ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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vs 劣等感

「ああ、スグリ君と」

 彼から鬼さまと伝承の鬼を好いていることは聞いた。ならばいっそ逃げてしまったあのポケモンを追いかけようか

 そう思ったアズマだが、黒髪の少年と共に階段を登る30くらいの男を見てそれを振り払った

 

 男の外見は正にプラズマ団。ほっかむりというか頭を覆う帽子までしている

 「えっと、何とお呼びすれば?」

 「私は鳥尾で良いよ」

 「トリオさん。どうかなされたんですか?」

 「いや、今日の作業終わりに、話しかけられて」

 微笑むトリオに、アズマはそうなんですかと頷く

 

 「トリオさんは、どうして仲間と此処に?」

 このキタカミの里は、アズマも体験したが余所者を嫌う。なのに、プラズマ団は受け入れられていた。それが不思議で首を傾げる

 「この子」

 『にゃふー!』

 言われ、ボールから飛び出すのはしなやかな体の黒い大猫、レパルダス

 「と共に、里帰りですよ。プラズマ団が解散した以上イッシュには居られず、故郷キタカミに戻ったんです」

 「あ、元々スイリョクタウンの出で。ならば受け入れて貰える訳ですね」

 うんうんと頷くアズマ

 

 「そして、かつての伝手を使って誰か今年のオモテ祭りのためにと言えば、何人か来てくれた訳です」

 そう告げて後ろを振り返るトリオ。確かに数人のプラズマ団が働いている

 監督のように自分では手を動かしていない人も居るが

 

 「あれ?一人サボってません?」

 「遠目では分からないかもしれませんが、彼はかつてのプラズマ団事件の折に大怪我を負ってしまい、今も……という人らしいのです

 残念ながら怪我する前の姿は知りませんが」

 言われて遠くの彼を見れば、確かに杖をついているし、顔も包帯巻きだ

 

 「オモテ祭りの事を聞き、仮面を付ける祭りであればこんな自分も楽しめるのではという意図と聞けば邪険にも扱えず」

 「ああ、確かに」

 と、アズマは頷いた

 

 「トリオさん、ところでスグリ君と共に何をしに?」

 「いえ、余所者は受け入れにくい風土から、他所を知る私が人となりを見てきてくれという無言の圧が」

 「おれ……もっとアズマさんの話聞きたいし」

 少し、アズマは鬼が山の方を見る

 今は多分、あの子を追いかけなくても大丈夫だ。傷付けて仮面を奪った犯人が誰にせよ、真っ昼間から動くことはないだろう

 勝負は夜、ならば今は少しでも受け入れて貰えるように頑張るべき

 

 そう思って、アズマは立ち上がった

 「じゃあ、行きましょうか」

 

 そうして、暫く後。アズマはというと……

 

 「えへへ、やっぱり凄いや」

 スグリ相手に1vs1の軽いバトルをこなしていた。折角の舞台を壊さないように加減して、メガヤンマ相手にゾロアのダイナミックフルフレイム一発。空に向けて打ち上げて一撃勝利

 「おれも……使えるかな?」

 「うーん、おれはある種特例っていうか、伝説のポケモン由来のオーラで自力発動してるけれど、普通の人はアローラ地方で試練をさせて貰ってZクリスタルを得ないと無理、かな?」

 「頑張れば、取れる?」

 「君なら取れるかもね」

 と、スグリが出して遊ばせているポケモンを見ながらアズマは告げた

 メガヤンマ、カジッチュ……だと思うポケモン、そしてノズパスとコノハナ。気になるところとしてはタイプをバラけさせたいような手持ちの割に草タイプが二匹ってところだが、アズマ自身悪タイプが三匹手持ちに居るのでそこは突っ込まない

 絆ってあるしな、沢山捕まえて育ててって人でなければ良く手持ちのタイプは偏るものだ

 

 それよりも……

 「その子は、出さないの?」

 ベンチに座ってアズマも三匹を出し、特にモノズがノズパスの頭の上で前足を上げてポーズを取る姿とか眺めながらアズマは横の少年を見た

 そう、あと一匹、スグリは手元にボールを持っている。なのに、そのポケモンだけは外に出してないのだ

 

 「アズマさん。アズマさんはわやじゃ強いから、強いポケモンを連れてる?」

 「いや、どうしたんだい?」

 ぽふっとボールから出てくるのは、しなやかで長い体をした愛らしいポケモン。最近野生の個体をキタカミで見たオオタチだ

 「オオタチだったんだ。こういう時には出してあげた方が良いよ。うちのベルみたいに外に出したら事件ってポケモンじゃないし」

 少し不満げに揺れるイベルタルのボールを撫でながら、アズマは呟く。膝の上にディアンシーを乗せているため、怖がるからベルトの後ろの方だ

 可哀想だが、外に出すだけで問題のポケモンだから夜までは待って欲しい。許可も取ったし、夜に山を探索する際には出してやれるから

 

 「でも、オオタチって弱いから……」

 沈んだ表情のスグリ。長い前髪で黄色い瞳が隠れる

 「確かに、バトルをさせたらそんな強い種族じゃないね」

 でも、とアズマは彼の前髪をかきあげて瞳を見た

 

 「学校通ってるって言ってたよね。何か、友達に言われたの?」

 「こんな弱いポケモン使ってるから雑魚なんだって、クラスで一番強い人に言われた

 おれ、強くなりたい。だから……」

 ふぅん、とアズマは冷たく空を見た

 

 「ナンジャモさん、どう思います?」

 「え、ボク?」 

 動画編集をしていたっぽい少女が、突然話題を振られてびくっと震えた

 どうでも良いけれど、萌え袖で作業できるのは凄いと思う

 「まあボクは」

 ぽむっとナンジャモが掲げたボールから出てくるのは青い耳した電気ネズミ

 「マイナン、ですか?」

 『マイーマイー!』

 ぴょんぴょんと短い手足で跳ねるマイナン

 

 「そうそう、マイナン、充電お願いねー

 って感じで、色々連れてるしこの子配信に映ると可愛いって盛り上がる!皆の者満足!って事で」

 うんうん、とアズマは頷く

 「おれも大体同じ意見です

 スグリ君。確かにね、オオタチってポケモンはバトルではそんなに強いポケモンじゃないかもしれない」 

 がおー!と小さな前足を広げて可愛らしく威嚇するオオタチに向けて木の実を投げながらアズマは告げる

 「でも、それだけじゃないだろう?

 君はさ、どうしてオオタチをゲットしたの?」

 「おれ、弱くて……ポケモン捕まえられられなくて

 そんな時、オタチが寄ってきてボールに入ったんだ」

 「だから、頑張ろうって思えた?」

 こくり、と黒髪の少年が頷く

 

 「そっか。なら大事にしてあげないと

 おれから言えることは簡単だよ。種族として弱いポケモン使ってる奴より強い種族使ってるから自分が強いって言う奴は、確かに短絡的に今バトルだけを見れば強いかもしれない

 けれども、ポケモンと共に生きるトレーナーとして全体的に見た時はね、君より遥かに弱い。勝てるさ、君とオオタチ達なら。ポケモンが強いだけで、トレーナーが弱すぎる。そんな態度じゃね、いざって時にポケモンは応えてくれないよ」

 オオタチは怖がって近付かないのでイベルタルのボールと膝上のディアンシーを撫でながら、アズマはそう締めくくった

 

 「それにね、バトルで一見活躍できなさそうなポケモンの活躍の場を作ってやるのもトレーナーの腕。例えば、オオタチって何が得意?」

 「おれの……部屋、てきぱきと片付けて、くれて」

 「じゃあ、バトル中に敵が撒き散らした毒とか、まきびしとか、或いは『ステルスロック』の岩とか……皆が戦いにくいって思いそうなものも、しなやかな体で間を縫って手早く『』お片付け』してあげられるかもしれないね

 まあ、1vs1なら意味はないけれど、フルバトルみたいな時なら、相手が作ろうとした有利なフィールドを何とかして次のエースが存分に活躍できるようにしてくれる、優秀な先鋒って言えるんじゃないかな?」

 まあ、ベルとか伝説クラスだと圧倒的な力で全部押し切れてしまうのだけれども

 

 「後は……ナンジャモさんは何か思い付きます?」

 「バズる!とかそっち方面でならマイナンと同じで大活躍出来そうかなって

 ポケモンとの過ごし方はバトルだけじゃないし」

 まあ、それも確かにとアズマは頷いた。実際の人気者から言われるのと、世間的には知名度0近い奴が言うのとでは、説得力が違う

 

 「……それ、アズマさんもナンジャモさんも強いから言える……じゃん」

 が、スグリの顔は晴れない

 『(怖いけど強くはありませんわよ?)』

 それに対応するのは実は食べたかったらしいりんご飴を剥くなり咥えてご満悦のディアンシー

 「……わやじゃ」

 「おれは強くはないよ。ポケモン達が居てくれて、だから此処に居られるだけ」

 「……そん、なの……」

 「大丈夫だよ、スグリ君。誰だってさ、強くなれるから」

 一呼吸おいて、アズマは少年に語りかけた

 

 「スグリ君、お面に詳しい人は知ってる?」

 「おれのじいちゃん、お面職人だけど……何か」

 「きっと君にも関係あるから、紹介してくれないかな?

 ほら、伝説のポケモン研究者を助けると思って」

スグリ君に求める未来は

  • クロスグリ君
  • 待っててなおれだけの鬼さま……
  • ナンジャモ…エレキン越えっから…
  • 鬼さま鬼さま鬼さま鬼さま鬼さま
  • 覚醒

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