絶対捕食回転斬……アズマの知らないというか、手持ちのタイプ的に使えないが、恐らくはZ技だろうソレがバドレックスを完全に糸で繭状に縛り上げ、そしてゼルネアスの輝く角で貫いた
そして、すべてのエネルギーが消えた時……
「居ない!?」
ふらつきながら地面に落ちるのはレイスポスの体のみ。ウサギのような親しみやすい姿の王の姿は切り裂かれた繭の中には無く
「っ!やるね!」
『シャァァッ!』
『クラウン』
バドレックスは少し離れた場所で糸にくるまっていた
「わざと降りて別の場所で捕まってやり過ごしたんだ」
『カムゥカンムリ!』
『ホォォスッ!』
そして、ふらつきながらも四肢で大地を踏みしめるレイスポスに再度騎乗。マントを展開し、まだまだとばかりにその短い手にサイコパワーを纏わせる
『「む、時間であるな」』
そして、踵を変えさせると突如バドレックスはゼルネアスに背を向け、ダンデの横へと駆け出す
こくりと青年チャンピオンは頷いた
「時間?」
『「うむ。ヨとてこの時間がこうして終わるのは惜しいが……あくまでもヨはフリーズ村、そしてカンムリリゾートの宣伝のために来たゲスト
時間を使いきってしまっては困るのであるな」』
「うんまあそうかな」
と、小首を傾げるセレナ
「……ひょっとして」
「あ、わたしも何するかまでは聞いてないからねたばれできないですよ?」
なんて、アズマはそんなバドレックスを見て昔を思い出す
『「やはり、人々の望む戦いを最後に持ってくるべきなのである!」』
王がその手を掲げると、青い光がダンデの腕のバンドに点る
「良いかな、ミス・セレナ」
「勿論!」
『イクシャア!』
そういうことならばと言わんばかりにゼルネアスは首を振り、大人しくなる
「では、選手交代だ!
リザードン、本気をお見せしよう!ここからが本当のチャンピオンタイム……」
青年はボールに相棒を戻し……大きく掲げる
「キョダイマックスタイムだ!」
そのボールに青い光が集まって、放り投げられたソレがぐんぐんと人一人の高さくらいまで巨大化する。そして……ボールが開いたかと思うと、そこから飛び出してくるのはリザードン
いや、違う
リザードンに良く似た焔の翼……ファイヤー等が持つ文字通り焔で出来た翼を携えた、青いオーラを纏う巨大火竜が、スタジアム全体を震わせて降臨した
ほぼ同じ現象を、アズマは二度見たことがある。そう、ランドロスとバドレックスが見せたダイマックスである
『ヴァッフ!』
響くのは、リザードンにしては低い咆哮
そういえばランドロスもそうだったと、アズマは一人で納得する
『これぞ、ダンデ!チャンピオンの真骨頂、キョダイマックス!
まさかまさかの大波乱、カンムリ雪原の王バドレックスの介入が、実現しない可能性が危惧されていたこの対決を呼んだぁぁっ!』
30m近い巨竜の咆哮にも負けないように、マイクの音量を上げて解説が叫ぶ
だが、それすらも安全を考慮してそこそこ離れていて、更には『リフレクター』や『ひかりのかべ』をポケモン達に貼って貰っている筈の観客席にまで響く轟音には押され気味
「前も見たけど、凄い……これが、ダイマックス」
『(これがですの?)』
と、ぴょこんとバッグから顔を出して、ディアンシーが聞いた
「あ、大丈夫なんだ姫」
『(正直、そこまで怖くないですわ
でも、あのバドレックスと対峙してた時は恐ろしくてなりませんでしたわ)』
と、震えながら……ぴょんとアズマの肩を伝い、小さなポケモンは横のチナの膝の上に移った
「わたしです?」
『(わたくしのナイトの筈なのに、オーラが怖すぎですわ
こっちの方が気楽ですの)』
「怖いか、おれ」
『(後ろのがですわ)』
何処か誇らしげに、イベルタルが頭をもたげて鳴いた
「リザードン、『キョダイゴクエン』!」
「『ムーンフォース』!」
幾らなんでも、伝説のポケモンといえども30m近い巨大竜に勝てるものなのだろうか
そんな疑問を解消すべく、ダンデのリザードンは翼を広げた竜のような燃え上がる焔を全身から放ち、ゼルネアスは満月のような生命力を凝縮したオーラ玉で迎え撃つ
ムーンフォースのエネルギーが焔の竜を突き抜けて……
「ここからが本番!」
「だよね!」
しかし、キョダイと名が付くだけあって、一筋縄ではいかない。例えば大文字ならば貫けば終わりだが……これは火炎放射等のブレスのような技よりもなお巨大で長大。燃え上がる焔は貫いて天を駆けるオーラを絶え間なく焼き続け……
天を貫く柱として炸裂する
そして……
『タイムアーップ!』
双方が対消滅した瞬間、鐘の音と共にそんな言葉が響き渡った
『30分経過により、勝負つかず!
けれども、その片鱗だけでも恐ろしいまでの実力を見せてくれたチャンピオン、ダンデ!
そして人々を湧かせてくれた豊穣の王バドレックスに……勿論、ガラルの誇る伝説同士のタッグに一歩も引かなかった我等がセレナ!
全てが、この時間を最高のものにしてくれた!盛大な拍手を……っ!』
「終わっ……た?」
あっという間の30分だった。そう、アズマには思えた
「凄かったな、ギル」
くるりと回って肯定するニダンギル
どこか自分なら勝てると言いたげなイベルタルをボールに戻して、アズマは立ち上がる
「はい、チナ」
「あ、ありがとうです」
と、幼馴染が立つのに手を貸して、その膝から飛び降りたディアンシーを抱えてバッグに入れてやる
「Dia様、終わりです」
『Uruuu』
満足したのか、青い巨体は静かにボールに戻っていった
「じゃあ、出ようか
エキシビションを見に来たわけだし。ちょっと、今年の人々にも興味はあるけど……知り合いも居ないし、貰ったチケット今日だけだしね」
それに、とアズマは続ける
「待たせてる人が居るから」
「いるんです?」
『(わたくし、ゼルネアスに会いたいですわ)』
そんなディアンシーの額のダイヤをハンカチ越しに撫でて、アズマは微笑する
「わかってるよ姫。だから……カルムさんに頼んで、エキシビション後のセレナさんに会えるように手配して貰ってるんだ
待たせちゃ申し訳ないよ」