どうぞ
~プラウダ学園艦~
「準決勝は残念だったわね」
「口先だけの慰めなら必要ありませんわ」
定期的に行われている、カチューシャとダージリンのお茶会である。
「それにしても、一輌も倒せなかったとか……あんた何してんの?」
「返す言葉もごさいませんわ」
何を言われても気にしないといった感じで紅茶を飲むダージリン。
「わたくしが未熟だったのは認めますわ。ただ、あの時のまほは倒せる気が全くしませんでしたわ。まるで、別次元の人間のよう」
「別次元ねぇ」
「彼女に何があったかは知りませんが、初めてまほを怖いと思いましたわ」
「何があったかって……そりゃああのケンカでしょ」
「わたくしは喧嘩をしたつもりはございませんわ」
「ま、お互い頑固なだけだもんね」
「…………別に、そんなことない」
プイッとそっぽを向くダージリン。
そんなダージリンを見て呆れたように溜め息をつくカチューシャ。
「そんなことより、貴女余裕ですわね。練習しなくていいんですの?」
「必要ないわ。燃料の無駄遣いよ。みほには悪いけど、どれだけみほが優れた隊長だとしても、周りがそれに追い付けない素人集団なら負ける理由がないもの」
問題ないと断言するカチューシャ。
「そんな素人集団にケイと千代美は負けてますわよ」
「ケイはくだらないプライドで大洗と同じ車輌数で行ったから。全車輌で行ってれば負けなかったわ。チョビ子の作戦はなかなか良かったけど、部下の凡ミスで台無し。さっき私が言ったことの良い例だわ」
カチューシャはカチューシャでちゃんと大洗の試合は観ているようだ。
「そう。なら、勝率は高いと」
「ええ。75%くらいはあるわね」
てっきり「もちろん100%!」などと言うと思ったが、意外にもカチューシャは謙虚だった。
「……思ったより低いですのね。残りの25%はどこから来ましたの?」
「相手が西住みほだから」
「…………」
「確かに相手は素人集団。だけど隊長は西住みほ。やっぱりこれは無視できないわ」
「……そうですわね」
「ま、負けるつもりはさらさらないけどね。安心しなさい、黒森峰へのあんたの仇はこのカチューシャ様が討ってあげる」
「……そんなこと言って、その前の大洗に負けたらお笑い草ですわね」
「うっさいわよ!」
第63回 戦車道 全国高校生大会 準決勝
プラウダ高校 対 大洗女子学園
フィールドは雪原。青森の学園艦であるプラウダに有利なフィールドである。
辺り一面真っ白な雪、雪、雪。
まさに極寒の地に大洗の選手たちは集まっていた。
「とにかく、相手の車輌の数に惑わされないで、冷静に行動してください。フラッグ車を守りながらゆっくり前進してまずは相手の動きをみましょう」
みほが本日の作戦を説明する。
しかし
「ゆっくりもいいが、ここは一気に攻めたらどうだろう」
そんな声があがる。
みほの案に対し、全くの真逆の作戦。
しかも、他の隊員たちもそれに賛同する。
「うむ、妙案だ」
「大丈夫です。行けますよ!」
「クイックアタックでいきましょう!」
「何だか負ける気がしません! それに相手はうちのこと完全に舐めてます!」
「ギャフンと言わせましょうよ!」
どうやら、一回戦二回戦と勝つうちに彼女たちにも自信がついてきたようだ。
しかし、自信と余裕は全くの別物である。
今回から新しくカモさんチームが加わったにせよ、戦力差は十五対六。まさに倍以上である。
それに加え、プラウダの隊長はあの地吹雪のカチューシャ。
戦略を練るのが得意で大好きな名将なのだ。
そんなことも考えず、彼女たちはどんどん話を進めていく。
「よし、それで決まりだな」
「勢いも大切ですもんね」
しかし、みほはそんなのは駄目だと言い出せなかった。
昔の、まだあの六人で毎日のように遊んでいた頃のみほなら自分の考えを全面に出せたのだろう。
だが、みほは変わってしまったのだ。
「…………わかりました。一気に攻めます」
「いいんですか!?」
「慎重にいく作戦だったんじゃ」
優花里と華が心配そうに聞く。
「長引けば雪上での戦闘に慣れた向こうが有利になるかもしれないし、皆が勢いに乗ってるんだったらっ」
皆へというよりは自分に言い聞かせるような、そんな言い方で説明をし直すみほ。
「では、相手は強敵ですが、頑張りましょう!」
みほのこの判断が間違っていたことに気付くのには、そう時間はかからなかった。
~プラウダ高~
「いい? あいつらにやられた車輌は全員シベリア送り25ルーブルよ!」
「陽の当たらない教室で二十五日間の補習ということですね」
カチューシャのよくわからない罰をノンナが分かりやすく説明する。
「行くわよ! 敢えてフラッグ車だけ残して、あとは殲滅してやる」
カチューシャは今回の戦いは負ける気がまるでしていなかった。
同じ車輌数でも勝つ自信があるのに、実際には倍以上の車輌数。敵はみほ以外全員素人。
ダージリンにはああ言ったが、心の中では99%勝てると思っていたし、今も思っている。
「力の違いというものを見せつけてやるんだから」
これは大洗を舐めているわけでも、西住みほを舐めているわけでもない。ただただ、冷静に分析した真実である。
『敵は全車北東方面へ前進中。時速約二十キロ』
偵察部隊からの報告がカチューシャとノンナのところへ届く。
「…………? 一気に勝負に出る気? みほらしくないわね。それどころか数が圧倒的に負けてるのにそんな作戦って……何か策があるのかもしれないけど、これはきっと違うわね。一回戦二回戦と勝ってきて、天狗になってるお仲間が言い出した作戦ってところかしら」
カチューシャはお菓子を食べながら、まるで見てきたような分析を始める。流石は名将である。
「みほも強くは言えず、そのまま流された。……ふんっ、気に入らないわね。隊長失格よみほ。いいわ、隊長がそんな優柔不断だとどういうことになるか、教えてあげるわ。ノンナ!」
「わかってます」
カチューシャは副隊長であるノンナに指示を出した。
~大洗~
「十一時に敵戦車。各自警戒」
十一時の方角に敵を発見したみほは、各車輌に指示を出す。
「三輌だけ……外郭防衛戦かな」
そんな呟きを溢している間に、敵戦車が発砲をする。
「気付かれた。長砲身になったのを活かすのは今かも。砲撃用意したください。カバさんチームも射撃!」
自分の戦車の華とⅢ突に砲撃の指示を出すみほ。
そして、見事にⅢ突とⅣ号の砲撃が敵戦車に命中し、白旗を挙げさせる。
「ロシアのT-34を撃破できるなんて。これはスゴいことですよ! ……? 西住殿?」
去年の優勝校をいきなり二輌撃破したことによって、手放しに喜ぶ隊員たち。しかし、みほだけが浮かばない顔をしていた。
「……うまくいき過ぎる」
すると、残っていた敵戦車一輌がこちらに発砲しながら逃げていく。
「全車輌前進。追撃します」
敵は大洗の全車輌に追われながら逃げていく。まるで、魚の前をゆらゆら泳ぐルアーのように……
『敵フラッグ車を発見!』
敵が逃げていった先に、敵のフラッグ車およびその周りに数輌の敵を発見した。
大洗は千載一遇のチャンスとばかりに追撃する。
Ⅲ突の砲弾が敵の一車輌に当たり、走行不能にさせる。
それを確認してか、敵は砲撃しながら後退する。
勢いに乗っている大洗はそれを無作為に追う。
しかし、勢いに乗っていると言えば聞こえは良いが、彼女たちはの場合は少し調子に乗っていると言われても、文句は言えないだろう。
何故なら、彼女たちは先日行われた黒森峰 対 聖グロリアーナの試合をちゃんと全員観ているのだ。
にもかかわらず、今みほ率いるあんこうチーム以外の戦車は敵フラッグ車を安易に追っているのだ。
あの試合を観たにも関わらず、この行動はあまりにも愚直すぎる。
みほも静止させようとするが、敵フラッグ車を前にして彼女たちが聞くはずもなかった。
まさにカチューシャの言う通りである。みほ以外全員素人であるという弱点がこんなところで出るとは。
敵は大洗の攻撃をうまく避けながら、その先にある小さな村へと逃げ込んでいく。
その後を追い、村の真ん中に集まった大洗は家の陰に見え隠れしている敵フラッグ車を砲撃し続ける。
既に、敵に包囲されていることにも気付かずに……
今回はできるだけ原作よりで書きました。
アニメを観たときに、この時のあんこうチーム以外かなり調子乗ってるなぁと思ってたので、少々地の文で大洗への当たりが強い気がしないこともないですが、別に彼女たちが嫌いなわけではないので! むしろ大好きなので! そこは誤解なさらないようお願いしますw!
次回、決着です
お楽しみに
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