6人の戦車道   作:U.G.N

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 どうぞ



少女は再び前へと進む

 

 とある喫茶店。

 そこに、妙な雰囲気に包まれている2人の少女がいた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 方やゆっくりと紅茶を飲み、方や両手を膝の上に置いて俯きながら微動だにしない。

 

「…………みほ」

 

「……っ、は、はいっ」

 

「紅茶は熱いうちに飲むものよ」

 

「は、はい……」

 

 ビクビクとしながら、ゆっくりと紅茶を口元へ持っていく。カップが微かにカタカタと震えている。

 

 これが本当にあの無垢な笑顔でダージリンちゃん! と言っていた少女と同一人物なのだろうか。

 

「ねえ、みほ」

 

「……はい」

 

「貴女、わたくしのこと、嫌い?」

 

「え?」

 

「だ、だから、わたくしのこと、嫌いになりましたの?」

 

「えぇ? そ、そんなことないですよ。私がダージリンさんを嫌う理由がないじゃないですか」

 

「じゃあ何で、そんな話し方ですの?」

 

 ダージリンはコメカミをピクピクとヒキつらせながらも、何とか笑顔を作る。

 

「ひぃっ! い、いや、それは……」

 

「そ・れ・に! 貴女さっきから、わたくしのこと何て呼んでますの?」

 

「……? ダージリンさん?」

 

「それですの!! 何でそんな他人行儀な呼び方ですのよぉ!!」

 

「ええ!? そ、そこ!?」

 

 ダージリンは机に突っ伏しながら、涙ながらに叫んでいた。

 

 

 

 

「失礼しました。取り乱しましたわ」

 

「い、いえ」

 

 ダージリンが冷静さを取り戻すのに約十分かかった。

 

「コホン。では改めて。みほ、戦車道に戻ってきたのね」

 

「……うん。初めはやるつもりなんてなかったし、始めたのもなし崩しだったからね。それに、あんな形で黒森峰を辞めたのに、また戦車道をしてるなんて皆には言い出せなくて。あんなに親身になってくれた皆を押し退けて戦車道を辞めたのに……」

 

 みほは罰の悪そうな顔になりながら俯く。

 

「じゃあ、ケイたちには」

 

「うん。言ってない。今日だって、聖グロリアーナと練習試合をするって決まったときは、本当にどうしようって思った。ダージリンさんにどんな顔して会えばいいんだろうって……」

 

「……みほは今、戦車道をやっていて楽しくないの?」

 

 ダージリンの言葉にみほは首を左右に振る。

 

「……初めは戦車を見るのも嫌だった。でも、戦車に乗ると何だか懐かしくて。やっぱり戦車道って楽しいかも」

 

 昔のような無邪気な笑顔、とは言えないが、それでもみほは、昔とは違う少し大人な笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 喫茶店を出ると夕陽が空を紅く染めていた。

 

「今日はありがとう、ダージリンさん。とてもためになった試合だったよ」

 

「それならよかったですわ。……ねえ、みほ」

 

「うん?」

 

「貴女は確かに黒森峰から逃げた。そう言われても仕方がないと思ってるわ」

 

「……うん」

 

「でも、わたくしはそれは悪いことだとは思っていないの」

 

「え?」

 

「逃げてはダメなんていうのは、何の責任も背負わない、無責任な者たちの戯言ですわ」

 

「…………」

 

「大事なのは逃げないことじゃない。逃げた後、どう振る舞うか」

 

「どう、振る舞うか?」

 

 やはり責められるのかと思い、不安げな顔で話を聞いているみほに、ダージリンは優しく微笑む。

 

「普通はできないですわよ。逃げた後に再び戻ってくるなんて。少なくとも、わたくしにはできない」

 

「あ……」

 

「みほ、貴女はやっぱり誰よりも強いわ」

 

 ダージリンの優しい言葉を受け、一筋の滴がみほの頬を伝う。

 

「ふふっ。泣き虫なのは変わってないのかしら」

 

「そ、そんなことないもん!」

 

 みほは涙を袖で拭うと、ダージリンに向き直り、しっかりと告げた。

 

「へへっ。ありがとっ! ダージリンちゃん!」

 

 昔と同じ、ヒマワリのような無邪気な笑顔で。

 

「…………みほ、今、なんて」

 

「さ、帰りましょう! ダージリンさん!」

 

「待って! もう一度、もう一度だけでいいから昔みたいに呼んでぇーー!!」

 

 ダージリンの叫び声が、大洗の街に響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~サンダース大学付属高校学園艦~

 

「フンフンフフン~♪」

 

 綺麗な金髪に、モデル並みのスタイルを持つ少女。少女は今日の訓練を終えたばかりだというのに、余裕な様子で鼻唄を歌いながら自室に戻る。

 

「あ、そういえば、今日ダージリンが練習試合してたわね。相手がどこなのかは聞いてないけど、どうだったのかしら。ま、聖グロが簡単に負けるわけないか~」

 

 そう言いながら、パソコンの電源をいれる少女。

 

「起ち上げてる間に~♪、着替えて、コーヒー♪」

 

 不思議な歌を歌いながら、着替えを済ませ、コーヒーを淹れる。

 コーヒーを淹れ終わると同時にパソコンが起ち上がったので、聖グロリアーナのホームページを見る。

 

「ふむふむ。あ、ちゃんと勝ったみたいね。よしよし。それで~? 相手は…………」

 

 相手高校の名前を確認した少女は持っていたコーヒーを床に落としてしまう。しかし、そんなことはお構い無しにパソコンの画面に顔を近づける。

 

「…………対戦高校の大洗女子は聖グロリアーナに負けるも善戦。今年復活したとは思えないほどだった?」

 

 もっと他の細かい情報はないのかと、いろいろ探してみたが、結局は聖グロリアーナが勝ったということと、先程の1文しか情報はなかった。

 

 しかし、彼女の口元には笑みが生まれていた。

 

 彼女は聖グロリアーナのホームページにUPされていた一枚の写真を見つめる。

 

 その写真は聖グロリアーナの隊長であるダージリンの今日撮られた写真だった。

 

 しかし、この少女にはダージリンの写真など興味がない。第一、ダージリンのあんな写真やこんな写真なら彼女の携帯に大量にある。今更こんな普通の写真など欲しくもないのだ。今彼女が見ているのは、ダージリンの後ろに小さく写る一人の少女。

 

「…………アハッ。待ってた。待ってたわよ! ミホ!!」

 

 

 

 




 ケイさんは最後にちょっとだけの出番でした。

 次回、抽選会です。いろんな人が登場する予定です。

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