「これが3つめ……あ、順番的には2つめの看板だ」
と、山道から降りてきて、黒髪の少年は看板を背にそう告げた
此処はキタカミセンター。社のような大きな建物と大きな境内がある場所。アズマ達はともっこプラザを離れた所からイベルタルでとっとと空を舞ってより近い3つめの看板を先に回り、もう一度ぐるっと山の周囲を飛び、山側からスイリョクタウンを挟んでプラザと逆にある山の麓気味の社まで来ていた
「あ、スグリ君。動画としては此方が先に人々の目に止まるから、3つめ発言無しで言い直してくれるかな」
「じゃ、撮るよー!ボクと逆に立ってー」
「んだ!」
なんてやって、看板をナンジャモに読み上げて貰い撮影する。そんな光景を、遠くで作業している白頭巾の人々がチラチラと眺めていた
「よし、今日は此処までかな。改めて色々と聞かせて欲しいなスグリ君
後は明日からも宜しくね」
と言いながら、祭りの舞台を組んでいる人々にさりげなくアズマは少し近付く。もう明日の夜からオモテ祭りは始まるのだ
「お、アズマ氏も気になる?」
と、萌え袖をぱたぱたと寄ってくるのはナンジャモ
「まあ、見るからにプラズマ団ですって人達が作業してたらね」
「いやー、オモテ祭りがあるならウラ祭りも……ってそっちじゃない!?」
「いや、オモテってお面の事ですよナンジャモさん。さっき楽土の荒地で見たじゃないですか、お面をする理由。あれにちなんだ祭りで、表裏ではないです」
「あーなるほどー
聞いたかな皆の者!特に水着のナンジャモウラ祭りはよ!って言ってた人は反省するように!チャンネルに『ぜったいれいど』飛んでくるからね!」
ぽん、と手を叩かれるが、アズマは何か釈然としないなぁと首を傾げた
近くの看板には鬼が四つの仮面で四種類の力を操れたこと、ともっこ三匹が三つの仮面を命を懸けて封じた事が書いてある
けれど……荒地の看板に出てくる鬼は仮面を付けず真実の顔を晒す人間の魂を奪う存在。だから外で誰かが来たら仮面をしろという警告文になっていたが……
人が仮面をしていないと襲う鬼。ともっこが話に出てくる看板に描かれている鬼とはどうにも毛色が違ってならないのだ
仮面をしていなければ魂を奪うが顔を隠せば互いに会釈して通り過ぎる。確かにその鬼も仮面はしているような書き方だが、そんなイベルタルみたいな力を持つ鬼が、最初の看板では人々を
それにだ、他の看板の逸話では理由も分からず村で暴れる鬼を人々は恐れ、ともっこが仮面を封じて鬼を鎮めたと描かれているが、荒地の看板にはともっこは出てこない。何より、荒地の看板の鬼が村に現れたならばそれは村人の魂を奪う為だろう。その鬼が暴れていたならば真相は不明でも魂を抜き取る為にと書く筈だ
父は確か仮面を喪い魂を奪えなくなったから命に関わる脅威ではなくなり、脅かして追い払うくらいのポケモンになったと推測していた……というのはアズマが読んだ資料に書かれている。が、どうにもアズマにはその結論がズレているように思えて仕方ないのだ
だって恐らく仮面の鬼のポケモンの正体は……
生真面目に設営を続けるプラズマ団な一団を眺めながら思考を纏めていたアズマは、不意に呼ばれた気がして振り返った
ちらり、と緑色が見えた気がして……
「ナンジャモさん。スグリ君を暫くお願いします」
気が早いというか、オモテ祭りの行事の一貫である鬼退治フェスののぼりを"鬼退治"という言葉が気に入らないのか浮かない顔で眺める少年の事を一旦任せ、社を見下ろせるような位置から今一度心を整理しようと、アズマは山道への階段を駆け上がって……
『ぽに?』
居た。階段の上で何処か寂しげに、外套のような外皮を纏ったポケモンが木々の間に隠れながらお面を付けて社を見ていた
「っと、君は」
ほんの少しの警戒だけ持って、アズマはポケモンの前で片膝をつく
このポケモンこそが仮面の鬼、素面の人の魂を奪う伝承の恐ろしいポケモンである、という可能性はあるのだ。まあ、多分そっちじゃないのだが
「……お面、取り返しに来たのかな?」
聞く内容は結構悪いこと。だから精一杯優しくアズマは問いかける。キタカミセンターには、ともっこが封印したとされるお面が安置されている。それを奪いに来た……ならば、一応敵意があるということだ
『……が、がお』
が、悲しげに鳴かれ、違うなと判断
「じゃあ、お祭りが楽しみで来ちゃった?」
『……ぽに』
少しだけ寂しげに、お祭りで売ってる仮面の下でポケモンが鳴く
「……大丈夫。仮面をしてれば、酷く迷惑じゃない限り友達だよ
お互いに仮面をしていれば、その影が人であれポケモンであれ鬼であれ、仮面同士お祭りを楽しむのみ、だよ」
言いつつ、寂しそうだけどお祭り自体は好きなんじゃないかなとアズマはこの時のために買い込んでおいたりんご飴を一本差し出した
『……ぽにお?』
「お祭りは明日だから、それまでの楽しみ」
仮面で目線は見えないが、碧の鬼面が確かにバッグからりんご飴へと動いたのを見逃さず、アズマは飴をポケモンの外套の下……っぽい形状の手に置いた
『ぽにおーん!』
……うん、祭り好きだなこの子、と軽く跳ねて喜ぶポケモンに頷くアズマ。りんご飴って、言っちゃ悪いが得体の知れない人工物だ。自然の木の実と違って直ぐには食べ物と認識できないのが普通の野生ポケモン
が、仮面をしたこのポケモンは直ぐに喜んだ。つまり、割と祭り慣れしていて人と過ごした期間があるのはほぼ確実
八重歯のような牙のある口で早速りんご飴を咥えるポケモンを見ながら、アズマはうーんと唸る
ほぼ間違いないだろう。このポケモンは伝承の鬼だ
……ともっこと戦った方の
恐らくだが、キタカミに鬼は二種類居る。一匹は目の前のぽにっとした脚以外丸っこい親しみある体系の人懐っこい仮面の鬼。そしてもう一匹が魂を食らう恐ろしい仮面の鬼だ
同一ポケモンだとしたら、実は仮面は伝承に無い五つめがあって、それが魂を食らう面。その仮面が何らかの理由で破壊された結果、恐ろしさが消えた今のこの鬼になった……というところか。どちらにしても、今のこのポケモンには、そう危険がない
「美味しい?」
『ぽに!』
右手を上げて喜んでくる姿にほっこりしながら、アズマは軽くスプレーを傷口に振りかける
一瞬だけアズマを見たが、緑鬼はそのまま脚を投げ出して座り、りんご飴を食べる作業に戻った
「……今の仮面も良いけど、本当の仮面はどうしたの?」
意を決して、アズマはそう問い掛ける
『ぽに?』
小さく首を傾げる鬼。その頭を覆う、耳紐を頭の角に引っ掛けておいた仮面が、人間に合わせた構造故に斜めに傾き、星のような片眼がちらりと覗いた
そう。可笑しいのだ。ともっこ伝説で鬼の手元から消えたのは三つのお面。水、岩、そして炎の力を持つものだ。伝承にある草木を芽吹かせる草の力を秘めた面は無くしていない筈なのだ
だが、このポケモンはその力を秘めた仮面を持っていない。だから、形状の似たお面を持つアズマをお面泥棒と思った
となれば、だ。誰かお面を奪った人間が居る。じゃあそれは……となった時、今のアズマには答えを出せない。かつてのプラズマ団ならば兎も角、今もバッシングを受けるの覚悟でプラズマ団やってる人なんてNを心から信じて贖罪に走ってる人間ばかりなのだからそんな人々がポケモンの大事なお面を強奪するとか有り得ないだろうし、村人は鬼を恐れてすぐに逃げるだろう。スグリなら鬼好き故に逃げないかもしれないが、ならば鬼さまから仮面を取る筈もない
ポケモン……としてもお面を欲しがるポケモンなんてほぼ居ないだろう
少しでも情報が得られれば、と思ったその瞬間
「アズマさん、待って欲しいべ」
『ぽ、ぽに!?』
階段を登る足音と人の声にびっくりしたのか、ポケモンは跳ね起きるとそそくさと山へと駆けていってしまった
なお、原作のぽにっとした鬼にりんご飴は効きません。
スグリ君の性癖とか色々なものが性癖搭載過多のナンジャモに破壊されるのは……
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ぽにお~ん♪(Go)
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……が、がお(No)
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スグリ君を守護らねばならぬ……
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スグリ君は鬼さまへの純愛だから……