どうしてこうなってしまったのか。
とんと原因がわからず、途方に暮れるしかなかった。
座にて私を喚ぶ声がした。ある記録で共に戦った少女の声だ。
ゆっくりと、やっと私まで辿り着いた縁に触れてその声に応えた。こんな私でも、ドラゴン相手になら少しは役に立つだろう。
別の聖杯戦争の記録を持って召喚されることはそうそうないと思っていたが、この人類の存亡を賭けた聖杯戦争ではあまり珍しくないのだろう。特異点と呼ばれる世界と、また別の聖杯戦争、2つの記録を持ってマスターに召喚された。
夕焼けの光のような、真っ直ぐで目をさすほど眩しい輝きを宿す瞳で私を見据える
あまり大きな怪我はないようで、よかった。特異点をたった一人のマスターとして駆け回っていた少女のその後が気にならなかったといえば、嘘になるのだから。
「これからよろしくね、ジークフリート」
知り合いのようだからと、マスターに案内役として紹介されたのはカルナだった。
凛とした佇まいの、別の聖杯戦争で出会った英霊。
生前ではあまり見かけなかった、雪解け間近な冬の朝方のような、雪のツンとした冷たさと眩しい朝日を同時に感じさせる雰囲気をもった男だった。その風貌は異国の美を感じさせた。
武器をぶつけ合うにつれ、怜悧な声に反し戦士として熱い男だと感じた。当時のマスターの命令に反してしまう程には、私も戦士として熱くなる所があった。
彼とは生前の在り方に似通った所があり、また戦士として感じる所思う所があり約を交わした。そんな間柄だった筈だ。
「ジークフリート」
また会えたなと微笑むカルナに息を飲む。
そんなに甘やかな声で呼ばれる理由に覚えがない。
甘く蕩けた、しかし燃え上がる炎がある瞳の奥、そこにある何かに冷や汗が止まらない。理解の範疇外、超然としたモノだと直感が訴えている。
「フランスでジークフリートに助けられた話をしてからカルナ、ジークフリートが召喚されるのを楽しみにしてたみたいで。カルデアに来たら俺が案内するって待ってたんだよ」
朗らかなマスターの声が少し遠く聞こえた。それほど、意識はカルナへ向けられていた。逸らしてはならないと、本能が警告している。
よろしく頼む、そう伝えた声は震えてはいなかっただろうか。
カルデアで過ごして数日、カルナは私に寄り添うように傍にいた。
マスターが寝静まっている時間以外、ずっと鎧の煌めきが目を刺した。話し続ける訳でもなく、ただ傍で私を見据え、たまに会話や相手をする。それが逆になんらかの不安を抱かせた。
それは唐突だった。
どうか貰ってくれと、カルナからそっと渡された赤い玉の埋まった金の指輪。それからは覚えのある色濃い神秘が感じられる。そう、カルナが纏っている鎧の……。
霊基から取り除いたこれは、どうなるのだろう。もし座へと還っても消えなかったら、この時代にこんな神秘の塊が残ったらどうするつもりなのか。そもそもどういう意図での贈り物なのか。
「あ、あぁ、ありがとう。これからマスターと共にレイシフトの予定だから、部屋に置かせてもらう」
「できれば、おまえの指をそれで飾っていてほしい」
がっしりと掴まれたのが左腕なのには、他意はないのだろう。……ないのだろう。
離れない手が、違う色彩を閉じ込めた双眼が静かに指輪の装着を促している。ステータス上の筋力は私より低い筈だが、掴まれた腕は少しも動かせない。指輪を填めるまで、離されはしないのだろう。
仕方なく、右手の防具を解除して指輪の填る指を探した。薬指にピッタリと填まった指輪のサイズに顔が引き攣る。マスターに召喚されてから数日、武具を解除した覚えは、ない。
「よく似合っている」
カルナが柔らかく微笑む中、どこからか感じるチリチリとした視線が首筋を焦がす。じっと探るような、慎重な、悪く言うならば捕食前のじっとりとした沼の様な視線。
視線を辿ってそっと右側を窺えば、少し離れた所から褐色の肌の英霊が私を見ていた。何かを見定める、どこか重みが含まれた目で私を見ている。
暗い黒目がちの目から送られる視線が痛い、聖者とすら云われた無欲の筈の戦士からの視線が熱い。
また、また人間関係が死因になるのか。そうなのか?!
「あ、ここにいたんだねジークフリート、カルナ」
やって来たマスターに、どこか意識が遠のく中ただ謝罪することしか私にはできなかった。
「マスター、すまない……。来てそうそう、ろくに役にたてないまま背中を刺され座に還るかもしれない」
「エッ、どうしたの?!何があったのジークフリート?!」
「……すまない、本当にすまない……」
太陽の
アルジュナはただ単にカルナが浮き足立ち気味の相手が戦士として気になっているだけ。