第63回 戦車道 全国高校生大会
戦車道の全国大会。今日はその抽選会である。
ステージ上のみほが、クジを引く。
『大洗女子学園。8番です』
みほの引いたくじが確認され、アナウンスがかかる。
無名高が一回戦の相手だと決まったサンダース大付属の生徒たちは手を取り合い喜んでいる。
しかし、そんな中一人だけ、他の生徒たちとは違う種類の喜びを感じている少女がいた。
(……フフフ、まさか一回戦からミホと当たるなんて。幸運の女神は、私に憑いているようね!)
これで一回戦はもらったと喜んでいる仲間たちとは違い、みほと戦えることに喜んでいたケイだが、彼女もサンダース大付属の隊長である。締めるところは締めなければいけない。
それに、決して油断してはならない。
敵の大将の恐ろしさは、この身をもって知っているのだから。
「はいはい、静かにしなさい。喜ぶのは勝ってから。そうでしょ?」
ケイは仲間に注意をする。やるべきことはしっかりとこなす。それが彼女だ。
「しかし隊長。相手は今年戦車道が復活した高校ですよ? そんな素人集団に我々が負けるはずないですよ」
サンダース大付属の副隊長であり、最近はフラッグ車の車長を任されているアリサが完全に敵を舐めきった発言をする。
そんなアリサの発言に、ケイが反応する。
「……アリサ。私、いつも言ってるわよね?」
「……え?」
どうやらアリサは、ここでようやくケイが不機嫌になっていることに気が付いたようだ。
「常に余裕を持つことは大事なことよ。でもね、余裕でいることと、相手を舐めるのは違うだろうがぁ!」
「ヒィッ!!」
いつもは気さくで心が広く優しいケイだが、怒ると怖いということは隊の全員が知っていた。
「そういう舐めた態度が油断に繋がるのよ、ばっかもーん!!」
「はいぃ!! スミマセン!!」
褒めるところは褒め、叱るところはしっかり叱る。
ここがケイの良いところである。
「それじゃ、アンタたちが油断しないために、面白い情報を二つ教えてあげる」
ケイは人差し指と中指を伸ばし、大洗の情報を語り始める。
「少し前に、聖グロリアーナが親善試合をしたわ。相手は、大洗女子」
「聖グロリアーナ?」
「確かに、大洗は負けたらしいんだけどね。ダージリンが大洗に紅茶を贈ったそうよ」
「ええ!? 聖グロリアーナが紅茶を!?」
聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶を贈らない伝統がある。
「あと、これはとっておき。…………大洗の隊長の名前は、西住 みほ」
「……西住?」
「黒森峰の西住 まほの妹。つまり、西住流だよ」
『西住流!?』
チームメイトたちが声を揃える。
(まぁ、ミホは西住流とはちょっと違うけど。こう言っておけば、この子たちも油断はしないでしょ)
こういう考えは流石隊長である。
~アンツィオ高校~
『次、大洗女子学園。代表者お願いします』
「姐さん! 私たちの一回戦、マジノ女学院ッスね!」
「…………」
「姐さん?」
ペパロニの言葉を聞き流し、アンチョビは別のことを考えていた。
(大洗? いや、大洗は戦車道なかったハズだろ? 聞き間違い? それとも似た名前の高校か?)
『大洗女子学園。8番です。』
「……っ!!??」
ガタガタッと席を立ち上がるアンチョビ。
それに驚く両サイドのペパロニとカルパッチョ。
(みほ!? アレみほ!? 何で、みほが? 大洗は戦車道なかったのに……。ていうか、二回戦に当たるな。向こうの一回戦は……、サンダース!? あぁ、ケイかよ。ケイともやりたいけどな。でも……)
「あの、姐さん? どうかしたんスか?」
「ちょっと電話してくる!」
「ええ!?」
アンチョビはいったん会場を出ると、携帯を取り出し、『友達』の欄に登録してある番号に電話をかける。
『ハーイ! 久しぶり、千代美!』
「アンチョビ! って、そんなことより、あんたンところの一回戦!」
『…………ミホ?』
「あ? 知ってたのか?」
『アッハハッ、おかしなことを言うのね千代美。さっきクジを引いてたじゃない!』
「いや、確かにそうだけども! 何でもっと驚かないのよ!」
『だって、ミホがまた戦車道を始めていたことは前から知ってたもん』
「はぁ!? いつ? どこで? どうやって!? 私は何も聞いてないわよ!?」
『別に私だって誰かから聞いたわけじゃないわよ。ただ、前に大洗と聖グロが親善試合してて、聖グロのホームページの写真にミホが小さく載ってたの』
「何ソレ! 私も見る!! ってそうじゃなくて、サンダースか大洗がうちの二回戦の相手なんだよ!」
『あー、ホントだ。……何? ミホと戦いたいから私に負けろとでも?』
「んなわけないでしょ。別にどっちが来ても私は構わないのよ。私がしたいのはみほがまた戦車道をしてるって話よ!」
『いいんじゃない? 私は無理矢理やらされてるんじゃないならいいと思ってるわ。それに、今あの子がいるのは常勝黒森峰じゃない。気楽にやれてるんじゃない?』
「……そうかな? それならいいんだけど」
『ていうか、アンタ今から二回戦の心配してるの? 一回戦大丈夫なわけ? 五輌くらい戦車貸してあげよっか?』
「ざっけんじゃないわよ! 私たちは負けない、じゃなくて、勝つのよ! 絶対!」
『そ、頑張ってねー』
「あんたこそ、相手はあの西住みほなのよ。せいぜい油断はしないことね」
『わかってるわ』
じゃあね。と電話を切るアンチョビ。
(…………やっぱりみほだったのね。また、戦車道に戻ってこれたんだ。良かった……)
アンチョビは少し潤んだ目を擦ると、カルパッチョたちのところへ戻っていった。
~プラウダ高校~
「」
プラウダ高校の生徒たちが座っている席の真ん中で、プラウダ高校の隊長であるカチューシャがステージの上に上がってクジを引いている少女を見て固まっていた。
「ノンナノンナ」
「はい。何でしょうカチューシャ」
隣に座るノンナがカチューシャに返事をする。
「聖グロリアーナのダージリンに電話を繋げて」
「はい」
ノンナは携帯を取り出し、連絡先の『聖グロリアーナ』に登録されているダージリンの番号に電話をかける。
『もしもし』
「もしもし、ご無沙汰しています。プラウダ高校のノンナです。うちのカチューシャが話があるそうで。今代わります」
ノンナがダージリンに一言告げ、カチューシャに携帯を渡す。
「わたしよ」
『この間のお茶会以来ですわね。どうかしましたか?』
「今ミホーシャがクジを引いてるんだけど」
『引いていますわね』
「何で?」
『大洗女子学園の隊長だからでしょうね』
「ああ。そっか」
『ええ。そうですわ』
「…………」
『…………』
「いやいや、何で!?」
『何がですの?』
「ダージリン! その反応は知っていたわね!」
『何をですの?』
「ミホーシャがまた戦車道をしていることをよ!」
『知っていましたわ』
「何で言わないのよ!」
『言おうとはしましたわよ』
「はぁ!? いつ!?」
「カチューシャ、もう少し小さい声で」
隣のノンナが、熱くなって声が大きくなるカチューシャを注意をする。
「あ、ゴメン」
『この間のお茶会、覚えていますか?』
「覚えてるわよ」
『そのとき、わたくし話そうとしましたわよね。親善試合をしたと』
「え、ああ。何かしてたわね」
『それを貴女が、『また、アンタの勝ちましたわ自慢話? もういいわよ、聞き飽きたわ』と聞こうとしなかったのでしょ?』
「え、じゃああの親善試合っていうのは……」
『大洗女子とですわ』
「何ですって!?」
「カチューシャ」
「あ、はい。ゴメンナサイ」
また注意をされるカチューシャ。
『貴女がちゃんと聞かなかっただけですわ』
「ぐっ……」
確かに、またダージリンの遠回しな自慢話かと聞かなかったのは事実である。
「……で、どうなったの?」
『勝ちましたわ』
「そ。ミホーシャはどうだったの」
『わたくしがみほのことをよく知っていなければ、危なかったかもしれませんわね』
「それはどういう意味?」
『フフッ。貴女はどうやら順調にいけば準決勝でみほと当たるようですわね』
「え?」
ダージリンに言われ、ステージ上のみほを見るカチューシャ。確かに両方勝ち続ければ準決勝で大洗とプラウダが当たるようだ。
「ていうかあの子、一回戦がケイ。二回戦がチョビ子。その次がわたしで、決勝がまほじゃない。見事に幼馴染み大集合ね」
『待ちなさい。何故決勝が大洗対黒森峰になっているのかしら?』
「そっかぁ。ミホーシャ帰ってきたのね」
『ねえカチューシャ』
「あの試合。わたしも少し罪悪感があったし」
『カチューシャ』
「また戻ってこれたのなら、良かったわ」
『あのカチューシャ?』
「ん。わかったわ。聖グロも頑張ってね」
プツッ、プーー、プーー
「良かった、みほ」
カチューシャは妹を見るような優しい目で、ステージの上のみほを見つめるのだった。
~聖グロリアーナ~
プツッ、プーー、プーー
「………………」
~戦車喫茶~
珍しい喫茶店で、大洗のあんこうチームがケーキを食べていた。
すると、店の扉が開く音がする。
ちなみにこの音は、戦車の砲撃音である。
そして、あんこうチームの席に近づく影が三つ。
「「「ミホ(みほ)(ミホーシャ)!!!!」」」
最初に全員が揃うのはここしかないと思い、全員出してみました。
まほは普通に原作でエリカと出てくるので、今回は出さずに、次回出すことにしました。
ダージリンは前回でみほと会ったので、喫茶店には行きませんでした。
ちなみに、今回アンチョビだけが1度会場を出るというマナーの良さが見えましたねw
流石姐さんです!
次回、喫茶店で全員集合(ダージリンを除く)。
お楽しみに。
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