6人の戦車道   作:U.G.N

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地吹雪の幼馴染みです! その3

「で? 土下座?」

 

 小さくなって眠っていたカチューシャが眼を覚ましてノンナに問う。

 

「いいえ、降伏はしないそうです」

 

「ふぅん。待った甲斐ないわね。それじゃあさっさと片付けてお家に帰るわよ。あ、それとこれを全隊員に伝えて」

 

「何でしょう」

 

「驚くようなことがあっても驚くな。この世に絶対なんてものは絶対にないんだから」

 

「いろいろ矛盾していますが、大丈夫ですか?」

 

「う、うるさいわね! わかってるわよ! とにかく、相手はこっちの予想してないことを平気でしてくる。全員気を抜くなって言うのよ!」

 

「わかりました」

 

 ノンナは一つ頷くと無線を入れる。

 

 それを尻目に、カチューシャはみほ達が立て籠っている建物を見る。

 

(敢えて包囲網に緩いところを作った。そこを突いてきたら挟んでお仕舞い。万が一フラッグ車を狙ってきても、隠れているKV-2が仕留めてくれる。さて、みほ。貴女がまだちゃんと隊長をやれてないのなら、このどちらかに掛かってお仕舞いよ。……もし、ちゃんとやれてるのなら、きっとあの子は一番分厚いここに来る!)

 

「カチューシャ、時間です。来ます」

 

 ノンナの声が掛かる。すると、建物から聞こえてくるエンジン音が大きくなる。

 

「来た。……ッ! 緩いところに……あのヘタレっ!」

 

 カチューシャは大洗の戦車が包囲網の緩いところへ向かっているのを見ると、自分の戦車を大洗の方へと向かわせる。

 

「~~~~ッ! あのヘタレ根性を叩き直してあげるわ! ん? あ、あれ? やばっ、しまった!」

 

 包囲網が緩い方へ向かっていた大洗が突然方向転換し、一番包囲網が分厚いところへと進み始めた。

 

 カチューシャが腹をたてて移動してしまったため、分厚い場所も戦車一台分薄くなってしまった。

 

「急いで戻って! 一番分厚いとこが私のせいで分厚くなくなっちゃった!」

 

 カチューシャが指示を出す。

 

 すると、大洗の先頭を走っていた38(t)がプラウダの一輌を撃破する。

 そして、その間に大洗の全車輌が抜けていく。

 

「やられた! 後続! なにがなんでも阻止!」

 

(ああー! そうだ! みほはそういう奴だった! クソッ騙された! あーもう! 私の馬鹿!!)

 

 戦車内で足をじたばたさせるカチューシャであった。

 

 

 ~大洗~

 

「前方敵4輌!」

 

『こちら最後尾、後方からも四台来ています。それ以上かも』

 

「挟まれる前に隊形乱さないよう十時の方向に旋回してください」

 

 みほの指示が全車輌に通る。

 

『前方の四輌引き受けたよ。うまくいったら後で合流するね』

 

 生徒会チームが前方のT-34/76を二輌と85とIS-2を38(t)1輌で相手にすると言い出したのだ。

 

『西住ちゃん、いいから転回して!』

 

「わかりました。気をつけて!」

 

『そっちもね』

 

 なんとも無謀。しかし、これも先程の作戦会議で決めたことなのだ。行く手を阻む敵が前に現れたら、それが何輌だろうと自分達が相手すると。

 

 みほは敵四輌に突っ込んでいく38(t)を心配そうに見つめながら、十時の方向に転回するのだった。

 

 

 

 ~プラウダ~

 

「なにやってんのよ! あんな低スペック集団相手に! 全車で包囲!」

 

『こちらフラッグ車。フラッグ車もスか?』

 

「アホか!! あんたは冬眠中のヒグマ並みに大人しくしてなさい!」

 

 そんな会話をしている間に少し手薄になっていた二時の方向へ大洗が向かい出す。

 

「なんなの、チマチマと逃げ回って! 曳光弾! 主砲はもったいないから使っちゃ駄目!」

 

 敵を追い、ちょっとした坂を乗り越える。

 

「追え追えー!」

 

「二輌ほど見当たりませんが」

 

 ノンナがカチューシャに報告する。

 

「わかってる! Ⅲ突とⅣ号でしょ!」

 

「……! はい」

 

 どうやら、カチューシャも気づいていたようだ。

 

「とにかく、ISが合流するまではこのまま追ってなさい! ISが着き次第ノンナはISに乗って敵フラッグ車を撃破! 私は今からⅣ号とⅢ突の相手をしてくるから!」

 

 噂をすればなんとやら、その指示を出していたら後ろからIS-2が追い付いてきた。

 

『遅れました。こちらIS-2ただいま帰参です』

 

「来たー! ノンナ、代わりなさい!」

 

「はい」

 

「それじゃ、私は向こうに行ってくるわ! こっちは任せたわよ!」

 

「はい」

 

(ISが来たってことは、あのヘッツァーは倒したってことよね……)

 

 カチューシャはUターンし、フラッグ車が隠れている村へと来た道を戻るのであった。

 

 

 

 

『カチューシャ隊長、こちらフラッグ車。発見されちゃいました! そっちに合流してもいいっスか? ていうか合流させてください』

 

「単独で広い雪原に出たら良い的になるだけでしょ! 私が今すぐ近くにいるからあんたは死ぬ気で逃げ回ってなさい!」

 

『早く来てくださいッス!』

 

「……………………見つけた! Ⅲ突は放っておきなさい。砲塔が回らないⅢ突なら逃げれるだろうし、Ⅳ号を相手にするわよ!」

 

 カチューシャが自分の乗る戦車の乗員に指示を出す。

 

 そして、Ⅳ号が十字路に差し掛かったときに、Ⅳ号の目の前に砲弾を打ち込んだ。

 

 

 

 

「……ッ!」

 

 突然の急ブレーキに、身体が車内で吹っ飛びそうになるのを何とか堪えるみほ。

 

「T-34/85……カチューシャさんですね」

 

 みほは戦車から顔を出しながら目の前に現れた戦車に問いかける。

 

「正解。悪いけど、あんたはここで少しの間私に付き合ってもらうわ」

 

 カチューシャも戦車から顔を出し答える。

 

「もう諦めなさい。今うちのノンナがそっちのフラッグ車を狙ってる。時間の問題よ」

 

「その前にうちがそちらのフラッグ車を叩けば問題ありません」

 

「Ⅲ突一台で?」

 

「Ⅲ突とⅣ号でです」

 

「だから、Ⅳ号は今から私の相手をしてもらうんだってば」

 

 少し呆れたようにみほに言い聞かせるカチューシャ。

 

「…………不思議ですよね」

 

「何が?」

 

「うちって私以外、皆戦車道初心者なんですよ」

 

「知ってる。だから最初あんなわかりやすい罠に引っ掛かったんでしょ?」

 

「はい。全然言うこと聞いてくれませんでした。もう笑っちゃいますよね」

 

「それが私の部下なら全然笑えないわよ」

 

「そうですか。でも、初心者は初心者で良いところがあるんですよ?」

 

「へぇ、どんな?」

 

 完全に聞く姿勢に入るカチューシャ。これも時間稼ぎの内だ。

 

「恐れをしらないところ、とか。諦めが悪いところ、とか」

 

「……ふぅん」

 

「だから、慣れていないからこそ、ときには奇抜な動きをしたり」

 

『……ッ。申し訳ありませんカチューシャ。敵の動きが不規則で……もう少し時間を』

 

「……!」

 

「こっちがびっくりしちゃうくらいの力を発揮したりするんです」

 

「………………ッ!!! 全速でバック!」

 

 一瞬の反応と判断。そして、的確な指示。その指示に見事に反応し戦車を動かした操縦手。流石はカチューシャ率いるプラウダである。

 

 さっきまでカチューシャの乗るT-34/85がいた場所には砲弾が打ち込まれていた。

 

 目の前のⅣ号、ではなく、横からの砲撃。

 

「ヘッツァー……ッ!」

 

 そう。てっきりやられていると思っていた38(t)である。

 確かに撃破のアナウンスは聞いていないが、IS-2が戻ってきていたので、聞き逃しただけでとっくに始末したと思っていた。

 

 二対一は分が悪いと判断したカチューシャはまずは逃げることにした。どちらにせよ、自分がやられずにⅣ号と38(t)を足止めできればそれでいいのだ。

 

 そして、T-34/85は方向転換しながら逃げ回ることになった。

 

 

 

 

「カメさん! T-34/85の相手をお願いします! あんこうは敵フラッグ車を狙いに行きます!」

 

『りょーかーい。あ、でもさー西住ちゃん。実はーーーーーー』

 

「え……いえ、わかりました。それならーーーーーーーー」

 

『なるほどね、了解』

 

 

 

 

「後ろヘッツァーしかいないわよ! Ⅳ号は!?」

 

「いないのなら、Ⅲ突の方へ行ったのでは?」

 

「はぁ!? つまりヘッツァーなんかにこの私の相手を任せたってこと!? ナメんじゃないわよ! 反撃よ!ヘッツァーなんか捻り潰しなさい!」

 

「いや、でも後ろに付かれてるもんですから。停まったりしたら危険っスよ? たとえヘッツァーでもゼロ距離で打たれたら流石にヤバイッス」

 

 そう。38(t)はカチューシャの戦車を付かず離れずの距離を保ったまま追いかけ続けているのだ。

 

 しかし、流石カチューシャ。違和感にすぐに気が付いた。

 

「ねぇ、あのヘッツァー、何でさっきから攻撃してこないのかしら」

 

「へ? いや、だからゼロ距離じゃないと意味無いからでしょ?」

 

「……いえ、違うわ。ヘッツァーの前に移動、急停止。急ぎなさい!」

 

「それだと、ゼロ距離になっちゃいますよ?」

 

「いいから。私の予想ではあのヘッツァー、恐らく……」

 

 カチューシャの指示通り、38(t)の目の前に移動するT-34/85。

 

 

 

 

「ん? うわっ!! なになに!? 何事?」

 

 突然の急ブレーキに車内で転げ回りそうになった杏は前の様子を伺う。

 

「あっちゃー、思いっきり砲塔こっち向いてるね。バレちゃったかな。ごめーん西住ちゃん、バレちゃったみたい。弾切れなの」

 

『問題ありません。こちらももう終わります!』

 

 そう。カメさんチームである38(t)は先程カチューシャに撃った一発が最後の一発だったのだ。

 

 

『あ、でもさー西住ちゃん。実は、今の一発で弾使い果たしちゃった』

 

『え……いえ、わかりました。それなら、敵と付かず離れずの距離を保ったまま追いかけてください。ゼロ距離じゃないと撃っても意味無いから撃っていないんだと相手に思わせるように。あと、砲塔も調整しているように見せかけるために少しずつ動かしてください』

 

『なるほどね、了解』

 

 

 

 

 そして、カチューシャの乗るT-34/85が38(t)を撃つ音とⅢ突が敵フラッグ車を撃つ音とノンナの乗るIS-2がアヒルさんチームを撃つ三つの音が、同時に雪原フィールドに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

『コンピューターによる結果が出ました。プラウダ高校のフラッグ車が走行不能になったのが少し早かったため、そちらが先に撃破されたとみなし…………勝者は、大洗女子!』

 

 




 なんと生徒会チームが無事でした。
 恐らくIS-2以外の3輌は倒して、何とか逃げ切ったのでしょう。すごいですねw

 次回は試合後のお話と、とうとう黒森峰です
 お楽しみに

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