「それで、君はドラゴンポケモンと共に生きるソウリュウの民で、伝説のドラゴンポケモンを連れたNさんに出会って成長するために来たって事で良いのかな?」
「うん、そーだよ!」
ニコニコと機嫌良く揺れる紺色の髪
「イッシュ伝説と心を繋ぐ者と修業してくればアデクおじーちゃんも戦ってくれるんだって!」
「戦って……」
その言葉に、アズマはぽかーんと口を開けた
イッシュチャンピオン・アデク。炎のような髪色をしたちょっと豪快な初老くらいの男性。面白い人だとして、流石に美人で強くて有名なシロナさん等には及ばないまでも……イケメンなんだけどちょっと取っつきにくい感覚のあるジョウト/カントーチャンピオンのワタルさん等に比べれば男性チャンピオンの中では老若男女問わず尊敬されている方の人だ
何なら……此所カロスの現チャンピオンであるカルネさんよりカロス内でも人気かもしれない。流石にダンデ、ダイゴ、シロナ辺りの人気トップには劣るが……
Nとゼクロムを止められなかった事で一部からはネタにもされるが、伝説のポケモンなんてチャンピオンでもそうそう止められるものではないから皆仕方ないと分かった上で話の種にしているだけ。愛故のいじりだとファンもある程度は認めている
実際、イベルタルのベルが大真面目に本気で戦ってくれたとしたら今のアズマですら多分当時のアデクさんと良い勝負が出来るだろう。相棒として有名なウルガモスに対して飛行タイプという有利相性が取れるから下手したら勝てるかもしれない。というか勝てるだろうとアズマはベルを信じている
そう、伝説のポケモンとは今に残る伝説に名前を残す程の力を持つのだから、それを止めきれないのは流石に恥ではないのだ。伝説のドラゴンに対してドラゴン使いでチャンピオンのワタルさんなら止められたかと言われると疑問が残るだろうし、シロナさんならば止められたなんて、流石に誰しもネタでしか言わない
……エキシビションで見た通り、キョダイマックス込みのダンデさんならゼルネアスとすら良い勝負をするのだからもしかしたら止められたかもしれないが……机上の空論であるし、リザードンは飛行タイプ故にゼクロムを止めきれずに負ける気もする
「君、強いんだ」
「うん!」
じーっと見てくる幼馴染はわざと無視して、アズマは話を続けた
何となく不満に思われている事は分かるが、下手につついてもディアルガが出てきて話が拗れる
ディアルガだって伝説のドラゴンポケモンだ。万が一出てきたとしてもドラゴンじゃないからで済ませられうるイベルタルとは話が違う。絶対に厄介話になる
それを理解して、アズマは静かに緑髪の青年を向いた
「Nさん」
「うん良いともさ君の思いは分かるとも
黒き運命と響き合うための音を見つけ出す手助けという訳だね」
その言葉にこくりと頷くアズマ。相変わらずだがNは話が早い。ポケモンの言葉が分かるほどの天才は伊達じゃない
「はい。口添えをお願いします、Nさん」
そう、あの黒水晶のポケモンだが、恐らくは本来の姿はドラゴンに近いだろう。不意に見せられたビジョンに映っていたのは、確かにどことなくガブリアスのような龍だった
ならば、この先またあのポケモンと邂逅した時、手を伸ばすにはドラゴンタイプのエネルギーを上手く扱う力が必要だ、アズマはそう考えたのだ
そして、Nはそれを理解して、アズマの為に手を尽くしてくれる。あのポケモンの為も勿論あるだろうが、それはアズマの推察を肯定するような話であって……
「……うっ」
「まずは観覧車、一緒に乗ろうか」
流石に空気になってきた幼馴染を放置できず、アズマはそう言った
そうして一周。チナとゆったりした時間を過ごせば、彼女はもうシロナと共に帰る時間が来ていて、名残惜しいが幾らでも連絡は取れる、互いにそう確認してアズマは少女を見送った
見送ったアズマに、Nの支線が突き刺さる。時間は有限で、Nの手を借りるのもあまり待たせるのは悪くて
ぽん、と放り出したボールから飛び出すのは相棒のニダンギル……ではなく、モノズ
そうして物を分かっているだろう龍と共に、アズマはほえーと年相応の幼さで見送りを眺めていた少女アイリスへと頭を下げた
「お願いします!Nさんと修業の最中、おれにもソウリュウの民のドラゴンとの交流法等を教えて下さい!」
『モノノ!』
「うん、いーよー!」
返事は、やけにあっさりしたものだった