最後に一つだけの警告……すなわち、ゼルネアスを狙うラ・ヴィ団なる謎の組織についての警告をして、セレナと別れる
アズマだって、そうそうセレナが負けるとは思ってはいない。だが、だとしても……
ノンディアを名乗った同志なる男は危険だ。見知らぬポケモン、そしてメガシンカを……巨大な機械によるメガウェーブ利用ではなく普通の形で行っていた彼への警戒を呼び掛けるべきだと思ったのだ。
そうして、アズマはチナと二人、ミアレの道を歩き……
不意にバッグの揺れに足を止めた
「姫?」
引きこもってしまったディアンシーが起きてなにかを訴えるように背を叩くのを感じてアズマはバッグを開けてやる
すると、小さなポケモンはゼルネアスから貰った輝く石を手に舗装された道路に降り立って……
ぴょんぴょんぴょん跳ねながら何処かへと向かい始める
「姫?どうしたんだ」
「どうしたんでしょう?」
何やら真剣なディアンシーを幼馴染と共にアズマは後方で見守り……
やがて辿り着いたのは、古めかしい店であった。掛けられた看板は……モンスターボールのマーク
「姫、此処はボール屋だよ。それも……」
と、アズマはボールケースを漁り、中から一つのボールを取り出す。三日月のようなマークが描かれたぼんぐりを削って装置を組み込んだもの、名称としてはムーンボールだ
一部の愛好家からはそのボールエフェクトの綺麗さとデザインから好まれてはいるものの……
「アズマさん、それなんですか?」
「月の石で進化できるポケモンにとって好ましいようなボール、かな」
「へぇ……」
と、少女は眼を丸くしてボールに触れる
「あんまり使いどころ無いです?」
「うん。野生のポケモンを捕まえたいなら、もっと良いボールは沢山あるよ。余程のマニアか金持ちでないならこんなもの買うくらいならハイパーボールを買うべき」
「ハイパーボール、高いんですよね……」
お小遣いじゃ全然買えないです……と、銀の髪の少女はお金を計算するように指を折って何かを数えながら言った
「こいつもっと高いよ。材質が材質だけに工場生産が出来ないから、全部ハンドメイド
古代のボールみたいなものだから、伝統税とか入れて……」
「5000円くらいするですか?」
「その倍」
「い、いちまん……?」
突然、少女はハンカチを取り出す
「指紋とか」
「大丈夫だってチナ
……ところで姫は本当にどうしたの?高いボール屋なんかに来て」
そうして改めてアズマは小さく扉をノックするポケモンを見下ろした
『(分かってしまったのですわ)』
響くテレパシーに元気はない
「分かった?」
『(……この石に触れた時、圧倒されましたわ
そして、知ってしまった。わたくしには、このエネルギーを何とも出来ませんわ)』
と、黒いポケモンの為にと強いエネルギーを込めて貰った石を抱えてディアンシーは言う
『(それに、あの豊穣のおうさまの話や、実際の王を見て……)』
こくり、とその小さな鉱石の姫は頷いた
『(今のわたくしとの差を知りました
わたくしは、ナイトに護られ過ぎていたのですわ)』
「姫」
『(勿論、護ってくれたことは感謝ですわ)』
同時、感謝という単語に反応したのかチナの持つボールの一個からシェイミが飛び出し……
「ミーちゃん、邪魔はめっです」
一瞬でトレーナーの腕に確保された
『(ですが、わたくしがゼルネアスに会った時に護られてばかりのお姫様では、ダイヤモンド鉱国を救うなんてただの夢ですわ
戦うのは怖くても、みんなの為に戦わなければ行けない時だってあるのですわ)』
だから……と、持ち出してしまった石をアズマへ向けて高く掲げて返そうとしながら、そのポケモンはテレパシーで告げる
『(わたくしも変わらなければ、ダイヤを作るフェアリーオーラを受け取れません
でも、わたくしのナイトはぜっとわざ?というオーラ纏いを良くポケモンとやってますし、それが出来ればきっと……
だから、わたくしのトレーナーでナイトになりませんこと?)』
その言葉に微笑んで、アズマは膝を折って目線をある程度揃える
「それが、ボール屋を目指した理由?」
こくりと頷くディアンシー
『(い、一時的でも入るボールは自分で選びたいですわ)』
「……そうだね。見て回ろうか」
ディアンシーを抱き上げながら、アズマはそう告げた