大海原の祖なる龍   作:残骸の獣

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ちょっと時間がとんで、タイガーがマリージョアを襲撃するあたりの時間軸でのお話です。


はたらくってつらい




17 祖龍(モドキ)と七武海(7人いるとは言ってない)

 

 

 

人生には金が必要だ

 

金がない奴は野垂れ死ぬしか出来ない

 

金がない奴はクソだ

 

金があれば…金があれば…

 

 

彼女を救うことが出来たかも知れなかったのに

 

 

首輪を付けられ、毎日糞のような飯を食わされ、人としての生活すら捨て去った男は独房の暗がりでぼんやりと1人思案する

 

愛した女といつまでも一緒にいると誓った、だが運命は残酷にも彼女を殺した。いや、こんな物は運命なんかじゃない。ただの天竜人の気まぐれだ。

マリージョアに送られた自分の恋人を救うため自分も捕まり奴隷となった。だが分かったことは彼女がもう死んだということだけだった

 

男は深く絶望し、自分の無力を呪う。

彼の名はギルド・テゾーロ。金も、夢も、愛した女さえ失った男。

 

 

いつものように彼は首輪と鎖に繋がれて、ボロボロの衣服のまま牢へと入れられ、カビの生えた残飯を貪っていた。

腐りかけていても大事な栄養源だ。もっとも、この状況では死んだ方がマシかも知れないが。

 

夢中でパンを貪っていると不意に建物が僅かに揺れ、彼の身体は振動を感じ取った。

 

マリージョアは世界を分かつ陸続きの長大な大地だ、当然地震も起きる。

数年前も大規模な地震で大地の一部が崩落したと世界貴族達の間でも話題になっていた。あんなクズ共が何人死のうが彼にとってはどうでもいい話だったが。

 

大して珍しくもない

 

そう考えながら食事を再開しようとした時、不意に遠くで爆発音が聞こえた。

世界貴族達が奴隷を的当てと称し撃ち殺すのはいつもの事だが少し音が大き過ぎる、また悪趣味な催し物でも始めたのかとテゾーロは悪態をついた。

 

そこから更に続く爆発音、どんどん近くなっていく。そして人の悲鳴、叫び声……

 

 

一体何が起こっている…?

 

 

「するるるるるる…」

 

 

「…ッ!?だ、誰だ!!!」

 

 

声のした暗がりに向かって叫ぶ、その中から……いや、その下から2人の男女が文字通り地面をすり抜けて現れた。

 

 

1人は巨大な頭を持つ二頭身の男性、もう1人は綺麗な白色の髪をシニヨンに纏め、青色で胸に「だらけた正義」と書かれたTシャツとジャージズボンにサンダルといった明らかに部屋着のまま出てきた感じの雰囲気を漂わせる女性だった。

 

 

「するるる…ミラさん、写真と同じ顔です。コイツで間違いないかと。」

 

 

「らしいな。おい、お前の名は?」

 

 

「お前ら何モンだ!?何しにここへ来た!?」

 

 

あまりにも突然の出来事にテゾーロは狼狽していた、そんな彼をミラと呼ばれた女性はキッと睨みつけ黙らせる。その真紅の瞳には逆らってはいけないという凄みがあった。

 

 

「質問に答えろ、時間が無いんだ。

もう一度聞くぞ……お前の名は?」

 

 

「て…テゾーロ。ギルド・テゾーロだ……。」

 

 

その名を聞いて少しだけミラの表情が綻んだように見えた。

更に彼女は続ける。

 

 

「よし、ギルド・テゾーロ。お前をここから連れ出してやる。

詳しい事は聞くな。

今現在、偶然どっかの馬鹿がマリージョアで暴れ回っていてな。それで簡単に君に接近できたんだ。テリジア、錠を外せ。」

 

 

「畏まりましたわ。」

 

 

ミラが一つ指を鳴らすとテゾーロの周囲に銀の粒子が舞い、耳の後ろでカチャカチャという音が少し響いた後彼を拘束していた爆弾付きの首輪は音を立てて外れ、いとも簡単にテゾーロは自由の身になった。

 

 

「完了ですお姉様、ちょろい錠ですわね。」

 

 

「ご苦労さん」

 

 

「はひぃ//」

 

 

甘い声を上げる女性の声に目もくれず、ミラはテゾーロに手を差し伸べる。

窓から漏れる月明かりに照らされた彼女の笑みはまるで女神の様だった。

 

 

「一緒に来い、お前のフィアンセが首を長くして待っているぞ?」

 

 

「フィア…ンセ……?」

 

 

心当たりはある、でも彼女はもう死んだ筈だ。

半信半疑でテゾーロはミラの手を取った。

 

 

「話は後だ、さあ行くぞ!タナカ頼む!」

 

 

「了解、するるるる……!」

 

 

タナカと呼ばれた二頭身がテゾーロと女性の手を掴み、壁に向かって走り出す。

 

 

「おい待て待て待て!ぶつかるぶつかる!」

 

 

「大丈夫だ、手を離すな!」

 

 

狼狽えるテゾーロを他所にタナカはそのまま壁に向かって直進し…

 

ズルリ…

 

そのまま壁をすり抜けた。

 

 

「!?!?!?」

 

 

「するるる、さあどんどん行きますよ〜!」

 

 

次々に屋敷の壁をすり抜けて、遂にテゾーロ達は建物の裏手の庭へと辿り着く。

久しぶりに見る外の景色、2度と拝む事が出来ないと思っていた景色に彼は内心感動に打ち震えていた。

 

 

「外だ……」

 

 

街の向こうはほんのり赤く染まっており、火の手が上がっているのが見て取れる。

時折響く爆発音や悲鳴が耳触りだった。

 

 

「おーおー随分派手に暴れているな、そっちの方が都合がいいか。」

 

 

どうでも良さそうにミラがボヤく。

すると夜空を切るように巨大な狼が空中を蹴りながら彼等の前に降り立った。

目を白黒させるテゾーロとはうってかわって、ミラとタナカはさも当たり前のように巨狼の背中に跨った。

 

 

「ホラ、お前も早く乗れ。時間が勿体ない。あと5分だ。」

 

 

「5分?なんの事だ!?さっきから本当に意味が分からねえ…」

 

 

ずいっと巨狼がテゾーロの近くまでやって来て腰を屈め、『早く乗れ』と言わんばかりに見つめて来た。

観念したテゾーロは手を伸ばし、狼の背に腰掛ける。

 

 

「(おお…思ったよりフワフワだ…)」

 

 

「よし行けイルミーナ、テリジアの準備も万端だ!」

 

 

狼はコクリと頷くと体を起こし、凄まじいスピードで森の中を掛けていく。

あまりの速さにテゾーロは目を回しそうになった。

 

 

「お姉様、例のものは設置完了致しましたわ。

後はお姉様の合図でいつでも起爆可能です。」

 

 

いつの間にか狼と並走するように空を飛ぶメイド姿の女性も現れ、テゾーロはますます混乱するばかりだ。

 

 

「よろしい、では森を抜けたら素敵な花火を上げるとしよう。」

 

 

くっくっといたずらっぽく笑うミラ

 

 

 

森を抜け、広場に出た狼はそのまま空中を蹴り、ジグザグに上空へと飛び上がる。

赤い炎が所々に立ち上り、悲鳴と爆発音が木霊するマリージョアを見下ろしながら、テゾーロは大勢の政府の人間に囲まれながら暴れ回るある男を見つけた。

 

 

「アイツ…誰だ?魚人みたいだが…」

 

 

「ふむ、どうやらあの魚人がこの騒ぎの主犯らしいな。

本当はコッソリ侵入してお前だけ連れ出すつもりだったんだがとんだイレギュラーだ。」

 

これも災難体質のせいなのか…と一人のボヤくミラにテゾーロは首を傾げる。

 

 

「何にせよ、アイツが下で逃げ回ってる奴隷達を解放したんだろう。

この騒ぎに乗じてお前を救えたわけだし、少しだけ助けてやるか。」

 

 

そう言ったミラはパチンと指を鳴らす。

指先から紅い稲妻がほとばしり、次の瞬間先程までテゾーロが捕えられていた屋敷が大爆発を起こした。

 

爆発が大きすぎて衝撃がここまで伝わってくる

 

 

「うおおおおおおおおっ!?!?」

 

 

「テリジア、火薬詰めすぎじゃないか?」

 

 

「うふふふ…私のお姉様へ捧ぐ愛の様にマシマシにしておきましたので…」

 

 

「ん〜、まあいいか。

しかし遠隔で起爆出来るのはカッコイイな、後でベガパンクの奴にはジュースを奢ってやろう。

テリジア、今のうちにあの黒服共をやれ。真ん中の魚人に当てるなよ?」

 

 

「仰せのままに」

 

 

テリジアと呼ばれた女性が手を掲げる。

すると彼女の体から漏れ出た銀色の雫が宙に浮き上がり、カトラス程の大きさの杭が生成されていった。その数は眼下に見える黒服の人数分。

 

 

月霊銀杭(ヴォールメン・シルヴェスターク)…!」

 

 

勢いよく飛んでいった銀の杭は寸分狂わず突然の爆発で一瞬狼狽えていた黒服達の胸に突き刺さる、悲鳴を上げながら彼等は絶命していった。

 

 

「あら?てっきり六式で躱すか守るかすると思ったのですが…思ったより脆いですわね。ごめんあそばせ♪」

 

 

下では突然杭に撃たれ死んでいった敵に戸惑いながらも去っていく魚人の姿が見える。

 

 

「これでいいだろう、ちゃんと杭は消しておけよ。

さっさとこんな場所からおさらばだ。」

 

 

ミラの言葉に従うようにテゾーロ達を乗せた狼はマリージョアの地を離れ、暗闇に紛れ姿を消した。

 

 

 

 

魚人フィッシャー・タイガーの聖地マリージョア襲撃

 

 

この日、政府の歴史に名を残す大事件の裏で一人の海兵が動いた事は誰の耳にも入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある海賊は言った。

 

「海軍には死神がいる」と

 

ある海兵は言った。

 

「海を守る正義のシンボルだ」と

 

 

捕縛、または殺害した大物海賊は数しれず。海軍本部大将センゴクをも凌駕し、果てはかの四皇カイドウすらも退ける実力者。

海に生きる誰もがその名を語るが決して顔を見た者はおらず、新聞でも一切詳細を明かさない〝無貌の大将〟。

その秘密を知る者は海軍本部の中でもあの時あの場にいた少数の海兵のみ、彼等にすら厳しい箝口令が敷かれた。

 

決して正体を明かさない大将〝白蛇〟は海兵達からは「正義のヒーロー」として、海賊からは「正体不明の脅威」として語り草になっている。

 

 

 

 

 

 

海軍本部、その一室にて

 

 

 

「んでェ?センゴクさんヨォ…急に俺達を呼び出して一体どうしたってんだい。」

 

 

「……意図が読めねェな、このタイミングで俺達を招集する意味がよ。」

 

 

「クロコダイルの発言は的を射ている…。定例の報告は既に先日終わったはずだ。」

 

 

「…………」

 

 

 

部屋の真ん中に大きなテーブル、その周辺には八つの椅子が置かれ、うち5席は男達で埋まっていた。

部屋の一番奥の席に座る大将センゴクはハァ、と一つ溜息を吐き告げる。

 

 

「いいから黙って待っていろ。

茶でも飲むか?茶菓子もあるぞ。

不本意ではあるが『初対面だから無下には扱うな』とこの場の主から伝えられていてな。」

 

 

センゴクに静かに嗜められ、ヤレヤレと肩をすくめるカルロワ。

椅子に座る他の3人も口に出しはしないが長い間待たされていい加減痺れを切らしていた。

 

部屋の壁沿いには5名ほどの現職中将達が立ち並ぶ、もしもの時のために彼等を物理的に拘束する為だ。

 

政府から略奪を認められた7人の海賊、通称『王下七武海』。

本来敵であるはずの海賊が政府の側に付く、それを海賊達への抑止力としかの四皇、海軍に続く新たな海の秩序を作ろうとした試み。

だがそれには相応の〝実力〟と〝知名度〟が求められ、故に政府に認められた彼等は一癖も二癖もある曲者揃いだった。

定例会議に来ないのは当たり前、恩赦や七武海の権力を使いやり過ぎて虐殺事件を繰り返し除名される者も出る始末。

 

権力を持つと暴走するのは海賊も同じである

 

結果七武海はその数を減らしていき現在半分の四名しかおらず、残り三席は空白のまま。

海軍内で今最も頭を悩ませている曲者集団だ。

 

集まっていた中の1人、若くして世界一の大剣豪と名高い賞金稼ぎ〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホークは静かに口を開いた。

 

 

「センゴク大将、お前は先程からはぐらかしてばかりだ。

その〝この場の主〟というのは一体誰だ?都合が悪いから隠しているんだろう。」

 

 

「都合が悪い訳じゃ無いんだが……今日は貴様等と直に話さないといけない案件なんだ。

少し待て、もうすぐ来るはずだ。」

 

 

 

ミホークの問いに渋い顔をするセンゴク、その時部屋の扉がノックされた。

 

 

「大将センゴク、お茶とお菓子をお持ち致しましたわ。」

 

 

「ご苦労、入ってくれ…………はぁ?」

 

 

呆気に取られるセンゴクをよそにカートを引きながら部屋に入ってきたのは3人の女性メイド、1人はツリ目の印象的な白金色のアレンジウェーブの女性、続く2人目は尻尾と耳の生えた銀髪の少女、ミホーク達から見ても彼女達はかなりの美人だった。

それにここまでならセンゴクが惚けることは無かった、問題は最後だ。

 

最後に続く女性……白い髪をシニヨンで纏め、最初のメイドと同じクラシカルタイプのメイド服を着込んだ美女の登場にセンゴクは目をパチクリさせていた。

そんな彼の気などいざ知らず、メイド達はテキパキと七武海達の前にお茶とお菓子を置いていく。

 

 

 

「お待たせしました、お茶とお菓子です。冷めないうちにどうぞ。

珈琲が良ければ言ってください。」

 

 

「いやミラお前なんて格好しとるんだ!?」

 

 

ミラと呼ばれたメイドはセンゴクに問い詰められ、キョトンとしている。

 

 

「なんて格好って……今日は茶汲みの仕事だろう?

だったらそれに相応しい格好があるというものだ。」

 

 

「それにしたっておかしいだろ!海賊共の前で面目が……」

 

 

「ウヒョォ〜!なんだよむさい野郎共ばかりかと思ったが海軍にもカワイコちゃんはいるじゃねぇか!キェッキェッキェッ!」

 

 

センゴクの言葉を遮って耳障りな笑い声を上げているのは七武海が一人、『韋駄天』カルロワだ。

彼はいやらしい目つきでメイド達を眺めていた。

 

 

「カルロワ…。悪い事は言わん、此処ではお前の好色癖は慎め。

命がいくつあっても足りんぞ。」

 

 

「命がいくつあっても足りないィ〜?

キェッキェッキェッ!そりゃあこんな美人さんのお相手してたら精も根も尽き果てるってモンだぜ。

是非この後お相手してもらいたいねェ……」

 

 

カルロワはその実力もさる事ながら、毎日女を取っかえひっかえを繰り返すかなりの好色家だった。

七武海に選ばれてからはますますそれに拍車が掛かり、海賊家業も疎かにしていると専らの噂だ。

 

 

「くっだらねぇ…さっさとその汚ぇ口を閉じろよカルロワ。」

 

 

「同意だ、クロコダイルの発言は的を射ている…。」

 

 

同じく七武海の1人、サー・クロコダイルとバーソロミュー・くまは呆れ返っていた。

 

 

「ノリ悪ぃなクロコちゃんは、こんないい女そうそう居ねぇよ。

どうだいお嬢ちゃん、今夜にでも。もれなく天国に連れてってやるz「断る」」

 

 

「「「(断るの早っ!?)」」」

 

「(的を射ている…)」

 

 

「七武海としての自覚が足りんなあ…

なあセンゴクさん、コイツは除名でいいか?」

 

 

「………ああ構わん、処理は任せるよ。

中将総督殿。」

 

 

ポリポリと頭を掻きながら呟いたメイドに対するセンゴクの一言にカルロワを除く3人は驚愕した。

 

今明らかにこの男は目の前のメイドの1人を『中将総督』と言った。

ここ数年で初めて作られた新役職で海軍本部全ての中将達を統括する者、中将の中でも指折りの実力者である自然系の能力者達ですら一目置き、実力は大将にも匹敵すると噂の新役職。

 

そんな重要な役割を担う人物が目の前のメイド……?

 

彼等に疑問は尽きない。

ただ1人、カルロワだけはおちゃらけたまま緊張感の無い笑い声を上げている。

 

 

「中将総督ゥ〜?オイオイ冗談はよしてくれよセンゴクさんwww

この女が化物ぞろいの中将達のトップとかおかしすぎて涙が出てくるぜ!」

 

 

「……ほう、言ったな海賊。」

 

 

先程までの砕けた雰囲気はどこへやら、ミラと呼ばれたそのメイドからは威圧感が漂い始めカルロワは思わずたじろいだ。

 

 

 

「お前はたった今七武海を除名された。

………七武海でもない海賊が海軍本部の敷居を跨いでいるのはおかしいよなあ…?」

 

 

「ハァッ!?除名って……今の本気かよ!?俺ァ『韋駄天』なんだぜ?

海賊に喧嘩売る気かよ…?」

 

 

「選ばせてやる。この場で死ぬか、大人しく大監獄に連れていかれるかだ。

もっとも、貴様のような三下に毛が生えたレベルの海賊では収監されてもレベル4辺りが関の山だろうがな。」

 

 

「……いいだろう。女だからってこの俺をバカにしやがって…後悔しても知らねぇぞッ!!」

 

 

そう吐き捨てたカルロワの姿が掻き消えた。彼は独力で六式『剃』を修得した海賊、速度のみを追求し誰にも捉えられない音速戦法を得意とする。

 

ミラの周りに風を切る音が何度も響く、並の海兵や海賊ならこの速度に翻弄されてかなりの苦戦を強いられる事になる。

 

だがそれはあくまで一般の海賊相手の話

 

そう、あくまでカルロワは『音速』止まりなのだ。

 

 

「……………ふんっ!」

 

 

「ゴベバぁッッッ!?!?」

 

 

グシャッと嫌な音がしてカルロワは一瞬で顔面を床に叩きつけた。

一連の動きをミホーク達は捉えていた、メイドが音速で動くカルロワの頭へ的確にかかと落としを決める様を。

 

当然と言えば当然か、〝雷〟の速度で動ける彼女に〝音〟の速度で挑むなど無謀だったのだ。

 

「べ…ぶ……」

 

 

白目になって床にめり込んでいるカルロワをよそにメイドはパンパンと服の汚れを払い落とし何事も無かったかのようにミホーク達に向き直る。

 

 

「………と、言うわけで私がこれからセンゴク大将に代わりお前達王下七武海を取りまとめる事になった。」

 

 

「「「「「(いやどういう訳だ!?)」」」」」

 

 

傍らの中将達が無言でカルロワを連行する中、七武海とその他一名の心は初めて一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして王下七武海の諸君!

私は君達の監督責任者、海軍本部中将総督ミラだ。

まあ仲良く……はいかなくても程よい関係になれればと思っている。ヨロシク。」

 

 

簡素な自己紹介を終え、俺はセンゴクさんと席を交代しメイド服姿のままドカっと座る。

 

俺氏、大将代理を経て新しく〝中将総督〟になりました。

簡単に説明すると中将の中で一番偉い人、何故に俺氏がクザン、サカズキ、ボルサリーノの自然系中将スリートップを差し置いてこんな高い役職に就いているかというと………

 

 

 

 

 

 

五老星「ミラちゃん、大将続けて欲しいンゴ」

 

俺氏「やなこった」

 

五老星「じゃあ中将に昇格して欲しいンゴ」

 

俺氏「(中将なら自由にやれるってガープ爺さん言ってたし、ならいいか)ええで。」

 

五老星「ん?今なんでもするって言ったよね?」

 

俺氏「言ってない、確実にそれは言ってない。」

 

五老星「新しく中将達のトップ作ったからその職になってもらうンゴ。

因みに権力的には大将と同レベル。」

 

俺氏「それ実際大将ですよねぇ!?」

 

五老星「大将じゃないから問題無い、いいね?」

 

俺氏「アッハイ」

 

 

orz

 

 

 

ハイ

 

 

と、いうことで俺氏は新役職〝中将総督〟に抜擢されました。

建前上は数十名にも及ぶ中将達のトップとなる人物、特殊なバスターコールの権限を有し、大将〝白蛇〟を招集出来る唯一の人物、それが今の俺。

………………言いたいことはわかるよ、これ盛大な一人二役だね!分かるとも!

 

五老星(クソジジイ共)はどうやら大将〝白蛇〟を新たな海の抑止力にしようと考えているようだ、情報操作と勝手なウワサでどんどん海賊達から恐れられている白蛇は連中を抑制する為に丁度いいらしい。

そんなジジイ共の努力の甲斐あって、今の白蛇の印象はここ数年でとんでもない事になっていた。

『海の処刑人』、『海軍の最終兵器』、『亡霊大将』etc……数え切れない程の二つ名が白蛇には付けられてる。顔を見た者は無し、出自も経歴も一切不明、分かっているのは遭遇した海賊は皆死んでいるという事だけ。

というのもこれは五老星が過去に俺の殺した木っ端海賊共の記録を白蛇がやった事にして公開しているだけだ、本物の白蛇ちゃんは可愛くて優しい乙女なんだゾ?

 

まあそんなわけでまんまと五老星に嵌められた俺は(渋々ながら)大人しく中将総督の仕事の一つ、王下七武海の取りまとめをやる事になったんだ。

 

 

あのクソジジイ共、これでテゾーロ奪還の情報提供が無かったら全員浄土に送ってやる所だったぞ。ステラちゃんに感謝しろ。

 

 

 

 

 

「まァ私の事はどうでもいいや、今日は私と君達の初顔合わせのつもりで呼んだ。目的は果たしたから今日は解散!」

 

 

「「「「ハアッ!?!?」」」」

 

 

ミホークとくまを除く全員がガタッと立ち上がった、勿論センゴクさんも。

 

 

「え?他に何か用事あるか?

定例報告はこの前聞いたばかりだし…」

 

 

「いやいやミラ!

お前がコイツらを呼んだんだからもっとこう……心構えとか、舐められないようにだな…」

 

 

「あーそういう事か。

お前らー、3人しか居ない七武海だからってやり過ぎるなよー。」

 

 

「いやそんな夏休み前の担任の先生みたいなノリで言うなよ…」

 

 

「えーと他には…ああ。

お前達は政府公認の海賊だ、その自覚を持って各々行動してほしい。

簡潔に言うとさっきのカルロワの様に堕落した奴は私の権限で即七武海脱退だ、そのうえ〝白蛇〟を差し向けるからそのつもりで宜しく。」

 

 

「〝白蛇〟を差し向ける…だとォ…?」

 

 

クロコダイルが忌々しげに呟いた。海軍本部大将〝白蛇〟、海賊達の間では『海の処刑人』と恐れられる存在だ。

それを海賊に差し向けるということは実質「死ね」と言われているようなもの。

 

 

まあ……実際俺が行くんですけどね!

 

 

政府が情報操作で与えた大将〝白蛇〟のイメージ戦略は大成功、これが見事に名前出すだけで海賊共がビビるビビる。『無貌の大将』がそんなに怖いかよ海賊諸君、まあ伝説とか御伽噺なんかも簡単に信じられちゃう世界観だしねー。しゃーないね。

一部の『逆に大将掛かってこいや勢』には効かないけどね、その場合は望み通りにしてやろう(暗黒微笑)

 

 

「まあお前達は略奪を認められた海賊だ、余程悪い事をしない限り()は来ないから安心しろ。

私から伝える事はそれくらいだが…そちらから質問はあるか?」

 

 

「…………」スッ

 

 

今まで事を静観していたミホークが唐突に手を挙げた

 

 

「はいミホーク君。」

 

 

「中将総督、俺と一戦手合わせ願いたい。」

 

 

しばしの沈黙

 

 

ほわいわんぴーすぴーぽー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後滅茶苦茶決闘した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬあ''〜疲れたも''ぉ〜ん…」

 

 

「あら、3人ともおかえりなさい。夕飯出来てるわよ。」

 

 

クタクタになりながらテリジアとイルミーナを引き連れて帰宅。

玄関ではステラちゃんとテゾーロが迎えてくれた。

何してたのかって?

 

ジュラキュール・ミホークと決闘してたんだよ。

被害が出るから場所を廃材置き場へ移した、向こうは初っ端黒刀『夜』持ち出して本気で切りかかってくるし、対する俺はモップを武装色で硬化させた得物で応戦してた。これは酷い。

なんとか勝てたがミホーク超嬉しそうな顔して帰っていった、完全に目ぇ付けられた。それを見ていたクロコダイルとくまさんも意味深な会話をして去っていったし…七武海(三武海)の今後が超不安。

〝白蛇〟がいる事で四皇に対する大きな抑止力が生まれたらしく、いつもなら欠員を許さない七武海も今では3人にまで減ってしまっている。その再編も俺の仕事の一つだ。

なんとか朧気な記憶を頼りに原作通りの七武海を揃えたい所だけど…誰だっけな。

今日いたミホーク、くま、クロコダイル………あと現在おつるさんが躍起になって追い掛けている激安百貨店みたいな名前の奴に……どスケベな格好した九蛇の女帝と…魚人が1人いたハズ…あと…誰だっけ?

まあいいや。七武海の選定にはセンゴクさんも関わるっていうし、俺は伝書バット送って勧誘するだけだ。

白蛇の脅威がある限り政府も海軍も七武海の編成をそうそう急ぐ事は無いだろう、時間かけていいチームを作ればええよ。

 

 

ステラの手料理を頬張りながら向かいで気まずそうに食事をしてるステラとテゾーロを見やる。

 

「夕飯を食べたら私達はおつるさんの所へ一晩泊まるから、後は若いお2人に任せます…てな?」

 

 

茶目っ気たっぷりに笑うと二人は顔を真っ赤にしていた。

まあ愛するふたりがひとつ屋根の下だもんな、イチャコラしたい意図を組んでやろう。このリア充共め!

 

 

「…あ…ありがとうミラ…」

 

 

「すまん……」

 

 

「2人の住居も早く決めんとな、海軍の庇護下にいい島があるといいんだが…」

 

 

テゾーロ奪還の時に手伝ってもらった二頭身の素敵な御仁、タナカさんにも天竜人の脅威のない安全な島を捜索して貰っている最中だ。

ヌケヌケの実超便利よね、彼と友達で良かった。

 

 

「てりじあ、今日もつるおばあちゃんの所に行くの?」

 

 

「ええそうですわイルミたん。

愛し合う若い二人がひとつ屋根の下…ならば起こるのは当然一夜のあやまち…私達が邪魔をしてはいけませんわ。ええいけません。」

 

 

「あやまち…?」

 

 

首を傾げるイルミーナたんカワユス、君にもきっとわかる日が来るさ。

…いや待てよ?この子もいつかきっとお嫁に行く日が……俺の可愛いイルミーナが…?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リンゴーンリンゴーン…

 

『みら、わたしこのひとと結婚する…。

今までありがとう、幸せになるね。』

 

そこには真っ白なウエディングドレスを着込み、チャペルの音をバックに笑顔で花束を持つイルミーナの姿が…!

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ムワアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

「ミラ落ち着いて!大体何考えてるか分かったから!」

 

 

「???」

 

 

やらん!俺の可愛いイルミーナたんは誰にもやらんぞおおおおおっ!!!

 

 

 

 

祖龍ミラルーツ、新しい仕事と地位を手に入れて元気にやっています。

 






次回、綺麗なアイツと海列車


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