そうして、炎は立ち上る光の中に消え
降り立ったルカリオは……その全身から蒼い波動を迸らせていた
「波導の勇者……」
『クワン!ハッ!』
ゼンリョクを使いきった直後。流石に動けるはずもなく
軽くルカリオの蒼い光の拳にはたかれ、黒い毛玉は宙を舞う
「……お疲れ、アーク
良くやってくれた」
ボールの中に良く頑張ってくれたゾロアを戻し、アズマはボールを撫でて呟いた
そうして、対峙すべき敵を見据える。蒼いオーラを全身から迸らせるメガルカリオを。投げるまでもなく勝手にボールから出て、ヒトツキがアズマの前を漂った
「……それは?」
「波導最大って分かる?」
「ルカリオが波動の力を発揮しきった姿でしたっけ?まあ本で読んだ事しかありませんが」
「そうそう。メガルカリオはその延長線上の姿。限界を越えた波導を二人で制御した波導の勇者
そしてこれが、その状態で更にもう一回波導最大を発揮した姿で、
ルカリオ、ブルー!」
『クワン!』
コルニに合わせ、ルカリオが吠える
「それじゃ、始めるよ!」
合図と共に、戦いが再開する
「ギル」
「ルカリオ、行くよ!」
「『かげうち』!」
アズマの指示は何時もの……ではない。悠長に剣の舞を振り回している暇は無いという判断だ
相手は圧倒的な格上であるメガルカリオ。蒼い波動を迸らせ臨戦体勢な彼等に向けて今更準備など遅すぎる
だが。ゾロアはしっかりと一撃を与えてくれた。本来は火力不足に悩まされるが、今この時だけはその必要はない。相手は既にダメージを受けている。故に本来火力が足りないとしても、押し切れる!いや、押し切る!それしかない!
だからこそ選んだ道
だが……
「ギル!」
影がルカリオを捉え損ねる。蒼い残光のみを残し、駆け抜ける影
『しんそく』、だ。本来はノーマルタイプエネルギーを持つが故にゴーストタイプのヒトツキには意味がない技。といっても、そんなもの関係ないなんて、アズマは散々に見せ付けられてきた
裏拳一撃、角の生えた拳の甲がヒトツキの刀身を撃ち据え、その体は鞘と離れて吹き飛ぶ
……だが
吹き飛びながらもその影を伸ばし、ヒトツキの放つかげうちは確かにヒトツキを吹き飛ばすために足を止めたルカリオを捉えた
とはいえ。火力の差はあまりにも歴然
空中で静止することに成功したヒトツキはふらつき、影で拘束されたルカリオは何ら揺らぎはない
「とびひざげり!」
「守れ!ギル!」
咄嗟の判断
緑の防壁がヒトツキとルカリオを隔て、ルカリオは今一度そこに激突
そうして、そのまま蒼い波動が守るの防壁を揺らがせ、打ち砕く
「せいなるつるぎ!」
そうして、一呼吸置いたことで持ち直したヒトツキの放つ剣が、ルカリオの膝と真っ正面からかち合う
……押し切られ、ジムの壁に叩き付けられたのはやはりというか、ヒトツキの方であった
「ルカリオ、行ける?」
『ルカ!』
踏み出す足に微かに顔を歪め。けれどもルカリオは吠える
「ギル、行けるか?」
ジムの壁から落ちる刀身は、それでも行けるとアズマに応えるように浮かび上がる
その体はもうまともに浮かべないほどに揺れていて。けれども闘志は消えずにトレーナーの想いと、自分の意地とで立ち上がる
『(こんなの無理ですわ!
勝てませんわよ!)』
「……そう、かもな姫」
けれども
「けどさ。楽しいんだ
負けたくない、負けられない、勝ってみたいって
だから」
「うんうん、根性だけで立ち上がる!凄いじゃん!」
「おれだって、お前に応えないとな、ギル!」
ポケットから取り出した桃色ダイヤ。ディアンシーから貰っておいたそれを、アズマは右腕に翳す
「御免な、姫
使わせて貰う」
桃色の光が弾け、命の波動が解き放たれる
「ぐ、ぅぅぅぅっ!」
『(何やってるんですの!)』
命の波動の連続した爆発。限界を越えた力がアズマの体の中で荒れ狂い、その神経を苛む
それでも、相手から、越えたいポケモンの姿から目を逸らさず
「ギル!お前がまだ戦ってくれるなら!
おれも!ぐっ!戦う!
お前と共に!」
応とばかりに、ヒトツキが回る。その刀身を、真っ直ぐルカリオへと向ける
その胸を苦しそうに抑えながら、実際に破裂しそうな心臓の鼓動と痛みに耐えながら、アズマはその右腕を、其所にある黒水晶の腕輪を天へと翳す
『ルーカー』
「うん、全力には全力で迎え撃つよ、ルカリオ!」
『リーオー』
神速の一撃で、きっと全力の一撃がもう一度来る前に勝負を決めることは出来たのだろう。それだけの力の差は、今のアズマ達との間にはある
けれども、今度こそ。コルニ達も正面から立ち向かうことを選ぶ
「おれは!お前と!越えてみせる!」
その右手に剣は無く。けれどもあるかのように、アズマは腕を振るう
それに完全にシンクロして、アズマの手に自身があったとしたらという動きそのままに、ヒトツキが舞う
「全力っ!無双!激っ!烈っ!」
「波動のぉぉっ!」
「けぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
「嵐ぃっ!」
『ハァァァァァァァッ!』
アズマが腕を突き出すと同時、アズマの纏う赤黒いオーラがヒトツキと重なり、ヒトツキそのものが弾丸のように一直線に放たれる
同時、コルニとシンクロし、共に腕を突き出したルカリオの腕の間から、蒼い波動の奔流がヒトツキ目掛けて吹き出した
そうして、赤黒い弾丸と蒼い波動は空中で激突する
赤黒いオーラを纏った刀身が、少しずつ波動を切り裂きルカリオに迫るも、直ぐに奔流に少し押し返されるを繰り返す
このままでは届かない。そう、アズマは思った
『(押されてますわ!)』
「最後に見せてやろうギル!
おれとお前と!作り上げた力を!」
それでも、アズマは力を振り絞る。普段はトレーナーは直接ポケモンを助けられない。だが、今は違うと、薄れる意識を繋ぎ止めて叫ぶ
ヒトツキが、白い光に包まれた
「これがキミ達のハーモニー」
『(ハーモニー、ですの?)』
『にゃお、にっ!』
得意気にニャオニクスが鳴く中、ほぼ変わらぬポケモンが、その刀身を赤黒いオーラで包み波動と激突していた
『(何も変わって……)』
「せいなるつるぎぃっ!」
そう。剣の姿そのものはほぼ変わらない。けれども、重要なのはそこではないのだ
「っ!ルカリオ!」
「遅いっ!いけぇぇぇっ!ギルぅっ!」
そして……進化を遂げ、バトル初期に吹き飛ばされ、ルカリオの近くに転がっていた鞘がもう一本の刀身と化したポケモン……ニダンギルの新たな剣が、確かにルカリオの顎を捉えた
頭を跳ね上げられ、ルカリオの放つ波動の向きが逸れる。抵抗感を喪った赤黒いオーラの剣が、ルカリオの胸を貫いた
『ル……カ』
ルカリオが膝をつく。その蒼い波動は霧散し
力尽きたように、赤黒いオーラの消えたニダンギルの両刀身がジムの床に落ちた
『リオ……』
そして、それを見届けるやルカリオは瞳を閉じ、自身も地面に転がる
「……ニダンギル、ルカリオ、両者戦闘不能
よって……
このジムの規定により、勝者!チャレンジャー!」
『(や、やりました……の?)』
『にゃ』
「……いや、やってないよ」
口元の笑みは隠しきれず、けれどもアズマは首を振る
「認められたという点では完全勝利だろうけれどもね」
「はい。そこはそうでしょうけれども」
『(?)』
疑問符を浮かべるディアンシーの頭を撫でつつ、アズマは倒れた二匹を見る
蒼い波動は消え、メガルカリオの姿のまま倒れ伏すルカリオを
「本当に戦闘不能なら、メガシンカは解ける
あの時のアブソルみたいに」
『(……あ)』