一言に皆が疑問を持つ。

 

「どうゆうこと?偵察機を撃ち落とす必要はないでしょ。」

 

隣にいた叢雲が口を開く。

 

「多分そいつら、偵察機じゃねぇぞ。今に分かる。」

 

摩耶の言葉通りだった。

 

「こちら吹雪!!敵機急降下!ば、爆装を確認!爆撃機です!!」

 

「ほらな、全艦、対空戦闘開始。撃ちまくれ!」

 

急いで対空機銃を斉射する。摩耶の指示のおかげで、誰も被害を負うことなく、全機を撃ち落とせた。

 

「ぜ、全機撃墜。危なかった…」

 

「ねぇ摩耶。今のは何だったの?」

 

「さっきのは多分"瑞雲,,だな。」

 

「"瑞雲,,?」

 

「爆撃機の一種だ。航空戦艦や航空巡洋艦が使うことが出来る。爆撃、対潜、偵察とかなり広範囲で使える代物だ。...なるほど。想像以上の大物だなこりゃあ。」

 

 

 

「あらあら、全部堕とされたようね。」

 

「どうします?姉様。」

 

「ここまで早く気づかれたのは初めてね。でも、瑞雲だけが取得ではないわ!各艦弾薬装填。砲雷撃戦準備!」

 

(あの姉様が、ここまで本気に...今回の相手、練度が低い艦が多いとはいえ、侮れませんね。兄様。)

 

 

 

「来ました!敵艦隊、見ゆ!」

 

「お、早いな。各艦弾薬装填。砲戦準備!」

 

「流石、雨風のお友達の艦娘ね。でも、これはどうかしら!」

大きな爆炎と波。扶桑と山城の砲口から、大量の弾が飛んでいく。

 

「敵艦砲撃!弾数20!回避行動!!」

 

摩耶たちが一斉に散開する。さっきまで自分たちのいた場所に大量の水柱が立つ。

 

「うっはぁ、やるなぁ。ここまで精密に撃てるか。」

木曾が声を漏らす。

 

 

 

「流石の回避ね。でも、蒼龍さんを忘れてるわよ!」

 

 

 

 

「上空より攻撃機!」

 

 

攻撃機から爆弾が投下されていた。

 

鳴り響く爆発音。

 

「危ねぇ...なんて腕だ...」

ギリギリのところでなんとか全員避けることができた。

 

 

 

「まだまだ行くわよ山城。砲戦開始!」

 

 

 

 

「砲撃確認!回避行動!!」

 

 

 

「クソ!砲撃が激しくて近づけない!これじゃジリ貧だ!」

 

休む暇なくやってくる砲弾の雨、戦艦の長い射程を活かした戦術。そこから更にくる航空機。

摩耶たちは、完全に相手のペースに流されていた。

 

 

 

「ま、摩耶!どうするのよ!」

 

「今は回避に集中しろ!とにかく動け!」

皆はひたすら回避に専念していた。

 

 

だが____

 

 

「私たちの事忘れてるわよ!」

 

突如背後から聞こえた声、それに続いて響く砲撃音。

 

「後方より奇襲!全艦回避行動!!」

 

衣笠達に回り込まれていた。

 

「クソ!さっきのは時間稼ぎか!」

 

彼女達が身をもって体感した、雨風艦隊の戦術。最高峰の練度を誇る艦隊だからこそなせる技。

 

「いい?夕立ちゃん睦月ちゃん。このまま一気に行くよ!」

 

「「了解!!」」

 

完全に押されていた。

(この状況、どうする!)

摩耶は必死に自分の思考をフルに使っていた。

「こうなったら…長門!接近してきた三隻に砲撃!赤城は艦戦を発艦!上空で待機させろ!残りはアタシに続いて前方の三隻に近づくぞ!」

 

 

「扶桑さん達には近づかせないっぽい!」

夕立が前に出て主砲を撃つ。

「ふっ、その程度、この長門には効かんわ!」

だが戦艦級の堅牢な装甲の前には、駆逐艦の小口径主砲は無意味に等しかった。

長門が砲弾を全て受け止め、涼しい顔をしていた。

 

「うっそ....」

 

「とにかく撃ちまくって!」

 

衣笠の指示で主砲を長門に撃ち込む。

大量の砲弾を撃たれ、長門の周囲は煙に包まれた。

 

「念のため距離をとって。」

 

衣笠達はゆっくり後ろに下がる。

(やった?静かすぎる…)

その時だった

 

煙を切り裂き、砲弾が飛んできた。

 

「きゃっ!?」

隣にいた睦月が被弾した。

 

「衣笠さん!睦月ちゃん大破っぽい!」

 

「嘘でしょ。あれだけ撃ったのに…」

 

煙が晴れ、長門の姿が目に入る。

 

全くダメージを負っていない。

 

「ここまでよくやったな。だが、ビッグセブンの私には無意味だ!」

 

 

更に砲撃をする。

 

 

 

「避けて!」

慌てて指示を出すが遅かった。

 

衣笠達は水柱に包まれた。

 

「よし、こちら長門。摩耶、聞こえるか。」

 

"こちら摩耶。どうだ?,,

 

「奇襲部隊はなんとかなりそうだ。確認出来てる時点で駆逐1を無力化。」

 

"了解。すまねぇな、いきなりあんな指示出して。,,

 

「なに、問題は無いさ。これから残りも....」

 

その時だった____

 

「後ろガラ空きっぽい!」

 

「何っ!?」

 

突然背後から夕立と衣笠が接近してきた。

 

「くっ、回避が....!」

 

照準は合ったが、回避ができるような距離ではなかった。

(こうなったら、相打ち覚悟だ!)

覚悟を決め、撃った。

その瞬間、衣笠達も魚雷と主砲を撃った。

 

 

 

 

「おい長門!返事しろ!」

途中で通信が切れ、摩耶は焦っていた。

 

"こちら長門...敵艦三隻を無力化した。,,

 

「よくやった。長門は動けるか?」

 

"すまない、私も攻撃をくらった…特に魚雷のダメージが大きい。多分これ以上の戦闘は無理だ。,,

 

「わかった。無茶はするな。あとはアタシ達がなんとかする。」

 

"了解した...すまない,,

 

それを最後に通信が切れた。

 

摩耶は通信を終えると、叢雲達に向き直った。

「長門がやられた。」

その言葉で、全員の顔が青くなる。

「おいおい、長門がやられたってどうゆうこった。」

「後ろから奇襲してきた三隻と戦ったんだ。無理もない。」

「で、この後はどうするの?摩耶。」

 

叢雲が摩耶に問いかけた。

 

「赤城。艦戦を帰還させて、攻撃隊を発艦。アタシ達は攻撃隊に同行し一気にカタをつける。」

「了解摩耶さん。こちら赤城、上空の戦闘機隊は直ちに帰還せよ。」

 

「とにかく近づけ、以上だ。」

 

 

 

 

 

「痛ぁ...あーもー、帰ったら青葉に笑われるよ…」

 

「戦艦級が相手だったし仕方ないっぽい?」

 

「うーん…もうちょっと戦いたかった…」

 

「仕方ないですよ。戦艦級が相手でしたし。」

 

「まぁ、そうよね。こちら衣笠。扶桑さ〜ん、やられちゃいました〜。全員大破です。」

 

"よく頑張ったわ。あとは任せて。,,

 

「どうしました姉様?」

 

「衣笠さん達が大破。残りは私達と蒼龍さんだけよ。」

 

「衣笠達を...中々やりますね…」

 

「楽しくなってきたわね、山城。」

扶桑の口からは笑みがこぼれていた。

 

「姉様?」

 

「蒼龍さん。一部攻撃隊を下がらせて、戦闘機隊を発艦、攻撃機を出したはず。空を五分五分の状態にして、私達が砲戦で片付けます。」

 

「了解です。攻撃隊は帰還、戦闘機隊は発艦準備。」

 

 

「山城、雨風のためにも、負けるわけにはいかないわよ。」

 

「はい!」

 

 

 

「こちら赤城、敵機確認!攻撃機と戦闘機隊です!」

 

砲撃の雨の中、蒼龍から放たれた戦闘機を見つけた。

 

「やっぱりな。おそらくだが、制空権を五分五分にして砲撃でカタをつける気だ!」

 

 

「摩耶さん!敵艦確認!扶桑さんと山城さんです!」

 

「みんなよく聞け!戦艦と言えどこっちの方が速度が速い!それを活かして挟撃を仕掛ける!吹雪、木曾は赤城を護衛しつつ右から、アタシと叢雲は左から!合図を出したらすぐに散開しろ!」

 

 

 

「山城、撃ち方始め!」

腹に響く衝撃と爆音

扶桑たちの足元の海水が抉れた

 

 

 

「こちら木曾!砲撃来たぞ!」

 

「今だ!散開しろ!」

事前に話した通りに散開。全速力で扶桑達の左右へと回り込む

 

「煙幕!!」

 

摩耶の指示で全員が一斉に煙幕を出す

 

「そのまま一周しろ!」

 

煙幕を出しながら、扶桑達を囲む。

風に運ばれ、煙が扶桑達を包み込む。

 

「煙幕。何も見えないわね。蒼龍さん、山城、聞こえる?」

 

「こちら蒼龍。聞こえますよ。ただ、視界が悪くてこれ以上発艦ができません。」

 

「わかったわ。そのまま待機、警戒は怠らないで。山城?聞こえる?」

 

「聞こえます姉様。ただ視界が悪くて何も。

「煙幕を張って何をする気かしら…」

 

その時、近くで爆発音が響いた。

 

「何!?各艦現状報告!」

 

「ゲホッ、こちら蒼龍、被弾しました。大破です。」

 

「姉様!」

山城が扶桑を見つけ、そばに寄った

 

「山城、大丈夫?」

 

「えぇ、私はなんとか。でも蒼龍さんが...」

 

「多分、彼女達は煙幕に紛れて至近弾を撃ったみたいね。擬似夜戦のような状態よ。」

 

 

基本、巡洋艦級、駆逐艦は夜闇に紛れ、敵に肉迫して仕留める戦法を得意としている。

だが今回の演習では、時間上、夜戦は行えない。

そのため煙幕を張り、夜戦に近い状態に変えたのだ。

夜戦となれば彼女達の独壇場。戦艦と言えど、艤装の脆弱性の高い部分に至近弾を食らったり、魚雷を受けたりしたらひとたまりもない。

 

「どうします?姉様。」

 

「大丈夫よ。アレを使いましょう。」

 

「なるほど、その手がありますね。」

 

 

 

 

 

「よし!空母無力化、あとは戦艦二隻だけだ!」

 

煙幕の中、摩耶は赤城に通信を出す。

 

"了解。一回合流しましょう。,,

 

「わかった。気をつけろよ。」

 

しばらくして、赤城たちが視界から現れた。

 

「摩耶さん、残りはどこに。」

 

「ある程度の場所は把握してある。こっちだ。」

 

その時だった____

 

煙を切り裂き、大きな爆炎が吹き荒れる。

 

「砲撃来たぞ!回避!」

 

だが、予想外の攻撃に回避が間に合わなかった。

目の前で黒煙が上がる。

 

「ゲホッ、ゴホッ。なんだ!?」

 

 

黒煙が晴れた

 

赤城、吹雪が被弾、大破していた。

 

「ごめんなさい。回避間に合わなかったわ。」

「うぅ…すいません。」

 

「おいおい、一体どうやったんだ!」

完璧なはずだった。煙幕を使った擬似夜戦。

視界を塞ぎ、接近して仕留める。

だが、その計画が一回の砲撃で止められた。

それも精密にこっちを狙ってきた。

 

(なんだ!何を見落とした?)

考えられる要素を消去法で導いていく。

やがて、一つの可能性に辿り着く。

考える間も砲弾が飛んでくる

 

「.....!!しまった!電探射撃か!」

 

「どうした!摩耶!」

 

「あいつら、電探を別で載せてる!」

 

「電探を別で?どうゆうこと?」

叢雲が問いかける。

 

「恐らく、元からついてる電探以外に、後付けでもう一個載せてる!」

 

「なるほど、だからあんなに正確に撃てたのか。」

 

摩耶の予想は当たりだった。扶桑達は電探を後付けでさらに載せていた。

装備枠を圧迫するが、索敵能力は高い。

だから煙幕の中でも正確に撃てたのだ。

 

「だとすると、こっちの動きは丸見えのはずだ!注意しろ!」

 

 

 

「あら、電探にもう気づいたのね。中々やるじゃないの。」

 

「姉様。次、右10、距離250。」

 

「ありがとう山城、撃ち方始め!」

素早く砲身を回し、狙いをつけ、撃つ。

 

「!?やっべぇ!!」

 

扶桑が捉えていたのは木曾だった。

急いで回避をする。

それでも砲弾が近くに落ちる。

 

「クソ!電探を併用してるだけはある!」

 

必死になって砲弾を避ける、だが、彼女の本来の目的は違った。

 

「!?しまった!」

 

着弾の爆風で、木曾の周りだけ煙が消えていたところに瑞雲が降下してきた。

避けることも出来ず、木曾は爆撃の餌食になった。

「木曾、木曾!!」

 

慌てて摩耶が声をかける。

 

「ちくしょう、やられた…」

艤装の大半が使用不可になっていた。

 

「木曾、大丈夫か!?」

 

「なんだ摩耶、お前らしくねぇな。へへっ。」

 

「なんだよ、珍しく心配してやってんのによぉ。」

「俺なら大丈夫。だが、これ以上戦闘は無理だな。すまねぇ。」

 

「ふん、任せろ、絶対勝ってやる。」

 

「あぁそうだ、さっき扶桑姉妹を見た時、気づいたことがあったんだ。」

 

指を動かし、顔を近づけるように招く。

「....なるほど。ありがとな、助かった。」

 

 

 

「中々来ませんね、姉様。」

 

「そうね…逆に気になるわ…」

 

煙が少しずつ薄くなり、視界が晴れてくる。

「もう目視で大丈夫よ。電探は切っていいわ山城。」

 

その時、

不意に背後から風を切る音が聞こえた。

 

「砲弾!?」

 

二人の方に砲弾が飛んできた。しかし、扶桑達に当たらず。周りに落ちた。

 

「え?」

 

その直後、外れた砲弾から白煙が吹き出した。

 

「姉様!また煙幕が...きゃあ!!」

 

「山城!?」

 

「へへっ、これで電探射撃はできねぇな。」

 

どこからか摩耶の声が聞こえる

 

「木曾には感謝だな。」

木曾が一瞬見たもの、それは____

 

「アンタは、一人で電探射撃をしてたんじゃなく、山城に電探を多く載せて射撃方向を教えて貰ってた。だろ?」

 

木曾は狙われてた時、煙の隙間から方向を教える山城の姿を見ていた。

 

「どうだ?これで残りはあんただけだ。無用な戦闘はあんまりしたくないんでな。撤退信号を出せば見逃す。」

 

「フフフ、万策尽きたと思ってるようね。まだまだ甘いわよ!」

 

「!?速い!」

 

扶桑が戦艦とは思えない速さで動き出した。

 

「まさか、缶か!!」

 

「えぇそうよ。これで速力差は0。貴方達の負けよ!」

 

扶桑の主砲が、正確に摩耶たちを捉える。

 

「やっべ!回避!」

 

左右に分かれる、しかし

 

「甘い!」

 

砲口が二人を同時に捉える。

 

「させるか!」

摩耶が急いで主砲を撃ち込む、だがダメージが小さい。

 

「そこ!」

摩耶が被弾する。

 

「摩耶!」

最後の煙幕を使い、摩耶に寄る。

 

「摩耶!大丈夫!?」

 

「ん、クッソ...やられたぁ.. 」

 

「戦える?」

 

「ちと厳しいな…しゃーない。旗艦権限を摩耶から叢雲へ移譲。あとは任せた。」

 

旗艦が落とされると結果に大きく響く、それを察しての事だと叢雲はすぐわかった。

 

「今からお前が旗艦だ。存分に暴れて来い!!」

 

 

 

「任せなさい。」

 

 

 

To be continue




この後は扶桑と叢雲の単艦タイマン勝負です

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