私は今日も生きていく   作:のばら

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某店でクジ引き一等の500円引きが当たる→ガチャガチャ中身が売り切れなのに気付かず300円投入、お金戻って来ず→ガチャ10連試しに2回ガチャッてみた→1回目でアキレウスが、2回目でケイローンが来た
これは書くしかない。

なお、始めた当初から欲しかった1番の推し、大本命のカルナは未だにいません。物欲センサー仕事しすぎぃ!!




未練ばかりのアキレウス

自暴自棄になっていたのかもしれない。

どこか優しい野の色の髪を持つ先生にもよく注意されていた。その精神をどうにかしなければ、芯を持たなければ取り返しのつかないことに必ず対面すると。

 

でも、仕方ないじゃあ、ないか。

 

温かで、優しい私の故郷。日のいづる国と呼ばれる美しい、四季を纏う私の故郷。

そこからこんな過去の、文化も歴史も違う国に生まれて。

雄大過ぎて人に厳しい自然、その感情のままに誰かの未来をめちゃくちゃに出来てしまう恐しい神々、日常に紛れる血と死。英雄になんてならなくていいと、私の長い生を望んでくれる今世の母、だけど人ならざる母。英雄にしようと、その力を奮えとギラギラとした(まなこ)を向けてくる周り。

 

いやだった。なにもかもがいやだった。

 

自暴自棄のまま身を捨てるようなことばかりした。まわりはそれを勇気と称したが、それはまさしく蛮勇だった。勇気は捨てていた。そんなものはなかった。恐怖もなかった。ただ駆けた。そこには、愛もなかった。

 

だから、あんなことになったのだろう。

 

 

 

 

オデュッセウスに見つかり、パトロクロスと共に参加することになった戦争。

母から内密で聞かされた戦争の切っ掛け。くだらない、始まりだった。いちばん美しい女神が誰かなんて、どうでもいい。人を減らしたいからなんて、どうしようもない。

それでも私は戦い続けた。私の後ろには異国の者達の多くの骸と、多くの功績が積み上がっていった。

 

 

 

 

戦の最中、とある一人の父親が、娘を返してほしいとやって来た。貢物を差し出しながらの懇願に周りが返そうと口々に言う中、それをただ一人の男が嫌がり断った結果が、アポロン神の神罰だ。兵が次々と死んでいった。

病で死にゆくその様はいっそ戦死よりも惨たらしく、死んだ骸の顔は無力感から歪んでいた。

また女に固執する男のせいで、人々が死んでいく。

 

その現状が一週間以上続き、ある神の言により軍議を開いた。

祭司が対価を差し出しながら願い出たこと。断れば面倒なことがまっているのは明らかだったろうに。

だから、返してやればいいじゃないかと、アガメムノンに意見した。誰もあなたに代わりの戦利品を与えられる者はいない、強欲が過ぎれば身を滅ぼすとも。それが間違いだった。

 

「アキレウスよ、そんな言葉には騙されないぞ。お前たちの分け前は残しておきながら、わたしだけ娘を返せというのか。それ相応の分け前をくれなければ、お前たちの誰かの分け前を分捕りにゆくぞ。それともなんだ、アキレウスよ、お前がクリュセイスの代わりを務めてくれるとでも」

 

その言葉にカッと怒りが沸騰するのを感じた。

性による侮辱という私にとってあまり耐性のない所を突かれ、己にある人ならざる存在の血が私の激情を掻き立てていると、怒りに駆られながらもそう考えている冷静な私が頭のどこかにいた。このまま言い合えば、私は目の前の男を、たとえ総大将であろうと殺すだろうとも。

 

「なんて厚顔で、無礼な人か!私は乞われて友と共に戦士として参加しただけ。この地の者達に故郷を荒らされたわけでも親しい人達を殺されたわけでもない。トロイア人になんの恨みもない。だけど、私が出陣し、地方の街を私が滅ぼす度に他の戦士達ではなく座したままのあなたが一番の分け前を取っている。こんな戦士としても女としても恥辱を受けながら、あなたの富をせっせと増やすつもりはない。私の分け前が欲しいならばくれてやる。ただし私は故郷に帰らせてもらう」

 

そのあとに続いた承諾の言葉とさらなる侮辱の言葉に、ついに怒りが私の心を置き去りにして体を突き動かした。

腰に下げたままの剣を抜こうとした私をアテナ神が止めなければ、アガメムノンは死んでいた。私より速い者など居なく、それゆえに止められる者はいなかったのだから。

 

「私の陣屋の戸前に分け前を置いておく。兵士にでも運ばせろ。だけどもしお前が私の陣屋に姿を現したその時は、戸前に一つの首が転がることになると覚悟しろ!」

 

予言を受けていたオデュッセウスが蒼白な顔をしていたが、私は構わず陣屋へと戻った。

 

その夜に母が私の陣屋に訪れた。

私を抱き締めながらぶつぶつと不満を言い私を大層可哀想がり慰めの言葉を紡ぐ母は、私を憐れんでいるのか、母自身を憐れんでいるのか。

私には未だに、どちらなのか分からなかった。

 

 

 

 

戦に参加せず、陣屋の中で刺繍をする日々が続いた。戦の場に着くまでの暇潰しに持ってきた物だった。出来上がった物は小箱に入れていった。その質素ながらも美しい彫りがある小箱を満タンにするべく、ただ刺繍に集中した。

呼び掛けてくるパトロクロスの声は聞こえないフリをした。

 

気付いた時にはもう、遅かった。

鎧の点検をしようと見遣った先にそれはなく、慌てて駆け込んできた伝令兵により事の次第を知った。

友として情の湧いていた、近しいパトロクロスの死。

二つ目の、取り返しのつかないことだった。

 

 

 

 

不死性を捨てる前提で一騎打ちを呼び掛けて、承諾の末に引き摺り込んだ空間。私とこの男しかいない空間で槍をふるい続けた。何故こうも戦い続けられているのかも気付かずに。

 

この男は私を覚えていない。その確信だけはあった。

 

「自分の故郷を愛してないヤツが、何かを護れるはずもないよなぁ。お前のその戦闘への意欲の無さが、友を殺したんだ」

 

気付けば私は戦車に乗っていて、私の戦車に縋り付いて泣きながら大声で何かを請うている男を見て正気に戻った。辺りは真っ暗で、月の位置から今が深夜であることが伺えた。

暗闇の中で男をよく見ると、トロイアの王プリアモスで、やめてくれと、息子をかえしてくれと、父親の顔で泣いていた。

なんのことだ、そういえばあの男はどこに行ったんだ。ぼんやりとそう思いながら目の前の男の視線を辿り後ろを振り返った。

 

そこには、戦車に繋がった頭陀袋があった。

 

違う、頭陀袋ではなかった。それは血と土で汚れ刃物でズタズタになった服を着た死体だった。美しかった服はボロボロで、四肢は損害し身体が傷と血だらけの、あの男。その殺傷痕は紛うことなく私のもので。

また、どこか取り返しのつかないことをしたと、ぼぉっと彼を見続けた。

 

あの、緩やかに綻んだ口元は、好ましかったのに。

 

 

 

 

母に言われスキュロス島にあるリュコメデス王の宮廷を目指していたはずが、いつのまにかエーゲ海を越えて見知らぬ土地に辿り着いてしまっていた。私にわかることはただ一つだった。

船を、乗り間違えた。

 

近くにいた船乗りにスキュロス島への船は出ていないのかを尋ねれば早くて一ヶ月後のものしかないと言われた。

流石の私も海は駆けて横断できない。そもそも無断で渡ればポセイドン神の怒りをかうかもしれない。

おとなしく船を待つ間に、この土地を見てまわることにした。リュコメデス王の宮廷に行けば、身を潜めるために外を出歩けないことは分かっていた。

 

歩きまわっていろんな所を見て、十数日の頃。木の上から花々を見て休憩している時に声が掛けられた。

 

「よぉ、お嬢ちゃん。そんなとこでなにしてんだい?」

 

オリーブグリーン色をした、質の高い衣服を着ている男だった。

その声に応じなくてもよかった。それでも返答したのは、その男の浮かべている表情が柔らかだったからだろう。どことなく、日本人の微笑みを思い起こさせた。

 

「花畑を見てる」

 

ただそれだけ。見れば分かることを正直に伝えた。他に何を言えばいいのか分からなかった。

 

「花畑ねぇ。他所とあんまり変わらないと思うがなぁ」

 

「そんなことはない。私の国にはない花もある花も一緒になって風に揺れて、今日の晴れ渡った空も相まって美しい」

 

ここまでの道中、草花が、山々が、街が、人が美しかったことを告げた。美しいと感じたのは、駆ける私がいつもは風景を見ないからかもしれないことは、伝えなかった。

 

それでも、美しかったと告げた瞬間に男の口元が、綻んだ。追うように目が緩やかに細まった。愛しさと慈しみが詰め込まれた美しい微笑みだった。息が詰まった。口元から目が離せない。その口は、次になんと言葉を紡ぐのだろう。私と違って、愛が溢れたその口は。私にはない、この土地への愛がある、その口元は。

 

「ははぁ、いや、そう言ってもらうと嬉しいねぇ。お嬢ちゃんは旅人かい?どっから来たんだい」

 

「プティアから」

 

「ああ、通りで」

 

期待と違って普通の会話。それもそのはずだった。私とこの男は普通の会話をしていたのだから。それでも落胆がないのは、声を聞き続けるのは、何故だろうか。

 

「この辺りは静かだが魔獣も出るんでね。危ないから安全な所までお嬢ちゃんを送ろうと声を掛けたんだが。まぁ、そんな遠くから一人で旅が出来るお嬢ちゃんには、余計な世話だったかねぇ」

 

「いいや、あなたの心配りは嬉しく思う。たしかに私には魔獣を仕留める力があるけれど、見ず知らずの旅人を心配し声を掛けるあなたは立派な人だと思う。私はプティアのアキレウス。あなたの名前は?」

 

その名前を私は忘れなかった。忘れられなかった。だけど、私の名前は忘れて欲しいと思った。

そう願うことになる私を、スキュロス島にも行っていないこの時の私は知るよしもなかった。

 

「ヘクトール。よろしくな、お嬢ちゃん」

 

この、1日にも満たないたった数十分の出会いこそが、一つ目の、取り返しのつかないことだった。

 

 

 

 




人は自然に笑う時、まずは口が笑って次に目が笑うそうです。つまりそういうこと。
なお、この物語は何処かの誰かからの視点にすぎません。

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