結構珍しいポケモンで人気もあるゾロアに触りたいのかな、なんて思いながら、響く可愛らしい女の子の声にアズマは振り返る
そして……
声をあげたろうビシッと指を突きつけた少女は、アズマではなくダンデの格好をして有名トレーナーコスプレした浮かれ客に紛れたNの方を見据えていた
少しの緊張と共に、アズマは相棒のボールを握る
イベルタルではなくニダンギル。繰り出したとしてもそう咎められないし混乱も起きないだろうが、剣そのものの姿であるが故にちょっと連れ歩くのは気が引けるポケモンを
流石に幾ら戦力としては断トツで最強、Nのゼクロムにも匹敵するししっかり戦ってくれるだろう存在とはいえ、絶対に負けてはいけない状況でもないのに赤と黒の伝説を解き放つ気は無い。それだけの混乱を起こせば……イベルタル自身への風当たりも強くなるだろうから
それでも、何かあれば戦う覚悟を決める
Nとは暫く行動を共にして来た。父がイッシュ伝説を調べていた資料の記述も読んだ
だからこそ、アズマ自身はNという青年は本当にポケモン想いなんだと理解している。プラズマ団の事は酷いと思うけれど、彼個人は尊敬できるし捕まって欲しくもない
だから、何かあればNを手助けする気でボールをしっかり持つが……
健康的な褐色の肌にガブリアス色の凄い量の髪を持った幼い少女は、少年のような野性味の残る少し中性的な顔立ちに満面の喜びの表情を浮かべて近付いてきた
そんな態度に面食らって、アズマはうっかり相棒の横のボールのボタンを押す
飛び出すのは小さな黒い影
『モノノ?』
モノズである
「あ、モノズだ!」
少女に声をかけられ、その体がびくりと震えた
「そうだよな、人気が多いと気になるよな、サザ」
安心させるように普通の個体よりも小さなその体を屈んで抱き上げる
「ねぇねぇ、モノズってことは、ドラゴン好きなの?」
「……割と」
気圧されるようにアズマはうなずきを返し、モノズは知らない女の子の接近に……
「サザ?」
案外平気そうにひとつあくびをした
そんなポケモンの空気に毒気を抜かれるが
「誰、ですか」
露骨に警戒した空気の幼馴染を見て、アズマは頬と気を引き締める
「あたし、アイリス!」
知らない名だ
「アデクおじいちゃんとシャガおじいちゃんに言われてさがしに来てたの!」
だが、その先の名をアズマは良く知っていた
アデク。あのNとも激戦を繰り広げたとされるイッシュ地方のチャンピオンである
その名前がしっかり出せるならば、身元は確かだ。だが……
その名前と言うことは、プラズマ団としての因縁からNに関して何か不穏な想いを抱いた案件である可能性が高い
『(ま、また……)』
怯えてディアンシーが何時でも入れるようにバッグに共に詰められたボールへと逃げ込む。モノズが体を捩って地面に降り、ぴょこんとゾロアが気にしてないように頭の上に昇る
少しの戦闘態勢を整えたアズマにたいして、少女はと言うとぽかーんとした表情で見返していた
「……あれ?」
「アズマさんアズマさん、別に危険じゃなさそですよ?」
「……だ、だね……」
「ねーねー、どうしたの?」
敵意の無いガブリアス色の女の子に言われ、アズマは少し離れた青年を見る
自然体であり、何かキバゴと向き合って話をしていた
「いや、Nさんを追ってきたのかと」
「あたし、おってきたよ!
伝説のゼクロムにあうために!」
あ、そういうことかとアズマは納得して警戒を解いた
「君は……Nさんと知り合い?」
「うん!」
それに合わせてこくりと頷くN
「ソウリュウの伝説
レシラムと彼を響き合わせ導く方程式」
言ってることは難しいというか変だが、多分小説ではカット気味だったレシラムに選ばれNと戦ったトレーナーのライトストーン探索の際に手を貸してるのを見たとかなのかなーとアズマは理解した
「な、なんだ……」
『モノノッ!』
勘違いかぁと肩を落として落ち込むアズマを慰めるように、モノズがその口で少年の足を甘く噛んだ
「こっちはキバゴ!」
『キバァ!』
少女アイリスに元気良く呼ばれNに抱えられたまま挨拶するのは、緑っぽい色合いのチビドラゴン……キバゴ
「こいつはサザ、頭の上のはアーク」
合わせてアズマもポケモンから自己紹介をはじめ……
「そして、アズマ!とチナ!」
名乗ってない名前を呼ばれびくりとする
ニコニコ笑顔で、少女は名前を言うが……アズマ自身、名前を名乗っていない。いや、それはチナが呼んだのを聞いたで話しは通じるが……チナと一言も呼んでいない
「何で?」
『ノッ!ノッ!』
しきりにアズマの右足を自分の右前足で押すモノズが、何かを言いたげだった
「サザ?」
「その子がおしえてくれたんだ!」
「ポケモンが?」
「ポケモンさんの言葉、分かるですか?」
アズマは幼馴染の問いに、そうかもしれないと無言を貫いた
驚くことは無い。Nという実例と少しの間とはいえ同行していたのだから、ポケモンの言葉が分かる人間だって居るのはアズマには納得が出来る話だ
それはそれとして羨ましい。テレパシーを使えるディアンシーとは意志疎通が出来、バドレックスは人間の言葉をサイコパワーで話せるが……
『「ミーはアークって可愛くないからやなの!」』
「カッコいいだろ、アークって」
そう、そしてイリュージョンで化けた時に他のポケモンの鳴き声を真似るからか人間の言葉を見よう見まねで話せてしまうゾロアも居る
が、イベルタルやニダンギルの言葉は分からない。フィーリングでこうだろうと対応するしか無い
それはそれで気持ちを通じあわせたら嬉しいし悪いことではないのだが……やはりそれでも、アズマは直接話せたらもっと色々望んだことしてあげられるのになーと思うのだ
「うん、ドラゴンポケモンだけならわかる!」
「ってことは、サザは分かって、アーク達は分からない?」
「うん、その子トレーナーさんは怖くておーぼー?でたよれる人って言ってる!」
その言葉に、アズマは少しだけ落ち込みながら足元のモノズを見下ろした
「横暴なのか……」
「こわーいのにだす!おーぼー!って」
確かに、と納得させられる
アズマが最近モノズを出したバトルはというと……ラ・ヴィ団のメガヘルガー&メガライボルト&メガアブソル、コルニのメガルカリオ辺り
言われても仕方がない相手ばかりだ。そして……それを知らずに言える事そのものが、モノズの言葉を分かるという事を裏付けてくれる
「そうだよな、怖かったよなサザ」
『ノノッ!』
屈んで頭を撫でられたモノズは、大丈夫だとばかりに撫でられる手から頭を逃がし、その手を甘く噛んだ
「でも、ゆーきをもたなきゃって!」
「……そっ、か」
それに深く頷くN
それもそうだとアズマは思う
トレーナーの存在は認めたとはいえ、下手な態度であればポケモンを思うNは敵に回るだろう。それが無い時点で、相応にモノズとてアズマの無茶は認めてくれていたのだ
「……こほん」
「あ、ごめんチナ」
幼馴染の咳で、アズマは現実に引き戻された