とある喫茶店。
そこに、妙な雰囲気に包まれている2人の少女がいた。
「…………」
「…………」
方やゆっくりと紅茶を飲み、方や両手を膝の上に置いて俯きながら微動だにしない。
「…………みほ」
「……っ、は、はいっ」
「紅茶は熱いうちに飲むものよ」
「は、はい……」
ビクビクとしながら、ゆっくりと紅茶を口元へ持っていく。カップが微かにカタカタと震えている。
これが本当にあの無垢な笑顔でダージリンちゃん! と言っていた少女と同一人物なのだろうか。
「ねえ、みほ」
「……はい」
「貴女、わたくしのこと、嫌い?」
「え?」
「だ、だから、わたくしのこと、嫌いになりましたの?」
「えぇ? そ、そんなことないですよ。私がダージリンさんを嫌う理由がないじゃないですか」
「じゃあ何で、そんな話し方ですの?」
ダージリンはコメカミをピクピクとヒキつらせながらも、何とか笑顔を作る。
「ひぃっ! い、いや、それは……」
「そ・れ・に! 貴女さっきから、わたくしのこと何て呼んでますの?」
「……? ダージリンさん?」
「それですの!! 何でそんな他人行儀な呼び方ですのよぉ!!」
「ええ!? そ、そこ!?」
ダージリンは机に突っ伏しながら、涙ながらに叫んでいた。
「失礼しました。取り乱しましたわ」
「い、いえ」
ダージリンが冷静さを取り戻すのに約十分かかった。
「コホン。では改めて。みほ、戦車道に戻ってきたのね」
「……うん。初めはやるつもりなんてなかったし、始めたのもなし崩しだったからね。それに、あんな形で黒森峰を辞めたのに、また戦車道をしてるなんて皆には言い出せなくて。あんなに親身になってくれた皆を押し退けて戦車道を辞めたのに……」
みほは罰の悪そうな顔になりながら俯く。
「じゃあ、ケイたちには」
「うん。言ってない。今日だって、聖グロリアーナと練習試合をするって決まったときは、本当にどうしようって思った。ダージリンさんにどんな顔して会えばいいんだろうって……」
「……みほは今、戦車道をやっていて楽しくないの?」
ダージリンの言葉にみほは首を左右に振る。
「……初めは戦車を見るのも嫌だった。でも、戦車に乗ると何だか懐かしくて。やっぱり戦車道って楽しいかも」
昔のような無邪気な笑顔、とは言えないが、それでもみほは、昔とは違う少し大人な笑顔を浮かべていた。
喫茶店を出ると夕陽が空を紅く染めていた。
「今日はありがとう、ダージリンさん。とてもためになった試合だったよ」
「それならよかったですわ。……ねえ、みほ」
「うん?」
「貴女は確かに黒森峰から逃げた。そう言われても仕方がないと思ってるわ」
「……うん」
「でも、わたくしはそれは悪いことだとは思っていないの」
「え?」
「逃げてはダメなんていうのは、何の責任も背負わない、無責任な者たちの戯言ですわ」
「…………」
「大事なのは逃げないことじゃない。逃げた後、どう振る舞うか」
「どう、振る舞うか?」
やはり責められるのかと思い、不安げな顔で話を聞いているみほに、ダージリンは優しく微笑む。
「普通はできないですわよ。逃げた後に再び戻ってくるなんて。少なくとも、わたくしにはできない」
「あ……」
「みほ、貴女はやっぱり誰よりも強いわ」
ダージリンの優しい言葉を受け、一筋の滴がみほの頬を伝う。
「ふふっ。泣き虫なのは変わってないのかしら」
「そ、そんなことないもん!」
みほは涙を袖で拭うと、ダージリンに向き直り、しっかりと告げた。
「へへっ。ありがとっ! ダージリンちゃん!」
昔と同じ、ヒマワリのような無邪気な笑顔で。
「…………みほ、今、なんて」
「さ、帰りましょう! ダージリンさん!」
「待って! もう一度、もう一度だけでいいから昔みたいに呼んでぇーー!!」
ダージリンの叫び声が、大洗の街に響いたのだった。
~サンダース大学付属高校学園艦~
「フンフンフフン~♪」
綺麗な金髪に、モデル並みのスタイルを持つ少女。少女は今日の訓練を終えたばかりだというのに、余裕な様子で鼻唄を歌いながら自室に戻る。
「あ、そういえば、今日ダージリンが練習試合してたわね。相手がどこなのかは聞いてないけど、どうだったのかしら。ま、聖グロが簡単に負けるわけないか~」
そう言いながら、パソコンの電源をいれる少女。
「起ち上げてる間に~♪、着替えて、コーヒー♪」
不思議な歌を歌いながら、着替えを済ませ、コーヒーを淹れる。
コーヒーを淹れ終わると同時にパソコンが起ち上がったので、聖グロリアーナのホームページを見る。
「ふむふむ。あ、ちゃんと勝ったみたいね。よしよし。それで~? 相手は…………」
相手高校の名前を確認した少女は持っていたコーヒーを床に落としてしまう。しかし、そんなことはお構い無しにパソコンの画面に顔を近づける。
「…………対戦高校の大洗女子は聖グロリアーナに負けるも善戦。今年復活したとは思えないほどだった?」
もっと他の細かい情報はないのかと、いろいろ探してみたが、結局は聖グロリアーナが勝ったということと、先程の1文しか情報はなかった。
しかし、彼女の口元には笑みが生まれていた。
彼女は聖グロリアーナのホームページにUPされていた一枚の写真を見つめる。
その写真は聖グロリアーナの隊長であるダージリンの今日撮られた写真だった。
しかし、この少女にはダージリンの写真など興味がない。第一、ダージリンのあんな写真やこんな写真なら彼女の携帯に大量にある。今更こんな普通の写真など欲しくもないのだ。今彼女が見ているのは、ダージリンの後ろに小さく写る一人の少女。
「…………アハッ。待ってた。待ってたわよ! ミホ!!」
ケイさんは最後にちょっとだけの出番でした。
次回、抽選会です。いろんな人が登場する予定です。
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