そんなこんなで翌日。皆の者ボクを応援してしてー!とゼイユという名前の去年の参加者の記録に6連敗してムキになり更に挑もうとするナンジャモを宥めて帰り、アズマはお面職人から仮面を受け取りに来ていた。一日ちょっとで完成するとか速すぎる、神業か?と思ったが、元々ある程度のところまでスグリが作っておいたが諦めた奴を完成させたというのが正しいらしい
「じゃーん!どうどうアズマ氏!」
と、顔には被らず頭のコイル型装置に仮面を引っ掛け、ぐるっとターンするナンジャモ。その頭に煌めくのは大体オーガポンのお面と同じ形状のものだ。ハートっぽい形で、井戸の面というらしい
が、色合いは恐らくそれとは全く異なり、主に二色。つまり、左右で違う淡い紫っぽいパステルカラー、ナンジャモの髪色である。目玉が黄色いのが、ナンジャモカラーっぽさを更に引き立てている
「め、めんこいべな」
「おー、高評価ありがとスグリ氏」
なんてやりとりを尻目に、アズマは渡された肩幅ほどある大きな面を見下ろした
「どうかね?スグリが昔作っていた、遠い地方の伝説を模したものだが」
「これは、一体?」
何となくモチーフは分かる二本の黒角の生えた赤と黒の狂暴そうな顔の面を見て、アズマは尋ねる
「スグリが鬼さま程ではないが憧れていた命を奪う破壊の伝説」
「イベルタル」
呼んだ?とばかりにボールが揺れた
「そうじゃな。
「いえ、井戸、竈、礎、碧……。そこに並べてやるのに、凶鳥はちょっと」
アズマのイベルタルも良い顔しないだろう。少し悩んで、もうアレで良いかなと、アズマは結論を出した
「命……
「使うのはお前さん達じゃ。好きな名前で呼ぶと良い」
「はい。有り難う御座いました」
頭を下げ、狂暴な鬼っぽくアレンジされたイベルタルの顔って感じの面(端はイベルタルの翼に付いた鉤爪のような意匠が配置され、眼はピンクダイヤ。イベルタルとは色彩が違うが周囲が赤黒なので眼が輝いてるように見えるのが良くできている)を抱き締めて、アズマは何度も告げた
そうして、人気の無い場から仮面の元ネタたるイベルタルを呼び、跨がる。向かうは鬼が山の恐れ穴だ。一旦公民館に帰ろうとしたらそのまま夜の山道へと去っていったオーガポンは、恐らく其所に居るだろう
果たして、渓谷の石橋のようになって恐れ穴と繋がっているところに降り立てば、イベルタルの羽音を聞き付けてかとてとてとどてらの鬼が駆けてくる。今日もアズマがあげたお面は角に引っ掛けてあるようだ
『ぽにおー!』
寄ってきてぴょんぴょん跳ねるオーガポン。余程嬉しいのだろう、ぽろっと食べかけのりんご飴の棒が口の端から落ちた
『ぽ』
『レッカ!』
が、地面に落ちる前に吹きすさぶ突風がそれを打ち上げた。イベルタルの翼が起こす風である
『ぽに!』
ぱしっとオーガポンはそれをキャッチ、嬉しそうに口に含み直した
「鬼さま、良かったな……」
そんな姿を見るスグリ。少年がちょっと輪から外れぎみなのを見て、アズマはその背を押す
「あ、アズマさん」
「スグリ君。君が、仮面を渡したいんだろ?きっとその為に、昔の君が原型を作ってたんだろ?」
「けど、おれ……イベルタルの仮面なら、おれじゃなくて」
「そうやって逃げてたらさ、君を信じて付いてきているポケモン達も悲しむよ」
その言葉に、少しして意を決したように少年は顔を上げると、おずおずと背に背負っていた仮面を取り出した
「あの……鬼さま、これ!」
バン!と鬼の前に差し出される狂暴な赤黒の仮面
『ぽ?』
「昔の、大事な人との思い出の仮面はあるよね?勿論、それも大事だと思うけど……今からの新しい思い出の為の、新しい仮面だよオーガポン」
「そ、そう……です」
「頑張って声出すんだスグリ氏ー!声ちっちゃいぞー!」
「そうだべ!鬼さま!おれ、けっぱるから!これ!」
ぐい!と少年が仮面を押し出す。自分達も含めてほしかったなぁとアズマは頬を掻いて、それを見守った
『ぽに?』
じっと、星の浮かんだ鬼の瞳が仮面を見る
そして、暫くすればスグリの背後に控えて逃げるのを防止してくれていたイベルタルを見上げ、視線が行き来する
『ぽに』
意図を組んだのか、一声鳴かれたイベルタルが頭を下げれば、オーガポンはその頭の上に登って……仮面を付けた
『イガレぽにおーん!』
すると、イベルタルですと言わんばかりに代理でかオーガポンが吠える
「……気に入ったみたいだね」
『ぽに、ぽにおーレッカ!』
小さな手がブンブンしている。余程気に入ったのだろう。気がつけばどてらの色まで変わっている
「うわ、これバズ確定だよアズマ氏!」
パシャッとナンジャモが写真を撮り、そして動画用にカメラを回すのも無理はないだろう。まるで春の桜のように、白みがかった桃色と濃い桃の二色に、オーガポンのどてらは色付いていた
「あ、ナンジャモさん投稿禁止です」
「えー!」
「ナンジャモさん。イベルタル居るんだが!?って……吊し上げ、食らいますよ?」
「けんど、何故?仮面と色、合わね……」
オーガポンが降りてきてイベルタルが映らなくなるのを待つナンジャモの横で、確かにとアズマは苦笑する。今のナンジャモの見上げ方では仮面があまり映らないから可愛らしいが、地面に降りたオーガポンを正面から見ると恐ろしい鬼化イベルタル仮面の背後に桃色どてらの鬼とミスマッチだ
「けどこれ、多分仮面で力が変わるって言ってた奴だね。例えば竈の面で火を起こすとか、センターの看板にあったあれ」
「あ、そっか。でこれは?悪か飛行?でもイベルタルっぽさが0%で……」
ぱん!とナンジャモが手を打つ
「その時!ボクの脳裏に電撃波走る!輝けぴこんと豆電球
アズマ氏、模してるのはイベルタルだけど、使ってる特別な素材はディアンシーのダイヤだから、あの子のパワーを受けてる!
違う?」
「いえ、多分そうだと思います。あくまでも光る眼に使ってるダイヤは姫のものですからその力でならフェアリータイプになってる」
と、その瞬間、微かに地響きがした
「え、何?」
振り返るアズマ。遠くで、何か煙のようなものが一瞬、立ち上った気がしたが、もう見えない
「っ!」
慌てて橋を駆け抜け、開けた場所に出る
遠く、人気の無いともっこプラザから何かが飛び去ったような光景がアズマの前に拡がっていた
社が壊れ、残骸が三方向に飛散している
「ともっこプラザが!
行こう、ベル!オーガポン、ナンジャモさん!」
「お、おれも居るから!」
おまけ、オリポケ解説
オーガポン(御霊の面)
おめんポケモン 全国図鑑No.1017 草/フェアリータイプ
イベルタルのような仮面を被ったオーガポン。御霊と名の付く悪タイプのポケモンの仮面を被るのにゴーストでも悪でもなくフェアリータイプ。何だかんだキタカミに居た個体にとってはお気に召す面の一つらしい。
なお、変わるのは基本的にタイプだけであり、他の能力は碧の面を被った時とほぼ一緒。別に特性がダークオーラになったりしない。但し、イベルタルの力か、テラスタルすると悪タイプになり、つたこんぼうも草から悪に変化する。
おうさまのおうまは
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冷たいニンジンぱっくぱく
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黒いニンジンむっしゃむしゃ
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ダイ木の実を鍋でコットコト