大海原の祖なる龍   作:残骸の獣

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〜WARNING!!〜

原作キャラ死にます注意!






23 海兵の様な海賊と海賊の様な海兵

「でよォ…聞きたいことは色々有るんだが。

そこに転がってる海賊とガキはなんだ?」

 

 

「……海賊を発見しましたので、撃退した次第です。」

 

 

「そォか、ご苦労。

………で?さっき話してた『ドフィ』ってのは一体誰だ?」

 

 

血塗れで転がっているロシナンテとローを一瞥し問いかけるガスパーデ

 

 

「………」

 

 

ヴェルゴは何も答えない

 

 

「答えられねェか。まあ全部聞こえてたんだけどよォ…

海賊の、よりにもよってあのドンキホーテ海賊団のスパイとは…面倒臭ェ事になった。

ヴェルゴ、洗いざらい喋って貰うからおとなしく(ズドンッ)………あァ?」

 

 

一瞬呆気に取られたガスパーデは自身の腹を見る。

ヴェルゴの腕が彼の腹を勢い良く貫いていた。

 

 

「………ッ!?」

 

 

殺った。そう思ったのも束の間、今度はヴェルゴが驚愕する事になる。

 

ヴェルゴが貫いたはずの穴に腕がズッポリとハマりこみ、絡め取られ抜けなくなってしまったのだ。

ガスパーデを「大佐」と舐めきって覇気を纏わせなかった彼の失態である。

 

 

「あ〜あァこりゃ裏切り確定だぜ。

面倒臭ェなあボスに報告する事が増えちまったじゃ無ェか…よぉッッ!!」

 

 

腕を飲み込まれ、動けなくなったヴェルゴにガスパーデは容赦なく鉄拳を叩き込む。

後頭部を強打したヴェルゴは殴られた勢いでガスパーデの腹から腕が抜け、地面を転がった。

そのまま背中を木にぶつかり、軽く流血しながらゆっくりと立ち上がる。

 

「くっ……貴様、能力者だったのか…」

 

 

「貴様ァ…?どーやら上官に対する敬語の使い方も置いてきちまったみてぇだな()()ヴェルゴ。

俺はアメアメの実を食った水飴人間、覇気も纏ってねぇ拳なんぞ効かねぇよ。

オメェが海賊なら尋問は処刑に変更だなァヴェルゴ…ウチの船で裏切った奴がどうなるか知ってっか?」

 

 

不敵に笑うガスパーデにヴェルゴは警戒しつつ答えた。

 

 

「?何の話だ…」

 

 

「裏切り者はな、()()()だ。オラァッッ!!」

 

 

「……ッ!!」

 

 

大きく踏み込むガスパーデ、そのまま腕を大きく振り上げ能力で拳に棘を作りつつ武装色で強化させた。

ヴェルゴも負けじと全身に武装色の覇気を纏わせ応戦する。

 

 

武装色の覇気どうしがぶつかり合い、金属の激突したような轟音が沿岸部に谺響した。

 

 

二人の戦闘は激しさを増し、衝撃波が辺りの木々を抉り始める。

その騒ぎに乗じて二人の海賊が幸運にもその場から逃げ出せていたのにヴェルゴとガスパーデは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………?」

 

 

「んべへへ…どーしたドフィ、〝寄生糸(パラサイト)〟やるんだろ?」

 

 

「…ああ、不運にも俺達の会話を聞いちまった哀れな海兵はヴェルゴが始末するとして…バレルズのアホから奪い取らなきゃなァ、オペオペの実をよォ。」

 

 

不敵に笑うドフラミンゴの右手から目に見えないほどの細い糸がヒュンヒュンと空へ伸びていき、次第に鳥カゴで覆われた島内で悲鳴や銃声が聞こえ始める。

〝寄生糸〟によって肉体を操られた者達が自分の意思とは関係なく争っているのだ。

 

 

「行くぞ、もう誰もこの島から逃がしはしない。」

 

 

ドンキホーテ海賊団、ミニオン島へ上陸。バレルズのアジトへ歩みを進める

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

「ミラ中将!ご報告致します!」

 

 

「現在ミニオン島バレルズのアジト付近には正体不明の檻が敷かれており内側との通信が完全に途絶!

我々は島の外側を捜索していたので無事でしたがはぐれたヴェルゴ一等海兵を追い島内へ入ったガスパーデ大佐が閉じ込めを食らっております!」

 

 

『…二人以外の捜索隊は全員無事なんだな?』

 

 

「ハッ!我々含む13名の点呼は取れております!」

 

 

『ならいい、お前達は監視船へ戻って待機。ガスパーデは放っておけ。』

 

 

「えぇ!?」

 

 

『レムとクルスを先行させてそっちに行かせた、

それに私とおつるさんも全速力でそっちへ向かってる。

下手に動き回られると逆に危険だ、監視船で纏まっていろ。』

 

 

「りょ、了解!」

 

 

ガチャン

 

 

ガスパーデのいない捜索隊の隊長、ミラの部隊に所属するハワード准尉は安堵し電伝虫の受話器を下ろして肩をなでおろす。

 

彼女が先行してやって来ると言うなら安心だ

 

 

「ハワード准尉、ミラ中将からのご命令は…」

 

 

「全員すみやかに監視船へ帰投せよ、レムさんとクルスがやって来る。」

 

 

その言葉を聞いてミラ直属の部下達は皆ホッと安堵の表情を浮かべたが監視船組は『誰?』と言わんばかりに首を傾げている。

 

 

「ハワード准尉、そのレムとクルスという方は…?」

 

 

「昨今ミラ中将が仲間に引き入れた元囚人と海王類だ。

……言いたいことは色々あるだろうが今は黙って監視船へ戻ってくれ。」

 

ハワードの言葉に目を見開く監視船組の海兵達

 

 

ハワード達ミラ直属の部下は知っているのだ、これからやってくる1人と1匹がどれ程の力の持ち主なのかを。

 

片や軍艦を簡単に転覆させてしまえる大型の海王類

 

片や大監獄を氷漬けにしていた張本人

 

 

彼等が少し本気で暴れるだけでどれだけ海賊に被害が出るのか想像もつかない。

考えてみればこの短期間に海王類を手懐け大監獄の囚人を連れ出して味方につけるという偉業を自分たちの上司は成し遂げていた。

 

 

ミラ中将って一体…

 

考えるのはここまでにしておこう、彼女の部隊に入ってから今までの海兵としての常識は通じないと悟り、ハワードは捜索隊を連れ足早に監視船へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ドンキホーテ海賊団上陸後少しして、クルスに乗ったレムはミニオン島へ上陸していた。

 

クルスに島の周りを巡回しながらガスパーデを探すよう指示を出し、鳥カゴの前に立つ。

 

 

「………邪魔」ガシッ

 

 

レムは切れ味鋭い鳥カゴの糸を両手で掴み取った。

擬人化していてもレムはミラと同じ龍種である、鋼鉄のように硬い糸でも彼女の手は傷つく事は無い。

 

ビブルカードはこの先にガスパーデが居ると指し示していた、ならこの檻を破らねば

 

レムによってギシギシと檻が凍り付き、一部が完全に凍結した鳥カゴは氷の塵になって砕かれた。

 

 

「………?」

 

 

「うわああああっ!助けてくれえ!」

 

 

「頼む相棒!逃げろぉ!」

 

 

少し歩いた所でレムは奇妙な光景を目の当たりにする。

海賊と思わしき男達が「逃げろ」と泣きながら仲間同士を追いかけ斬りあっていたのだ。

 

 

「ぎゃあっ!!」

 

 

レムの近くにいた二人組のうち一人が背中をバッサリと斬られ、悲鳴を上げ倒れたのち動かなくなる。そんな彼に斬りつけた男は謝罪の言葉を述べながらなおも空に向かって剣を振り続けていた。

 

 

「ウオォォ…すまねえ…すまねえ…身体が勝手に動くんだァ…。誰か…頼む……俺を………殺してくれえええッッ!!」

 

 

両手のカットラスを振り回しながら咽び泣く男は視界の端にいたレムに目を付け叫ぶ。

 

 

「そこの姉ちゃん!助けてくれ!

もう嫌だ…俺を……俺を殺じでくれェ……!」

 

 

「了承」

 

 

レムの体が空を切る、一瞬で男の目の前まで到達しそのままレムは右手で男の腹を貫いた。

 

 

「ゴボオッ!?…ゥ…」

 

 

男の身体はビクビクと痙攣した後、糸が切れたようにだらんとレムにもたれかかる。そして掠れた声で感謝の言葉を述べ始めた。

 

 

「すまねえ…な、姉ちゃん……」

 

 

「ワタシは貴方の望み通りにしただけ。

疑問、何故あの男を斬った?」

 

 

先程斬られた男を一瞥しながらレムは問う。

 

 

「自分でも分かんねえんだ…空にあの檻が張られて……身体の自由が効かなくなった…そしたら急に仲間同士で殺し合い始めちまって……俺ァ盃を交わした相棒を斬っちまった……」

 

 

嗚咽を漏らしながら答える男の頭を胸に抱き寄せそっと撫で、落ち着かせる。

腹を貫いたのだ、もうこの男の命は長くない。ならばとレムはミラから教わったことを実践してみることにした。

 

 

「……泣いている男はこうして慰めてやれ。と、主から教わった。」

 

 

「…そうかい…会って間もないが……アンタみたいなべっぴんさんに看取られるのは悪くねェや……ありがと…ょ……」

 

 

やがて男の瞳はゆっくりと閉じ、安らかに息絶えた。それをレムはじっと見つめ、事切れた男の腹から右手を引き抜く。

ドサリと地面に落ちた男の死体は貫かれた腹から徐々に凍っていき、完全に凍結した後風に乗ってその形を無くしていった。

そしてハッとミラから言われた事を思い出す。

 

「救える命は救え」

 

やってしまった。殺してくれと言われたからついその通りに聞き入れてしまった。

 

 

「(反省…思考が足りなかった。彼を生かして拘束する術はまだあったはず、それを怠ったのはワタシの失態…)」

 

次は殺さずにあの状態から脱却できる方法を模索しよう。トライアンドエラーは大事、そうあの教本にも書いてあった。

 

 

「……アジトは向こうか。」

 

 

理由は不明だがこの男がこうなったのには原因がある筈、そのヒントがアジトに行けば見つかるかも知れないと踏んだレムは廃墟の中心、前方に見えるバレルズのアジトへと向かった。

 

 

その頃時を同じくして、海軍に1人の少年が保護されたと通信が入る。

上空で監視していたバッファローとベビー5はこれを傍受したが、大したことも無いだろうと報告はせずにいた。

そして幸か不幸か、林の中で闘っていたヴェルゴとガスパーデ、そしてレムの姿を捉えることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

『お前の首で、聖地へ戻る…!!』

 

 

『やめて兄上!やめてえ〜ッ!』

 

 

『ドフラミンゴ…ロシナンテ…

私が父親で……ごめんな。』

 

 

ドォンッ!!ドォンッ!!

 

 

走馬灯のように思い出す、忘れもしない辛い過去。

優しかった父と母からどうしてあんな怪物が産まれたのか理解出来なかった。

 

それからずっと、俺は兄の暴挙を止めるために全力を注いできた。

 

海軍のスパイとして兄の下へ潜入し

 

他のものを全て欺いて

 

でも出会っちまったんだ、ローに。

泊鉛病を抱え、世界に絶望していたあの少年が、どこか兄と似ていたのかもしれない。

 

だから救ってやりたかった

 

俺の勝手なエゴかも知れねぇけど、お前の為に色々と無茶もした。そのツケが回って来たよ。

 

〝鳥カゴ〟に〝寄生糸〟、絶望的だがロー1人だけなら逃がすことが出来る。

おれはもう助からねえけど…おれが死んでも、覚えててくれよ?

おれは笑顔で死ぬからよ…!!

 

だってお前、いつかおれの顔を思い出すんなら…笑顔の方がいいもんな

 

 

…………………………………

 

 

 

「テメェよくも若を騙していやがったなコラソン!この裏切り者がァッッ!!」

 

 

「グフッ…!!」

 

 

荒っぽい蹴りを腹に受け、ボロボロの身体は地面を転がる。

ローは俺の能力で〝無音〟状態、宝箱の中に隠れさせた。

宝箱は海賊の盲点、必ず脱出するチャンスがやって来る筈だ。

 

その為に俺が囮になる、そうすれば目的を果たしたドフラミンゴ達は島を出る。その隙に逃げろ、ロー。

 

 

「半年振りだな、コラソン…」

 

 

「ドフラミンゴ……」

 

 

殺す側と殺される側…こんな形で再び向き合いたくは無かったよ、兄上。

 

もう銃を構える体力も残ってねぇ

 

 

「M.C01746…海軍本部ロシナンテ中佐。

ドンキホーテ海賊団船長ドフラミンゴ、お前がこの先生み出す惨劇を止めるため潜入していた…。俺は『海兵』だ…!」

 

 

センゴクさんに送ろうとした秘文書はヴェルゴに破り捨てられちまった、すまねえドレスローザ…。お前達を救えなかった…

 

それにロー…

 

 

「嘘をついてて悪かった、お前に嫌われたくなかったもんで…」

 

 

「……?」

 

 

首を傾げるドフラミンゴ、そのまま俺に銃を向ける。

まさか俺がもたれ掛かってる宝箱の中にローが居るとは思うまい。ざまあみろ。

たとえ撃たれてもまだ死なねえぞ、お前が逃げ切るまでは…じゃないとお前にかけた魔法が解けちまうもんな。

 

 

「無駄な問答はいい、悪魔の実は何処だ!ローは何処だ!」

 

 

「悪魔の実ならもう無い、ローに食わせた…!あいつは上手く能力で外へ出ていったよ。」

 

 

「何!?」

 

 

怒りを顕にするドフラミンゴに追い討ちを掛けるように上空から鳥カゴ内を監視していたバッファローが叫ぶ。

 

 

「若〜!さっき海軍が少年を1人保護したと連絡が!」

 

 

「なんだと!?何故早くそれを言わねえ!」

 

 

……?どういう事だ?ローなら此処に…そうか、ローは運命に生かされているのか…次から次へと救いの神が降りてくる。

ならこの絶望的な状況もきっと乗り越えられる。

 

段々と意識が薄れてきた、視界はぼやけているし折れた骨が内蔵に刺さっているのか少し動かすだけで激痛が身体中を駆け巡る。ヴェルゴの野郎…派手にぶん殴りやがって…

 

でもこれでいい、ロー。

お前が救われるのなら俺は……

 

 

「クソッ!急ぐぞ!監視船を沈めてローを奪い返す!鳥カゴも解除……あ?」

 

 

その時、ドフラミンゴがいつもと違い驚いた表情を浮かべているのが見えた。

 

 

「どうしたドフィ、何を止まってる」

 

 

「誰かが俺の鳥カゴを破壊して内部に潜入してやがる…」

 

 

鳥カゴを?壊した?一体誰が……

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達、此処で何をしている?」

 

 

 

 

突然の声に全員が振り向いた。

 

 

声の主は林を抜け、俺達の前に現れる。

真っ白い肌に白い髪、瑠璃色の瞳をした背の高いワンピース姿の綺麗な女。

 

 

誰もが呆気に取られる中、俺にはその女が救いの女神に見えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニオン島、鳥カゴ内沿岸部の林の中

 

 

ガキィン!!ゴキィンッ!!

 

 

武装色の覇気同士のぶつかり合いで空気が揺れる、雪の降り積もる林の中では二人の男が拳をぶつけ合っていた。

 

 

「惜しいなァヴェルゴ!

ボスはテメェの事、結構気に入ってたんだぜ!?

G5に望んで行きたがる変わり者だってよォッ!!」

 

 

「…………」

 

 

ガスパーデの挑発にも眉一つ動かさずにヴェルゴは戦闘を続ける。

 

ヴェルゴにとって海軍とは単なる隠れ蓑、後に控える大きな計画を成し得るための下準備でしか無かった。

海賊としての下積みを積んだヴェルゴはその分実力もある、それもあり予定通りあのセンゴク大将からも充分に期待され、今回の監視任務に抜擢されたのだ。

今日の一件、多少のイレギュラーはあったものの概ね順調だった。監視対象(ミラ中将)がガスパーデを派遣してこなければ。

 

おかげでこうして要らぬ戦闘をする羽目になる、しかも大佐と侮ったが故にこの不始末。

 

 

「…これでは『鬼竹のヴェルゴ』の名折れだな。」

 

 

嘆息したヴェルゴは側に捨ててあった程よい長さの棒を手取り、覇気を流す。

みるみるうちに枯れかけの木材だった棒は黒く変色し、硬度の高い武器へと早変わりした。

 

それをそのままガスパーデの脇腹へ叩き込む。

 

 

「!?グゥッ…」

 

 

痛みに呻くガスパーデ、武装色の覇気が施された攻撃は悪魔の実であっても無効化することは叶わない。

ガスパーデはパワーはあるがスピードはイマイチだ、その事をいち早く感じ取ったヴェルゴはすぐさま戦闘スタイルを〝速さ〟に傾け行動を起こす。

 

覇気の力で上回っている分、ヴェルゴの方がガスパーデより一枚上手だ。

覇気を纏われてはガスパーデのアメアメの実も意味を成さず、また速さで劣る分ガスパーデは防戦一方だった。

 

 

「チィッ!!グッ…」

 

 

「俺も時間が無いんだ、早急に貴様との戦闘を〝無かったこと〟にする必要がある。」

 

 

「だァから上官には敬語を使えって言ってんだろォ…ガッ!?」

 

 

ガスパーデの振り下ろした拳が大地を割る、だがヴェルゴはそれを飛び上がって回避しガスパーデ後頭部へ角材をめり込ませ、鈍い音が響きガスパーデは地に伏した。

 

 

「痛ってェなこの野郎…」

 

 

「そのまま寝ていた方が幸せだったろうに…」

 

 

相変わらず悪態をつくガスパーデだが頭部へのダメージは大きい様で、上手く起き上がれない。

更に追い討ちを掛けるヴェルゴ。彼は己の勝利を確信していた。

 

 

この男は海にでも投棄するか、そう考えていた時上空の鳥カゴが消えていくのを確認したヴェルゴは船長(ドフィ)が裏切り者の始末を付けたことを悟る。

 

一方ガスパーデも、少し先の林を抜けた沖に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「鳥カゴは消えた、いよいよお前にも消えてもらわなきゃいけない。

安心しろ、ミラ中将にはきちんと〝海難事故〟だと説明してやるよ。」

 

 

「余計な…お世話だ…ッ!!」

 

 

破れかぶれに振った腕も避けられ、横腹を思い切り蹴られ転がるガスパーデ。

動けなくなったのを確認したヴェルゴはガスパーデの巨体を引き摺りながら海岸沿いの崖へと向かう。

 

 

「能力者はいいな、海に捨てるだけで勝手に死んでくれる。」

 

 

「な…オイまさかテメェ…!クソ野郎…ッ!!」

 

 

そう、ヴェルゴはこのままガスパーデを崖から放り出す気だった。

ガスパーデは悪魔の実の能力者である。実を食べ、海に嫌われた者は一生カナヅチになるのだ。彼とて例外ではなかった。

 

 

「さて、お別れだ。ガスパーデ大佐。

達者でな。」

 

 

「……なァヴェルゴ、俺はさっきも言ったよなァ…」

 

 

遺言か、最後の言葉くらいは聞いてやろうとヴェルゴが動きを止め、その言葉に耳を傾けようとした時。

 

ガスパーデは動いた

 

まずは飴状にした右腕を歩くヴェルゴの片脚に絡め、そのまま自分の腕から切り離す。そして蹴躓いたところでもう片方の足も絡めとり、動きを一時的に封じてみせた。

 

 

「なっ!?無駄な足掻きを……」

 

 

「無駄かどうかはテメェの決めることじゃねェさ…さあ、一緒に落ちようぜェ!!ヴェルゴォォォッッ!!」

 

 

なんとガスパーデはそのままヴェルゴを道連れに、崖から真っ逆さまに飛び降りたのだ。さしものヴェルゴもこれには顔を青くする。

 

 

「うおお貴様ァァァッッ!!だが海に落ちて先に死ぬのは能力者の貴様だけだ!どんなに海が冷たかろうが俺は泳いで岸まで戻…」

 

 

「バァカ、誰が海に落ちるなんて言ったよ。」

 

 

「…は?」

 

 

ドンッ

 

 

落下中、ガスパーデはヴェルゴの身体を押し、崖側へと距離を置く。

まるで何かの巻き添えになるのを嫌がるように。

 

 

「餌の時間だァ!クルゥゥゥゥスッッ!!」

 

 

叫ぶガスパーデ、その内容をヴェルゴが理解するよりも前に

 

海面から巨大な影が飛び出してそのままヴェルゴを海へと引き摺り込んだ。

 

 

「キャンディメイク…スパイクピック!」

 

 

ガスパーデは余った腕を伸ばし先端を崖に突き刺す、続いて脚にスパイクを作り落下の勢いを殺しながら近場にあった大岩へと飛び移った。

 

 

「あ〜ぁ疲れたァ…やっぱ慣れねえ事するもんじゃねェわ。」

 

 

そう呟いてその場に胡座をかいて座り込み葉巻を取り出し一本蒸かす、煙を嫌うイルミーナのいる艦内ではおちおち吸ってもいられないのだ。

島に1人の時くらい落ち着いて一服させて欲しい。

 

 

「だから言ったろォ、裏切り者は(クルス)の餌だってよ。」

 

 

腰のカットラスと片腕の盗聴用電伝虫は無事だ、片方は無くすと困るモノ、もう片方はヴェルゴがスパイである証拠。

〝味方殺し〟はミラの最も嫌う行為の一つだがスパイを撃退したのなら叱られる謂れは無いだろう。

色々問い詰められると思うがまァ…

 

まあなるようになるか

 

そう結論づけたガスパーデは久々の葉巻の味を楽しむ事にした。

 

 

 

 

 

 

一方、ヴェルゴは腹から下をクルスに咥えられたまま海深くへと沈んでいる最中だった。

 

クルスはミラが飼っている海王類である。クルスはその巨体と放電能力もさることながらある事を知っていた。

 

人間は美味しい

 

人の味を覚えた海王類は人を確実に殺す為の術を身に付けている。

例えば人は海王類よりも海深くには潜れない、だから捕まえたらまず潜って溺れさせる。人を生かしたまま丸呑みにするのは喉に詰まって危ない、ちゃんと咀嚼してから食べる。etc..

ミラに飼われる人喰い海王類クルスは手綱こそあれど海王類の中でも特異な身体と趣味趣向を持ち合わせた危険な種であった。

 

 

北の海(ノースブルー)の極寒の海はみるみるうちにヴェルゴの体力を奪い、遂に覇気を維持出来なくなった時、冷たい海の底で1人の男が息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ミラ「やだ…私の出番…少なすぎ…?」


☆身内に不幸が起きた為申し訳ありませんが家が落ち着くまで更新を控えさせて頂きます。
といっても二週間後位には投稿できると思いますが…
更新を楽しみにして下さっている方々、申し訳ありませんが少しの間主に心の整理を付けさせてください…




次回…天廊の番人は運命を覆す?

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