どうぞ
~ダージリンの家~
みほ、まほ、ダージリン、ケイ、千代美(アンチョビ)、カチューシャの六人は、ダージリンの部屋にてトランプで遊んでいた。
現在はみほ、ダージリン、千代美、カチューシャの四人でおやつを賭けてダウトで勝負をしている最中である。
因みに、まほとケイは既にあがっていて、おやつゲットは決定していた。
「ダウト」
「うわぁ! まただ~! ダージリンちゃん、何でわかるの!」
みほは場に出されたカードを全部手札に戻す。
「ふふっ。こんな格言を知ってる? イギリス人は、恋愛と戦争では手段を選ばない」
「私たちは日本人だけどな」
「それに、これただのトランプよ」
「…………みほ、ほら、貴女からよ」
千代美とカチューシャの指摘を無視して、ダージリンはみほに続きを促す。
「うー、4!」
みほが4を伏せる。
「はい、5」
次に千代美もカードを伏せる。
そして、ダージリン、カチューシャとカードを伏せていき、三順目に入る。
そろそろ場にはカードが溜まってきている。これは絶対に貰いたくない。
「12っ」
「13」
みほ、千代美が場にカードを置き、次はダージリンの番である。すると、みほがあることに気づく。
ダージリンの後ろに、まほが座っているのだ。
「次は1ですわね」
ダージリンがカードを場に伏せたとき、まほがみほに向かって口を動かす。
(え、何? う・そ・を・つ・い・て・い・る? 嘘をついている!? お姉ちゃん!)
まほの口の動きに気づいたみほは、ダージリンに向かって宣言する。
「ダージリンちゃん! それダウト!」
「え……ッ」
みほが今ダージリンが出したカードをめくる。
そこに書かれていた数字は5だった。
「やったー!」
「な、何故……ハッ」
ダージリンが何かに気づき、自分の後ろを見る。
「……まほ、貴女まさか」
「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている」
「あ、それ知ってる。ニーチェでしょ」
カチューシャがまほの言葉が誰のものなのか当てる。
「ありがとう! お姉ちゃん!」
「まかせろ」
「ず、ズルいですわよまほ!」
「お前が言うのか」
みほとまほとダージリンがギャーギャー騒いでいると、それを一喝する声が。
「お前ら! いい加減にしろ!」
小さな頃から流石は姐さんである。
「真剣勝負にそんなズルをするな! 正々堂々真正面から勝負することに意味があるんだろうが!」
千代美の一喝に、みほとまほとダージリンがシュンとなる。
「まほ! それにケイ!」
「……はい」
「え!? 私!?」
「お前もみほのカードをダージリンに教えてたじゃないか!」
「ええ!? そうだったの!?」
「だから私もダージリンのカードをみほに教えたんだ」
「それは理由にはならん!」
「……はい」
更に肩を落とすまほ。
「罰として、まほとケイはおやつ抜きだ!」
「なっ!」
「オーマイガッ! 待って、私はダージリンに頼まれて!」
「ちょっ、ケイ!」
「それならダージリンもおやつ抜きだ!」
「」
ビシッとダージリンを指差す千代美。
「そ、それならみほも……」
「お前が教えなければ、みほはやらなかっただろうが!」
「はい、すみません」
まほが何とかみほも道連れにしようとするが、一蹴される。
ケイとダージリンは何とかしてくれとカチューシャを見つめる。
「ま、自業自得ね」
しかし、カチューシャもおやつは欲しいので、おねだりは通用しなかった。
「よって、おやつゲットは、私とみほとカチューシャだ!」
「「いぇーい!」」
千代美の言葉にみほとカチューシャはハイタッチをし、まほとダージリンとケイは膝から崩れ落ちるのだった。
「うぅ~、もう卑怯な手なんて懲りごりよー!!」
ケイの叫びは、ダージリン家に響き渡った。
ーーー
ーー
ー
(……私たちの行く先々で、敵が待ち構えてる。まるで、こっちの作戦が筒抜けになってるみたい。……ん? 筒抜け?)
みほはサンダースの動きにどこか懐かしい感覚を覚えていた。
まるで自分の手の内が覗かれているような感覚。
「……ッ!!」
そこでみほは、昔の出来事を思い出す。
慌てて戦車から頭を出し、空を見上げる。
「みぽりん?」
突然動き出したみほを沙織が不思議に思い、どうかした? と尋ねる。
するとみほは、シッと人差し指を自分の口に当て、沙織の耳元へ近づく。
「通信傍受機が打ち上げられてる」
みほの一言にあんこうチームの全員が驚く。
「確かに、通信傍受機を打ち上げてはいけない。なんてルールは書かれていませんが……」
ルールブックを確認した優花里がそう呟く。
「でも、そんなのズルいよ!」
「審判に申し出ましょう」
沙織と華が憤りを感じ、審判に訴えようとするが、みほはこの通信傍受機に少し違和感を感じていた。
(でも、ケイさんがそんなことするかな? 昔のケイさんならまだしも、あのとき以来、ケイさんはこういうことが嫌いになったはず……)
~聖グロリアーナ~
観客席と少し離れた場所にて、ダージリンとオレンジペコが紅茶を飲みながら試合を観ていた。
「ペコ、こんなジョークを知ってる?」
「……?」
「あるアメリカ大統領が自慢したそうよ。『我が国には何でもある』って。そうしたら外国の記者が質問したんですって。『地獄のホットラインもですか?』って」
「はあ……」
(恐らくあの通信傍受機はケイの作戦じゃないわね。ケイはああいった作戦はすごく嫌うから。おやつ抜きにされるし。多分ケイはあの通信傍受機の存在すら知らないわね)
ダージリンはひと口紅茶を飲む。
(さぁみほ、そろそろ気がついたでしょ? どう出るかしら)
~サンダース~
「ちょっとちょっと! 誰もいないわよ?」
アリサの指示を受け、大洗のフラッグ車がいるという場所まで移動したケイだが、そこには誰一人いなかった。
『申し訳ありません! こちらフラッグ車。今、大洗の全車輌に砲撃を受けています!』
すると、アリサからそんな信じられない通信が入った。
「ちょっとちょっと! 一体どういうことよ!」
『はい、あの……恐らく通信傍受機を敵に気付かれ、それを逆手に取られたかと……』
「ばっかもーん!!!」
『ヒィッ! すみませんすみませんすみません!』
本当にこの子は、勝つためには手段を選ばないあの性格をどうにかしないと。と、切実に思うケイだった。
「勝負は常にフェアプレー! いつも言ってるでしょ!!」
『ハイィ!!』
「全く! 今から向かうから! アンタは死ぬ気で逃げなさい!」
『り、了解!!』
通信傍受機。つまりあのアリサの完璧過ぎる指示は、敵の作戦を盗み聞きして、それをそのまま伝えてたということだ。
(しかし、やっぱりミホもやるわね! 西住流とは違うその戦い方。やっぱりミホはミホ。昔から何も変わらないわ! それなら私だって、私らしく行かせてもらうわ!)
「私の車輌とファイアフライを含めた4輌だけでアリサを迎えに行くわよ! 付いてきなさい! ナオミ、頼んだわよ」
『イエス、マム』
~再びあんこうチーム~
(くっ、流石にすばしっこい。早くしないと向こうの援軍が……)
みほがなかなか決定打が打てないのに多少の焦りを感じていると、突然近くに爆音が響いた。
「わわっ! 何、今の音!」
「今の砲撃音は、ファイアフライです!」
みほは慌てて戦車から顔を出すと、後方から敵の援軍の姿が見える。
「四輌だけ……ケイさん……」
みほは敵が四輌だけなのを見て、安心したような、しかし、どこか納得したような表情をみせる。
「四輌だけですか? 西住殿、何かの罠でしょうか?」
優花里がみほに心配そうに聞くが、みほは自信満々に首を横に振りそれを否定する。
「それはありえません。援軍はあの四輌のみです」
「な、何でわかるの? みぽりん」
「相手がケイさんだからです!」
『アヒルチーム砲撃されました!』
『うさぎチームも走行不可能です!』
すると、突然通信が入る。
みほは車内に戻ると、急いで通信に答える。
「怪我人は!?」
『大丈夫です!』
『こちらも怪我人はいません!』
ホッと一安心するが、今も後ろからの砲撃が続いている。
『ギャーうーたーれーたー!!』
「落ち着いてください! 向こうも走りながらの砲撃ですので、簡単には当たりません。敵フラッグ車に当てることだけ考えてください! 今がチャンスなんです。当てれば勝てるんです。諦めたら負けなんです!」
みほの言葉に全員が冷静を取り戻す。
「よしっ、華撃って撃って撃ちまくろう! 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。恋愛と一緒よ!」
「いえ、一発で十分なはずです」
華がスコープを覗く。
「冷泉さん、丘の上へ。上から狙います」
華の言葉にみほも頷く。
「稜線射撃は危険だけど優位に立てる。冷泉さん丘の上へ」
「了解した」
そして、試合は最終局面へと向かっていく。
~サンダース~
「アリサ、上から来るわよ! ナオミはⅣ号を任せたわ!」
『了解』
みほの乗るⅣ号車がアリサのフラッグ車を撃つ前に、ファイアフライで決める。
(そしてその間に、私が敵フラッグ車を撃破する)
「頼んだわよナオミ」
~あんこうチーム~
「後ろからファイアフライに狙われています。冷泉さん。合図したら急停止してください」
「ん」
みほがファイアフライ様子を窺う。そして、
「………………今!」
みほの合図と共に、Ⅳ号車が急停止する。
すると、Ⅳ号車の目の前に、ファイアフライの砲弾が着弾する。
「向こうは装填まで時間があります。華さん、焦らず狙ってください」
「はい」
「冷泉さん、華さんが発射した後すぐに今度は全速バックしてください。こちらの砲撃が当たったかどうかは確認しなくていいです。当たっても当たらなくてもすぐにファイアフライの側面に入り、ファイアフライを撃破します。優花里さんもすぐに装填をお願いします」
「了解」
「わかりました!」
すると、華の準備が整う。
「いきます!」
Ⅳ号が敵フラッグ車に向けて砲撃をした数瞬後、さっきまでⅣ号がいた場所に砲弾が撃ち込まれた。
「ファイアフライの右側面へ!」
Ⅳ号は砲撃と同時にバックでファイアフライの砲撃を避け、すぐに方向転換すると、ファイアフライの懐まで接近する。
「装填完了です!」
「華さん!」
「はい!」
そして、華がファイアフライに向かって引き金を引きかけたとき、アナウンスが響いた。
『サンダース大附属高校、フラッグ車走行不能! よって、大洗女子の勝利!』
先程の華の砲撃は、見事に敵フラッグ車を撃ち抜いていた。
「ミホ! 通信傍受なんて卑怯な真似して悪かったわね」
試合後、ケイはすぐにみほのところへ謝罪しに行った。
「いえ、多分ですけどケイさんは知らなかったんじゃないですか?」
「勿論よ。知っていたら辞めさせたに決まってるでしょ。あれは部下の独断よ」
「ふふっ、ですよね。あれをケイさんがやっていたら、きっと千代美さんにおやつ取られちゃいますよね」
「イエス! 私もそれを思い出してたわ!」
二人して笑い合う。
「それに、ケイさんも四輌で来てくれたじゃないですか」
「まぁ、流石に通信傍受までしたからね。あのままじゃアンフェアかなと思ったのよ。あと、罠だと思ってくれたらラッキーかなって思ったんだけど……」
「それはないですね」
「ホワイ?」
「ケイさんの信念に反するからです」
「…………」
「これは戦争ではなく戦車道。道を外れたら戦車が泣く。ですよね?」
「……フフッ。That's right! 流石みほ。私のことをしっかりわかってるわね!」
そして、ケイはみほに思いっきり抱きついた。
「楽しかったわミホ。今までで一番楽しかった……」
「ケイさん……」
「またやりましょ、戦車道!」
ケイはみほから離れると、手を振って去っていった。
~サンダース~
「あ、あの、隊長」
「あ、アリサ。おつかれ~」
「お、お疲れ様です」
「いやー、いい試合だったわね」
「そ、そうですね」
「…………」
「…………」
「帰ったら反省会ね」
「………………………………………………はい」
話数を増えるにつれて、文字数も増えていく。
まぁ、試合の話はどうしても長くなっちゃいますよね。
次回は皆大好きアンチョビ姐さん!
お楽しみに
感想、評価、お待ちしております