いや、ほんとすみません。だいぶ更新が遅れてしまいました。
あともう一つ謝ります。今回はまだ試合に入れませんでした。サブタイ通り、試合直前の激励の話です。
どうぞ
戦車道大会決勝当日
~大洗女子陣地~
みほ達あんこうチームが自分達の戦車を調整していると、とある二人組がやって来た。
「ごきげんよう」
「あ、ダージリンさん。それにオレンジペコさんも」
「どうもです」
聖グロリアーナのダージリンとオレンジペコである。試合前の幼馴染みへ激励に来たといったところだろう。
「みほ、貴女はここまで来た。運もあったでしょう、奇跡もあったのでしょう。それでも、ここまで来た。それは紛れもない事実よ。胸を張って、黒森峰を蹴散らして来なさい」
「ダージリンさんが蹴散らすなんて言葉を使うとは思いませんでした」
「うるさいわよみほ」
みほが苦笑いをし、ダージリンがムッとしていると、一台のオープンカーがやって来る。サンダース高のナオミ、アリサ、そしてケイだ。
「ハーイ、ミホ! 応援に来たわよ! 今日もエキサイティングでクレイジーな作戦、期待してるわよ!」
「はい、頑張ります」
「ついでにダージリン。あなたそろそろマホとは仲直りしたの?」
ケイがそう聞くと、ダージリンは若干気まずそうな表情になる。
その表情を見てケイは溜め息をつき、みほは苦笑いをする。
「ミホーシャ!」
「あ、カチューシャさん」
「このカチューシャが応援に来てあげたわ! 黒森峰なんて、ちょちょいと捻り潰しちゃいなさいよ!」
相変わらずノンナに肩車されたカチューシャが声をかけてくる。プラウダの二人も応援に来てくれたようだ。
「頑張りますね」
みほはそう一言伝える。
幼馴染み三人はそんなみほの態度に少し違和感を覚えていた。
昔はとにかく元気で活発な子だった。数ヶ月前、あの喫茶店や練習試合で久しぶりに会って、だいぶ昔とは変わってしまったと思った。
ただ、試合になるとみほはやっぱり変わっていなかった。その事が三人とも嬉しかった。
しかし、今のみほはこの三人と試合したときとは少し違う気がした。
どこがどう違うのかを説明しろと言われてもできないのだが、どこか違う。それは間違いなかった。幼馴染みの勘がそう伝えていた。
決勝前で緊張しているのか? 古巣と戦うことに後ろめたさを感じているのか? 三人には色んな考えがよぎった。
「そう言えばチョビ子がいないわね。あの子も来てるはずでしょ? 誰か見てないの?」
「そう言えば見ていませんわね」
「カチューシャも見てないわ」
「ここにも来てないですよ?」
ケイが雰囲気を変えようと話題を提供する。今ここにはいないアンチョビこと千代美姐さんの話だ。
「千代美のことだから会場を間違えたとかじゃないの? カチューシャはそれに一票賭けるわ」
「あら、ではわたくしは寝坊に賭けますわ」
「え、えっと、じゃあ私は会場内を迷ってるに一票を……」
「オー! 面白そうね! そうね、なら私は色んな出店に紛れてパスタの屋台を出しているに一票賭けるわ!」
「「「それだ(ですわね)(ですね)!」」」
本人がいないところで、失礼極まりない幼馴染みであった。
ーーー
ーー
ー
~黒森峰陣地~
「隊長、全戦車点検完了しました」
「よし、では全員を集合させろ。最終ミーティングだ」
「はい」
エリカがまほに報告をする。試合前の戦車の点検も終わり、試合開始までの時間に今日の試合のための最終確認を行うのだろう。
「――よし、全員集まったな。今日は決勝戦だ。三年生にとっては泣いても笑っても最後の公式戦となる。だが、当然我々は負けるつもりはない。勝って当然だ。我々は常勝黒森峰、負けは認められない。例え敵がどんな相手だろうと油断はするな。戦車の数、経験、実力、全てにおいて相手より
『はい!』
「よし、では試合開始までは各自身体を休めておけ。解散」
まほの指示でメンバー達が各々散開する。
流石黒森峰の隊長といったところだろう。今の黒森峰にはかなりの緊張感が走っている。特に今の二、三年生はよく知っている。今日の敵がいったい誰なのかを。
まほに言われずとも、今日の試合は一瞬たりとも気を抜くことができないことも。
「エリカさんちょっといい?」
「小梅? ええ、どうしたの?」
車長の小梅と副隊長のエリカが今日の作戦の最終チェックを行っている。
まほはそれを遠目に見ながら机に置いてあるコーヒーに口をつける。先程エリカが淹れてきたものだ。
「流石は黒森峰の隊長さんだね~。大した緊張感だよ」
「…………千代美?」
突然まほに声をかけたのは別の場所で失礼な賭けの対象になっていた千代美だった。
「今はアンチョビ。にしても、こんなに張り詰めてて大丈夫なのか? 緩んだ糸よりも張り詰めた糸の方が簡単に切れやすいぞ?」
「……ふっ、心配ないさ。確かに張り詰めてはいるが、あいつらは、いや、黒森峰はただの糸じゃない。私達の隊列は何重にも重なった糸よりも固い。簡単に切れはしないさ」
「あっそ、そりゃ怖い」
肩を竦めて、おどけたように返す千代美。
「それで? 何しに来たんだ?」
「は? 激励に来たに決まってるだろ?」
「激励なら普通は向こうのチームにすべきじゃないのか? そういうのは弱い方のチームにするべきだ」
「おいおい、油断するなって言ってた本人が早々に油断かよ」
「油断じゃない。これは純然たる事実だ」
確かに黒森峰と大洗女子を比べて、どちらが強いと聞けば、百人が百人黒森峰と答えるだろう。これは紛れもない事実だ。
「へーへー、全く相変わらずだなお前は。まぁいいんだよ、どうせあっちには他の奴等が行ってるだろうしな」
「だろうな」
「だから私はお前が一人で寂しい思いをしてるんじゃないかと思ってこっちに来てやったんじゃないか」
「…………ふん、くだらん」
「おー? 何だー? 照れてるのか? 可愛いとこあるじゃないか」
「照れてない」
「嬉しかったら素直に嬉しいって言っていいんだぞ? ほれ、ありがとうって言ってみ。ほれほれ」
「うるさい。さっさと帰れ。客席じゃなく家に帰れ」
まほが千代美の背中を足で押していく。
「おいこら! 足で押すな! 背中に足跡がつくだろうが! わかったわかった。もう行くから!」
千代美が降参とでも言うかのように両手を挙げてまほを止める。
「ったく。……ま、頑張れよ。どっちも応援してるし、私はみほの味方でもあるけど、お前の味方でもあるんだからな。それを忘れるなよ」
「…………」
そう言ってまほに背を向ける千代美。その背中に向かって絶対に誰にも聞こえないような大きさの声が発せられた。
「………………………ガト」
「……………フッ」
しかしたった一人にだけは聞こえたのか、千代美は軽く頬笑み振り返ることはせずに右手だけを軽く振って去っていった。
原作の方ではアンチョビ姐さんが決勝で残念な感じだったので、この作品では格好良いところを見せてもらいたくてこの話を書きました。
次回はちゃんと決勝戦が始まるのでご安心を。
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