「……上?」
『(あ、危ないっ!)』
ディアンシーが叫ぶ中、上から話しかけてきた何者かは、ひょいと塔の5階の踊り場から身を踊らせる
癖の強い緑の長髪が風に靡きながら、何者か……恐らくは青年の体は、地面へと落ちていって……
「おいでボクのトモダチ」
『バリバリダー!』
その体を、巨大な漆黒の竜が抱き上げた
「ゼ、ゼ、ゼ……」
『(ひっ!な、何ですの何ですの何なんですのこのポケモン!?)』
「ゼクロムぅぅぅぅっ!?」
ゼクロム。黒陰ポケモン。タイプはドラゴン/電気と言われている
イッシュ地方に伝わる伝説の竜の片割れ。理想の竜とも呼ばれ、理想を追い求め、希望の世界を作ろうとする者に手を貸すと言われる"伝説のポケモン"だ。父親の論文の中で語られてるのを見たことがある
かつてのイッシュ地方でのプラズマ団暗躍事件において、ポケモンを解放するという理想を掲げたトレーナー、Nに手を貸し、真実に辿り着く意思をもってプラズマ団の前に立ちはだかった青年、トウヤと激戦を繰り広げたという。その戦いは、最後の最後、突如としてトウヤの前に舞い降りたレシラムによってトウヤ勝利で終わったと言われていたが……
以降姿を消していた伝説が、眼前に唸っていた
「さあキミの運命を見せてくれ!」
「キミの運命を伝説を見せてくれ」
二度目のそんな言葉
「いや居ないけど」
漸く、アズマはそんな言葉を絞り出す
「居ない!?」
翼のような手甲の上で、何となく格好付けたようなポーズを取っていた青年が体勢を崩し
「ライ!」
フライゴンの背に抱えられて、事なきを得る
「ちょっと待ってくれないか」
「いや、おれに伝説ポケモンの知り合いなんて……」
と、ふと下を見たアズマは、一つの事を思い出す
「姫の事ですか?
そもそも姫は家のポケモンでは無いので」
そう、ディアンシー。幻とされるのだから、ある意味伝説のポケモンかもしれない。単純に珍しいというだけで、その力から伝説のポケモンと呼ばれる訳では無いのだけれども。命の波動の籠ったピンクのダイヤモンドは確かに凄いが、伝説と呼ばれるほどの力ではない。伝説のポケモンは、まだ個体数が確認されているエンテイでも、全力で吠えれば火山を爆発させるのだから。技としての噴火ではなく、本当の意味での噴火を起こす、それくらいの圧倒的な力でもって初めて、そのポケモンは伝説と呼ばれる
「彼女ではないよ君の運命は
もっと黒く輝く影」
「黒く、輝く……」
アズマの脳裏に浮かぶのは、一つの影。シカリ、と光を求めたあの漆黒のポケモン。どれだけ長い時間、彼若しくは彼女はあの場に囚われていたのだろう。そうまでして封じなければならなかったのは何故なのだろう。傷だらけのままで、更にはその全身をがんじがらめにして、そんな形で閉じ込めなければならない本来の力は、確かに伝説のポケモンのものなのかもしれない
「いやでも、あのポケモンと運命と言われても」
『(そうですわ!というか、いきなりなんなんですの!)』
「おっとこれは失礼宝石の姫
ボクはN」
「ナチュラル・ハルモニア……
えぇっと、たしか……」
「グロピウス」
『(トロピウス?)』
「姫、それはフルーツポケモン。トロピウスブランドってあるくらい、首のフルーツは美味しいものなんだけど、一体が一度に付ける実が少なくて案外市場価格は高いんだよな……。味の割には安いんだけど
ってそうじゃない」
よっと、と青年が背より降りるや否や、フライゴンは翼を羽ばたかせアズマの横へと戻る
そうして、果敢にも黒い竜を睨み付けた
「ナチュラル・ハルモニア・グロピウス、通称N
ポケモン解放を謳ったプラズマ団の、事実上の象徴」
「そんな人だったの!?」
『(あの人たちみたいな悪い人、ですの?)』
「コルニさん、知らなかったんですか?」
「昨日、ふらっと泊まりに来たんだけど……
通報した方が良いのかな」
「ああ、父親の研究が研究なんで資料ありましたけど、普通に考えたら他の地方だと顔までは知らないって事多いですね
通報は……」
左足を曲げ、アズマは自分のズボンを掴むポケモンの頭に軽く手を置いて
「しなくて大丈夫かと」
「良いの?」
「本当に悪かったのは、彼の父親ゲーチスだったらしいので。直接対峙したトレーナーから聞いたって資料が、父さんの部屋に放置されてました
実は国際警察に指名手配とか、されてるのかもしれませんけどね。それでも」
と、屈んだままの体勢で、そのままでは小山のようにも見える巨体を見上げながら、アズマは続けた
「真実と理想のポケモン。その理想であるゼクロムが信じた人なら、まあ、信じてみても良いかと」
「ん、よし!それじゃあ言った者責任で!」
「万が一何か起こったらおれじゃあ背負いきれませんって!ゼクロムなんて無理にも程が!」
「何も起こらなければ大丈夫!」
「あっ、それは確かに」
『(丸め込まれてますわーっ!)』
と、そんなちょっと空気を変えるための冗談を交えつつ言葉を交わして
アズマは、改めて此方を見守る黒い竜と、それを連れた青年に向き直った
「……キミは動こうとする世界を変える存在になれるか」
「……何とも。おれの行く道は、まだまだ分からないことだらけですから」
「それだけの光を持つ
だのに!キミの運命は未だ側に居ないAZがボクに逢えと言ったのはその為だったとはね」
青年は、アズマの目ではなく右腕のリングを見ながら言葉を紡ぐ
「AZ……つまり、貴方がAZさんが言っていたおれが出会うべき運命だと」
「ならばキミの運命!ボクが導こう」
『ロアッ!』
何時の間にやらゼクロムの角の上に上っていたらしい見慣れぬ小さな化け狐が、そのNの声に合わせて鳴いた
ポケモントレーナーのNが仲間になった!
尚、基本Nの言葉に句読点が無いのは仕様です。表示速度早いを越える早口とか再現出来ないので句読点無くして息つく間も無い速度ということにしてみました。読みにくいなこいつ!なのはご了承ください。どうしようもなければ三点リーダーで誤魔化します