「お、お、お前らぁぁぁぁっ!」
叫び、アズマは止まる前にフライゴンから飛び降り
「ライ!『ばくおんぱ』!」
そのまま、家の庭に立つ二人組に向けて叫び…
『リャ!』
『(ひっ!)』
「……す、すまない……取り乱した。やらなくて良い」
勢いで言い過ぎたと思い直す
まだまだ再建の終わっていないナンテン屋敷。そのだだっ広いちょっとハニカムポケモンが荒らした跡の残る庭
其処に、二人組のジャケットが居た
フォイユとフルルと呼ばれていた方ではない。ディアンシーを狙っていた理科系と筋肉の方だ。そしてあれは……モグリューだろうか、せっせと地面を掘っているモグラのポケモンが居て。辺りには元々は一枚の石碑だったろう瓦礫が散乱している
「何を……やっている!」
ギル!サザ!と、ボールから二匹を呼び出す
状況を確認するや二本の刀剣はアズマを鼓舞するように周囲を回り、そしてモノズは不安げにトレーナーを見上げる
「なにをって、仕事ですよ見てわかりませんかねぇ少年」
「分かる、ものかよ!
わかってたまるもんか!」
『(ど、どうしちゃったんですの!)』
背後で怯えるディアンシーの声も、今のアズマにはどこか遠くでの言葉に聞こえて
「あいつの……あいつの眠りを妨げんなよ!
何を、やってんだ、お前らぁぁぁぁぁっ!」
『(え、えっと……)』
『ゲゲン』
ふっと、アズマの影からにょっきりオバケが顔を出す。ゲンガーだ
それすらもまさかあのジャケット男のかと睨みかけて
「ゲン」
『ケケッ』
姿を見せない執事のゲンガーだと気が付き、アズマは男二人を睨み直す
『ケケッ』
『(そう、なんですの……)』
「人間をポケモンに襲わせるのですか、大人しくしなさい少年」
「……」
ぎゅっと、アズマはゾロアのボールを握り締める
「あいつの墓を荒らしておいて、調子の良いことを!」
そう。墓
『(で、でも!
幾らトリミアンさんのお墓をあんな風にされても、暴力はいけませんわ)』
「分かってる!分かってるけど……だったらどうしろってんだよ!姫!」
父親が置いていき、アズマが執事と建てた墓石は原型を留めず。痛々しくて、でも未練がましくそのまま埋めた近くまでモグリューに掘り起こされていて
『リュッ』
事情なんて知らないだろう。何かを見つけてトレーナーに嬉々として報告するモグリューを咎める気は、流石にアズマにだって無い。それでも、やりきれなくて
どさっと、後ろで軽い音がした
「……じい、ルリ……」
横目で見たアズマの視界に入ってきたのは、力なく倒れ伏すマリルリのまるっこい体と、細い執事の体。そして彼らを背に乗せた二匹の四足歩行の獣の姿
「ライボルト、ヘルガー、遅いですよ」
その姿は、ジャケットの男が言うポケモンとは違っていて
「メガライボルトに、メガヘルガー……」
そして
「ん、間に合った」
『ソルゥゥゥァァァッ!』
悲痛な叫びと共に降り立つのは、背に少女を乗せた
「フルル
フォイユは何処に」
「突然、襲われた」
「……襲われた?」
「何処からともなく現れた……ガブリアス」
向こうで三人のジャケットが何か話している。それを、アズマは聞くしかなかった
突然のガブリアス。アズマの知り合いにガブリアス使いなど居ない。このカロス地方のジムリーダー、つまりはアズマではなくカルムが縁ある相手にも確か居なかったはずだ。では誰なのか、分かるわけもないのでアズマは何とも言えなかった
だが、そんなことは正直な話今のアズマにはどうでも良い事。重要なのは敵が増えた事実だけ
『ルガァァァァァァッ!』
『ライボルッッァァァァッ!』
『ソルゥァァァァァァッ!』
黒、黄、白。三匹の獣の咆哮が響くなか、アズマは静かに腕を構える
頭のなかにあるのはひとつ。彼等の今出しているポケモンは、全てメガシンカした姿を持つということ。リーダーのボーマンダ等もまた。ならば、見たことはないが……
「ゲン!」
ディアンシーから貰っておいたピンクダイヤを、影から顔を出したゲンガーに投げ渡す
……いけるはずだ。同じく
『ケケッ』
けれども、ゲンガーはそれをその腕で弾いて拒否する
「ゲン!」
『(……だ、だめ、ですわ……
そ、そんな真っ黒……いいえ、赤黒いオーラで、戦っては……)』
思い出す。コルニから聞いたことを。メガシンカは、ポケモンと心を、オーラを重ねてのシンカだと
確かに、今のアズマでは一人で心が
それでも、許せなくて
「ギル!『せいなるつるぎ』!
サザ!『あくのはどう』!
ゲン!『シャドーボール』!
ライ!『ばくおんぱ』!」
叫ぶのは攻撃の指示。アズマらしくないと、アズマ自身分かっていて。何時もの自分ならば多分無理だと思って他人を呼びに行くか、Z技での一転突破を狙うか、補助技でせめて届きやすくするかを選ぶというのも、頭の片隅にあって。それでも、無謀かもしれずとも、攻撃を選ぶ。まるで、『ちょうはつ』されたように
「迎えうちなさい。『オーバーヒート』」
「焼き払ってやれやぁ!『かみなり』!」
「世界は残酷。『あくのはどう』」
対して、ジャケットのポケモン等から放たれるのも攻撃技。だが、彼等はそれで良いのだ。メガウェーブによる暴走メガシンカ。素の力で彼等は上回っている。何も考えず攻めればそれで良い
ぶつかり合い、爆発
けれども、彼等の技はそれで立ち消える事はなく
『ノッ!ノッ!』
やっぱり無理だと、モノズは自分のトレーナーに鳴く
逸れてはいた。けれども、放たれた業火も、放たれた雷撃も、地面を大きく抉っていて。実力差があるなんて、あまりにも歴然としていて
「無謀ですねぇ。あまりにも無謀
若いとは、愚かな事だと人は言いますがここまでとは」
「煩い!」
そんなこと、アズマだって分かっていた。ポケモン達を、それに付き合わせるのが可笑しいことも
それでも、アズマは吠える。その心は、抑えられなくて
「さて。ディアンシーも渡してもらいましょうか。予想外の土産物です」
「駄目。あれは、任されたもの」
「おやおや。足止めを片方食らった間抜けな貴女方より、此方のチームの功績が大きいのは当然では?」
「お前には無理だったから代わりにやってやったんだぜフルルよぉ!」
少女が黙りこむ
アブソルが吠え、返すように、噛み付くようにライボルトも吠えた
チームワークはガタガタ。それでも、アズマにはそれを崩す手はなく
「誰が渡すか!」
『(い、行きますわ)』
「姫!?」
ぴょん、とアズマのバッグから飛び降りる小さなポケモンに、アズマの眼が揺れる
『(抵抗しても無駄なのは分かりましたわ。
だからこれ以上、なにもしないであげ……きゃっ!)』
『ふいうち』、だ。アズマが反応する前に、ディアンシーの姿は不意にアズマの前に姿を現したアブソルによって連れ去られた
『(こ、これで良いんですわよね?)』
その小柄な体は、筋肉のジャケットに捕らわれ
「おっと、口ごたえするとこれに入れますよ?あまり貴女に使いたくはないので大人しくしていてくれませんかね」
眼鏡ジャケットは、ポケットから取り出した意匠の凝ったMの描かれた紫のボールを振った
「マ、マスターボール……」
「ええ。幾ら幻とはいえこのディアンシー相手に使うのはあまりにも勿体無い
では。ヘルガー、処理の時間です。この先また色々と邪魔されても困るのでね」
『(や、約束が……)』
「してませんし、守る意味もありません。抵抗するならばマスターボール、それが嫌ならば大人しく見てなさい」
「アブソル。殺す気で良い」
「っておい、良いのかよ?あいつ此処の息子だろ?」
「同志の計画の果てにあるものを思えば、致し方ない犠牲です」
「んじゃ、トレーナーに『かみなり』」