連載版 僕のヒーローアカデミア~希望の娘と絶望の転生者~ 作:アゲイン
娘、心折を実践する
そんな十二話でございます
『なあ希、少し聞いてもいいかい?』
『なに? お父さん』
『いやね。もし君がこれから誰かと戦うとして、それが相手を傷つけてはいけないとき。どうすればいいか、その答えを持っているのかと、ふと思ってね』
『なんでそんなこと聞くの?』
『お父さんも信じたくないんだが、お前のクラスの男子がなにやら良からぬことを考えているみたいでね。もしかすればお前を巻き込むかもしれないんだ』
『そうなんだ』
『そうなんだよ』
『でも、どうして?』
『ませたガキほど悪辣なものはないが、なにぶん今はそれを厳しく取り締まれないのさ。未来を守る、人権云々、いろいろね。でもね方法がないわけではないんだよ』
『痛くするの?』
『おお我が娘よ。バイオレンスな感じもいいが、なにもそこまでしなくても簡単に解決できる。お前なら尚更ね』
『でもわたし、簡単に傷つけちゃうし・・・』
『そう、だから聞いたのさ。そしてそれが答えだ。お前は優しい娘だ。でもその優しさを食い物にする輩には、お前は優しくしなくていい』
『どうするの?』
『奴らは舐めている。どうせどうにもできないと。だからこそ、その『心』を『折り』なさい』
『心?』
『人間の行動は『心』が決める。その行き先を『折って』、教えてやるのさ。本来の筋道に行くようにね』
『でも・・・・・・』
『大丈夫だ。なにも心配いらないよ。決して傷つけることなく『心』を『折る』。その方法を教えよう。お前だからできる。そんな方法を』
『わかった。わたしやってみる』
『よろしい! では教えよう。これが希望ヶ峰が誇る『心折理論』だ!!』
そして父の忠告通り、クラスの男子数名は同じ中学の女子を如何わしい目的で監禁しようとし、しかしそれは成されることなく自ら警察に出頭した。彼らは酷く怯え、女性を見るだけで気絶するほどに精神を弱らせていたらしい。
その事件以来、わたしは手加減を覚え、力の使い方を向上させた。
◆
「どうかな。もう戦う意思はないと思うけど?」
わたしの声に、あそこまで意気がっていた彼は答えられない。そもそも聞こえているかも怪しい。
今彼は蹲り、嘔吐感と戦っているのだから。
「聞こえていない前提で話すけど、わたしの手加減はこうなる。一応体に傷をつけない最善策なの」
彼がいるところを中心にして、四方を囲むように音波を流している。彼の攻撃を交わすふりをしながら取り付けた小型スピーカー。父の発明で高出力を出せるそれを、違う波長を交差させるようにぶつけることで範囲にいる人間の三半規管を揺らすのだ。
効果は見ての通り、異形型の個性でもない限り確実に相手を戦闘放棄させる。
『心折設計』シリーズでもまだ軽いほうのやつだが、相手の慢心もあり簡単に嵌まってくれた。
「あなたの個性は確かに強力。でも、あなた自身は脅威ではなかった」
さすがのわたしでも光より速く動くことはできない。でも、
「あなたが動くより早く、わたしは動ける」
彼の動き、視線から射線を割り出し、彼の認識より早く動けば当たる訳がない。これは銃撃にさらされたシュミレーションで学んだことだ。そこに銃弾の速さは関係ない。
「もうわたしは行くね。五分もしたら自動回収されるよう設定しておいたからそれまでは頑張って」
限界を越えて嘔吐を繰り返す彼を置き去りにし、わたしは自分の寮に帰ることにした。
一応これは警告のつもりだ。直接的でなくても自分を制圧できる力があると理解できたならば、もうこんなことはしないだろう。
理解できないときは、それ相応の対処をするまでだけど。
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