6人の戦車道   作:U.G.N

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 申し訳ありません。
 前回の後書きで書いた次回予告が嘘になってしまいました。
 こっちが先にできてしまったので、先にこっちを投稿します

 では、どうぞ


黒森峰v.s聖グロリアーナ

「…………」

 

「…………」

 

 試合前の整列。代表者数名が前に出て並んでいるのだが、そこに流れている空気はとても重かった。

 

(な、なんなの、この雰囲気は……隊長もずっと腕を組んで黙ってるし……)

 

 黒森峰の副隊長であるエリカはこの不穏な雰囲気を察知し、何も言えずにいた。

 

(だ、ダージリン様のお顔が怖い……)

 

 ダージリンのお付きであるオレンジペコも、普段からは考えられないダージリンの表情に怯えていた。

 

「これより、黒森峰女学園対聖グロリアーナ女学院の準決勝を行います。互に、礼!」

 

 審判の言葉に両校の生徒たちが一同に頭を下げる。

 

 礼を済ませると、ダージリンが一歩前へ出る。

 

「黒森峰の隊長さん。今日はよろしくお願いいたしますわ」

 

 ダージリンがまほに向かって右手を差し出す。

 

「……ご丁寧にどうも。今日はよろしく。聖グロの隊長さん」

 

 まほも右手を出し、ダージリンの手を握る。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 見るからに痛そうな握手である。

 

 ダージリンは何とか笑顔を作ってはいるが、その笑顔がひきつっている。とても痛そうだ。

 

 一方まほは、いつもの無表情で握手に応じているが、少し脂汗が滲んでいる。こちらもきっと凄く痛いのだろう。

 

「た、隊長! もう行きましょう! 移動しましょう!」

 

「ダージリン様も、早く戦車に戻りましょう!」

 

 これ以上は見てられないと、エリカとオレンジペコが止めに入る。二人の間に入り、何とか引き離す。

 

 何があったのかはわからないが、きっと過去に何かがあったのだろうと気付いたエリカとオレンジペコは、今日は大変な試合になりそうだと、心の中で溜め息をつくのだった。

 

 

 

 

 黒森峰対聖グロリアーナの準決勝。フィールドは見晴らしの良い荒野と逆に建物が多くある市街地である。

 

 試合開始二十分。

 早速戦況が動いていた。

 

 それも、もう試合が終わってしまうかもしれない。そんな戦況の動き方である。

 

「くっ! どうしますか? ダージリン様」

 

(……ッ! いきなりやってくれますわね、まほ。そんなにも直接わたくしを倒したいですか)

 

 そう。試合開始早々まほの乗るフラッグ車、Ⅵ号戦車ティーガーⅠが、ダージリンの乗るチャーチルを砲撃しながら追ってきているのだ。

 

 ダージリンのチャーチルもフラッグ車のため、どちらかがやられた瞬間、試合終了である。

 

 観客席では開始早々フラッグ車同士の一騎討ちに、大変盛り上がっている。

 

「流石に一対一は分が悪いですわね。流石西住流。出鼻は挫かれましたが、これを逆に利用します」

 

 ダージリンは戦車から顔を少しだけ出し、後ろのティーガーⅠを見る。

 

「チャーチル、マチルダの全車輌は全速力で市街地に向かいなさい。わたくしたちフラッグ車が囮になって敵フラッグ車をZX-64地点まで誘い出します。そこで待ち伏せといきましょう」

 

 ダージリンが指示を出す。普段のダージリンはフラッグ車を囮にするなど絶対にしないのだが、相手はあの西住 まほ。そんなことも言ってられないのだ。

 それに……

 

「このわたくしがフラッグ車を囮にするなんて……まるでみほですわね」

 

 小さな声でそう呟くと、ダージリンに通信が入る。

 

『こちらクルセイダー! わたくしたちはどうしますでしょうか!?』

 

 クルセイダー隊の隊長を任されているローズヒップからの通信である。

 

「貴女たちクルセイダーは他の敵部隊が近くにいないか見張りなさい」

 

『了解したでありますわ!! うわぁ!!』

 

「……? どうしましたの?」

 

『発砲されていますですわ!! パンターが2輌!』

 

 どうやら、ローズヒップたちクルセイダー3輌がパンター2輌と交戦したらしい。

 

(二輌だけ? …………なるほど、その二輌は本来フラッグ車の護衛ですわね。しかし、まほがわたくしを見つけて先に行ってしまって、置いていかれたパンターがたまたまクルセイダーを見つけたと、そんなところですわね)

 

「ローズヒップ、最悪倒せなくてもいいですわ。その二輌は足止めしておきなさい。その二輌がティーガーに追いついて、わたくしたちが三輌で追われたら流石に厳しいですわ」

 

「了解でございますわ!!」

 

 ダージリンはローズヒップに指示を出し終えると、今度は自身の車輌の乗員に指示を出す。

 

「ティーガーの砲撃には一撃も当たらずに市街地まで行きますわよ。市街地に着く前に普通にやられてしまったら、目も当てられませんわ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 ティーガーの砲撃を何とか一撃も当たらずに市街地へ近づいてきたダージリンの乗るチャーチル。

 

 そんなとき、通信が入る。

 

『こちらマチルダ・チャーチル全車輌、市街地のZX-64地点に到着。パッと見た感じ、辺りに敵はいない模様。ここで待機します』

 

「了解。こちらもあと十分もかかりませんわ」

 

 

 

 さらに五分が経過。市街地が見えてきた。

 

 相変わらず後ろを追ってきているティーガー以外に敵の姿は見えない。

 

 すると、今度はローズヒップからの通信が入る。

 

『こちらローズヒップ! 我々の後方に土煙を発見ですわ! 遠くてよく見えませんが、土煙の大きさからいって、十輌程いるかと思われますわ!!』

 

 なんと、未だ戦闘中のクルセイダーの後方に約十輌程いると思われる土煙があがっていたのだ。

 

 戦闘中のため双眼鏡ではうまく見れないが、肉眼でも見える程の土煙ということは相当なのだろう。

 

 そんな通信を聞きながら、ダージリンは市街地へと入る。ティーガーもしっかりと付いてきている。仲間が待ち伏せているZX-64地点まであと三分くらいで、敵のほとんどはかなり後方にいるクルセイダーの更に後方。恐らくもう間に合わないだろう。

 

 これはもらったかもしれない。そう思ったとき、ダージリンはようやく何かおかしいことに気が付いた。

 

(……………その十輌はそんな遠くで今まで一体何をしていましたの? 本当に十輌もそこにいますの? いや、目視できるほどの土煙が上がっているということは…………ッッ!!!!)

 

 そこでダージリンはあることを思い出した。思い出してしまった。中学の頃、みほが試合で一度だけ見せた作戦を。そしてその試合を、その作戦を、観客席からまほと一緒に観ていたことを。

 

「全車輌今すぐ撤退!! 早く!!」

 

 ダージリンは慌てて待ち伏せのために待機している車輌に指示を出す。

 

 しかし、全てが遅すぎた。

 

 

『マチルダ六輌、チャーチル五輌、走行不能!』

 

 待ち伏せていたはずの車輌全てが撃破されたというアナウンスが流れる。

 

「えっ、い、一体何が起こったんですか!?」

 

 今のアナウンスにオレンジペコが混乱する。

 

 それもそうだろう。そもそも戦車が十一輌も同時に撃破されること自体珍しいことなのだ。しかも、市街地には敵はいないと思っていたのにだ。

 

 そう、″思っていた″だけなのだ。

 

 先程の報告で、こんなことを言っていた。

 

『パッと見た感じ、辺りに敵はいない模様』と。

 

 パッと見るだけでは駄目だったのだ。見つからないように隠れている敵をパッと見ただけで見つけられるはずがなかったのだ。

 

「やられましたわ。今この市街地には、恐らく後ろのティーガーを合わせて十一か十二輌いますわ」

 

「えっ! で、でもローズヒップ様からの通信では……」

 

「多分、一、二輌だけでその土煙を上げているのでしょう」

 

「そんな……どうやって……」

 

「簡単ですわ。戦車の後ろに何かを付けて、引きずるように走れば土煙が上がりますわ」

 

「そんな方法が……」

 

 そう、みほが昔試合で使った作戦。ダージリンもまほも間近で見ている。

 

 すると、チャーチルが突然停まる。

 

 どうやら、ZX-64地点に到着したようだ。

 

 ……完全に、敵に包囲された状態で。

 

 

 ダージリンは戦車から顔を出し振り返ると、そこにはまほが顔を出しているティーガーおり、そのティーガーを守るようにエレファントがティーガーの前に移動していた。

 

 フラッグ戦のため、ティーガーがやられれば黒森峰は負けなので、しっかりとその辺の抜かりもないようだ。

 

「フラッグ車自ら囮になって、敵を誘き寄せる。まるでみほの様な作戦だったな。どうだ? 見事に敵を誘き寄せることに成功した気分は」

 

「……最悪の気分ですわ」

 

 

 

 

『聖グロリアーナ女学院、フラッグ車走行不能! よって、黒森峰女学園の勝利!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、聞いてもよろしくて?」

 

 試合が終わったあと、ダージリンはまほのところにいた。

 

「……何をだ?」

 

「いつから十輌以上も市街地へ向かわせていたんですの?」

 

「試合が始まってすぐだ」

 

「……!? ど、どうして……」

 

「私が1輌だけでお前を追えば、必ず市街地へ向かうと思っていたからだ」

 

「なっ……そ、それなら何でうちの戦車たちが来たとき、すぐに倒さなかったんですの?」

 

「お前は馬鹿か? そんなもの、すぐに倒してしまえばお前が市街地に行かなくなるからに決まってるだろ」

 

 つまり、誘き出されたのはダージリンの方だということである。

 

「じゃあ、何でフラッグ車である貴女自身が追ってきたんですの?」

 

「お前が私を罠にはめるために、市街地へ向かってくれるようにするため。というのもあるが、それだけではない」

 

「……じゃあなんですの?」

 

「私が直接お前を倒したがっていると、お前に思ってもらうためだ」

 

「……っ!? じゃあ、クルセイダーにパンターを2輌向かわせたのは……」

 

「それも、私が護衛を置いてお前を追ったと思わせるためだ」

 

「何で、そんな風に思わせる必要があったんですの?」

 

「聖グロリアーナの厄介なところは、どんな状況だろうと冷静でいられるところだ。それなら、そのトップを冷静でいられなくしてやればいい」

 

「…………」

 

「真剣勝負に私情を挟むなんて、まほらしくない。そう思ったんじゃないか?」

 

「……ッ!?」

 

「そんなことを思ってる時点でお前は既に冷静さを半分以上失っていたんだ。フラッグ戦でフラッグ車がフラッグ車を追う。そんなもの、その先に罠があるに決まっているだろ。そんな当たり前のことも気付かないほどにな。つまり、私情を挟んでいたのはお前の方だったということだ」

 

「…………」

 

「まぁ、そう思わせるようなことも、あらかじめしていたがな」

 

「…………? ッ! も、もしかして、試合前の握手……」

 

 ダージリンの言葉にまほの口角がニヤリと上がる。

 

「あの時に、私がまだ去年のことでお前のことを根に持っているようだと少しでも思ったのなら、その時点でお前の負けは決まっていたのかもな」

 

 たった一つの握手で、自分の考えを相手の思い通りに動かされるという経験をしたダージリンは、目の前で笑っている幼馴染みを、初めて怖いと思った。

 

 それからは、何一つ言葉が出なかった。

 

 そんなダージリンを見て、まほの目は冷たいものへと変わっていく。

 

「……大洗はこの程度のチームに負けたのか。どうやら今年も、決勝は黒森峰とプラウダになりそうだな」

 

 そう言い残すと、まほはダージリンに背を向け、仲間たちの元へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 




 いやー、完全オリジナルの試合を書いてたら、いつの間にか、黒森峰がボロ勝ちしちゃいました。結果としては15対3というボロ勝ち。クルセイダーは3輌とも無事だったんですね。流石ローズヒップw
 ていうか、まほが完全悪役になりつつあるんだけど(マジヤバい、それだけは阻止しなければ)

 まぁ、とにかく、次回はちゃんとプラウダ戦を書くのでご安心を

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