ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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シャラシティ

「此処が、シャラシティ……」

 ぼんやりと、アズマは遠くに聳える巨大な塔を見上げ

 

 「感慨、薄いな……」

 はあ、と溜め息を吐いた

 場所はシャラシティ。シンボラーに掴まり去っていったAZと別れた後。アズマはとりあえず休ませたいしな、と思ってアズール湾を越え、ついでにいっそこのままポケモンセンターのある街まで飛ぼうとフライゴンに頼んで一気に飛んだのだ。結果が、これである。どうやら、ヒヨクシティ側のあそこが、シャラシティまでの最後のポケモンセンターのある村だったらしい

 そうして、空の旅を数時間。ゆったりした空の旅は終わり、アズマは目的地にあっさりとたどり着いてしまっていた。歩けば数日は掛かる距離を、である。急いでいるならば悪いことではないのだが、風情というものが致命的に足りない

 「まあ、良いか。今日はポケモンセンターな」

 『(ポケモンセンター、ですの?)』

 「そうだろう姫、夜までに治るかどうか。泊まり込みになるぞ」

 『(あそこのベッド、半端に固いんですわ)』

 アズマの月の小遣いは10万、それが家と家の庭と呼べる森の範囲に籠ってた3年ちょっと分溜まってはいる。金にはとりあえず困らないし、今も持ち出した分が70万は残っている。トリミアングッズやら雑誌やらしか買わなかった結果小遣い貯金は膨れ上がった。ポケモンの本は幾らでも父親が買っては家に置いていったし。だから、泊まろうと思えばそれなりのホテルだって泊まれる

 「でもなぁ、姫。幾らなんでもギル達をポケモンセンターに置いて、は駄目だろう」

 『(そう、ですわね……)』

 ホロキャスターに多少口を近付けて、組み込んである父親のホログラムでは姫という言葉は似合わないので適当なホログラム(昔アサメと逆方向の森で出会った2つ下の少女のもの。母親が体調を崩し、父親のシンオウ転勤も併せ療養も兼ねて4年前にシンオウ地方のリゾートエリアに引っ越していったのだったか。以降、暫くはたまに話していたけれどもある時以来ぷっつりと連絡は途絶えた)を過去データから呼び出し、とりあえず人と話してますよー的な偽装をして(そうでなければ、虚空かポケモンに向けて独り言を吐き続ける危険人物に見えるだろう。テレパシーで言葉を伝えてくるポケモンなんてそうは居ないのだから。幾らポケモンが賢く、此方の言葉をある程度理解してくれるとはいえ、ずっとまるで受け答えしてるように喋り続けるのは端から見れば流石に危ない人だ)、アズマは言葉を紡ぎ続ける

 

 ふと、その目が偽装の為に起動してあるホロキャスターに流れる文字に止まった

 「と、思ったけど気が変わった

 泊まるか、TV置いてあるレベルのホテル」

 『(いきなりですわね……)』

 「だってそうだろう。あのセレナさんのカロスポケウッドでの初出演にして初主演作がレンタル、配信開始だって言うんだから」

 ボフっと、勝手にボールからヒトツキが飛び出した。傷はあるしフラついてもいるが、案外元気そうだ。とりあえずと食べさせた木の実が役だったのかは定かではないが

 「お前だって見たいよな、ギル?」

 ぶんぶんと、興奮したように空中で数度回転

 「んじゃ、頑張って良くなって、今日の晩はTVのあるホテルでポケウッド見ような」

 『(それで良いんですの……)』

 「未来に褒美がある方が頑張れるだろ?」

 

 「……うーん、何だろう、これ」

 夜の帳が降りきった夜

 アズマは、ホテルのベッドの上で首を捻っていた

 あっさりと、という程ではないが軽くモノズとヒトツキは治った。元々、そんな怪我はなかったらしい。恐らくはAZが加減させてくれていたのだろう

 なので夜にはそれなりのホテルを見つけ、入ったのだが……

 「ギル、どうだった?」

 モノズは割ととっとと眠ってしまった。ポケウッドの画面を見るより、ふかふかのベッドの上で丸くなる方がよっぽど良かったのだろう。アズマの横で、頭を曲げて丸くなり、すやすやと眠っている

 『(……良い、話ですわ……)』

 「そうか?」

 『(この良さが分かりませんの!?)』

 「セレナさんは良かった。けどさ

 

 ポケモンが、ほとんど、関係、無い!

 これじゃあセレナさんのPVじゃないか!」

 タイトルは、『ライモンの街角で』。落とし物のホロキャスターを拾った少年(演:カルムさん)が、持ち主で若手歌手の少女(演:セレナさん)と出会い、歌やホロキャスターを通して交流していくというラブストーリーだ。大切な友達から貰ったというポケモンと共に舞台に現れるセレナさんの姿を、そのポケモンと交換したサイホーンに乗り旅をしながら、ホロキャスターのTVで見るENDはちょっと良かった

 でも、でもだ

 「もっとポケモン、出してくれよ!」

 イエスとばかりにヒトツキが剣先で円を描く

 そう、これである

 セレナさんは見たい。でも、アズマがあの日憧れたのはスターのセレナではない。ポケモントレーナーのセレナだ。ゼルネアスと共に立ちオーラすら幻視したトレーナーとしての姿が、脳裏に焼き付いている。それに憧れたから、セレナさんの外見の可愛らしさ等を全面に出したラブストーリーなこの映画は……なんと言うか、出来は初主演としては凄く良かったのかもしれないけれども、作り自体が微妙としか言いようがない。求めていたセレナさんの映画と違うと言うか。ちょっとした交流の道具として出てくるのではなく、もっとメインでバトルしてほしいと言うか。製作されたのがセレナさんが二度目にミアレに来た頃らしいから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけれども

 モノズを起こさないように、可愛いけど違うんだぁっ!とベッドを叩きたい気分を堪え、アズマは自分の右拳で左手をバンバンと叩いた

 

 『(寝られませんわ!)』

 「わ、悪い」

 『(いえ、あなたではなくて)』

 あせあせと、ディアンシーがフォローに走る

 「違うのか?」

 『(映画の興奮ですの!)』

 「そうか。じゃあ、ちょっと心を落ち着けられるように……」

 

 あれ、何処だったかなとアズマはベッド横に用意したバッグを探る

 「えーっと、これは大切な栞で……」

 本に挟んだ状態で見付けたのは一枚の栞。感謝の言葉を持つグラシデアの花の栞。シンオウに越していく友人に別れの際に気持ちとしてシンオウから取り寄せた花束を贈ったら、自分の気持ちとして一輪返され、そのまま栞にしたのだったか。それは良い。必要なのはもう一つ本に挟んだものだ

 「っと、あった」

 そうして、荷物はそれなりにすっきりしているため割とあっさりとアズマは見付ける

 『(……草?)』

 「まあ、見てなって」

 今日の昼間取った草である。まだ、使えそう

 それをアズマは右手と唇で挟み、息を震わせる

 優しい音が、響き渡った。あまり大きくはないけれども

 

 「……どうだ?落ち着いた?」

 『(何ですの、それ!?気になりますわ!)』

 「逆効果かっ!」

 『モノ?』

 「サザ。悪い、起こしちゃったか」

 むくりと頭を起こす小さなドラゴンの頭を、寝てて良いんだぞとアズマは撫でた

 

 『(何ですの、あれ?)』

 「オラシオンって言うらしい。その昔父さんにアラモスタウンって街に連れていって貰ったことがあってさ。数日の学会だったかな。そこで聞いた草笛。心地良かったから、頑張って再現してみたんだ」

 『(凄い、話ですわ)』

 「でも、起こしちゃったか。寧ろ心が落ち着く曲だったんだけど、そこまでの再現は難しいか」

 耳コピの自信、割とあったんだけどな、とアズマは息を吐いた




オラシオン(草笛)
アズマが吹ける草笛の曲。ポケモンの心を落ち着かせる効果がある……はずなのだが、落ち着いた心にダークオーラが染み込むので逆効果になりやすい。効果としては、ポケモンの笛互換。眠っているポケモン全員を起こす
音は再現出来てはいるのだが、教えて貰った訳ではなく耳コピ。だが気に入ってたまに吹いているらしい

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