はい、正解は夏風邪と試験でした。
地獄でした、はい。熱は最高で38度7分。特に喉がビックリするほど腫れて、唾を飲み込むだけで激痛が走る日々。そんな地獄が一週間続き、しかもその一週間は大学のテスト期間。ははは、死ぬかと思いました(いろんな意味で)
でも治ったんで! 治したんで! 気合いで治したったんやで!
それに、テストもきっと大丈夫。だって昔から言うでしょ?
『馬鹿は風邪を引かない』
つまり、風邪を引いた私はnot馬鹿。イコール、テストもきっと大丈b
ダージリン「あら、こんな格言を知ってるかしら?『夏風邪は馬鹿が引くもの』」
私「」
ダージリン「では、本編スタート」
私「」
一ヶ月。一年生が入学してから一ヶ月が経った。
この一ヶ月で一年生はムクムクと成長していった。
最初の日に即戦力と言われていた三人はもちろんのこと、それ以外の一年生も模擬戦でそれなりの結果を出すようになっていた。
そんなある日、一年生は隊長であるまほと三年生の副隊長に集められていた。
「今日お前たちに集まってもらったのは、少し大事な話があるからだ」
まほは集まった一年生を見渡しながら話始める。
「黒森峰って昔からとある伝統があってね、なんでも『副隊長は隊長よりも下の学年の者が務めなければいけない』らしいんだよねー」
現副隊長が頭を掻きながら説明する。
「これは隊長が卒業した後に隊長も副隊長も経験したことのない者がいきなり隊長になるのを防ぐため、まぁ簡単に言えば経験を積ませるためのものだ」
「まぁ毎年三年生が隊長、二年生が副隊長を務めて何の問題もなかったんだけど、今年は少し異例でさー」
副隊長がまほをチラリと見る。
まほは副隊長の視線を無視し、話の本題に入る。
「お前たちも黒森峰に入り一ヶ月が経った。そろそろ黒森峰の戦車道にも慣れた頃だろう。なので約一ヶ月後、この中から副隊長を選任したいと思う」
ザワッと一年生から驚きの声やら不安の声やらが上がる。
「特にテストをするつもりはない。今日から一ヶ月間、私や三年生の先輩たちが練習中、模擬戦中のお前たちの動きを見て、話し合って決める」
「だからってあんまり固くならないようにね。意識するなっていうのは無理かもだけど、別に副隊長になれなかったからって試合に出れなくなるわけじゃないし。気楽にガンバ!」
副隊長が良い笑顔でサムズアップをする。
一年生はゴクリと喉を鳴らし、十人十色の反応を見せる。
ある者は不安でガチガチになり、ある者は頑張ろうと意気込み、ある者はあまり興味なさげに欠伸をしたり、ある者はそんなの無理だと既に諦めて肩を落としたりと色んな反応があった。
副隊長は初めに注目していた三人を見る。
一人はアワアワと見るからにテンパっており、一人は口角を僅かに上げて軽く微笑み、そして残りの一人は何を考えているのか表情一つ変えずにある一点を見つめていた。
その視線を追ってみると、自分の横に立つ無表情の少女に辿り着く。
(なーんか、やっぱり似てるねこの二人)
「では、そのように心しておいてくれ。解散」
まほの指示でゾロゾロと解散していく一年生。頑張ろうねー! もちろん! などといった声が聞こえてくる。
「……誰だと思う?」
副隊長がストレートにまほに聞く。
「さあ、まだ何とも」
「私はみほちゃんかなー」
「…………」
まほは何も言わない。しかし、この副隊長もみほがまほの妹だから言っているわけではない。
臨時で一時的とはいえ、卒業した先輩たちに現三年生の中から選ばれた副隊長という職。その自分の後釜になる者を決めるのだ、適当に選ぶ訳にはいかない。
この一ヶ月、真面目に新副隊長になるべき者を探していた。
そして、一人の少女が目についた。
「他の子も試合で充分通じるくらいにはなってると思う。それは間違いない。ただ、あの子は少し別格かな。流石はあんたの妹と言えば良いのか、本当にあんたの妹? と言えば良いのかわからないけどね」
「…………」
それは、まほも当然わかっていた。
いや、まほだけではない。他の二、三年生も恐らく全員思っていることは同じだろう。
『西住みほは他の一年生とは違う』
それが西住みほという少女への評価である。
練習ではあまり目立たない。あらゆることをそつなくこなす、特に特徴のない少女だ。
しかし、ひとたび試合になるとその姿は豹変する。
誰にも思い付かないような奇抜な作戦。状況に応じた臨機応変な判断と指示。相手の作戦を看破した上でそれを利用する適応力。
その能力は既に高校一年生のそれをはるかに越えていた。
そしてそれらの能力が活かされるのは操縦手でも装填手でも通信手でも砲手でもない。そう、それらの能力は車長、もしくはそれ以上の位に位置する者に活かされる。
「姉妹とか、西住の娘だからとか、そんなのを無視しても、全員一致であの子だと思うんだけどな」
「…………まだわかりませんよ。それを判断するのは一ヶ月後です」
「はぁ、何をそんな頑なになってんの?」
「……別に、本当のことを言っているだけでしょう?」
「いや、まぁそうなんだけどさ……」
誰がどう見てもみほの隊長能力はずば抜けている。なのにまほは頑なにそれを認めようとはしない。姉妹だから贔屓目になるのを防ごうとして厳しくなってしまうのか、副隊長にはまほが何を考えているのかわからなかった。
しかし、まほが考えていること、それはあまりにも単純だった。
『みほは″黒森峰″の副隊長には相応しくない』
まほが思っていることは、ただそれだけだった。
この一ヶ月、まほはみほの動きを観察していた。そして、既に結論を出していた。
西住流を基本とする黒森峰の戦車道に西住みほの戦車道はあっていない。
それがまほの出した結論だった。
「じゃあ、お楽しみは一ヶ月後ということで。一ヶ月後にまほと私、あと三年生と二年生の車長による会議で決定、でいいね?」
「はい」
副隊長は、それじゃあその子たちに伝えておくねと言い残して去っていった。
「…………あと一ヶ月だけ待ってやる、みほ」
誰もいない空間に向けて一人そう呟くまほであった。
そして、まほによる新副隊長選任宣言から一月が経った。
とうとう今日の放課後、二、三年生の車長と隊長、副隊長が選んだ新副隊長の発表の日である。
昼放課、西住みほは同じクラスであり同じ戦車道選択の友人たちと昼食をとっていた。
「いやー、今日だね新副隊長の発表」
やはり、ここ最近の戦車道選択の一年生の話題といえばこれだった。それも今日発表となれば、その話題になるのは必然である。
「でも、やっぱり西住さんでしょー」
「だよね、やっぱり私たちとはちょっと差がありすぎてるっていうか」
まほの宣言から一ヶ月、一年生は自分をアピールするのと同時に他のライバルの様子当然も伺っていた。
黒森峰に入って初めの一ヶ月はそんな余裕はなかった。自分のことで手一杯であり、他の人の動きを見るなんてことはできなかった。
しかし、この一ヶ月は違った。やはりどうしても、自分以外の者のことが気になってしまう。そしてそうなることで、今まで気が付かなかったことに気付いたりする。
そう、西住みほは自分たちより何枚も上手であり、それは妬みや恨みを通り越して尊敬に値するほどの差がみほと他の一年生たちの間にあった。
「そ、そんなことないと思うけどな」
「いやいやあるって。この間の模擬戦だって、三年生の戦車撃破してたじゃん」
「あれは砲手の子が上手だっただけだよ。私が砲手だったら多分無理だったし」
謙遜でも何でもない。みほは車長以外の役割は良くても中の上といったところなのだ。それに関したらみほより上の者は一年生の中に何人もいる。
「でも今回求められてるのは新副隊長に相応しい者だから、やっぱり指示する能力とか判断能力とか、あと作戦を考える能力とかが見られるんじゃないの?」
「だとしたらやっぱり西住さんだね。私、西住さんの作戦すごい好きだもん」
「あ、それわかる。何だか見てるだけでも楽しいよね。西住さんの作戦って」
みほからしたら中学の頃と何ら変わらないことをしているだけなのだが、それが彼女らにとっては珍しいものらしい。
「ねぇ、逸見さんもそう思わない?」
一応一緒に集まって端で昼食をとっていたエリカに一人が質問する。
「…………そうね。確かに今の時点で私があなたに負けていることは認めるわ。でも、いずれ追い抜くんだから」
負けず嫌いだが、決して悪い子じゃない。自分の負けは素直に認めることのできる良い子なのである。
「えー、そりゃ私も副隊長にはなりたいけどさー、決めるのは先輩たちだし、誰がなるなんてわかんないよ?」
みほはこう言うが、他の誰も、エリカも小梅もみほ以外の皆がみほが副隊長になるものだと思っていた。
~放課後~
「昨日二、三年生の車長で話し合った結果、新副隊長が決定した。新副隊長は……逸見エリカだ」
いやほんと、風邪とテストが重なっちゃってすごい遅くなっちゃいました。すみません。
さて、新副隊長がエリカに決まりましたね。この先どうなっていくのでしょうか。ていうか、いつになったら黒森峰戦にいけるのか。未だに不明です。
まぁ、気長にまほ編を楽しんで頂けたらと思います。
次回もお楽しみに。
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